分析と遭遇
日刊総合ランキング入りしたので、記念更新です。
「あ、あの、ゆう……カナタさま」
村長の家を後にしてから、フェリスは俺にかけよりながら声をかけてきた。
ててて、とやってくるから、俺は思わず頭を撫でてしまった。
「どうした?」
声をかけると、フェリスは一度ためらうように俯いてから、顔を上げる。
「よかったんですか?」
そこに意味が集約されていた。
俺が勇者を名乗ったことだってぐらい、すぐに分かる。
俺は勇者じゃないって言った傍から、勇者名乗ったわけだしな。
「あー、なんていうか、上手く言える自信がないんだけどさ、こう、安心させてあげなきゃいけないなって思ったんだよ」
「あんしん……?」
「うん。あんなボロボロになるまで、いや、なってもまだ、村を守ろうとしてる。だから、最大限大丈夫なんだよって安心させてあげたくてさ。ごめんな、あんな嘘ついた」
すると、フェリスはぶんぶんと首を振ってから、泣きそうな笑顔を見せた。
「ううん、嬉しかったです……!」
「そかそか、なら良かった」
俺はもう一度頭をぽんぽんと撫でてから、小さくため息を吐いた。
ニセモノの勇者だけど。
今は、今だけは、本物になろう。なれるように、がんばろう。
なんとかして、この村を助けないと。
こういうのって、昔っからなんだよなぁ。ばーちゃんとじーちゃんの教育のタマモノってやつなのか、お人好しになってしまったらしい。けど、社会人になって、ブラックにずっぽりハマって、心がやさぐれて。
だから、あまりそういうのに目をあてないようにしてたんだよ。
疲れちゃうから。
つか、そういうことも忘れちゃってたんだよな。それくらい磨耗してたんだ。実はヤバかったんじゃねぇか、俺。
っと、ヤメヤメ。
今回はもう言っちゃったしな。
こんな不甲斐ない自分を煽るために、逃げ道塞いじゃったし。
「さーて、がんばりますかね。期間限定勇者」
「なんですか、それ、おかしい。ふふ」
「だってなぁ、なりゆきと勢いとはいえ、勇者になるわけだし?」
くすっと笑うフェリスに俺は後頭部をかきながら答える。
「じゃあ、これが終わったら、ゆうしゃさまじゃなくなるんですか?」
「そ。だから期間限定」
俺は軽く伸びをしながら頷く。
この一件が終わったら、自分の身の振り方を考えないとな。
「じゃあ、貴重なゆうしゃさまタイムってやつですね」
「なんじゃそれ。いいけどさ。それよかフェリス、聞きたいことがあるんだよ」
「なんでしょう?」
「魔族のことだ」
俺は感覚共有を全開にして訊く。
こうすることで、俺の経験が共有されるんだ。これはマスターから増殖した彼らへという場合のみ、明確に伝わるようだった。
「まず、連中の襲撃はいつもどうやって切り抜けてたんだ? っていうか、どこからいつもやってきてたんだ?」
「はい。えっと……村長を中心として、みんなで魔族の人たちを倒していました。いつも一〇人いるかいないかですから、ボロボロになりながらでも、なんとか……ですけど……あと、出現場所は、村の東と、北からです」
「それじゃあ次、そいつらの面々はいつも同じ顔ぶれか?」
「言われて見れば……ずっとミノタウラっていう、魔闘牛鬼の一種です。武闘派のわりには、そこまで強くないと言われてるんですけど」
……なるほど?
