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やりたいこととアニキよばわりと

「それは良かった。今日は、ここに泊まられるのでしょう?」

「そうですね。準備もありますし」

「準備?」


 きょとん、としたのはフェリスだ。


「そりゃ、俺はいつまでもここにいるわけじゃあないし」


 フェリスと離れるのは名残惜しいけど。ここにいたら、きっと平和だと思うけど。

 たぶん、村の人たちはとってもよくしてくれると思うけど。


 でも、それでだらーってしてたら、俺はダメになる。


 いや本音はだらーっとしたいんだけど。

 でも絶対に飽きる。だから程々に平和な刺激が欲しい。


 後。


 ちょっとやりたいことができたんだ。

 こんなの、俺一人じゃあできないけど、今の俺には三〇〇人もいるわけで。そんなたいそれたことは無理だけど、ちょっとはできそうな気がするんだ。


「やりたいことも、あるしな」


 泣きそうになっているフェリスの頭を撫でながら、俺は言う。


「やりたい、こと?」

「ああ」


 できるだけ力強く感じてもらえるよう、俺はしっかりと頷いた。


「だから、外に出ようと思ってさ」

「……カナタ様。そこに、私もついていったらダメですか?」

「はい?」


 ちょっと待て待て待て待て待て。おおいに待て。

 いきなり提案してきたフェリスに俺は困惑した。っていうかその上目遣いやめて。うっかりしっかり許可出してしまいそうになるから。

 最後の自制心を振り絞って、俺は顔をそらす。


「あのっ、私は、確かに攻撃魔法とかは使えませんけど、支援とか生活魔法とか、そういうのは得意なんです! それにストレージもありますし、その……!」

「フェリス……」

「そ、それに、私も、外の世界を知りたいんです」


 ああもう、そこまで言われたら。


「フェリス。俺はな、亜人族ハーフのみんなが、また大きく手を振って歩けるような、そんな世界をみたいんだ」

「……え?」

「そのために、ちっぽけな俺だけど、何かできることがあるんじゃないかなって思って。それで、いろんなとこにいってみようと思うんだ。そりゃ基本は気ままな旅だけどさ、でも、できる時にちょっと何かしてみようって」


 何ができるか分からないけどな。

 それに、俺も亜人族ハーフだからな。そりゃ人間に扮して生活とかできるだろうけど、なんか嫌だ。


「だから、辛い時もあるかもしれない。戦闘にだってなるかもしれない。簡単じゃないと思う。それでもいいのか?」

「な、なんて素敵な……!」


 …………あれ?

 目をキラキラさせるフェリス。むしろ拝み倒すレベルで見てくる。


「私、私……感動しました!」

「ええぇぇぇぇ………………」

「村長さま! 私、カナタ様と一緒にいきたいです!」


 え、なに、いきなり熱弁しちゃう系。

 いあいあいあいあ、さすがに許可なんておりないでしょ。おりないよね?


 俺は訴えるように村長を見ると、村長は重々しく膝を叩く。


 そして、フェリスの肩をそっと抱いた。


「いってこい」


 ええええええええええええええええええ……………………。


 俺は膝から崩れ落ちそうになったが、必死に耐える。

 いやね? 確かにね? フェリスは可愛いし可愛いし可愛いから、一緒についてきてくれたら嬉しいんだけどさ。それでも、それでもだぞ。

 こんな簡単についていくのを許可していいのか?

 確かに俺は村を助けた恩人なんだろうけどさ。けど、男だぞ? 一応妙齢だぞ! くそ一応とか自分で言ってしまってそれに違和感を覚えない自分が悲しい!


 そこまで高速思考回転させたところで、そっと『俺』たちの一人が背中をさすってくれた。


 うん、ありがとう。

 なんて悲しい慰めなんだ。振り払う元気もないよ……。

 ずーんと落ち込んでいると、村長は俺を見てきた。


「カナタ様。申し訳ないが、よろしく頼めるだろうか」


 た、確かに。

 フェリスのストレージ能力はすごく役に立つ。他にも、魔法が使えない俺からすれば、喉から手が出るくらいに欲しい能力がいっぱいだ。

 でもフェリスはまだ小さい。まだここで、やることとかいっぱいあるんじゃないか?


「フェリスには、両親がもういない」


 俺の心境を見透かしたように、村長は重々しく語る。


「だから、どうか」


 で、頭を下げる。

 ああ、ああもう。

 次々と断る理由を潰されて、俺は気付く。うん、そうだ。

 本当はついてきてほしいんだ。フェリスに。言い訳がましいな、俺は。


 この世界じゃあ、たぶん。俺はもっとわがままになっていいんだろう。


 気付かされて、俺は息を吐く。

 ゆっくりと。


「……わかりました。フェリス、後悔だけはしないようにな」

「もちろんですっ! わーいっ! やったー! えへへっ!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねて、フェリスは全身で喜びを表現する。あーもう。

 俺と村長が微笑ましく見守る中、後ろにいたチョビが俺の袖を引っ張った。

 振り返ると、チョビはさっと目を逸らした。おい。可愛くねぇぞ。


「どした?」

「いや、その……さ」

「ん?」


 どうした。そんな顔を赤くさせても需要はねぇぞ。

 あまりに辛辣なので内心で封印しつつ、俺は耳を傾ける。


「いや、その……俺も、この先いくアテがなくてさ」

「おう、頑張れ」

「ねぇちょっとなんでいきなり突き放す発言?」

「え、だってなんか付いてくるっていう場面だろこれ」

「そうだけど!」


 指摘すると、チョビは半泣きで肯定するが、反論もしてきた。


「ここは、こう、話を聞いて、そうか、とかいうパターンじゃないの!」

「だから先読みして頑張れっていったんだろ?」


 俺は苦笑しながらいう。

 旅のお供って、多い方が楽しいタイプなんだ、俺は。


「……え?」

「チョビのことだから、根性つけたいとか、自分をみつけるとか、そういう理由で一緒に旅したいんだろ?」

「うん、まぁ、うん、そうなんだけど」

「じゃあそれでいいんじゃね?」


 俺は肯定の意味で言う。


「どこまで一緒にいくかわかんないけどさ、一緒にいこうぜ。そういう意味で、頑張れっていったんだよ」


 そこまで言って、やっとチョビは理解したか、深い、深いため息をついた。もうがっつり肩を落として、膝に両手をつけるくらいだ。


「紛らわしすぎないか、アニキ」

「うんちょっと待って」


 俺は即座に停止させた。


「アニキってなんだ?」

「いやだって、他に呼び方あてはまらないし?」

「やめて? 超やめて?」


 そもそも俺はそんなガラじゃないし。どっちかってぇとアニキなのは村長の方だろ! 見た目的にもオーラ的にも!

 俺は必死で叫びたいのを我慢しつつ、呼び名をやめさせようとしたが、結局チョビが本気で泣きそうになったのでしぶしぶ認めることになった。

 なんでや。なんで俺は男に泣き落としされてんだ。


 どっちかというと女の子にされたいよね!


 なんて叫びもやっぱり口にだせなくて。

 でも、なんかちょっぴり楽しみでもあった。


 なんか、いよいよって感じだからな。




次回の更新は明日です。

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