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氷姫 - 契約の魔術師と迷いの森の精霊 -  作者: 花京院 光
第一章「迷宮都市フェーベル編」
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第三十三話「宝物庫を目指して」

 ギレーヌを仲間に加えた俺達は、驚異的な速度で最下層に向かって進行を続けた。ギレーヌが無数のスケルトンを従えて先導させ、罠や魔物の襲撃を未然に回避してくれたのだ。スケルトン達はギレーヌのためなら喜んで命を落とした。


 ダンジョン内に仕掛けられているトラップを探し当て、解除する者も居れば、俺達を守るために自らトラップに掛かり、二度目の死を迎えた者も居る。どのスケルトンも完璧に命を落とせた事を喜んだ。


 スケルトンは魔物や人間、魔族の体が再び蘇ったもの。闇属性の魔力が蔓延する地に埋葬された屍が白骨化して蘇った魔物がスケルトンだ。自分の意思とは関係なく、魂は成仏せず、白骨の体に縛られたまま大地を彷徨うスケルトンは、二度目の死を迎えなければ魂が消える事は無い。


 ギレーヌは死を司る精霊。死して尚、この世にしがみつく魂を大地から切り離す力を持つ。スケルトンやゴースト、リビングデッド等の魔物を支配し、人間を守るためにもう一度活躍させた後に、成仏させる。彼女の大鎌は切り取った魂を天界に送る力を持つ。


 地上で命を落とした魔物、魔族、人間が死後も魂が縛られている事に気がついた創造神イリスは、地上に彷徨う亡者の魂を刈り、天界に送る役目を持った死霊の精霊・ギレーヌを創り上げた。


 ギレーヌから加護を授かった俺もまた、アンデッド系の魔物を意のままに操る力を得た。強制支配という加護の力は、自分よりも魔力が低いアンデッド系の魔物を操る事が出来る。ダンジョン内で彷徨う冒険者の魂から出来たゴースト達が俺達にトラップの位置や、魔物の潜伏場所等を教えてくれる。


 ギレーヌの加護のお陰で、古い時代に命を落とし、地上に魂が残った冒険者達と会話を交わす事も出来るのだ。ギレーヌは人間である俺達に情報を提供し、自分の死を認め、天界に上がる意思が固まった者を大鎌で刈り、ゴーストとしての体を消滅させる。


 そうしてゴースト達やスケルトン達は地上での生活を終えるのだ。どの魂もギレーヌに感謝して天界に上る。アンデッド達の二度目の死の瞬間は何度見ても感動する。俺はギレーヌから大鎌を作り出す精霊魔法・デスサイズ教わり、アンデッドの魂を刈る武器を作り出す事に成功した。


 火の微精霊の加護を受けた俺は火属性の魔法も学び始めた。ティナからファイアボルトの魔法を教わり、暇さえあれば炎の矢を飛ばす練習をした。訓練とダンジョン探索の生活が二日続き、俺達は遂に最下層の宝物庫に辿り着いた。



 美しい装飾が施された真鍮の扉を開けると、そこには天井まで積まれた金貨や銀貨があり、ミスリルやオリハルコンのインゴットなどが積まれていた。死のダンジョンは八十年以上攻略者が現れなかったフェーベルで最高難易度のダンジョンである。流石に難易度の高いダンジョンの宝物庫は想像以上の宝が眠っていた。


「レオン、このお金で私のために家を建てて頂戴な」

「これなら王都フェーベルに家を建ててもお釣りが来るよ……。これほどまでの宝が眠っていたとは……」

「凄い量のお金ですね。全て冒険者達が落としたもの、デーモンや魔物達が集めたお金なんですね。八十年も開かなかった宝物庫の扉を、私達が遂に開けたんです!」


 クリステルさんは興奮してお金を掻き集め始めた。どうやっても持ちきれない程のお金は、スケルトン達を呼び出して地上まで運んで貰う事にした。十体のスケルトンが宝物庫に入り、次々と宝を回収した。


