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プロローグ

ドレイファスの宝石の続編、始めました。

同人誌未掲載のお話です。

 カイザースベルンの二人の騎士が、キールの王都マロニアのメインゲートをくぐる頃には、辺りにはちょうど夜の帳が下りてきていた。街灯に、暖かなオレンジ色の明かりが灯されていく。

 前を行くのは、カイザースベルン第二王子のアレキサンドロス・ラビ・カイザースベルン。もっとも、今は、臣下に下り、アレックス・ライデルを名乗っているのだが。焦げ茶色の髪に端正な顔立ち。切れ長の瞳が印象的な好青年だ。

「やっぱりキールには美人が多いッスね」

 歩道を行き交う女性達を目で追いながら、フレデリックが実にうれしそうな声で言った。こちらは、アレキサンドロスの右腕として常に行動をともにする忠臣フレデリック・ワイリー。アレックスの従兄弟であり幼なじみであり親友。臣下の枠を超え、気心が知れた関係だ。

「なんだ? この世に、エミリアに勝る女はいない、んじゃなかったのか?」

「あ、おい待ってくれよ。それは言わない約束だぜ」

「そんな約束した覚えはないよ」

 少し前を行く馬上から、アレキサンドロスが、ちらっとフレデリックを振り返る。

「う……じゃぁ、今から約束してくれ。もうエミリアのことは…忘れてくれ」

 フレデリックは、慌てた様子で懇願した。

「なんだ? もう振られたのか? まだ三ヶ月も経ってはいないだろう? 確かシルベスターのコンサートには、一緒に来ていたじゃないか」

「いや……あの日は……いろいろあったんだ」

「なんだよ。フレッド、あの後振られたのか?」

 アレックスは、揶揄するようにクスッと小さく笑った。

「コンサート会場で、ジュリエッタにバッタリ遭遇して…」

 消えそうな声でフレデリックが告白した。

「ジュリエッタって、あのジュリエッタか? ホガート卿の娘の?」

 フレデリックは、エミリアとつきあい始めたばかりだったが、ホガート卿の娘ジュリエッタとも、そこそこ良い仲を噂されていた。元々、女性に惚れられると断り切れないというフレデリックの人の良い…というか女好きな性格が災いしたことではあるのだが…。

「あぁ…それで、コンサート会場で大喧嘩さ」

 フレデリックが「あぁ、もう思い出したくもない」とグシャグシャっと頭をかきながら、吐き捨てた。

「傑作だな」

 アレックスは、というと、そんなフレデリックに構わず声を立てて笑った。

「自業自得だ、フレッド。今度こそ、態度を改める気になっただろう? お前の女好きは度を超えているからな」

「俺は、お前みたいに、好意を寄せてくれる女性を冷たく突き放したり出来ないんだ」

 開き直った調子で、フレデリックはそっぽを向く。

「冷たい訳じゃないさ。その気もないのにその好意を弄ぶ方がよっぽどひどい」

「弄んでたわけじゃない」

「まぁ、いい勉強をしたわけだし、これからはもっと慎重にやることだな。不用意に女心を弄ぶようなことは慎むべきだ」

 アレックスは諭すように、部下でもある従兄弟にもう一度視線を送ってから、道行く人達を見下ろした。

 馬や馬車が通る車道から一段上がったところにある歩道はきれいに整備され、所々、店の前に、その店オリジナルの模様や店名の入ったモザイク模様のタイルが組み込まれている。

「お、あの子、きれいだなぁ……」

 薬屋の店先をくぐって出てきた女性を振り返って見送りながら、フレデリックが感嘆の声を漏らした。まるで今にも口笛でも吹きそうな目をしている。

「なんだよフレッド。さっそくそれか? それに、今度はキールの女性に手を出す気か?」

 少しも反省していない親友の態度に、呆れかえったように肩越しに声をかける。男としてきれいな女性に目を奪われる気持ちは分からないではないが、それにも限度という物がある。フレデリックのストライクゾーンの広さには苦笑いを浮かべざるを得ない。

「俺は、立ち直りが早いのが取り柄なんだよ」

 開き直った態度で返事を返して、

「それに、お前がキールに来るんなら、キールの女性と一緒になっても構わないだろう?」

 などと平然と言う。

「フレッド?」

 アレックスが慌てて振り返ると、フレデリックは大きく振り返って角を曲がっていく先ほどの女性をまだ目で追っていた。

「お前、キールに住む気か?」

「あんたが、キールに婿入りしたら、俺もキールに引っ越すさ。あぁ、気にしないでくれよ。確かに俺の家は代々カイザースベルン王に仕えてきた家だが……家は兄貴が継ぐから心配ない。俺個人は、アレキサンドロス殿下その人にお仕えする近衛兵。どこまでもご主人様についていきますぜ」

 誇らしげに「任せておけ」とフレデリックは胸を叩いた。

「頼んでないよ」

 苦笑を浮かべてアレックスはすぐに彼に背中を向けた。

「おい、それはないよ〜。頼んでくれなくてもいいから、俺も連れて行ってくれって」

「いらない」

「頼むよ〜、アレックス!」

「嫌だ」

「お前、それ本気で言ってるのか? おい、アレックス」

 振り返らずに馬を歩かせているアレックスの背中にフレデリックは必死に呼びかけた。

「お願いだってば」

「いやだ」

「お願いします」

「断る」

 二人のやり取りはまるで長年連れ添った夫婦のようで、いつの間にかお互い笑い始めて、その掛け合いは、宿屋の前に着くまで際限なく続いたのだった。

リサフォンティーヌとアレキサンドロス。2人が出会うと、いつも事件に巻き込まれます。

たまたまです。えぇ、きっと、たまたまです。

前回、天使の涙編でいい雰囲気になっていた2人なので、今回はもう少し、関係が進むといいなぁと思いつつ。

様々な陰謀渦巻く世界を、少しずつ解き明かしていきます。

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