ストレージ・バーベキュー
「よっこいせ、っと」
俺は指を形状変化させ、鋭く尖らせてから一気に伸ばす。
それは一瞬で森の中を突き抜け、木や草の影に潜んでいた魔物を貫く。
これもアレンジの一つだ。
本当は戦闘技術とか覚えたくないんだけど、身を守れるようにはなっておきたいしなぁ。それに《剣術》とかそういった類のスキルは使用経験値を積まないとレベルアップしないようだし。
こっち系は気ままにあげるつもりだけど。
ぽんぽんぽんっ、と音がした。
すっと指を戻すと、料理が同時にやってきた。
何を倒したか分からないけど、串焼きシリーズだった。
鳥皮に、もも、ぼんじり。あ、せせりまである。他にはたぶん牛肉とオニオンの串焼きだったり、ピーマンだったり、あ、コーンもある。豚肉バージョンもあるぞ。
もうとっても胃を刺激する匂いだ。
ごくっと唾を飲み込む。
いや、でもここは我慢我慢。みんなで食べないとな、こういうのは。
「あ、でもこれ、どうやって保存しようか」
みんなが帰ってくるの待ってたら冷めるよな。
やべ、なんでこんな基本的なこと気付かないんだ。アホすぎるだろ俺。
「まかせてください。わたし、ストレージもちなので」
「ストレージ?」
「はい。神様からの加護です」
嬉しそうに言いながら、フェリスは胸からぶら下げていた小さい子袋を握りしめて、間口をしゅっと開けた。
中は、きらきらとしていて――まるで宇宙のようだった。
「ここは時間さえ止まっている空間なので、入れておけばいつでもアツアツですよ!」
「そんなのあったのか」
「えへへ、数少ないじまんですっ!」
ちっぱい胸をはるフェリス。可愛い。
俺は思わず頭を撫でてから、遠慮なく串焼きを入れさせてもらった。
じゃあ、どんどんと狩りますか。
肩を回すと、木の幹を足場に次々とはねながら接近してくる影。
魔物だな。
すっかり尋常ではなくなったらしい俺の動体視力は、そいつをしっかりと捉えていた。俺は両手をハエタタキのように変化させ、迎撃する。
「よっこらせ」
気味のいい音を立てて、モモンガみたいな見た目の魔物は地面に落ちた。
また軽快なエフェクトを立てて料理に変身する。
あ、こっちはおにぎりだ。なんか色んな味があるな。梅とかシャケとか。
これはこれで串焼きのお供だよな。
空中に浮いてる間に回収し、俺はやはりストレージへ入れていく。
「カナタさま、すごく強いですね。今の魔物をあっさりと……」
「そうか?」
「はい。このあたりじゃあ、たぶん最強の一角ですよ」
え、そうなんだ。
すっごい簡単に倒しちゃったけど。うん、きっとあれだ、気にしちゃダメなやつ。
気を取り直して、俺は魔物を狩っていく。
三〇〇人全員を用意するとなると骨が折れるけど、一〇人ちょっとくらいなら何とかなるもんで、俺はあっさりと数を用意できた。
あれだな、今回はバーベキューって感じだな。
でもバーベキューって、作るとこから楽しいからな。
いつか食材とか買って、やれたらいいな。この世界ならいくらでもバーベキューできそうだし。うん。
しばらく待っていると、みんなが戻ってきた。思ったよりも早かったのは、
『完全感覚共有で教えてもよかったんだけど』
『なんか美味しそうだし』
『早く食べたかったし』
ということだった。
いやまぁ、うん。さすが俺。
てなわけで、さっそく串焼きランチをすることにした。
塩味やタレ味と、バリエーションも豊富である。食べきれないくらいあるので、好きなのを食べられるバイキングに近い。
「それで、成果はあったのか?」
牛肉の串焼きを齧りつつ、俺は町へ探りにいった『俺』たちへ訊く。
『うん。ていうかまぁ、マスターの予想通りだったんだけど』
