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氷姫 - 契約の魔術師と迷いの森の精霊 -  作者: 花京院 光
第一章「迷宮都市フェーベル編」
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第三十五話「奪還作戦」

 フェーベルに帰還してから、冒険者ギルド・レグルスには大勢の新規加入者が連日訪れる様になった。俺はレグルス加入者達に死のダンジョンの攻略方法を教えた。スケルトンやゴーストから聞いたダンジョンの構造やトラップを羊皮紙に書き、無料で提供したのだ。これで以前よりも安全に死のダンジョンで狩りが出来る様になるだろう。


 俺とギレーヌ、ティナ、火の微精霊は宿での生活を始め、俺は毎日ティナとギレーヌから魔法を学び続けた。ファイアボールの魔法はティナの様に上手く使えないが、それでも魔法を徹底的に学んでいるから、俺の魔力は瞬く間に向上した。レベルは既に四十二を超えた。現在のティナのレベルは三十、ギレーヌのレベルが四十五だ。


 ダニエルさんとレグルスの冒険者と共に集団で戦闘を行う訓練も積んだ。ティナは新たにオリハルコン製の胸当てを特注で制作し、俺はエミリアのためにサークレットと首飾りを注文した。


 エミリアのための贈り物は、フェーベルで最高の宝飾職人が制作してくれた。オリハルコンの首飾りとサークレットの中央にはエメラルドが嵌っており、エミリアの瞳の色に合わせて宝石を選んだ。きっと気に入ってくれる事だろう。


 魔族が指定した期限である六月一日を迎える前に奇襲を掛ける。何度もギルドメンバー達との連携を確認し、毎日の睡眠時間を三時間まで削り、徹底的に剣と魔法を学び続けた。今日は遂にエミリアとシャルロッテさんを奪還する記念すべき日だ。エミリアを奪われてから、この日のために必死に努力を重ねてきた。


 五月二十五日。魔族と精霊狩りが決めた期限よりも一週間早い今日、遂に襲撃を決行する。砦の見取り図も手に入れている。ギレーヌが砦を監視し、砦から出てきた精霊狩りを拘束して見取り図を書かせたのだ。流石の精霊狩りもギレーヌには歯向かう事も出来ず、砦内の構造を全て俺達に話した。


 砦の襲撃には俺、ティナ、ウィンドホースのハンナ、ギレーヌ、クリステルさん。それからレグルスのダニエルさん、ギルドメンバーの中でもレベル三十を超えている冒険者が二十五名。以上のメンバーで作戦を決行する。


 朝四時に起床して、エミリアのために用意したサークレットと首飾りを懐に仕舞う。ミスリル製のメイル、ガントレット、フォールド、グリーヴを身に着け、ラウンドシールドを背負う。それからブロードソードとダガーを腰に差すと、ティナとギレーヌと共にハンナの背中に乗った。


 ギルドメンバー達とクリステルさん、それからダニエルさんと合流すると、ケットシーのレーナが見送ってくれた。レーナはほぼ毎日ギレーヌに会いに来てくれる良き友である。王都ローゼンハインを目指して旅を再開すれば、レーナとは暫く別れる事になる。ギレーヌもレーナの事を好いており、レーナさえ良ければ冒険の旅に同行しないか提案してみるつもりだ。


「みなさん、朝早くからお集まり頂き、ありがとうございます。氷の精霊・エミリアと大地の精霊・シャルロッテさんを奪還し、フェーベルを脅かす精霊狩りと魔族を討伐しましょう!」


 二十五名の冒険者達は緊張した面持ちを浮かべながらも、死のダンジョン攻略者と共に戦いが出来ると歓喜の声を上げた。冒険者達の期待に応えるためにも、率先して精霊狩りを仕留めよう。


 エミリアを悲しませた精霊狩りと魔族を許すつもりはない、最高の攻撃魔法と全力の剣技で叩き潰す。俺は冒険者達を先導しながら、迷宮都市フェーベルから西に進み、魔族の砦を目指して移動を続けた。


 途中で砦を守る精霊狩りと遭遇したが、ティナから教わったファイアボールで蹴散らした。ガーゴイル直伝の攻撃魔法は使い勝手も良く、魔力を込めれば込める程破壊力を上げる事が出来る。


 休憩を挟みながら移動を続けると、俺達は遂に魔族の砦に到着した。石造りの巨大な二階建ての砦はまるで城の様な雰囲気があり、周囲には石の魔法で作り上げた城壁がある。内部に入るには城壁の正門を突破するか、城壁をよじ登って侵入するしかない。


 正面から攻撃を仕掛ければ奇襲がバレてしまうので、俺はティナに頼んで上空から砦内に侵入する事にした。ハンナにギレーヌを頼み、火の微精霊と共にティナの両足に掴まる。


「それでは皆さん、俺が奇襲を始めたら正門から突破して下さい」


 ギルドマスターのダニエルさんが冒険者達と共に配置に就き、砦付近の木陰に身を隠すと、俺はティナと共に音を立てずに飛び上がった。ティナは小さな見た目とは裏腹に、筋力は非常に高い。人間一人なら軽々と持ち上げる事が出来るのだ。


 高さ四メートルを超える城壁に着地すると、砦の窓から敷地内を見渡している精霊狩りを見つけた。先手必勝、敵に気づかれる前に命を奪う。右手を突き出して氷の魔力を炸裂させる。


「アイスショット……」


 鋭利な氷の塊が高速で飛ぶと、精霊狩りの心臓を貫いた。精霊狩りが窓の傍で命を落とすと、俺は急いで精霊狩りの死体を外に出した。それから窓に入る前に上空に炎の球を飛ばすと、ハンナに乗ったギレーヌが大鎌を構えて正門から突撃する様子が見えた。


 二人の精霊狩りが正門を守っていたが、ギレーヌが目にも留まらぬ速度で胴体を切り離すと、音も立てずに二人の精霊狩りが息絶えた。本気のギレーヌの攻撃を見るのはこれで二度目だ。デーモンの時もたった一撃でデーモンの首を切り落とした。


 勿論、あの時のデーモンは仲間達に攻撃されて弱っていたが、デーモンの丸太の様な首を軽々と切り落とす精霊魔法・デスサイズの威力は尋常ではない。ギレーヌに続いてクリステルさんと冒険者達が一斉に正門を抜けると、俺は仲間達と合流して正門の前に立った。


 恐らく、砦に身を潜める魔族達は俺達の侵入に気が付いているだろう。精霊のどぎつい魔力を感じて震えているに違いない。俺とクリステルさんにギレーヌの討伐を命じ、恐らくギレーヌの討伐に成功したと思っているのだろう。


 自分がエミリアとシャルロッテさんを開放する条件として提示したギレーヌを仲間に引き入れ、指定した六月一日よりも一週間早い五月二十五日の早朝に襲撃されるとは考えてもいない筈だ。


 巨大な金属製の正門をゆっくりと開けると、そこには額から精霊石が飛び出した魔族の姿があった……。

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