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追尾とお説教

 動きは、それからしばらくしてからあった。

 予想通り、黒づくめの誰かが小屋に入り、チョビからこのコンタクトを確認して、さっと出ていく。もう明らかに挙動不審まっしぐらだ。


 俺はさっそく追尾していく。


 気配を悟られないように、慎重に。

 そいつは林を抜けると、待機させていた馬にのっかって走り出す。早馬だ。

 しかもかなりの速度だ。馬の体力が心配になったけど、ここは異世界だしな。そういう部分も違うんだろう。


「平野に出ますね」


 フェリスが悔しそうにいう。

 森の中なら、いくらでも隠れる場所があるので追尾も楽勝だったけど、ここまで人通りもなくて開けた場所に出られると、逆に追跡が大変になる。


 フツーだったらな。


 けど、俺には関係ない。

 すぐに三人の『俺』たちが形状変化させ、透明状態になって、さらに平野を這うようにドロドロになってから追いかけていく。

 あとは完全感覚共有を活用して、その足跡を後から追うだけだ。


「みたこともない速度でスライムが這っていったんだけど」

「というか、あれ、這うというべきなんでしょうか……いや、でもカナタさまですし」


 乾いた引きつり笑顔のチョビに、もはや達観しているフェリス。

 なんかちょっと心外だな。

 確かに考えたらおかしいんだけどな。俺、三〇〇人もいるし。っと。そういえば村に護衛として置いてきたみんなはどうしてるんだろうか。


 俺はそっと完全感覚共有で調べてみる。


 うんうん。ちゃんと村を護衛しつつ、適度に遊んで適度に寝てるな。

 …………いいなァ。

 あ、でもこっちはバーベキューしたし、おあいこか。

 とにかく、敵襲とかにあってないようでよかった。不安要素として、その貴族だろうヤツが第二波、第三波として色んなのをけしかけてくる可能性があった。

 もちろんこのレベルとステータスで負けるとは思えないけど、だし抜かれたらそうとも言えないし。


「さて、そろそろ追いかけるか。ゆっくりいこう」

「はい」

「おう」


 だーいぶ遠くになった馬を見て、俺は平野に足を踏み入れた。


「んー、空気が美味い」


 もうすっかりのどかだ。

 鮮やかな若い緑の平野。確かにあまり整備はされてないけど、歩くには十分な街道。あれなんだよ。アスファルトじゃない地面って、こんなに温かいんだな。

 真夏のアスファルトは激烈に地獄だったけど。

 特に今年はヤバかった。どうヤバいかと言うと、歩かなくても熱中症になるくらいにヤバかったんだよな。オーブンで焼かれてる気分になる。


 けど、この土の地面はそうじゃない。


 ゆっくりと、ぽかぽかする感じだ。革靴ごしでも分かるんだよなぁ。優しい。

 心を癒されていると、フェリスが歌を奏でだした。うん可愛い。


「きーみーと、あーなーた、すーがたはちがうーけれどっ、てーとてをあーわせて、いーっしょにわらーいましょ」


 杖を揺らしながら、フェリスは楽しそうだった。

 つられてか、チョビは近くで一本の草をむしって、ふるふると揺らして遊び出した。なんか、ネコジャラシそっくりだな。


「いい歌だな」

「里、というか、亜人族ハーフで伝わってる民族歌なんです」

「へぇ」


 フェリスの話で、亜人族ハーフは国家らしい国家を持たない。いや、持てない。何せ、人間族ヒューム魔族デュームのどちらからも迫害されているからだ。

 フェリスのように、ひっそりと自然の中で集落を作っているのが大半だとか。


「でもそんな歌があるってことは……」

「昔はあったんです。国家」

「そうなのか」

「でも、人間族ヒューム魔族デュームの戦争に巻き込まれて……」

「きいた覚えがある。亜人族ハーフはどっちにもつかないで、ずっと中立を保ったから、最後は両方から攻め落とされたって」


 チョビがおもしろくなさそうに言うと、フェリスは頷いた。

 なるほどな。その結果、亜人族ハーフは迫害され、散り散りになったんだ。


「俺、そういうの嫌いなんだよな。別に攻撃されてるワケでもないのに、なんで攻めたのかが本当に分からねぇんだ」


 …………確かに。

 元いた世界でも、そういうのはよく聞いてたから、気持ちは分かる。


魔族デュームから言わせれば、戦わないヤツはゴミだって風潮があるから、それが理由だったのかもな」


 なんとも野蛮だが魔族デュームらしい。

