episode3(21) 信じられない
私たちの噂はたちまち学校に広まり、またまた橘さんとの会話の数が減ってしまった。話せるのは夜の電話でだけ。
「こんばんは。橘さん」
私の挨拶に返事はなかったが、その代わりにすすり泣くような声が聞こえてきた。
「どうしたの橘さん!?」
「何でもないの。気にしないで」
橘さんは無理に元気を出しているように感じた。何かあったのだろうか? やはり昨日の件が関係しているのだろうか。
「何でもない訳ないでしょ? 泣いてるじゃん橘さん」
「泣いてないし」
「……私、いつでも話聞くから」
「ありがとう」
その日の電話はそれだけで終わった。私は心の中にもやもやしたものを残したまま眠りについた。自分のせいで橘さんが、大好きな人が泣いているのなら。そう思うだけで胸が苦しい。
次の日。教室には橘さんはいなかった。私は歌恋に心当たりがないか尋ねてみた。
「そういうわけなんだけど何か知らない?」
「やっぱり知らないんだね華」
歌恋は苦い表情でそう言った。私に言いにくい理由だということは考えるまでもなくその表情からくみ取れた。
「知ってるなら教えてよ」
「面倒なことになるのが嫌だからあんまり言いたくないんだけどどうせだめって言ってもしつこく聞くでしょ」
「もちろん」
聞かなければいけない。受け入れなければいけない。今の状況を。橘さんが涙を流したままでいいはずがない。絶対に私が幸せにしてあげなければいけない。
「橘さんあんたと仲がいいっていうか付き合ってるでしょ? それで結構妬んでるやつらがいるわけ、意外と人気者だからね華は。それでそんなやつらから嫌がらせみたいな感じのことされてるみたいだよ」
「嘘でしょ……」
「華。あんたが思ってるほどみんないいやつなんかじゃいんだよ。橘さんはもともとあんまり好かれてなかったみたいだし面倒なのを余計に刺激したのかも」
嘘だ。私知ってる、この学校のみんなは優しくて一緒にいて楽しい子ばかりだよ? 絶対にありえない。そう思っていた私はなんて愚かなんだろう。なんて子供なんだろう。本当はわかってる、誰もみんないいところばかりじゃないこと。でも信じたくなんかない、みんな友達だもん。
「でもこのクラスのみんなは……体育祭のときに橘さんを受け入れてくれてたじゃん……」
「残念だけどそんな簡単にいくもんでもないみたいだね。むしろこのクラスは華と一緒にいる時間が長い子が多いからなおさらひどいかも」
淡々と冷静に歌恋は言う。きっと私にわかってほしいんだろう。私が思うほどにこの世界は綺麗なモノじゃないことに。なんでこんなことになるの? ただ橘さんを好きになっただけなのに。考えているうちに涙が流れてきた。
「なんでこんな……」
「もう運が悪かったとしか言えないよ。華と橘さんだったから」
「私、どうすればいいの」
「わからないよ、そんなの。わかるのはもはや私と華くらいしか味方がいなさそうなことだけ」
歌恋のドライな口調にだんだんイライラしてくる。歌恋だって私のことを思ってあえてこうしているってわかってるのに。でも、限界だった。
「なんでそんなに冷たい言い方するの? 歌恋は橘さんのことなんてどうでもいいんでしょ!?」
「そんなつもりじゃ……」
私はそのまま教室から抜け出してしまった。




