紅茶を探して
セルジュに案内されて、町の中心に二人でやってきた。
町は活気にあふれていた。ヨーロッパ調の町並みに多くの店が並び人々が買い物をしている。
息苦しいアデレード家や学園とは違う場所で緊張がほぐれ、大きく息を吸って吐く。
自然と笑みがこぼれていたのだろう。
隣のセルジュもうれしそうに言った。
「お気持ちは晴れましたか?」
「えぇ。とっても楽しい!町を満喫する前に、まずは用事を済ませましょう。紅茶のお店に連れてってくれる?できれば珍しいお茶も仕入れているお店がいいわ」
セルジュが一つの店を指した。
「紅茶であれば、あちらのお店はいかがでしょう?アデレード家と懇意にしている店で、色んな種類のお茶を仕入れていますよ」
町の知識はないし、特にこだわりもなかったのでセルジュの薦める店に入る。
お店は年期が入った風貌だった。
だが、古くさいというわけではなく、歴史を感じさせるという表現のほうが合っている。訪れる人を落ち着かせる店だった。
店の壁中に棚がおかれ、色んな種類のお茶が展示されている。
この世界のお茶は家で出されたものしか味わっていないが、味はそんなにバリエーションはなかった。
だから、ここまでお茶の種類があるとは思わなかった。
前世では、休日はカフェ巡りをしていた。
ブラック企業で働く日々の中で、唯一の憩いの時間。色んな種類のお茶を楽しんでいた日々を思い出す。
なつかしいな、と店内を見渡していたとき、奥から声がした。
「いらっしゃい・・・・・おや、これは珍しいお客さんだ」
白髪で味のある紳士が出てきた。この店の店主だろうか。
彼はセルジュを見てにこにこと笑った。セルジュも笑顔で答える。
「お久しぶりです。今日はいつものお茶以外のものも見せてもらいたくてきました」
店主はにこりと笑い、そして後ろにいた私に気がついて驚く。
「セリア様!?」
どうやらセリアとこの店主は面識があったらしい。
元々アデレード家と関わりがあるのなら、お忍びとはいえここでは身分を隠す必要はないだろう。
私は店主に挨拶をした。
「セリア・アデレードです。今日は明日学園で行われるお茶会へ持って行く紅茶を見に来ました」
それに慌てて店主が頭を下げる。
「挨拶が遅れ失礼いたしました。アデレード家にお茶を納品させていただいておりますバーノンと申します。アデレード家と先代当主様からのおつきあいをさせていただいております。改めてよろしくお願いします」
店主曰く、セリアとは直接の接点は無かったものの幼い頃から見てきたということだった。
突然令嬢が訪ねてきて困惑はしているだろうが、それを表には出さず落ち着いて接客をしてくれた。
「お茶会で出すものをお探しとのことで、どのようなものがいいかご要望はありますでしょうか?」
「珍しいものはあるかしら?たとえば・・・・・・」
私が出した要望に亭主は驚きながらも、店の奥から一つの茶葉を持ってきた。
「お茶会はいろいろな茶葉をみなさま持ち寄られますから、ひと味違ったもので場を盛り上げることをされるのも素敵な考えですね。さすがセリア様です」
そう言って、持ってきたお茶の説明をしてくれる。
「こちらは最近仕入れたもので、お店に出したのも今日が初めてです。大変変わったものですが、もしかしてご存知だったのですか?」
私が伝えたお茶の特徴は前世で飲んだことがあるものだ。
まさかそんなことは言えないので、あいまいに濁す。
「えぇ、まぁ・・・・・・いつか本で読んだもので」
「セリア様がお茶に詳しいとは、うれしいことです。先代様を思い出します」
店主は綺麗にラッピングをしながら、話し出した。
「食料庫を取り仕切っていたセルジュがいなくなり心配していましたが、お嬢様付きとなったと聞いて安心しました。お茶を納品するときに、セルジュとはよく話をしていて顔なじみだったもので・・・・・・」
セルジュは気恥ずかしそうに笑い、私に言う。
「バーノンさんは僕にとてもよくしてくれました。珍しいお茶が入ると持ってきてくれて、僕に飲ませてくれました」
セルジュはあの家であまり良くない扱いだったはず。お茶を飲むことなど出来るのだろうかと思っていたら、店主はその考えがわかったのか補足した。
「私は先代からのつきあいですからね。茶飲み友達としての時間を他の人に見逃してもらえるくらいには、多少融通は聞くのです」
アデレード家の仕入れる茶葉はいつも決まったものだが、店主は仕入れのたびに新しい茶葉を提案してくれていたらしい。
それは営業目的というわけではなく、お茶好きだった先代の要望を忠実に守ってとのことだった。
今の現当主・・・・・・つまりセリアの父はお茶にそんな関心がなく、使用人もそれがわかっているから店主の提案をいつも上に上げることはなかった。
こんな直接な物言いはしなかったが、要約するとそういうことらしい。
私は店主に声をかけた。
「これからは、私宛に新しい茶葉を納品してくれますか。使用人には話を通します」
店主はうれしそうに笑い、深々と礼をした。