 いやよく知らないんだけど。チョビもチキンだからって理由で追い出されてるし、そういうイメージはあったんだけど。


「チョビにはそういうのないのか?」

「俺はあんまり……闘争本能って魔族デュームにとって命よりも大事みたいなんだけど、そういうの薄いみたいなんだ」


 本能って命を守るためにあるんじゃなかったっけ。

 直感的なツッコミはスルーして、俺は頷く。


「でも、強くはなりたいんだろ?」

「まぁな。一応、男だし。誰かを守れるくらいに強くはなりたい。そう思って魔法を覚えたんだけど、回復魔法くらいしか得意なのがなくてさ。笑っちゃうだろ?」

「そんなことないです!」


 自嘲気味に笑ったチョビを叱ったのは、フェリスだった。

 ぷんすかと頬を膨らませ、耳をぴこぴこさせながら、むーっと大きい目つきで上目に睨む。ああ可愛い。

 ん? まって? なんでチョビはビビってるんだ?


「チョビさんの回復魔法は超一流じゃないですか! あの最高回復魔法なんて、数えるくらいしか使い手がいないのに!」

「フェリス、分かった、分かったから。あんまりたくさん話すと舌噛むぞ」

「うう、でも、でもぉ……」


 不満そうなフェリスの頭を俺は撫でておさめる。

 なんというか、うん。


「な、ななな、なんで俺怒られながら褒められてるんだ……!?」

「そりゃ卑下したからだろ」


 俺はチョビのおでこを指で突こうとしてヤメた。そもそも身長が高すぎて届かないし、そもそも指でついたら指がなくなりそうな顔面だもん。


「お前の回復魔法はスゲェ。そしてそのスゲェで、フェリスは自分が大事にしてる村長を治してくれた。それを卑下したら、その行為そのものが、ひいては村長が大したことないみたいになる。だから、怒るんだよ」

「そうですっ!」

「ううっ」

魔族デュームの中ではどうか知らないけどさ、少なくとも俺たちはスゲェって思うわけで。それじゃダメなのか?」


 問いかけると、チョビは顔をぽっと赤くさせて、顔を反らした。

 なんだその乙女みたいな反応。


「ダメ、じゃねぇけどさ……」

「それに、魔法だったらフェリスの方がダメです……攻撃魔法とか使えませんし」


 フェリスはいじけたように唇をつきだす。アヒル口ってやつだ。


「とにかく、だ。二人ともスゲェんだから、そう卑屈になるなって」


 そうまとめてから、俺は前に進む。

 つか、俺なんて魔法一つ使えねぇんだぞ。何かで覚えられないかな。

 こう、せっかく異世界にきたんだから魔法の一つや二つ使ってみたいよな。


「っと……意外と近かったな」


 完全感覚共有が伝えてきた。

 到着したようだ。

 俺はそっと目をとじて、視界さえ《共有》する。これはマスターである俺にだけ許された能力らしい。便利っちゃあ便利だけど、その間、俺は本来の視界を失う。

 リスクはあるってことだ。 


「どうしました?」


 足止めして確認していると、フェリスが心配そうな声をかけてくれる。


「大丈夫。追尾が終わったみたいだ」

「え、そうなんですか? この平野って、結構広いのに」

「うん。だから野営してるんだ。わりとしっかりしてるぜ。柵もあればテントもある。簡単な馬小屋までな。旗まで掲げてある」


 俺がそう解説すると、二人の息を呑む音が分かった。

 俺は腕を形状変化させて、その旗の紋章を象る。


「こ、これは……!」

「知ってるのか?」

「アラムブルク家の紋章です。何度かみたことがあります。すごく横暴な貴族さまだって……」


 俺は一度視界共有を停止させて、俺は不安そうなフェリスを見る。

 後ろ振り向くと、チョビも顔を青くさせていた。


「ああ、横暴ってのはよくわかる……」


 そういえば強引に召喚魔法を覚えさせられたんだっけ。

 そして、その横暴な貴族サマが、あんなトコで野営?

 これは狙いにもよるけど……とりあえず、横暴ってことは、明らかに私利私欲で里をどうにかしようって感じか。


「……盗聴、できるか?」

『やってみる』


 テレパスを送ると、すぐに返事がやってきた。

 それと同時に、俺は里にいる『俺』たちにも声をかけておく。


 これはもしかしないでも、そうなるって感じだな。


よろしければブクマ等おねがいします!

どんどん面白くしていきます。

次回の更新は明日です。

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