ハンモックとチート覚醒
フェリスが泣き止むまでの間、村長の家の前には大量の布とロープが運び込まれていた。
なんでそれが分かったかというと、村人たちが運び込んでから村長の様子を見にきたからだ。
みんな、復活した村長を見るやいなや、大声で喜んだり泣いたり。村長が説明したら、チョビに感謝する人もたくさんいた。
村長の人徳もそうだけど、基本的にこの人たちは優しいんだな。
チョビの処刑を求めたのも、村長にあれだけのダメージを与えたからだろう。
チョビとしては複雑そうだったが。
それでも怪我人を集めて治療しにいって、謝りにいったのは偉いと思う。当然といえば当然なんだけどさ、その当然ができない人間って多いから。
そんなやり取りを経て、俺と『俺』たちは大量の布とロープを受け取って、森に入ることにした。
「これからどうするんですか?」
「寝床を作ろうと思ってさ。村長が自由にしていいっていってくれた森は、安全なんだろ?」
「はい。あのあたりは綺麗な泉があって、浄化されてるんです。だから魔物とかは近寄ってこなきゅちぇっ」
「わかった、ありがとなー」
また舌を出しながら涙目になるフェリスの頭を撫でてから、俺は作業に入る。
まずは布を二枚重ねに。ここは綺麗に端っこを合わせておかないとな。
それから布の両端を折り曲げて、これも村から借りた大きい針と糸で縫い付ける。
そこそこのレベルになってるせいか、分厚い布もするすると縫えた。
この作業は全員で一斉だ。糸はともかく、よくこれだけ針があったなぁと思ったが、フェリスが魔法で作ったらしい。
原料さえあれば、針は簡単に作れるらしい。
そんなフェリスが、「おー」と感心しながら覗きこんでくる。
「手先器用なんですね」
「小さい頃は裁縫とかすっごい苦手だったんだけどさ、ナップサック作るにも苦労して、すっごい不恰好でさ。でも、大人になってからできるようになったんだよな」
手先を使うことに慣れたからかもな。あ、後ピアノを弾くようになったりとか、指先をよく使うようになったからかも?
さて、次の作業だ。
俺は分厚い皮を持ち出す。こっちは何人かで一枚だ。
「じゃ、切り分けるぞー」
俺は宣言してから、手を変化させる。
ミノタウラを倒したおかげか、レベルはもう四〇だ。
その影響か、自分の部位を変化させることが楽になっている。あと、自由自在。
「よいしょっと」
イメージは、チェーンソーだ。
チェーンソーは、刃のついたチェーンを高速回転させて切断能力を得る。それを作る。まずはバー、剣状にした板を用意する。そこに刃付きのチェーンを巻き付けた。後は魔力を籠めて高速回転させれば、と。
――チュイイイイイイン!
スライム版、チェーンソーの出来上がり、と。
あとは皮布を『俺』たちに固定してもらって、切り分けていく。ああ、よく斬れる。
「す、すごい。いつもみんな苦労してるのに」
「これは特別だからね、と」
切り分け終えて、俺は『俺』たちへ均等に配る。一人につき十四本だ。
この切り分けた皮布を二つに折り曲げて、俺は布に挟んで縫い付ける。今度はかなりしっかりと。皮のふちにそって四角に縫ってからクロスさせて縫う。
これが手縫いだと時間かかるんだけど、ちょっと工夫する。
「指を形状変化させて、と」
なんちゃって手縫い式ミシンである。
超高速で縫われていって、あっというまに作業を終える。これでストラップの完成だ。指が数本くらい入る。これを、七つ、等間隔で布の両端に縫い付けていく。
これは形状変化させて腕をたくさん作って、同時進行だ。
これで一分もかからないので、本当にあっという間だ。
「本当にすごいです、はやい」
「まぁこんなものかな」
「これをどうするんですか?」
「このロープを通していくんだ」
俺はしっかり縫い付けられているのを確認してロープを通す。七つ全てに、一つずつのロープだ。これも形状変化を使って、一度に通す。
あとはそのロープを鎖状に束ねて、きっちりと縛りつける。
「できた。後はこれを、木にくくりつけたロープとこれを止めて、と」
立派な効果音とかは出るようなものじゃないけど。
これでハンモックの完成だ。
もの珍しいのか、フェリスは目をきらきらさせながら眺めていた。
この辺りは高温多湿とかじゃないから、ハンモックとかの文化はないのかもな。夜でもすごく過ごしやすいし。
「フェリス、寝てみるか?」
「いいんですかっ」
うずうずしてるフェリスに、俺は微笑みかけて、フェリスをだっこしてハンモックに座らせた。
「うわ、うわ、うわあっ」
その勢いで揺れて、フェリスは目をぱちくりさせながらも笑顔になった。
そうそう。空中に浮いてるベッドみたいなものだから、不思議な感覚なんだよな。後、身体が楽なんだ。
「すっごーい! ふわふわ!」
「寝心地いいだろ?」
「うん! ねぇカナタさま」
「分かった分かった。フェリスのも作ってあげるよ」
布とかは余ってるしな。
「わーいっ!」
俺はものの一〇分くらいでハンモックをもう一つ作り上げた。
ちょっと小さくしたのはフェリスのためだ。ささっと木に括りつけると、フェリスは喜んでハンモックに乗り込んだ。
きゅっきゅとハンモックを揺らしながら、フェリスははしゃぐ。
俺たちはあっという間に広い範囲にハンモックを取り付けていく。なんだかちょっとしたジャングルジムみたいだ。
これは面白いというか、なんか壮大な景色だなぁ。
「明かり、つけますね」
そう言って、フェリスは魔法の明かりをたくさん生み出してくれた。
淡いだいだい色の明かりは、それだけで幻想的だ。まして宙に受けば倍増になるもので。
眩しくない優しい光は、いい感じに揺らぐので、眠気を誘ってくれそうだ。
「ありがとう、フェリス」
「えへへ」
俺の隣に設置したハンモックに寝転がりながら、フェリスは無邪気に笑った。
ああ、ヤバい。かわいい。
「じゃあ寝るとするか。っと?」
俺は寝転がろうとして、森の奥から何かが飛び込んできた。
ぴょーんと跳ねて、俺の膝に着地したのは、銀色に輝くぬるぬるした物体――スライムだった。
敵意はいっさい感じられなかったから、感付くのが遅れたのか。
『きゅっきゅー!』
「おおっ?」
そのスライムが元気に鳴き声をあげて、俺はびっくりした。
っていうかヤケにフレンドリーじゃね?
