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嵌められ勇者のRedo Life  作者: 綾部 響
5.運命の岐路に
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首領バドシュ

グローイヤ達との戦いが終わり、俺たちは再び全身を開始した。

もっともその心情は、何とも重苦しいものだったんだけどな。

 グローイヤとシラヌスの去った人攫いのアジトは、程なく静かになっていた。

 彼女たちの敗退を目の当たりにしたその大半は、算を乱して逃げ出したんだ。

 奴らも、その全員が馬鹿と言う訳じゃあない。

 自分たちよりも明らかに強かったグローイヤ達が逃げ出したんだ。それを見て勝てないと悟り逃走する事は、決して恥と言う訳じゃあないだろう。……まぁ、情けないけどな。

 そして、それでも残った僅かな無法者達も一掃して、俺達は更に奥へと歩を進めている。

 勿論、油断なんかしていない。

 でも、今俺達に圧し掛かる雰囲気は、罠を警戒してのものでは無かった。

 グローイヤ達が立ち去る時、あのマリーシェでさえ「逃げるの!?」とは言わなかった。

 無法者たちから見れば敗走した様に見えるだろうが、グローイヤ達が逃げたのではなく見逃してくれたんだと言う事を、俺たちは肌で感じているからだった。

 善戦はしたものの、結果としては敗北……。

 誰も肉体的ダメージは受けなかったものの、精神的に被ったダメージは計り知れなかった。


 確かにグローイヤ達は、こちらのレベルを上回っていた。

 戦闘能力だけを切り取ってみても、レベルの差は絶対だと言って良いだろう。

 だから、明らかに能力で下回っていた俺達が、如何にアイテムの恩恵を受けていたとはいえ、グローイヤ達と互角に渡り合ったのは評価できる事だ。

 しかし、そこが問題なんじゃあない。

 年齢的にも同世代であるにも拘らずレベルでは既に上回られ、しかも冒険者としての目的……考え方が致命的に違う者と戦い……負けを痛感する。

 これほど悔しい事は無いだろう。

 上には上がいる……それを実感させられる結果となったんだ。


 でも今、俺達はそんな感傷に浸っている場合じゃない。

 ここは街中でも、試合会場でもない。

 人攫い集団のアジト、敵の真っ只中なんだ。

 それが分かってるんだろう、マリーシェ達は程なく気分を前方に向けて引き締まった表情を作り出していた。

 俺達の前方から、何やら不機嫌を感じさせる雰囲気が漂って来ていたからだった。




「ったくよ―――っ! 揃いも揃って、あいつ等は何やってんだっ!」


 木箱の壁が作り出した通路の先には、かなり広い空間が設けてあった。

 その部屋の奥にはまるで玉座を思わせる様に高座が組まれ、そこには据え置かれた豪奢な椅子があり、そしてそこに腰掛ける男の姿が伺えた。

 見た目こそは王族や貴族の座する玉座に見えなくもないが、そこに座するのは見るからに風体の悪い、良く言っても用心棒にしか見えない人物だった。

 動きやすさを重視してなのか装備しているのは皮の鎧であり、そこからはムッキムキの筋肉を宿した四肢が生えている。

 その手足には勿論、顔にも無数の傷があり、到底堅気には見えなかった。


「あんたが此処の首領って奴っ!?」


 誰よりも早く口火を切ったのは、やはりと言おうかマリーシェだった。


「ああ、そうだぜぇ。俺が此処を仕切ってる、バドシュってもんだ!」


 ゆらり……と、バドシュが椅子から立ち上がる。

 その右手には、無法者達が持っていた物よりも二回りは大きなカットラスが握られていた。


「お主に問うっ! 数日前、お主達は東国の女子(おなご)を攫ったであろうっ! 彼女は無事なのかっ!?」


 マリーシェにその後を口に出させず、カミーラがバドシュにそう問いかけた。

 “女性が此処にいるか?”なんて聞けば恍けられるのがオチだが、断定された質問ならばこちらの事情を知らない者ならついこう答えてしまう。


「ああ……あの女か……。生きてるぜ―――……大事な商品だからな」


 バドシュの答えを聞き終わる前に、カミーラは抜剣して前方へと跳躍していた! 

 声こそ発していないが、その表情は歯を食いしばり怒りに震えている。

 余りのスピードにマリーシェもサリシュさえ、その動きを目で追うのがやっとと言った感じだった。

 だが一気に間合いを詰めたカミーラの一撃を、バドシュは何とか受け止める事に成功していた。

 その表情には余り余裕が感じられないのだが。


「なんだ―――……? 良く見れば嬢ちゃんも倭国人か……。こりゃあ、あの女共々高く売れそうだな―――」


 含み笑いを洩らしながらそう零したバドシュの言葉に、カミーラの顔は更に紅潮する。

 鋭い斬撃を一方的に繰り出し攻勢をかけているが、その攻撃は悉くバドシュに防がれ躱されている!

 そして一瞬のスキを突いて喰らった反撃を捌けず、バドシュのカットラスがカミーラの鎧を掠めた!

