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天の唄  作者: Liff
3/7

ランとリュー

「リス超~可愛かった!!!」


生まれた時に一度抱かせてもらって以来、妖精に預けられ会うこともできなかった婚約者の元から帰ってきたゼウス・ランは、ヘルメス・リューにご機嫌で飛び付いてきた。


オリュンポス神殿のゼウスの私室にランとリューの二人きり。

普段、他の者らに見せる主神ゼウスとしての威風堂々たる姿はどこへやら?


「はいはい、そりゃあ良かったね!

それよりも帰ってきたらまず『ただいま』だろ?」


首元に力一杯抱きつきぐりぐり頭を擦り付けてくるランの背中をぽんぽんと叩きながら、自分にだけ素を見せてくるランをリューは緩く抱き返した。




若くして亡くなった先代のヘルメス・サイラスは、この双子の伯父にあたる。 何を思い、何を考えていたのか?

当時、ズュギア一族にヘラとなれる者がいなかった為、サイラスは自分の妹をゼウスに嫁がせた。神の名は世襲制で引き継ぐのがほとんどなのだか『ヘラ』というのはゼウスの妻の尊称であって、神族特有の金眼の生娘であれば良い。


ゼウスとヘルメスの間でどのような密約があったのかわからないが、ヘラが双子を生むとヘルメス一族の特徴である尖耳だった兄の方を有無を言わさず持っていってしまった。

そうして物心すらつかぬうちからリューを跡継ぎとして、ヘルメスの仕事を叩き込むと突然亡くなってしまった。


幼くしてヘルメスを襲名し神々の伝令役として働き、時にゼウスの代行者として公務をこなしてきたリューと、次代のゼウスとしてオリュンポスで大事にされ、ぬくぬくと育てられていた弟のラン。

天と地どころか地底を通り越し冥界まで来てしまったのではないかと思う程も違う境遇に、弟が憎くて憎くてたまらなかった。

何で俺だけがと黒い感情に飲み込まれそうになりながら、必死に生きてきた。




「あ、ごめん。ただいま、リュー!

留守中何もなかった?」


これでもかという飛びきりの笑顔を向けて、心底嬉しそうに話すランの声に、飛びかけた意識を引き戻される。


「ああ。瞑想中って事にしといたから、誰もこねぇよ。

それよりお前は?

12年ぶりの再開っつうか、リスティン嬢が生まれた時に見に行ったきりだから、ほぼ初対面だろ。仲良くできたか?」



「うんっっ!!!!!」







「・・・・・・・・・・」




目の前でゆるゆると蕩けきったニヤケ顔に変化していく己と同じ顔が見るに絶えず、逃げ出したい衝動にかられながらリューは片手で両目を覆った。


「ああ……はい。良かったね」


こんな姿をリスティンに見せたら百年の恋も覚めるのではないかと心配になってくる。

物理的に雷体質のゼウスに必要なのは心の安寧。

感情の乱れは地上の天気に影響する事もある。

何代か前のゼウスが飛んでもなく盛大な夫婦喧嘩の末、嵐が起こり、海は荒れに荒れまくり落雷の集中砲火で島が1つ消えた話しは、今でも酒宴の話題に上がる。

無人島だったらしいから人的被害はなかったものの、海神ポセイドンが乗り込んできてこっぴどく怒られたというのは有名な語り草だ。

彼女には末長く夫婦円満に、こいつの機嫌をとり続けてもらわねばならない。


皆から大事にされるランが羨ましくて、憎くて、殺してやりたい程に嫉妬した時期もあったけれど。


今は…



ーーー俺にゼウスは勤まらねぇわ…



伝令神として広い世界を走り回り、帰りは道草くったりしながらのんびりフラフラして(時々、フラフラし過ぎて叱られてるけど)、空いた時間に弟をかまって遊ぶ。



ああ~~俺、ヘルメスで良かった~~~♪




「あれ?お酒あんまり飲まなかったの?」


「ああ…うん。疲れがたまってたみたいで、少し飲んだら寝ちまった」


ここで本当の事を告げて『二度と入れ替わりなどしない!』なんて言おうものなら、それこそオリュンポスが墜落する程の癇癪を起こしそうだと悟ったリューは適当にごまかす事にした。



「え!大丈夫?これ良かったら好きなだけ持って帰って!」


「爆睡したから、もう平気。それよりこの雷玉さ、使わなかったから。始末できる?盗まれてイタズラされたり、私怨で勝手に神罰使われたりしたらヤバいだろ?」


ランの頭にポンと手を置きながらテーブルに置かれた宝石箱に視線を向ける。

つられてこいつも宝石箱を見る。


「……そっか、そうだね」


小首を傾げて暫しきょとんと宝石箱を見つめると、徐に箱を持ち上げ両手で上下に挟み…








ボンッ!!!!!!!



「ごめん、そこまでちゃんと考えてなかった」 



プスプスと煙が漏れる宝石箱を抱えて、ランがばつ悪そうに振り返る。

あの中は風船だっただろうか?


同じ顔なのに、何だかとてつもなく恐ろしく見える。

俺は片頬がひくひく痙攣するのを感じながら、必死に笑顔を返した。


父上は知っていたのだろうか?

サイラスはわかっていて俺を選んだ・・・・・否。



俺が『ゼウス』に選ばれなかったのか!




妙にすとんと納得した。


人の気も知らずに、ただ兄というだけで慕ってくる弟に絆され仲良くするようになってからも、ずっと心の底にあったモヤモヤしたものが一気にスッキリと晴れた。





「まぁ…何事もなかったからいいけど」

ーーー俺の神経はすり減ったけど。


「次からは、ちゃんと考えてやれよ?」

ーーー今度からちゃんとゼウスとして公式訪問できるように何とかしよう。

絶対しよう!



「うん。今日は本当にありがとう、リュー」





弟の素直で真っ直ぐな笑顔が妙に眩しくて…

頭がぐしゃぐしゃななるまで撫で回してやった。





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