ラズの罪(幼少期)
最近、サイラスは妹に夢中だ。
将来、私はゼウスになり、サイラスはヘルメスで、私のフクシンとなる事がほぼ決まっている。
ヘルメスというのは伝令神で、主にお使いが仕事であるが、必要に応じてに最高神のダイコーシャとしてドートーの権力を振るう事もできる。
だから、ゼウスの意に反した間違った行動をしないよう、普段から行動を共にして『キズナ』を深めあっておくといいんだそうだ。
父様とサイラスのお父上も、とても仲が良い。
───それなのに!
サイラスときたら、妹ができてから、ちっとも遊んでくれなくなった。
久しぶりに会っても妹を連れてきて、そこら辺を散歩したり、花を摘んだりして終わり。
前のように遊べない。
あのチビ嫌いだ!
これではサイラスと『キズナ』を深める事ができないじゃないか!
ついてくるな!!
───あの日。
大人達からはいつも、危ないから近付かないようにと言われている、オリュンポスの淵を見に行く約束をしていた日も、やっぱり妹がくっついてきた。
サイラスはどうにか妹に家に帰るよう説得しようとしていたが『一緒に行く』と駄々をこねられて、結局、断念することになった。
ものすごく楽しみにしてたのに。
この時、初めてサイラスとケンカした。
ケンカというより、私が一方的に怒りまくり『お前なんか嫌いだ!ヘルメスには他の者を探す!』と言ってしまった。
サイラスは俯いて、小さな声で『ごめん』と謝って帰っていった。
あれが悪かったのだろう…
次の日、サイラスが謝りに来てくれて、跳ね回りたいくらい嬉しかったのに、
『今回だけだぞ』
と素直になれなかった。
それからのサイラスは、私と妹との時間を完全に別けてくれるようになった。
私はそれに気を良くして、サイラスが私を優先するのは当然と思ってしまった。
『キズナ』をきちんと理解できていなかった私は、サイラスを『私のもの』だと勘違いしていたのだ。
仲直りはした。
でもナニカが今までと違う。
丁度、その頃から神教育が本格的に始まり、少しずつ言葉遣いや距離感を直していくようになった。
徐々に変化していく私達の関係に、そのナニカはわからないまま、そういうモノだと気にしなくなっていった。
サイラスが本当は心の奥で悩み、苦しんでいる事に、私はそのまま気付いてやる事ができなかった。
私がようやく異変に気付いたのは、サイラスが妹を花嫁候補に勧めてきた時だった。
何だかすごく……必死なのだ。
切羽詰まるというか…
鬼気迫るというか…
何かもう……目がイっている。
その金の瞳には確かに私が映っているのに、何も見えていないようだった。
背筋に冷たいものが流れた。
「どうしたらサイラスを元に戻す事ができますか?」
父に尋ねたら『それはお前の罪だ』と、答えになっているような、いないような返答しかいただく事ができなかった。
自分で答えに辿り着かねばダメだという事なのだろう。
わからないわからないわからない…
『罪』なら『償う』?
これからはサイラスの為に生きていこう。
でも、どうするのがサイラスの為になるのだ?
私がサイラスの妹を婚約者に決めると、とても喜んでくれた。
最初から私が妹を受け入れて、3人で仲良く遊べたら良かったのだろうか?
いつかまた、サイラスが昔のように笑ってくれますように…
私はまだ神名を継いでいないから、神に祈ってもいいだろうか?
誰に祈ればいいかわからないけど…
とにかくそう祈った…