「なんだろ、遊んでほしいのか?」
「カナタさんの中にいるスライムを感じ取った、のでしょうか?」
「どうだろ。それだけで親近感出すか? スライム同士でも戦ったしさ」
「スライムっていってもいろんな性格があると思いますし……」
つまりフェリスも分からないんだな。
思いつつ、俺は膝の上で跳ねるスライムを見る。
「遊んで、ほしそう、だよな?」
「そう、見えますね」
お互いに顔を見合わせてから意見を交換して、俺はスライムをつついた。
すると。
『もっきゅー!』
すっごい嬉しそうに鳴いて跳ねていった。近くにいた『俺』たちに着地し、また構って欲しそうに鳴いた。
どうやら本気で遊んでほしいらしい。
『俺』たちにつんつんされ、嬉しそうに跳ね飛んでいく。なんとも朗らかである。
ああ、これだ。これだよ。
これこそが、俺の求めていたまったり異世界ライフである。
穏やかな夜の中、幻想的な明かりと景色、めっちゃ綺麗な夜空。THE平和。
ほっこりしていると、また俺の膝に銀色のスライムが、今度は二匹飛び乗って来た。
「っと、一匹だけじゃなかったのか」
はしゃぐスライムを、俺はまたつつく。すると、またどこかに跳んでいった。
気付けば、数十匹ものスライムたちが嬉しそうに飛び跳ねる、騒がしい様相になってしまう。これはこれで面白いし楽しい。
俺がまんざらではないってことは、当然『俺』たちも同様なワケで。
みんな楽しんでつつきまくる。
「わー、わー、すごいですねぇ!」
「そうだなぁ」
フェリスは両手をいっぱいあげて楽しんでいた。けどスライムは不思議なことに、フェリスのとこには着地しない。なんでだろ。
やっぱり、俺の中にいるスライムを感知して、のことだろうか。
疑問に思っていると、またスライムが一匹、俺の膝に着地した。
「おーよしよし」
頭(?)と思しき場所を撫でてから、俺はつんとつつく。
『もっきゅー!』
その時だった。
スライムが、ぱん! と風船が割れるような音を立てて、弾けた。
――――え?
な、なな、何があった!?
混乱に動揺していると、いきなりステータスウィンドウがポップアップした。
《経験値三〇万獲得しました》
…………………………え?
ちょっとまって、せつめいぷりぃず?
本気の本気で意味わかんないんだけど?
目どころか、自分自身そのものを点にしていると、あちこちでスライムが弾け出した。そのたびに経験値が鬼のように入ってくる。って、いやいやいやいや、まって?
次々と経験値が入って。
《総経験値二十七億獲得しました》
なんて表示がでて。
俺は完全に硬直した。
だって、億だよ。億ですよ。しかも二十七億ですよ。
《レベル二五六七に達しました。現時点での到達最大値です》
……………………………………………………ぉぅ。
なんかとんでもないことになってねぇか。
「び、びっくりしたー。何が起こったんですか?」
「さぁ、俺にも分からないんだけど、なぁ、フェリス。聞きたいことがあるんだ」
「なんですか?」
「歴代で最高レベルってどれくらいか分かる?」
「え、今までで、ですか? えっと、確か、人間なら歴代最強と言われた《積乱の勇者》で四五〇、過去最悪と言われた《破滅の魔王》で四五五、世界最高齢の世界樹の守り手、《エンシェントドラゴン》様で六〇〇と言われてます」
そ、そっかー……四倍以上かー……。
俺は内心で冷や汗をかきつつ、ほっと笑顔になれた。
なんだろう、これ。うん。
まぁいいや、とりあえず寝よう。
うん、そうだ、あれだよ。
これできっとまったり異世界ライフが待ってるんだよ、うん。
俺は現実逃避をしながら、ゆっくりと眠ることにした。
やっと覚醒しました。
途方もない経験値ゲットです。
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