episode7 校庭の中心で、愛をさけぶ。
体育祭がついに始まった。入学して初めての大きなイベント。この体育祭のおかげで橘さんと仲良くなれた。ありがとう体育祭様。
「今更緊張してきた~」
「何言ってんのよ毎日二人で練習したのに負けるわけないでしょうが」
結局変わってないなって思ったけど、やっぱり少し素直になったかな橘さん。
「橘さんらしくないこと言うね」
「らしくないって私が友情や努力を語るたびに言うつもり?」
「ごめんって。ただ、こうしてあなたと普通に話せるようになってよかったなって」
橘さんってば恥ずかしくなるとすぐそっぽ向くんだから。目をそらさないで。もっとあなたを見せて。
「ねえ」
橘さんが何か話そうとしたとき、聞こえてきたリレー開始のアナウンスは同時に二人の時間を終わらせた。
「いくわよ。委員長」
「うん」
最初の走者たちがスタート位置につくと会場は静寂に包まれた。緊張する空気。スターターピストルがの音とともに物音一つしなかった会場は走者たちへの声援で包まれる。走者たちは勝利に向かって走る。次の走者に、仲間に思いを預けるために。私たちのクラス、3組は1着のまま第二走者へとバトンを繋いだ。3組の第三走者、橘さんがスタート地点につく。
「橘さん」
私が声をかけると橘さんは無言で頷く。声はいらなかった。3組は2着で第三走者にバトンが渡った。橘さんが走り出すと、第四、最終走者の私もスタートの準備を始める。思い返せばこの二週間あっという間だった。橘さんが練習してるところを見つけて、全ては始まったんだよね。あの日から毎日毎日、練習して、二人で夜空を見て。橘さんは楽しかったかな? これからもっと仲良くなれる気がするんだ。橘さん、いくよ……! 現在、依然二着。橘さんからバトンを受け取り走り出す。
みんなの思いがこのバトンに詰まっている。当然、橘さんの思いも。最終コーナー、一位の走者と肩を並べる。負けたくない! 負けられない! 絶対負けない!
「委員長ーーー! 負けたら絶対ゆるさないんだからーーー!」
その声援はいまとなってはもう毎日聞いてる声だった。毎日聞いている声なのになんでだろう。胸が熱くなる。感情が高ぶる。ありがとう。あなたと一緒なら負ける気しないよ。ゴールテープを切ったのは私だった。
リレーが終わった後、リレーメンバー四人は惜しみない感性を受け、クラスメイトに胴上げされた。橘さんは感極まって涙が止まらなくなってた。
「大丈夫? 涙とまった?」
「泣いてなんかないわよこの馬鹿!」
いつもの優しいチョップ。いや、いつものより力がない。
「本当に良かった。橘さんが応援してくれなきゃ負けてたかも」
そう言ったらまた泣き出した。なんかかわいい。
――次はお楽しみイベントの借り物競争で~す。各クラス五人メンバーを出してください――
そのアナウンスにどのクラスもざわめき始めた。
――では借り物競争スタート!――
「橘さん頑張って~」
「いや、なんで私アンカーなのよ!」
じゃんけんで決めたらまた橘さんが引き当てました。借りるものは競技に使った小道具やお弁当箱など様々だ。あっという間にアンカーの出番。
――3組アンカー橘さん引きました!――
「好きな人?」
会場が湧く。流石にベタすぎるでしょ!
――さあ橘さん誰を連れてくるのでしょうか?――
「煽るなー!」
クラスのみんなが声援を送る。「橘さーん頑張ってー」「私連れてってもいいよー」そしてついにこちらに向かって動き出した。そして、私の目の前で足を止めた。
「この私が迎えに来てあげたんだから早く来なさいよ」
橘さんは私に手を伸ばす。会場は大盛り上がり。他の走者を忘れているかのように。すでに橘さんは本当に顔から火が出そうなくらいに赤くなっていた。
「何よ! 不満なの? 私が好きだって言ってるのに!」
橘さんの手を取ると上がった体温が直に感じられる。
「嬉しいよ」
橘さんは逃げるように審査へ私を連れて行く。
「ねえねえ。いつの間にかみんなゴールしてるしゆっくり行こうよ」
「冗談じゃないわよ! さっさと死にたいくらいだわ!」
二人で審査員の目の前に到着すると尋ねられた。
――橘さんは百合園さんのことが好きですか?――
「はぁ? さっきいったでしょうが!」
「ほらほら。言わなきゃ終わらないよ」
「あんたは余裕そうでいいわ」
「え~。また華って呼んでよ~……昨日の夜みたいに」
「だから誤解を招く言い方すんなっての!」
周りは夫婦漫才だの言って橘さんの羞恥は限界に達した。
「私! 橘千代は! 百合園華が大好きでーーーーーす!」
「私も」
軽くキスをしたら倒れました。