キノコシチューと素材集め
「キノコシチュー?」
「そう。当宿屋自慢のメニューさ。リピーターも多いんだよ。けど、その素材がダメになちゃったねぇ……どうしたものか」
……そういえば、そんなことをチェックインした時に説明してもらったよーな。
なんだかとっても美味しそうな響きなので、ぜひ俺も食べてみたい。
この異世界にきて、手料理って食べたことないしな。
それに、今回のこれは俺にも責任がある。
俺がもっとうまくやっていれば、なんてことなかったんだ。
冒険者になれたことで、レベルが高くなったことで浮かれてたんだ。そもそも俺は、冒険者としての経験値はまるで何もない素人なんだ。
「そのキノコって、どこで手に入るんですか?」
とりあえず、そのキノコを盗み出そうとした男たちのことも気になるが、まずはキノコの方が優先だ。
「市場はまだあいてないしね……西の森までいけば、自生してると思うけど」
「どれくらい必要なんですか? 見本は、ここにあるから大丈夫か」
「少しだけど、無事なのもあるから……そうだね、それぞれ三〇本ずつくらいあれば」
種類としては、一〇種類か。それならなんとかなりそうだ。
俺は《鑑定》でキノコを確かめつつ、記憶に叩き込む。後は時間との勝負だな。どれくらいあるか分からないけど、急いだほうがよさそうだ。
「時間はどれくらいありますか?」
「二時間くらいは……って、いくつもりかい? 魔物もでるんだよ!」
「大丈夫です。こうみえて冒険者ですから。フェリス、チョビとフォルトを起こしてくれ。急いでいくぞ」
「はいっ!」
舌が戻ったらしいフェリスは、笑顔でいってくれた。
「って、ちょっと待ちな」
二階で物音がする中、おばちゃんが声をかけてくる。
とても不安そうな顔だった。
「あんた冒険者さまなんだろう? だったら、何の報酬もなしで動くのはダメだよ」
「え、いやでも」
これは俺の不始末でもあるわけだし、と言いかけて、おばちゃんは俺の口を立てた人差し指でふさいだ。
「もちろんシチューはたっぷり提供する。けど、やっぱりダメなんだよ。それに冒険者なんだから、依頼を受けた形にしないと、下手したら罰せられるよ」
「え、そうなんですか」
「だから依頼を出しておくよ。事後受注って制度が利用できるし。だからちゃんと、あんたもギルドに顔を出すこと。いいね」
俺は頷く。
おばちゃんがこのタイミングで教えてくれたって意味もちゃんと分かってる。もし誰かに呼び止められて咎められたら、そう主張できるように、だ。
このおばちゃん、かなり頭が回る。
きっとずっと宿屋を経験してきたからこその経験値なんだろう。
「ありがとう」
「いいってことだよ。それとあんた亜人族だろ? だからそういうトコでいらないこと言われないようにしないといけないからね」
「……!」
いや、見抜かれて当然なんだけど。
だからこそ衝撃的だった。俺を亜人族だと判断した上で、アドバイスしてくれたり、身を案じてくれたり。
いるんだな、この世界にも。
「いこう」
フェリスたちが降りてきたところを合流し、俺は早速向かう。
俺は、『俺』たちは今、最高にやる気がみなぎっている!
