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氷姫 - 契約の魔術師と迷いの森の精霊 -  作者: 花京院 光
第一章「迷宮都市フェーベル編」
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第二十三話「精霊への贈り物」

 今日から遂に死のダンジョンに挑戦する。朝の五時に起きて二時間程魔法を練習する。ダンジョンに挑む前に精神を統一し、体内の魔力を全て使い果たす。それからマナポーションを飲んで魔力を回復させる。魔法を長時間使い続けると徐々に精神が研ぎ澄まされ、エミリアに対する想いが込み上がってくる。


 この力はエミリアが授けてくれたもの。俺がエミリアを守らなければならないのだ。エミリアを失ってからまだ二週間も経過していないが、随分長い間離れている様な気がする。ティナが居なければ俺はこの悲しみに耐えられなかっただろう。


 ミスリルの防具を纏い、ラウンドシールドを背負い、ブロードソードとダガーを腰に差す。それからティナを起こし、一階の酒場で朝食を食べると、クリステルさんが俺達を迎えに来てくれた。今日も汚れ一つ無い白銀のメイルを纏い、長く伸ばした金色の髪を丁寧に結んでいる。ポニーテールがここまで似合う女性は初めてだ。


 装備はレイピアが一本。小さな革製の鞄を背負っており、俺達の姿を見るや否や、爽やかな笑みを浮かべて会釈をした。


「レオン様。おはようございます!」

「おはようございます、クリステルさん。昨日から気になっていたのですが、俺の事はレオンで良いですよ」

「そんな。殿方を呼び捨てにするなんて出来ません」


 クリステルさんが頬を赤らめて俺を見つめると、俺は改めてクリステルさんの美しさに気がついた。もしエミリアと出会っていなかったら、俺は彼女に恋心を抱いていたかもしれない。故郷ではクリステルさん程美しい女性は居なかったからだ。


 昨日も時間を掛けて語り合ったが、話せば話す程お互いの精霊に対する考えが深まり、すぐに意気投合したのだ。俺が足を引っ張らない様に、今日は積極的に敵の注意を引いて戦わなければならない。


「それでは出発しましょうか」

「まずはプレゼントを買いに行くんですね」

「はい。どんな物を渡せば喜んで貰えるか分かりませんが、まずは市場を見てみましょう」

「はい。レオン様はよく女性にプレゼントをするんですか?」

「いいえ、一度エミリアに杖をあげただけです……」

「それでは恋人は居ないんですか?」

「まだ恋人は人生で一度も出来た事が無いんです」

「私も、まだ恋をした事がありません。親が厳しいので、なかなか自由に恋が出来ないんです。結婚相手も恐らく親が決める事になるでしょう」


 やはりクリステルさんは貴族なのだろう。何か身分を隠している様な気もするが、深くは追求しないでおこう。ティナはすっかりクリステルさんと仲良くなったのか、彼女の肩に飛び乗ると、クリステルさんは優しい笑みを浮かべながらティナの頭を撫でた。


 宿を出てウィンドホースのハンナに死霊の精霊に会いに行くと伝えると、心配そうに俺を見つめてから、舌の先で俺の頬を舐めた。ハンナの頭を何度か撫でると、彼女は満足したのか、俺達を見送ってくれた。


 市場に着くと、早速死霊の精霊に贈る物を探す事にした。まずは食料が良いだろうと考え、ダンジョン内では食べられない物を片っ端から購入した。勿論、購入費用は全て俺が出している。


 日持ちする堅焼きビスケットやドライフルーツ。魔石ガラスから出来た美しい瓶に入ったナッツの詰め合わせや、魔物の肉から作られた乾燥肉。ソーセージの詰め合わせに、新鮮な野菜が挟まったサンドイッチ。食べ物の好みも分からないので、とりあえず様々な種類の物を買った。


「食べ物はこれくらいで良いでしょうね。装飾品なんかを買いましょうか」

「そうですね。クリステルさんが選んで貰えますか?」

「いいえ、レオン様が自分で選んで下さい。きっと気に入って貰える筈ですよ」

「そうですか……。それでは首飾りを見てみます」


 死霊の精霊は黒髪に赤い瞳、身長は百四十センチで、年齢は十三歳程。薔薇色のドレスを好んで着ているらしい。ドレスは以前人間が死霊の精霊に贈った物らしい。若い男の冒険者が彼女から加護を得ようと様々な送り物をしたが、ドレス以外は受け取らなかったらしい。


 以前エミリアも言っていたが、人間から食べ物を受け取る事は極めて少ないのだとか。毒を盛られて命を落とした精霊が多いとも言っていた。精霊狩りは様々な方法で精霊を殺そうとする。精霊からすれば全ての人間が精霊狩りに見えるのかもしれない。


 俺はルビーが嵌った白金の首飾りを購入した。それから最後に花束を買うと、俺達は死のダンジョンの入口に向かって歩き始めた。ダンジョンの入口はギルドが立ち並ぶエリアの近くにあり、朝からダンジョンでの狩りに向かう冒険者達の姿も多い。


 迷宮都市はシュヴァルツ王国で最も冒険者が多く暮らす都市だからか、武装した冒険者達がそれぞれのレベルに合ったダンジョンに向かって移動している。死のダンジョンは五階層までならレベル十五もあれば満足に狩りが出来るらしい。


 四階層までは火属性の魔物や微精霊の巣になっており、五階層の地下墓地、すなわち死霊の精霊・ギレーヌの領域からは闇属性の魔物が多く生息している。今まではスケルトンとアラクネ以外の闇属性の魔物と戦った事が無かった。


「レオン様はアラクネと戦って生還したんですか……!? それもまだ十五歳なのに! 本当に優れた冒険者様なんですね。幻獣クラスの魔物に狙われて生き延びるとは……」

「ティナとハンナの力を借りてなんとか逃げ切れたんです。結局とどめは刺せませんでしたし」

「十四歳でグレートゴブリンを討伐した天才的な冒険者が居ると、王都ローゼンハインでも話題になっていたんですよ。私も一度レオン様にお会いしたいと思っていました……」

「そうだったんですか? ところで、クリステルさんって今おいくつですか?」

「私は十七歳です。レオン様より二歳年上ですね。私、レオン様みたいな友達が欲しかったんです。レオン様は私を本気で叱ってくれました。家柄とか関係なく、親しくなれる友達が欲しいんです」

「昨日一緒にエールを飲んだ時から友達だと思っていますよ」

「レオン様……。嬉しいです。早速死のダンジョンに入りましょうか。早くレオン様と一緒に戦いたいです!」


 クリステルさんが俺の手を握ると、俺は不意にエミリアの事を思い出した。他の女性と一緒に居ても、結局頭の中はエミリアの事で一杯なのだ。俺の氷姫を一日も早く救わなければならないんだ。なんとしても死霊の精霊を仲間に入れ、精霊狩りと魔族の砦を落としてみせる。


 それから俺達は遂に死のダンジョンに続く階段を降り始めた……。

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