世界の様子とスキル
太陽が、しっかりと昇った。
それでも暑く感じないのは、異世界だからか、それとも季候が穏やかなだけだからか。四季とかもあるのかな。その辺りもおいおい確かめていこう。
とにかく、だ。
俺は、この世界の特徴について、大体の説明をようやく受け終えた。
「と、とりあえず……こんな感じです……」
「おーけー、おーけー」
俺と、銀髪猫耳の少女──フェリスがぐったりしているのは、フェリスの説明が長かったからだ。
見た目通りの子供なので、説明が長かったのだ。途中から俺が質問して答えてもらうという質疑応答式に切り替えたくらいだ。
それでも結構な時間くったけど。
「ふえぇ、ひらはいらいよう……」
「何度も舌噛んだもんな」
苦笑しながら指摘すると、フェリスは半泣きで舌をぺろんと出しながら頷いた。
どうも長文を話すと舌が回りきらなくなって噛むらしい。可愛すぎか。
ともかく。
要約すると。ここはMMOゲーム感覚の強い世界観だ。
・剣と魔法がある、日本人が良く持っている中世ヨーロッパ的異世界。文明レベルは魔法準拠で、自然豊か。
・神から与えられた祝福として、細分化されたスキルがある。魔法もその一種。
・それらはステータス画面で確認できる。
・また、経験値を取得することによってレベルが上がり、神の祝福が増加することで能力値が上昇する。
・人間族と魔族、そしてその間の亜人族がある。
・昔、人間族と魔族は激しく争ったが、今はお互いに干渉しないように、土地を分け合って住み分けしている。
・けど、亜人族はどっちつかずのため、両方から嫌われていて、奴隷にされていたり、細々と片田舎で集落を作っていたりしている。つまり迫害対象だ。
・ちなみに、人間族では一部でゴタゴタが起こっているらしい。だから勇者召喚が行われているのだとか。
そして、ここに俺が召喚された理由が含まれているようだ。何せ、フェリスは迫害されている亜人族だ。
何か問題があったから、俺を(というか勇者を)召喚したんだから。
けど絶対、メンドーなことなんだよな。
だからって、放置するわけにもいかない。
俺はまだ右も左も分からないのだ。それにこの子可愛い。
「舌が休まってからでいいんだけど、俺を召喚した理由は?」
問いかけると、両手で舌を扇いでいたフェリスは、すぐに一度口を閉じてから開いた。
「すぐ説明します。私の里は……今、魔族の脅威に晒されているんです。それで、なんとか人間族に匿ってもらおうとしてるんれふけぢょっ」
「あー分かった。匿って欲しかったら、勇者の一人や二人召喚してこいって?」
また噛んだフェリスの言葉を俺は先読みして言うと、肯定の頷きが返ってきた。
「いてて…………はい。それで、村で魔法を使えるのは私しかいなくて、それで……できるかどうか分からないけど、やるしかなくて……ああ、でもそれでこんなことをしてしまうなんて……本当に、本当にごめんなさい……」
自責の念に堪え切れなくなったか、少女はぼろぼろと大粒の涙を零し始めた。
ああああ、やめてくれ。なんか俺が犯罪者になった気分だ。
慌ててポケットからハンカチを取り出して、俺は少女の涙を拭う。拭いても拭いても、ぐしゅぐしゅ言いながら泣くもんだから、ちっとも涙が止まらない。
あまりにも不憫になって、俺は少女をつい抱きしめてしまった。ゆっくりと背中を撫でる。
「ほら、泣くな。泣くなってば」
「でも、でも、でもぉ……っ! う、うぇ、ふえええええええ……」
「あーあ……」
泣きたいのは割と俺の方なんだけどな。
けど、こうなったら仕方ない。
確かに俺は被害者だけれど、悪意があってやったワケじゃない。
何より、ここでこの少女を見捨ててどっかにいったところで、俺には行く当てなんてどこにもない。俺も亜人族なわけだし、いくとこいくとこで迫害されるのはイヤだ。
つか、こんな小さくて可愛い子が頑張っているのを見過ごせないだろ。
俺は少女から離れ、そっと両肩をつかむ。