 幸い倭国で生成された侍向けの逸品だけあって、彼女の胴は傷一つ付いていなかったものの、攻撃を受けた事に慌てたカミーラが若干の距離を取って対峙した。


(かって)ぇな―――……。普通の鎧なら、今の一撃で防具は弾け飛んでたぜぇ」


「……くっ」


 まじまじとカミーラを見るバドシュの目は、どこか彼女を値踏みする様に厭らしく卑猥だった。

 カミーラもそれを感じたのか、バドシュの視線から体を隠す様に縮こませてしまう。


「あの女も中々楽しめたが……お前も結構楽しませてくれそうだな―――」


 そしてバドシュは、一層下卑た笑みを浮かべてカミーラにそう言い放った。

 カミーラの顔が、一気に憤怒の表情を形作る! 

 頭に血が上り、今にも飛び掛かりそうだった!

 だが、先手を取ったのはバドシュだ!

 カミーラの出鼻をくじく様に、手にしたカットラスを縦横に振るった!

 その風体や武器の大きさに似合わぬ連続攻撃を受け、更には身体が縮こまっていた事が災いし、カミーラは完全に守勢へと回らされていた!


「カ……カミーラッ!」


 思わず彼女の名を叫んだマリーシェだったが、彼女にはどうする事も出来ない。

 そのパワーや動きを考えればバドシュのレベルも軽く10は越えており、マリーシェではその戦いに加わる事が出来なかったのだ。

 俺なら……。

 俺がこれまでの経験で身に付けた「能力」を使えば、すぐにでもこの戦いを終わらせる事が出来るかもしれない。

 しかし、今はそれを使う時ではない。

 それに。


 バドシュの攻撃を凌ぎ切ったカミーラが、大きく距離を取って再び相対する。

 だが先程まで防御を強いられていた彼女の息は荒い。

 攻撃よりも守る方が、体力の消耗が激しいのは自明の理だった。

 更に彼女は、冷静さを欠いている節がある。

 そこを、バドシュに付け込まれた……いや、先程の言葉でその様に仕向けたんだろうけどな。


「カミーラッ! 目的を忘れるなっ!」


 守りを嫌ったカミーラが攻勢に転じようと地を蹴る瞬間、俺は大声で彼女にそう呼び掛けた。

 彼女の身体が僅かにビクリと反応し、飛び掛かる事を踏み止まる事に成功していた。

 それを見たバドシュが、「ちっ」と小さく舌打ちをしてこちらを睨みつける。

 先ほどバドシュがカミーラに対して行った口撃(・・)は、所謂心理戦だ。

 相手の感情を乱して冷静さを失わせ、こちらが有利に立つ為の手段だった。

 俺も若い頃は相手の挑発に逆上して、良くピンチに陥ったものだった……。

 まぁ、今は若いんだけどな。


専心一意(センシンイチイ)だっ、カミーラッ!」


 続けて俺は、彼女にアドバイス(・・・・・)を送った。


「せんしん……? あんた、何言ってるの……?」


 しかしその言葉も意味もマリーシェやサリシュには分からなかったみたいで、彼女達は小首をかしげて考え込んでいる。

 でも、カミーラには間違いなく伝わったようで、少し驚いた様な表情を浮かべたが直後には冷静な笑みを浮かべて小さく頷いた。


 俺の言い放った言葉は東国のもので、僅かな言葉の中に多くの意味を宿している“四字熟語”と言うものだった。

 発音にも東国独特のものが含まれていてこちらの人間には理解しにくいだろうが、東国の出身である彼女には聞き慣れたものであり、その意味も彼女は間違いなく正確に受け取っていた。


「ちょっと、カミーラッ!? どうしちゃったのっ!?」


 直後カミーラは、構えていた剣をその腰に差した鞘へと戻した。

 柄に手を掛けているものの、その姿は戦闘を放棄したかの様にも見えるんだが。


「……へっへへ。……なんでぇ。観念したみたい……!?」


 薄ら笑いを浮かべて軽口を叩こうとしたバドシュだったが、相対するカミーラの気迫を感じてさっきよりも緊張感を湛えた表情を浮かべ直した。

 今や気勢の上では、カミーラがバドシュを圧倒していたんだ。

 マリーシェ達もその気配を感じ取ったのか、声を出さずに息を呑んで見守っている。

 永遠にも思える、重苦しく突き刺す様な時間が流れていた……。

 でもそれは、そう長くは続かなかった。


「……こ……この野郎っ!」


 緊張感に耐えきれなくなったバドシュが、大声を発してカットラスを振り上げ大きく踏み込む! 

 その直後、甲高い鍔鳴りの音だけが、周囲の空気を震わせた!

 カミーラの右手が霞むほどの動きを見せたと思った矢先、再び先程までと同じ位置に納まり静止していたのだ!

 動かないカミーラとバドシュ。

 カミーラは柄に手を掛けたまま、バドシュは剣を振り上げた姿勢のままだ。


 だが次の瞬間、バドシュは糸の切れた人形の様に突如力を無くして倒れ込んだのだった。


カミーラ渾身の攻撃が決まった!

倒れたバドシュに意識はなく、勝負ありってやつだ!

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