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氷姫 - 契約の魔術師と迷いの森の精霊 -  作者: 花京院 光
第一章「迷宮都市フェーベル編」
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第四十一話「勝者達の宴」

 冒険者ギルド・レグルスに戻ると、冒険者達が一斉に立ち上がり、マスターと仲間の帰還を喜んだ。ダニエルさんは魔族の砦を落とした事を報告すると、ギルド内は多いに盛り上がった。砦には精霊狩りやグリムが人間を殺して集めたであろう財宝や大量のお金、武具や魔石などがあった。


 今回の作戦で得た金品は全てレグルスの物になると約束している。俺達は既に死のダンジョン攻略で使い切れない程のお金を得ているから、今回の稼ぎは全て譲る事にしているのだ。


「皆さんのお陰でエミリアを取り戻す事が出来ました。奪還作戦に参加しなかった皆さんも、今日は存分に飲んで下さい。宴の費用は全て俺が出します」


 俺の言葉に冒険者達が再び歓喜の声を上げ、すぐに宴の準備が始まった。俺はエミリアとギレーヌを連れて露店街を見て回り、冒険者達が好みそうな肉料理を片っ端から購入した回った。レグルスに所属しているメンバー達に存分に飲み食いして貰うためには、大量の料理が必要だ。


 宴の買い出しにはハンナも同行し、幌馬車の荷台に次々と料理を乗せ、それからフェーベル産のエールも大量に買い込んだ。俺達が露店街で買い物をしていると、見覚えのある衛兵達とすれ違った。


 フェーベル到着の初日に出会った人達だ。彼等は俺の事を覚えていたのか、ゆっくりと近付いてくると、俺の肩に手を置いて微笑んだ。


「久しぶりじゃないか! 初めて君を正門で見た時は死のダンジョンで自殺でもするんじゃないかと思ったが、死霊の精霊・ギレーヌを仲間に引き入れ、魔族の砦まで落としてしまうとは」

「お久しぶりです。あの時は俺を思ってエールとスペアリブを勧めてくれたんですよね」


 正門で二人の若い衛兵からフェーベル産のエールと濃厚な甘ダレで味付けされたスペアリブの味を力説された事があった。当時はエミリアを誘拐されたばかりで、二人は不安に押し潰されそうになっていた俺に気さくに話しかけてくれた。二人があまりにも真剣にエールの味を語るものだから、俺はその日、人生で初めてエールを飲んだ。


「ああ、君が随分思い込んだ表情をしていたからな。しかし俺達の思い違いだったみたいだ。まさか死のダンジョンを攻略してしまうとは! 今日はこれから宴でも開くのか? 随分大量のエールを買い込んでいるみたいだが……」


 短髪で髭を伸ばした垂れ目気味の衛兵が荷台を覗き込んで尋ねると、俺は彼等も宴に誘う事にした。


「そいつはありがたい! 一時間後に勤務が終わったらすぐに参加するよ!」

「レオン・シュタイナーの宴に参加出来るとは光栄だ。死のダンジョン攻略の話も聞きたいし、必ず参加するよ!」


 二人の衛兵は満面の笑みを浮かべ、俺の肩を力強く叩くと、上機嫌で街の巡回を再開した。二人を知らないエミリアとギレーヌは首を傾げて俺を見つめたが、ハンナは二人の事を覚えていた。早くギルドに戻ろうと言わんばかりに、俺の頬を舐めると、俺達は御者台に乗ってレグルスに向かって馬車を走らせた。


 ギルドに着くと、クリステルさんとシャルロッテさんが荷台から料理を下ろし、室内のテーブルに運び入れてくれた。エミリアは冒険者達を喜ばせるために、ギルドの入り口に人間と精霊が手を取り合って暮らす壁画が書かれた氷の壁を作り上げた。


 エミリアの美しい造形魔法に冒険者達や市民が釘付けになり、瞬く間に人だかりが出来た。これは迷いの森の遺跡にあった壁画だ。人間の少年と精霊の少女が共に暮らす様子を描いた場面。どことなく少年の顔が俺と似ている気がする。それに、少女は明らかにエミリアの容姿に変わっている。


 以前俺が贈った銀の杖をベルトに差し、俺の手を握っているエミリアの壁画に、ギレーヌは嫉妬してエミリアを見つめた。それからエミリアは氷の壁を作り変え、ギレーヌとハンナ、ティナとクリステルさん、シャルロッテさんを追加した。


