サイラスの傷(幼少期)
俺の名前はサイラス・マイア。
オリュンポス十二神に名を連ねる、ヘルメスの長男だ。
大きくなったらヘルメスの神名を継ぐ為、父上についてシュギョーチューの身だ。
幼馴染みのラズは長めの前髪に襟足は刈り込んで短くしている鈍い金髪で、男らしい顔立ちをしてカッコイイ。
体つきも筋肉がしっかりついている感じで、女顔でヒョロヒョロの俺にとって理想の男だ!
ラズは最高神ゼウスの長男なので、俺は将来ラズの『ソッキン』として働く事になるだろう。
父上は『ジョーシになるのだから、馴れ馴れしくしたらいけない』と言うが、ラズは俺を親友と言ってくれる。
嬉しい!!
俺達は毎日シュギョーの合間を見つけては、一緒に遊んだ。
そんなある日、俺に妹が生まれた。
ちっちゃくてふにゃふにゃしたソレは、俺がつつくと……
泣いた!!
ちっちゃい体に似合わない大きな鳴き声で、びっくりした俺はどうしていいかわからず、オロオロするしかできなかった。
でも、母上が抱っこしたらピタリと泣き止んだ。
そうっと覗くと幸せそうな顔で眠っていた。
今、泣いてたよね?
眉を寄せて訝しげな顔をしていたら、母上が俺に妹を抱っこさせてくれた。
俺が触ったら、また泣いちゃうんじゃないかってドキドキしたけど、俺に抱っこされても妹は幸せそうなまま眠っていた。
……かっ…かわっ
可愛いっ!!!
俺はすぐに妹が大好きになった。
妹のマリィが歩けるようになり、ぽつりぽつり言葉を理解するようになった頃、ラズに紹介したくて一緒に連れて行った。
ラズも最初のうちは可愛がって一緒に遊んでくれたけど、何度か連れて行くうちに、段々とマリィを嫌がるようになった。
それもそうだろう。
マリィがいると思いきり走ったり、木に登ったりできないし、なんと言ってもイタズラができない。
だから、ラズと会う時は、なるべく連れてこないようにしようと思った。
けど、俺が溺愛しているせいで、すっかりお兄ちゃんっ子になっているマリィは、毎日どこへ行くにもついてきたがる。
日に日に歩くのも上手くなり、置いてくるのは大変だった。
そんな中、ラズがものすごく楽しみにしていたオリュンポスの端っこを見に行く約束の日。
マリィがついてきてしまった。
俺達でさえいつも、危ないから近付かないようにと言われている場所に連れていくわけにはいかないから、念入りに撒いてきたと思ったのに…
ちゃっかり待ち合わせ場所に現れたのだ。
ラズはものすごく怒って『お前なんか嫌いだ!ヘルメスには他の者を探す!』と言われてしまった。
───ラズに嫌われた…
俺はあまりのショックに『ごめん』としか言えず、マリィの手を引いてトボトボ家に帰った。
家に帰ると母上がすぐに気付いて、どうしたのか聞いて抱きしめてくれたので、恥ずかしいけど泣いてしまった。
それからラズのところに行く時は、母上や使用人達、皆でマリィがついてこないよう気を付けてくれる事になった。
ラズは許してくれたけど、俺がヘルメスじゃなくてもいいんだと思うと悲しくて、胸に針が刺さったようにチクチクした。
「にぃさまっ!」
家に帰ると、待ってましたと仔犬のようにじゃれついてくるマリィを、俺は更に溺愛した。
無条件に真っ直ぐに好意を向けてくれるマリィが可愛くて、愛しくて、心の隙間を埋めるように、マリィをひたすら可愛がりまくった。
とにかく俺がいなくてはダメだと思える存在が欲しかったのだ。
そうして、いつしか俺はマリィに依存するようになっていた。
それも無駄な努力で、マリィはいつの間にかラズを好きになっていたけど…
ラズならしょうがない…
婚約者のなかなか決まらないラズに、思いきってマリィを勧めてみた。
その時は『考えておく』という答えだったけど、案外トントン拍子に話が進み、マリィが婚約者に決まった。
言ってみるもんだと思った。
後は、俺さえ頑張っていけば、大好きな二人とずっと一緒にいられる!
ずっとずっと…
ずっと一緒にいられるんだ!
───俺は独り…
───仄暗い幸せに浸る…