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氷姫 - 契約の魔術師と迷いの森の精霊 -  作者: 花京院 光
第一章「迷宮都市フェーベル編」
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第四十三話「王女と精霊」

 ギルドに戻ると、レーナがギレーヌに会いに来ていたのか、ギレーヌの姿を見るや否や、尻尾を振りながら嬉しそうにギレーヌに抱きついた。ギレーヌはレーナのモフモフした頭を撫でると、レーナは満面の笑みを浮かべてギレーヌの豊かな胸に顔を埋めた。


「レオン様。今まで隠していて申し訳ありませんでした」

「クリステルさん、いいえ、姫殿下と今まで共に居られた事を光栄に思います。殿下とは知らずに平民の様に接していた事を心からお詫び申し上げます」


 俺は再び跪くと、エミリアとギレーヌも跪いて頭を垂れた。王国の第二王女相手に、ギレーヌを殺すのはおかしいと説教じみた事までしていたのだ。思い出すだけでも気分が悪くなりそうだ。それ以外にも深夜まで訓練に付き合って貰ったり、平民という立場もわきまえず、当たり前の様に同じ食卓で食事をし、長い時間を共に過ごしてしまった。


「レオン様。頭を上げて下さい。これまでの様に私の事はクリステルとお呼び下さい」

「ですが殿下……、俺は平民です。殿下を名前で呼ぶなどとは……」

「いいんです。レオン様は私にとって特別なお方なんです。どうかいつも通りの態度で接して下さい」

「そうですか、それではクリステルさん。なぜ俺達に身分を隠していたのか、説明して貰っても良いですか?」

「はい」


 それからクリステルさんはゆっくりと城を出た経緯を話し始めた。俺がエミリアを誘拐されるよりも二週間以上前にシャルロッテさんを誘拐されたが、クリステルさんはシャルロッテさんの誘拐を両親に隠し、城の警備を担当している騎士と第一王女にのみ事情を話した。


 彼女は自分自身の精霊すら守れない落ちこぼれたと思われたくなかったと言っていた。ちなみに第三王女のユリア様はかつての俺と同様に、無属性の人間なのだとか。第一王女は三種類の微精霊を持つ魔術師。


 国王陛下は第二王女のクリステルさんが誕生する一ヶ月前に大地の精霊・シャルロッテさんの誕生を察知し、シュヴァルツ城に招いた。シャルロッテさんはクリステルさんの誕生と同時に大地の加護を与えた。


 そうして家族同然に育ったシャルロッテさんを守れなかった事は誰にも知られたくなかったのだとか。特に、微精霊の加護すら持たない妹のユリア様には絶対に知られたくないと思い、シャルロッテさんの誘拐を隠した。


 それからクリステルさんは王都ローゼンハインを出て旅をすると両親に伝え、城を出て迷宮都市フェーベルに到着した。王女という身分を隠したのは、旅の途中で自分の身分を他人に話した時、危うく誘拐されそうになったからなのだとか。


「ユリア様は微精霊の加護を持たないんですね」

「はい、ユリアはいつも私に嫉妬していました。生まれた時からシャルロッテが居たので、きっと羨ましかったのでしょう。私も精霊の加護を持つ者として、自分自身が弱いばかりにシャルロッテを守れなかった事をユリアには気付かれたくなかったんです」


 エミリアはケットシー族を始めて見たのか、まるで猫を可愛がる様にレーナの頭を何度も撫で、小さな頬に自分の頬を擦り付け、幸せそうに微笑んだ。レーナは冒険者に憧れており、将来はギルドに所属して魔物討伐で生計を立てるつもりなのだとか。


「クリステルさん、事情はわかりました。今日は宴ですから、とことん飲み明かしましょう。姫殿下と共にお酒を飲めるなんて光栄です」

「もう、私を姫扱いしないで下さい。レオン様には普通の女の子として扱って欲しいんです……」


 クリステルさんが頬を染めて俺を見つめると、シャルロッテさんが俺に耳打ちをした。


「きっとクリステルはレオン様の事が好きなんです」

「まさか、そんな事は無いと思いますが……」

「いいえ、私はクリステルの事を生まれた時から知っていますから。間違いありませんよ。クリステルがこんなに心を開いているのは、きっとレオン様がクリステルを本気で叱ったからでしょう。普段は叱られる事も無く、甘やかされて育ってた王女ですから、自分の考えを正してくれる同世代の男の子なんて居なかったんです」