 それからエミリアは小さなアイスゴーレムを何体も作ると、氷からゴブレットを作り、ウィスキーやエールを注いでからアイスゴーレムに渡した。知能の高い小さなアイスゴーレム達はギルド内を忙しそうに走り回り、冒険者達にお酒を配って回った。


 料理の配膳が終わった頃、鎧を脱いだ二人の衛兵が駆け付けてきた。俺はエールが入ったゴブレットを持つと、冒険者達を見つめてゴブレットを掲げた。


「冒険者ギルド・レグルスに乾杯!」


 乾杯の音頭を取ると、ダニエルさんが一気にエールを飲み干した。続いてシャルロッテさんが豪快にエールを飲むと、俺もキンキンに冷えたエールを胃に流し込んだ。疲れきった体を癒やす様に、徐々にアルコールが回り始めると、俺はエミリアを取り戻した喜びを強く感じた。


 エミリアは俺の隣の席に座り、料理を次々と皿に持って俺に差し出すと、反対側の席にギレーヌが座り、彼女も大量の料理を持って俺の前に置いた。皿に積まれた途方もない量のスペアリブを喰らい付き、冷えたエールで流し込む。


 エミリアは初めてお酒を飲むのか、ゴブレットに入ったエールを少しだけ飲むと、苦味を感じたのか顔をしかめて俺を見つめた。


「エールってもっと爽やかな味がするのかと思ったら意外ときついんですね」

「エミリアは子供なのね。エールも飲めないんだから」


 ギレーヌはエミリアと競う様にエールを一気に飲むと、可愛らしく微笑んでゴブレットをテーブルに置いた。お酒が無くなると、小さなアイスゴーレムがすぐにお酒を注ぐので、ゴブレットには常にお酒が入っている。


 ダニエルさんは相当お酒が強いのか、アイスゴーレムに樽を持たせ、次々とエールを飲んでいる。戦い方も豪快だったが飲み方まで豪快だったのだ。俺は彼の性格が好きだし、出会ってすぐに意気投合し、今回の作戦が成功したのも彼の協力のお陰だと思っている。


 ダニエルさんが俺達の前の席に座ると、エミリアとギレーヌを見つめてから俺を見た。


「レオン、初めて君を見た時から只者ではないと思っていたが、まさか魔族を討伐してしまうとは思わなかったよ」

「精霊の加護のお陰ですよ。俺はもともと弱い村人でした。加護のお陰でやっと一人前の人間になれたんです」

「そうだな。俺達人間は精霊の加護に守られている。精霊もまた人間に守られ、お互いが魔物に対抗するために力を合わせて生きている。大陸の支配を目論む魔族を早い時期に討伐出来た事は、やはりレオンのお陰だと思う。死のダンジョンを攻略するだけではなく、アラクネと魔族まで倒し、地域の平和を守るとは……」

「皆さんのお役に立てたなら光栄です」


 俺はダニエルさんと共にエールを飲みながら語ると、彼は無邪気に微笑みながら俺の肩に手を置いた。


「それで、レオンが好きなのはどっちなんだ? 氷の精霊・エミリアか、それとも死霊の精霊・ギレーヌか」

「俺はどちらも好きですよ。俺の事を認めてくれたかけがえのない存在ですから」


 火の微精霊が胸元から飛び出すと、自分の事も忘れるなと言わんばかりに俺の頬に軽く体当たりをかました。俺は小さな微精霊の頭を撫でると、魔力の体から出来た微精霊は満足気に宙を漂った。


「精霊の加護を持つ者はいつの時代も命を狙われるものだが、レオン程の実力者なら精霊狩りに負ける事もないだろう。これから王都を目指して旅を再開するんだろう?」

「はい、そのつもりです。暫くフェーベルで休んでから旅に出ます」

「寂しくなるよ。またレグルスに戻ってくるんだぞ。それから、俺の力が必要ならいつでも手紙を書いてくれ。双剣のダニエル・ハインが力を貸そう」


 二本のブロードソードを腰に差し、黒髪を逆立てた歴戦の冒険者が俺に手を差し出すと、俺は彼と固い握手を交わした。


 それから暫く宴が続いた時、ギルドの扉が勢い良く開き、豪華なオリハルコン製の武具に身を包んだ長身の男性がギルドに現れた……。

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