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アメリカンドッグと笑顔

 人里。

 そこは森を突っ切った先にある、川に沿って作られた町だ。

 川を跨いで円状に広がるつくりで、レンガ造りが特徴的な家が並んでいる。意匠はあまりこってないが、均一性はあるって感じだな。中央には大きい橋があって、その周辺が賑わってるイメージだ。

 というか、行き交う人々は決して追い詰められている感じはしない。

 商店街だろう一角も賑やかだし、笑顔もとびかっている。

 しかもスラム街らしいスラム街もない。

 この世界の水準がまだ分からないんだけど、割と裕福な方じゃないだろうか。


 と、俺は街を見下ろせる小高い丘の上から、《望遠》スキルで覗き込んだ感想を内心で浮かべていた。


 ちなみに時刻はまだ昼にもなっていない。

 フェリスの村からかなりの距離はあったのだが、例の加速方法で時短したのだ。

 フェリスははしゃいでたけど、チョビはぐったり、というか、三回くらい気絶したけど。

 俺は、まだぐったり気味のチョビに声をかける。


「チョビ、本当にここで依頼……というか、脅迫されたのか?」

「ああ。この町のまだ向こうに、ちょっとした林があるんだけど。そこで」

「町の中じゃないのか?」

「助けられたのは町の中なんだけどな。そっちに連れ出されたんだよ」


 ……なるほどな。


「依頼人と落ち合うのも、じゃあそっちなのか?」

「そうだな」


 チョビは頷く。

 俺はその林の方向を見て、《望遠》スキルを駆使した。

 いけるかどうか微妙、と思ってたら、ずーっとズームして、あっさりと林にある小屋を見つけた。うん、異世界すげぇな。魔物まで見えるぞ。

 とりあえず、偵察が必要かな?


「依頼人にはどうやって落ち合うんだ?」

「えっと、あの小屋にいって、この札を机においておく。その翌日の正午にいけば会えるってことになってる。で、後これをぶら下げてろって。これしたら魔物に襲われないからって。お守りみたいなもんらしい」


 チョビは胸にぶら下げたペンダントを見せた。小さい瓶だ。早速《鑑定》してみると、どうやら魔除けのアイテムの類ではなさそうだ。


 《主の証明》


 とある。

 ってことは、もしかして……。


「フェリス、ちょっと聞きたいんだけど、魔物を服従させる方法とかってある?」

「ありますよ。ビーストテイマーになるか、小さい頃から魔物を育てるか。ビーストテイマーはこの世に三人しかいないので、まず出会えないと思いますにょっ」

「ああ、ごめんなフェリス」

「い、いへ……ふぉふぇんははい……」


 舌を噛んだフェリスの頭を撫でて俺は謝る。

 とにかく、だ。

 あの林にいる魔物はたぶん、その小さい頃から育てられた魔物なんだろう。それで、あのペンダントをぶら下げておけば、攻撃はされないってトコか。

 随分と手の込んだ、というか、一方的な手法だなぁ。

 相手の居場所を悟らせないようにしてるって感じだ。だとしたら、ますます町の人の誰か、ってワケじゃあなさそうだな。


「……これは、色々と調べる必要がありそうだな」

『そうだね』

『ちょっと役割決めてちゃちゃっとやっちゃおう』

『じゃあ俺は町にいって聞き取りしてくるよ』

『俺は林で調査かな』

『マスターはどうする?』


 問われて、俺は一瞬だけ悩んだ。

 今回は多角的に調査する必要がある。色々とあるヒントを集めるわけだ。となると、情報を逐一まとめる存在が必要だ。

 それは当然『俺』たちも分かっていることで。


「俺はここにいて、情報をまとめる役割をするよ」

『じゃあそれでお願い。いってくるわ』


 俺からぞくぞくと小さくなったスライムたちが離れ、俺になっていく。このままだと色々とマズいので、変身もしてもらう。

 モチーフはほとんどが会社の同僚や上司だ。くだびれた顔をしているのはブラック企業だからだろう。ああ、無残。

 合掌したくなるのをおさえて、俺はチョビと『俺』たちを見送った。


「これからどうしますか?」


 残ったのは、俺とフェリス。

 そして、のどかな風景。ぶっちゃけお昼寝したい。


 けど、それはさすがに申し訳ないよな。


 それにいつ情報がもたらされるか分からないし……


「んー。みんなが帰ってくる頃には正午を過ぎるくらい、かな」

「そうなんですね」

「じゃあ、とりあえずご飯でも調達しにいこうか」


 帰ってきたら飯があるって嬉しいもんな。

 そんな思いから提案すると、フェリスは目を大きくさせてヨダレを垂らした。


 分かりやす過ぎる。


 俺は苦笑しながらも、狩りに出かけた。

 お昼だから、がっつりでいいよな。いいのが出ると嬉しいんだけど。


「とりあえず、と……《索敵》」


 俺はスキルを活用して周囲を探る。すると、幾つかの反応があった。


「魔物のテリトリーはたぶん、この丘までですね」

「……みたいだな」


 俺は森の方へ入りながら返事をする。

 しばらく進むと、茂みから音がした。見た瞬間、敵が襲ってくる。


 黒くしなやかな体躯――黒いトラって感じだな!