「そういえばクリステルさんと腹を割って話した時から、随分俺に心を開いてくれた気がしました」

「そうでしょう。勿論、私もレオン様の事を好いております。もっとレオン様の事を知りたいと思います。国王陛下との決闘に勝利を収め、クリステルの過ちまで正せるお方はレオン様以外にはおりませんから」


 シャルロッテさんが微笑みながら俺の手を握りしめると、ギレーヌが怪訝な表情を浮かべ、シャルロッテさんの手を無理矢理引き離した。


「これは失礼しました。ギレーヌ様の契約者を奪うつもりはありません。ただ、私がクリステルよりも先にレオン様と出会っていたら、私もまたあなたの様にレオン様に加護を与えていた事は間違いありません。レオン様は私の契約者ではありませんが、私はこれからもレオン様の人生を支えたいと思います」

「好きにしなさい。私の契約者である事には変わりないんだから」


 ギレーヌは吊り目気味の鋭い三白眼でシャルロッテさんを睨むと、シャルロッテさんは大人の余裕を見せて優雅に立ち去った。


 エミリアはすっかりレーナと仲良くなったのか、灰色の体毛をした小さな猫の様なレーナを膝に乗せて談笑している。ハンナが寂しそうにギルドの入り口から俺を見つめていたので、俺は彼女が満足するまでギルドの外で共に夜の空気を味わい、ゆっくりと時を過ごした。


 陛下との戦いで精神が高ぶっていたが、エールを何杯か飲んだからか、全身に心地良い酔いを感じる。魔物を狩ってお金を稼ぎ、仲間と共に酒を飲んだり、共に旅をして暮らす。俺はずっとこんな生活を望んでいたのだ。


 エミリアが俺を心配して外に出てくると、月の光が彼女の長く伸びた銀髪を照らし、美しく輝いた。やっとエミリアを取り戻したのだ。俺はエミリアに見合うだけの男になれたのだろうか。エミリアを誘拐されてから、殆ど睡眠もとらず、徹底的に己を追い込んできた。


 俺の訓練は正しかったのだろう。自分達の力で魔族と化したグリムからエミリアを取り戻したのだ。


「エミリア、もう二度と悲しませたくない。俺はもっと強い男になるから……」

「レオンさんは十分強いですよ。陛下との戦いを見て、レオンさんの成長を実感しました。まさか二種類の精霊魔法を自在に操れるとは思いませんでしたよ」

「俺はまだまだ強くなりたいよ。やっと加護を授かったんだ。もうエミリアを危険な目に遭わせたくないんだ」

「嬉しいです。私の事、離れていても想っていてくれたんですね」

「当たり前じゃないか、俺の精霊なんだから。正直に言えば、毎日エミリアの事しか考えてなかったんだ。ギレーヌと一緒に居ても、クリステルさんと一緒に居ても、頭の中にはエミリアが居た。だから俺は必死になれたんだと思う。絶対にエミリアを取り戻したかったから」

「やはり私が信じたレオンさんは正しい心の持ち主でした。過去には精霊を誘拐されても見殺しにする契約者と出会った事もあります。迷いの森で暮らし始める前に、様々な精霊と出会いました。自分に加護を授けてくれた精霊を殺して精霊石を取り出し、魔族と化して人間を襲う様な人も居ました。でもレオンさんは純粋に精霊を愛し、私を取り戻すために努力してくれました」

「まだまだ契約者として未熟だけど、これからは絶対に離さない。俺達の旅を再開しよう」

「はい、レオンさん!」


 それから俺達は深夜まで酒を飲み、明日もギルドで再会する事を約束して宿に戻った。ギレーヌはエミリアに気を使って今日一日だけ別の部屋で泊まる事になっている。ティナとギレーヌは俺達の隣の部屋を使い、俺はエミリアと共に部屋に入った……。

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