ここはアレだ。俺のまったり異世界ライフのための土台確保と、可愛い女の子のために、一肌脱ぐってヤツだ。
「分かった分かった。俺がなんとかやってみるから」
「……え?」
「とりあえず、こんだけ『俺』がいるわけだしな」
苦笑しながら振り返ると、一斉に『俺』たちが俺を見た。うん怖い。
『なんとなくやる気になったというか』
『やることが決まったって感じ?』
『まぁマスターのやることだから、逆らわないんだけどさ』
『ブラックだけはやめてね?』
口々に『俺』たちは言う。
このちょっと身内にはかったるい感じの話し方。ガチで俺だな。
「分かってるよ。とりあえず作戦会議と行こうぜ」
でも逆に、性格が完全に俺なら、やりやすい。自分が求めることは、『俺』たちも求めてることだからな。
案の定、反対意見は出なかった。
「まず確かめないといけないのは、時間だな」
『そうだね』
『フェリス、何時までがリミットなんだい? 勝利条件が知りたい』
「ぐすっ。あ、はいっ。えっと……」
いきなり質問され、泣き止んだばかりのフェリスは慌てて懐中時計を取り出した。
とうやらこの世界には時間の概念がしっかりあるようだ。
ちょっと安心した。
「タイムリミットは夜の六時、日没までです」
おお、意外と迫ってるな。
「そうなると?」
「魔族たちが攻めてきます。今まで何度も襲撃を受けていて、なんとか耐えてきたんですけど……今晩あたりが限界だと思います。私の村は、そもそも農耕種族ですし」
『防衛設備とかもない感じなの?』
「はい」
フェリスの肯定に、俺はこめかみをさする。
まぁ、だからこそ人間族に助けを求めたんだろう。
彼らに庇護してもらえれば、人間族と魔族は互いに不干渉という協定が発動して、自動的に争いは強制終了だからな。
けど。
『人間側に助けを求めるのは無理な話だよな』
『うん。俺たち召喚はされたけど勇者じゃないし』
っていうか、亜人族だしな。
となると、人間側の助けを期待すのは無駄だ。切り捨てよう。
「じゃあ、戦闘で魔族を撃退するってことになるのか」
俺の声に、誰もが苦い表情を浮かべた。さもありなん。
はっきりと言って、俺は戦闘経験なんてない。せいぜいケンカを何回かしたくらいだ。
なので、幾ら数が揃っていたとしても、現状のままで魔族に挑むのは無謀と言うべきだろう。
たぶんだけど、魔族なのだから、魔法とかも使ってくるだろうし。
「一応確認なんだけどフェリスは魔法使いなんだよな? 攻撃魔法とかは?」
「ごめんなさい。からっきしなんです。補助魔法とかは得意なんですけど」
「そっか……」
となると、この世界のシステムに少しでも慣れて、それにのっかって強くなるしかない。幸いにも、その要素は揃っているのだ。
「フェリス、時間は?」
「今が十一時ですね」
『となると、残された時間は移動時間とかを含めて七時間か』
『マスター、これは急いだ方がいいんじゃないの?』
「そうだな。ここは班分けしよう」
俺の提案は否決されるはずがなかった。
何せ、俺の相手は『俺』たちだ。自分が求めているものは、相手も求めているものである。淡々と話し合いを済ませ、役割を決めていく。
あっと言う間に、班分けは終わった。
戦闘班、検証思索班、索敵班だ。
それから、武器を探すことにした。戦うにしても素手は勘弁である。
俺はマスターなので、本来は動かなくてもいいんだろうけど、今はそんなこと言ってられない。今後のことも考えて、戦闘班に所属した。
「この草原、昔は古戦場だったんです。だから、探せば色んなものが見つかると思います」
というフェリスのアドバイスに従って、検証思索班以外で捜索である。
敵とエンカウントする可能性を疑ったが、魔物(人語を解せない敵性生物のことだ)はこの草原でもまだ奥の方にいかないと棲息していないらしい。
ということで、バラバラに分かれての行動だ。
その間に、検証思索班には、システムについて色々と議論をしてもらって、戦闘や行動においての検証を考え出してもらう。