『この町の人たちは、フェリスの里を狙ってる様子はないね』
『というか、定期的に布とか、良質な商売道具を卸してくれるから、助かってるって感じ』
『だから、今更土地を返せとか、そういうのはやらない雰囲気だよ』
豚バラ串をかじりつつ、『俺』たちが報告してくる。
やっぱりな。
と、なると、今回動いてるのは町とは無関係のヤツだ。それも結構なお金がある。
「そっちは?」
今度は林の方へ偵察にいった『俺』たちに訊く。
『こっちも予想通りかな。あの小屋、まだ新しいよ』
『林にいる魔物は、周囲の魔物とは全然違う系統のだったしね』
『えっと、種族はハウンドブラック。まぁ番犬系の魔物だね。《鑑定》スキルによれば、赤ん坊から育てれば飼いならせるみたいだよ。強さはそこまででもないけど』
「か、かなり強そうだったけどな……」
ちょっと顔を青くさせているのはチョビだ。
見た目に反して、食べ方がキレイなんだよね。どんだけギャップもってんだ。
「強くても強くなくても、なるべく戦わない方向な」
食糧をゲットするために仕方なく戦ってるんだから。
もちろんそれはみんな分かってることだけど。
「それにしても、ハウンドブラックだけにかぎりませんけど、魔物って高いんですよ。それをあれだけ集めるなんて……」
「手懐けるにも時間と金かかるしな」
フェリスはコーンをちまちま齧りながら、チョビはせせりを食べながら会話する。
「じゃあ決まりだな。今回、チョビに依頼したヤツは貴族か何かだろ」
「「貴族?」」
フェリスとチョビ、二人して目をくりくりさせてこっちを見てくる。
いやフェリスは可愛いけど、チョビ。お前は怖い。顔面凶器がそんな顔するなといいたい。口にしたらなんか傷つきそうだからやめておくけど。
「なんであの里を狙ったのかは知らないけど、たぶん、この辺りの事情をしらない貴族の仕業だと思う。あと、コスい」
『あー、それはわかる』
『小屋を用意して、魔物まで用意して、だもんね。かなりお金かけてるんでしょ?』
「というか、あの小屋の一軒で一年間は軽く暮らせます」
「それは貧乏すぎないか……?」
「ひどいですぅ……」
「おいチョビ」
俺は泣きべそをかいたフェリスをあやしながら、ぎろっと睨む。
「フェリス泣かしたらしばくぞ?」
「あっひょおおおおおお!!!!」
「どんな返事だよ……」
ガタガタブルブル震えるチョビに、俺は呆れた。
情けないとか、そんな騒ぎじゃない気がする。
「とにかく、コンタクトは取ってきたんだよな?」
「あひょっ! あ、あああ、ああ」
『チョビ驚きすぎだよ。本気だけど本気じゃないから大丈夫だって』
チョビの隣でカワタレを食べていた『俺』がフォローじゃないフォローを入れる。
「それってどっちなんだ!?」
「ってことは、イヤでも明日の昼には会えるってワケなんだろうけど」
――待てよ。
俺は考え込む。
コンタクトを取りにくるってことは、絶対、一度はあの小屋に様子見にくるんだよな?
おそらく、そういう見回りで雇われたようなヤツが。そっちを追尾した方が、いろいろとコトが早く進まないか?
「思い立ったが吉日ってね……」
俺は、ぼそっと口にした。
もちろん『俺』たちも理解しているはずで、みんな、黙々と食事を済ませ始める。
「えっえっ、なにこれ、なんでいきなり黙るの」
「もしかして、チョビさんをしばく、とか……?」
「えええええええええ――――っ!?」
「『『いや違うからねっ!?』」」
顔を青くさせるどころか、泣きそうになったチョビに、俺と『俺』たちは慌てて否定した。
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