外はまだ暗い。
けど、門番はいた。寝ずの番で対応してるなんて、中々のものだ。ギルドの登録証はもう発行されているので、あっさりと通過できるんだけど。
外に出て、俺は形状変化で全力ダッシュする。
フェリスが嬉しそうに声を上げ、チョビが「いやちょっと待って、待ってお願いだから待って無理無理――――っ!」とか叫ぶが、無視である。
ものの数分くらいで、俺たちは森の入り口に到達した。
そこでルームキーをフルオープンして、『俺』たちに出てきてもらう。
ここからは時間との勝負だ。全員参加でがんばる。といっても、全員採集にいくわけじゃあない。やはりここでもチーム分けするんだ。
高度なシステムを分業する。それが最も効率的だ。
「魔物は襲ってきたら即座に対処。同時に全員でバラけて《索敵》&《採集》で。必要数を一気に確保することが大事だから、完全感覚共有で、常にカウントしてほしい」
これは一人一種類だ。
あとは向かう方向を決めて、徹底的に採集していく。
キノコは木から生えているものもあれば、朽ちた木だったり、地面からだったり。色々だから気をつけないとな。
「じゃあ、時間との勝負だから散ろう。みんな、頼むぞ」
合図を送ると、みんなは一斉に散った。
さて、俺たちもやらないとな。
俺はすぐにフェリスとチョビにも指示を出していく。
「チョビは召喚魔法でミノタウラを出してくれ。フェリスはバフを。フォルトは空中でみんなの状況を監視するのと、空からの魔物を牽制してくれ。後は一緒に探していこう」
「分かった」
「はいっ!」
『任せろ!』
よし。じゃあ採集スタートだ。
ミノタウラを先頭に、森を切り分けて入っていく。こういうのは体格が大きい方が道を造りやすい。
俺はそこに追随しながら、必要なキノコを確認する。
・ムガイベニテングダケ
・ギョクタマゴタケ
・チョーツタケ
・キワミシモフリヒラタケ
・アオエノキ
・アスパラタケ
・ハイオウタケ
・クロマイマイタケ
・キイロウマミエリンギ
・ブラウンムドクカエンタケ
この十種類だ。
すでに《鑑定》でどこに自生しているのかも把握している。注意しないといけないのは、類似した姿かたちで猛毒を持っているキノコがあることだ。これは現実世界でも同じだったな。
本当はキノコの採集なんて素人が手出しできる領域ではないのだが、そこは《鑑定》があればどうにでもなる。慎重にこなしていけば問題はないはずだ。
「あ、カナタさま、あれ!」
じめっとした木々の間、フェリスが指を向けた先には白いキノコが群生していた。
俺は即座に《鑑定》を展開する。
「ハイオウタケだ」
らっきー! いきなり群生してるとこに出くわせるなんて!
俺とフェリスは一つずつ《鑑定》して採集していく。『俺』たちも次々とキノコを発見して採集しているようだ。
たまに魔物と遭遇している感じだけど、あっさりと駆逐していく。ついでに《貪食》で料理もゲットしている。空中では、フォルトがやりたい放題だ。
数の暴力とは、実に恐ろしい。
あっという間に必要数は揃った。
時間にして僅か三〇分にも満たなかった。さすがに俺もびっくりだ。
「なんつーか、ホントーにアニキは、こう、卑怯っていうか、もうその領域にないな」
「どういうことだよそれ」
「アニキ一人でもくっそ強いのに、それが三〇〇人って、やっぱなあって」
チョビはもう半分諦めたように言う。
分からないでもないんだ。俺も同じ感想だし。正直、戦闘とかにおいても、誰にも負ける気はしないって思えるくらいだ。
でも増長はしちゃダメだ。
俺は強く自戒する。そうやって油断して慢心したら、あっさりと足元すくわれる。俺はついさっき経験したんだ。いくら数がいても、経験値がなかったら一緒だ。
「有利なのは活用しないといけないだろ?」
「そのとおりです! 本当にすごいです、カナタさま!」
フェリスは手放しで褒めてくれる。ああ、可愛いなぁ。
っと、ここでいつまでもダベってるワケにはいかない。
「とりあえず早く戻ろうか。少しでも調理に使える時間を作ってあげたいし」
「そうですね」
「だな。じゃあミノタウラを引っ込めるぞ」
俺は頷く。
帰る時にミノタウラは必要ないからな。すぐに形状変化を始め、フェリスを肩車する。
「あ、でもちょっと待って、アニキ。帰りは少しゆっくりがいいかな?」
キョドりながらチョビは訴えてくる。
悪いが、そのお願いはきいてやれない。分かっている『俺』たちは数人がかりでチョビを引っ掴まえ、そしてダッシュした。
「いや、だから、だからああああああああ――――――――――――っ!!」
チョビの絶叫が、こだました。
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