数がいるって便利だよな。
こうやって役割分担――マニュファクチャリングが簡単に出来る。
数十分の捜索で、武器はある程度揃った。
投擲に使えそうな石から、太い木の枝。錆びてるけど、打撃力は期待できそうな剣や槍。後は皮の鎧とか盾なんかも見つかった。
ちなみに俺は鉄剣を見つけている。しかも錆がないので、性能は十分期待できる。
「よし、じゃあ揃ったな。チーム分けしようか。思索検証班、準備は?」
『ある程度の検討対象は揃ったよ。簡単なレジュメを共有したから、それぞれで実験できると思う』
「分かった。じゃあ早速始めよう」
とりあえず、レベルを上げられるだけ上げる。話はそこからだ。
俺たちは全員で行動し、魔物がいるエリアに立ち入る。そこからチームに分かれて、バラバラに行動だ。
魔物がいるエリアでもかなり広いので、検証の場としては最適だ。
俺は目配せだけして、索敵班に指示を送る。
『《警戒》』
スキルの発動だ。
俺にはスライムを移植されたことによって、予め複数のスキルが備わっていた。
その中の一つが《警戒》だ。これは《索敵》の下位互換的な性能なのだが、複数人で同時展開させることによって補える。
彼らに警戒してもらって、先に敵を見つけるのだ。
俺には《打撃・斬撃耐性S》というスキルもあるので、狙いはゴブリンやコボルトとか、その手の打撃を中心とした魔物になる。
このスキルはかなりの高性能なようで、今の低レベル状態でも、よっぽどの性能の高い武器じゃあない限りダメージはほとんど受けない。
戦闘とは、自分の有利を押し付けることが大事だ。それぐらいは知っている。
膝よりも高い背丈の草原をかきわけるようにしばらく歩くと、索敵班が合図を送って来た。
敵を見つけたようだ。
すぐに感覚が共有されて、俺は反応を確かめる。小さくステータスウィンドウが開き、十歩くらい先にゴブリンがいることを示した。
よし、攻撃対象だ。
俺はすぐに目配せする。
戦闘班、投石担当の二人が持っていた石を勢いよく投げつける。
びゅん! と、俺が出せるはずのない速度で石は飛び、狙い鋭くゴブリンを打ち据えた。どうやら異世界にきたことで、ステータス的な補正がかかっているらしい。
「ッギャアっ!」
悲鳴があがり、たちまちにゴブリンが出てくる。
小さいながらも緑色の逞しい体躯に、血走った目。おお、対峙すると怖い。でも。
ちょっと卑怯なのは理解しながらも、俺を先頭に武器をもった接近戦担当がゴブリンを囲む。俺を含めて、三人だ。
これに怯んだのはゴブリンだ。
俺はすかさず攻撃を仕掛ける。勇気を振り絞って足を踏み出し、剣を振りかぶった。
「はっ!」
同時に、残りの二人も木刀のような木の枝を振るった。
ゴブリンに躱す余裕などあるはずがない。
あっさりと一撃を受けたゴブリンは、断末魔を上げて光の粒子を散らせて消滅した。
ああよかった。
一瞬、スプラッタな光景を目にすると思っていたのだ。
目と精神に優しいことである。
なんて思っていると、ウィンドウがまた開いた。経験値が取得できたのだ。
今回、俺に入った経験値は五だ。それが五人なので合計二十五で、索敵班の三人には二の経験値、合計で六が入った。
どうやら、直接攻撃を当てたのと、エンカウントしただけでは経験値に差があるらしい。けど、俺的には経験値が入ることの方が嬉しい。
何せ、ゴブリンを倒したことによって、俺は今、三十一の経験値を手に入れた。普段なら五しか入らないので、実に六倍強もの効率である。
もちろん、それだけではない。
あちこちで戦闘が始まったらしく、ものの一分でレベルが急上昇し、すぐに十八まで上昇した。
それだけではなく、スキルも手に入っていく。
手に入ったスキルは、《剣術》《投擲術》《打撃術》がLv1.で、他にも《貪食》《合体》がある。
これも検証していかないとな。
というか、うん。これはヤバいな。
どこまで強くなれるか、どんどんと検証していこう。
面白かったら応援お願いします。
次回は明日更新します。