 思いつつ、俺は素早く形状変化で腕をチェーンソーに。刃を高速回転させ、相手にカウンター気味の一閃を浴びせた。

 黒いトラを真っ二つに両断すると、光に包まれる。


 ぽんっ。と面白い音を立てて、黒いトラは、アメリカンドッグに変化した。しかも三本。


 猫類っぽいのに、アメリカンドッグかい。

 きっとヤボだろうツッコミは内心でおさえつつ、俺は回収する。ごていねいにケチャップとマスタードまで添えられてるぞ。


「あの、これなんですか?」


 興味津々な様子はフェリスだ。というかもう食べたくて食べたくてたまらんって感じだなぁ、ああ可愛い。

 じゅるじゅるとヨダレをすすり、フェリスは俺の手に収まっているアメリカンドッグに熱い視線を注いでいた。俺は微笑みながら渡してから、ケチャップをかける。

 ほんとはマスタードも入れると美味しいんだけど、辛いしな。


「これはアメリカンドッグっていう食べ物なんだ。パンケーキって知ってる?」

「しってますっ。甘くておいしいですよね。いい小麦粉が手に入ったら、たまにつくってもらうんです。いつもはトウモロコシの粉なんですけどね」


 なるほど。小麦粉のパンケーキは結構豪華なおやつって立ち位置なのね。

 これが亜人族ハーフだからなのか、世間一般的なのか、は評価が分かれそうだ。どっちかというと前者っぽいけど。

 この世界の食糧事情がなんとも分からないから判断難しいな。

 フェリスの言葉のままいけば、等級の高い小麦粉も出回ってるみたいだし、技術そのものはあるようだけど。


「そかそか。これは、そのウィンナーにパンケーキの生地を重ねて、揚げたものなんだ」


 こう説明するとカロリー爆弾な感じだな。

 実際そうなんだけど。発祥はあのバターを揚げちゃうアメリカだし。ちなみに海外ではコーンドッグって呼ばれてる。小麦粉じゃなくて、コーンミール使ってるからだ。

 見た目じゃあちょっと分からないけど、これは小麦粉、かな?

 食べたらわかるか、たぶん。


「いただきますっ」

「じゃ、俺も一個食べるかな」


 俺はケチャップとマスタードをつけて、早速かじる。

 綺麗に揚げられているので、ざくっとした食感。じゅわっと脂が滲んで、中からあまーい生地が顔を出す。噛み切ると、ウィンナーの旨味と塩気がやってくる。

 そこにケチャップの酸味と、マスタードのピリ辛も重なって、もう味がいっぱいだ。


 この甘いと塩辛いのを同時に食べるって、とってもアメリカンだよなぁ。


 いつもはカップラーメンとかのジャンクだったけど、このアメリカンドッグはちょっと趣向の違うジャンクさなんだよな。

 分かる人には分かるこの感覚ってヤツだ。

 懐かしさを味わいつつフェリスを見ると、フェリスは一口食べて、ぽかんとしていた。


「……フェリス?」


 もしかしてマズかった?

 一瞬だけ疑ったけど、すぐに違うって理解できた。

 大事そうにアメリカンドッグを両手で持って、口をおおって感じに開けて、ただじぃっと一口だけかじられたアメリカンドッグを見ている。


 これは明らかに、感動しているのでは。


 しかも、俺の声が聞こえないくらいに。

 このアメリカンドッグは、甘さもハッキリしてるし、ウィンナーの味も強い。そこにケチャップっていう分かりやすい酸味と甘みが加わるから、味が濃い。

 フェリスはきっと、その味にびっくりして、感動したんだと思う。


「おお、ほおおお……っ」


 裏声になってますよ、フェリスさん。


「フェリス?」

「お、おいしいっ!」


 やっとのことで、フェリスは美味しいを口にした。

 それからはあっという間に完食だった。


「こ、これは魔性ですねっ……」

「アメリカンドッグを魔性って表現するのはじめて聞いたな」

「そうですか? っていうか、カナタさまはこれを知ってるんですね」

「うん。俺の元いた世界じゃあ、割とポピュラーだよ」

「こ、これが……すごい……」


 フェリスは本気の驚愕を見せた。可愛い。


「もっとたべたいですけど、ひとつでお腹ふくれそうですね」

「カロリーもあるしな。じゃ、腹ごしらえも終わったし、狩りにいこうぜ」

「はいっ!」


 フェリスは元気よく頷いてくれた。





次回の更新は朝です。

面白くしていきます。応援など、力になります、よろしくお願いします。

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