 魔物の魔石も多くあり、木製の巨大な宝箱の中には、数え切れない程の魔石が入っている。これを全て売り捌けば暫く生活費には困らないだろう。宝物庫内のお金だけでも六千万ゴールド以上はあるだろう。それだけ多くの冒険者がダンジョンに挑み、命を落としたのだ。


 デーモン討伐後も、十二階層までには無数のトラップがあった。部屋に入ると無数の矢が放たれ、侵入者を殺めるトラップや、落とし穴。侵入者の魔力を感じて落下する大岩や、魔物を呼び寄せる笛が自動的に鳴るトラップ。


 俺達が最も手こずったのが、十階層から十一階層に続く階段前にあったトラップ。無数の魔法陣が描かれており、全ての魔法陣が異なる攻撃魔法を発生させて侵入者を襲う仕組みになっていた。


 魔法陣に触れた瞬間に爆発するものや、天井から雷撃が落ちるもの。睡眠効果のあるガスが噴き出す魔法陣や、精神を惑わせる魔法が発動する魔法陣等。それらの殺人的な魔法陣は侵入者が動くと同時に足元に自動的に移動し、強制的に魔法が発動した。魔力の動きと同時にトラップ自体が足元に現れるのだ。


 スケルトン達が自ら魔法陣を発動させ、俺達を守り抜いてくれたお陰で、何とか十二階層まで到達する事が出来た。僅かな間だったが、俺達を助けてくれたスケルトンやゴースト達に感謝しながらも、宝物庫の宝を全て持ち、地上を目指して歩き始めた。


 クリステルさんは宝石がぎっしりと詰まった宝箱を抱えている。何とも嬉しそうな表情を浮かべ、上機嫌で歩く彼女は薄暗いダンジョンに咲く鮮やかな花の様で美しい。ティナは特にめぼしいものが無かったのか、地上に戻ったらオリハルコンのインゴットから武具を作って欲しいと言った。


 ギレーヌは金銭欲がないのか、お金は全て俺が管理し、欲しい物があればその都度注文すると言った。ダンジョン内で育ち、地上の事は一切知らずに育った彼女は、どんな物が街に売られているのか見て回るのが楽しみだと言った。


「私、冒険者達が落とした本やレーナの話を聞いて地上の生活を知ったの。だけど本には全ての物の事が書かれている訳ではないのでしょう。私が知らない服や、宝飾品だって沢山ある筈。レーナはいつも私にフェーベルの事を話してくれたの。地上での生活が楽しみで仕方がないわ」

「そうだね、俺もギレーヌとの生活が楽しみだよ」

「レオン、精霊狩りから私を守ると言った言葉、絶対に忘れないで頂戴。あなたの愛が私に注がれていないと判断した時、私はあなたの首に再び大鎌を当てるでしょう」

「まだ出会ったばかりだけど、俺はギレーヌの事が好きだよ。俺のために涙を流してくれた。俺はギレーヌが居なかったらデーモンに殺されていたんだ。これからは俺がギレーヌを守るよ。もうエミリアの時の様な失敗はしない」

「失敗? あなたはまだ何も失敗なんてしてない。エミリアは人質として価値があるから、魔族に生かされている。誘拐されたエミリアを取り戻し、旅を再開させればいいのよ」

「そうだね、一日も早くエミリアに会いたいよ」

「あなたがそこまで溺愛する氷姫に早く会いたいわ。いったいどれだけ素敵な精霊なのでしょうか」


 ギレーヌは徐々に俺達に心を開いてくれ、四日間のダンジョンの生活で随分親しくなった。彼女は寂しがり屋なのか、眠る時は必ず俺に腕枕をせがむ。俺は小さなギレーヌを抱き締めながらも、常にエミリアの事を考えていた。


 地上に戻ったら魔族の砦を落とすための準備を始める。まずは大量の戦利品を精算し、デーモンの討伐を冒険者ギルド・レグルスに報告しよう。俺達はレグルスに登録している冒険者ではないが、エミリアの奪還に協力してくれるギルドに貢献するために、レグルスからデーモンの討伐者が現れた事にすると決めた。


 仲間達との仲を深めながら移動を続け、俺達は遂に地上に続く階段を駆け上がった……。

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