episode4 二人の時間
放課後。みんなそれぞれ家や部活に向かっていく。
「ねえ、華。今日は陸上部来る?」
「ごめん! 急いでるの!」
歌恋の言葉を最後まで聞かずに私は風のように教室を去った。
「今日の華、なんか変だなあ。あ、いつもか」
私が道を駆けていると橘さんの姿が見えた。
「橘さーん!」
いきなり声を呼ばれてびっくりしたのかピクッとなってからこちらを振り向く。勢いに任せて橘さんに突っ込んでいった私を橘さんはひらりとよけて私はそのまますっ転んだ。
「ひどいよ~」
「はあ、びっくりした。何? 委員長」
「一緒に帰ろ?」
私が起き上がって答えると、橘さんはため息をつく。
「委員長と話してるとなんか疲れる」
橘さんは冷ややかな視線を送り言う。
「もう、そんな冷たいこと言わないでさ~私たち友達でしょ?」
橘さんは無視して足を進めた。
「いい? 私たちはリレーの練習を一緒にするだけだから」
私はちょっぴり悲しかった。まあ、そう簡単にはいかないよね。
「あ! じゃあさ連絡先交換しようよ。練習いけなくなったときとかに使うでしょ?」
橘さんが黙って差し出したガラケーには傷がたくさんついていて結構使いこんでるような印象を受けた。
「へ~ガラケーなんだね」
「どうでもいいから早くしなさいよ」
交換を済ませるとまた橘さんはさっさと歩き始めた。私は聞くべきことを思い出した。今聞いてしまおう。
「ねえ、もしかして朝の事怒ってる?」
橘さんは黙って歩き続ける。私が謝ろうとすると橘さんは口を開いた。
「別に気にしてなんかない。ただ委員長がアホだとは思ったけど」
なんだか拍子抜けな答えで思わず笑うと橘さんも静かに笑った。
「今笑った?」
普段は笑顔を見ないので何となく聞いた。
「なんか悪い? 昨日だって笑ったの見たでしょ」
「だって学校じゃ全然笑わないじゃん。橘さんの笑顔すっごく素敵なのに」
橘さんの顔が赤くなるのがわかる。そして昨日みたいに「恥ずかしいこと言うな!」って言いながらチョップをくらわせてきた。チョップされたのにすごい優しい感触だった。
昨日と同じ時間になったので適当な理由をつけて公園に向かった。到着するとすでに橘さんは練習を始めていた。
「橘さん、おまたせ~」
私もすぐに準備運動をして参加した。
休憩中に珍しく橘さんから話しかけてきた。
「委員長。なんで今日一緒に帰ろうとしたの?」
笑顔で答える。
「橘さんと仲良くなりたいから」
「部活入ってなかった?」
「いろんな部の助っ人やってるだけ」
橘さんは「へ~」なんて言って感心しているようだった。
「委員長は運動もできたねそういえば。なんか完璧超人って感じがする」
そんなことはない。誰だって欠点はあるものだ。
「あはは。私が勉強できないの知らないの?」
「そういえばそうだったっけね」
とりとめもないようなことを話してまた走る。誰も知らないこの時間がすごく幸せな気がする。橘さんも心なしか楽しそうでこっちまで楽しくなってくる。何度も二人でバトンを繋ぎながら夜の公園を駆ける。