「ちなみに、その魔族の里は?」
「この丘を越えて、大きい川を挟んだ森にあるようです」
「なんでここを狙ってるのか、分かってる?」
「あの辺りの森は生きてるから、だと思います。土地としては豊かでも、開拓できる範囲が狭いんです。だから、この里を狙ってきたんじゃないかなって。こっちの方が脅威も少ないですし」
フェリスは舌を噛まないよう、言葉を切りながら説明してくれた。
と、いうことは、だ。
俺の考えはすぐに共有されていく。きっとこれで、マッピングしにいったみんなも作戦を変えてきてくれるだろう。
ねらい目は、丘の上。そして、村の東と北から続く道だ。
「あ、あの、カナタさま?」
じっと考えていると、フェリスが不安そうに声をかけてきた。ああもう、その大きい緑と黄色の混じった綺麗な目とかもう可愛い。
「大丈夫だよ。ちゃんと作戦考えられそうだから」
「ほんとう、ですか?」
「ああ。任せとけ」
どん、と俺は胸を叩いた。
▽▲▽▲
日没。太陽が地平線に沈み、空が夕と夜の狭間、紫色に染まる。
大分暗くなってきた森の中で、『俺』たちは静かに敵襲を待っていた。ちょうど三叉路のような場所で、道の合流地点は広い。
この森は、当然ながら手入れしている範囲が限られている。
フェリスの里も人が多いわけじゃあないし、そもそも感じからして、最低限の恵みで営んでいくってスタイルっぽかったし。
そこでマッピングしつつ、森の状態も注意深く監視してもらった。
ちゃんと理由がある。
手入れされている森と、そうでない森とでは全然違うのだ。動きやすさと危険度の点で。
それは当然敵も熟知しているはずで、おそらくその手入れの境界線までは、無難に獣道なりなんなりを通ってくるだろうと予想できた。
実際、フェリスの里の東と北の入り口からは小さいながらも道が整備されていて、それは丘の向こうに繋がっている。フェリスによると、昔、人間族と魔族が争っていたころに整備され、進軍のために使われていたものだとか。
だったら、敵もそれを使わないはずがない。
ということで見張っていたのだが――。
早速、索敵班から反応がやってくる。
予想通り、相手は『ひとり』だ。
思わずニヤっとしてしまう。
『気持ちは分かるけど、ちょっとキモいよマスター』
『というか下卑た笑いだよね。自分がそんな顔してると思ったら傷付く』
「お前らナチュラルに自分を傷付けながら俺をディスるんじゃねぇよ」
半分泣きそうになりながら、俺は小声で言い返す。
っていうかヒドくね?
いや、確かに笑顔は怖いですねって言われたことあるけどな!
っと、自暴自棄やってる場合じゃない。
足音を耳にして、俺は集中する。
「アイツか」
ランタンを掲げながらやってきたのは、背丈は俺とさほど変わらない、体格からしてローブを纏った男だった。フードからは牙だったり角だったりが見えるし、手に持っている杖は鈍器にしか見えないほど荒々しい。
そいつはゆっくりと足を止めた。
空気が、変わる。
ぐっと目を閉じ、杖を握りしめる。
一陣の風がやってきたと思ったら、そいつの全身が緑の光に包まれた。
地面に魔法陣が展開されていく。
それを見たフェリスが、息をのんだ。
「あ、あれは……召喚魔法! す、すごい……カナタさまのいうとおりだ」
ずず、とまるで土が泥沼になったような音を立て、魔法陣から影が出てくる。
見る間に形が変化し、雄牛の角を携えた、やたら上半身の筋肉が盛られた怪物――フェリスの言っているミノタウラになった。特徴そのまんまだ。
数にして、一〇匹。
のそのそとミノタウラは周囲に広がる。
野性的な臭いが広がる中、男はただ無言で杖を掲げ、地面を突いた。
「いってこい。今日こそ――決着だ」
唸るような低い声。
直後、ミノタウラどもが大きく唸りを上げ、そして走り去っていく。ちょうど五匹ずつ、左右の道に分かれていった。
足音も気配も完全に遠ざかるのを確認して、俺は動く。フェリスも追随した。
「よぉ、召喚師さん」
わざと足音を立て、俺は物陰から道に姿を出した。
相手――魔族は動揺して肩を震わせ、身構えた。
俺は、敢えて脱力した様子を見せながら立ち止まる。
「だ、誰だ貴様っ!」
「名乗る程のもんじゃねぇよ。けど……」
俺は耳をほじくりながら、相手を睨んでやる。
「テメェにこれ以上、村を襲わせさせないためにやってきたんだ」
次回の更新は深夜です。
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