エピローグ
最終話です。というかエピローグです。
ふと何故か、翼を動かし、いつかの場所へと戻った。降り立ったその場所には、鎧だけがあり、他はそのままで変わらなかった。私はその鎧を拾い、歩き始めた。
小屋があった。あの時見た小屋だ。相変わらず服が干してあり、犬が寝ている。私は、小屋のドアの前にた立った。すると、中から足音が聞こえ、フードを深くかぶった人型が出てきた。フードの隙間から見える目はしっかりと私を見つめていた。
「よく来たね。今日は君の一つの記念日だ。歓迎するよ。」
人型はそう言った。私は何も思わずに、人型が案内する方へ歩いた。人型は私を一つの部屋に案内した。外からでは考えられないほど広い空間だった。たくさんの松明のようなもので照らされている。だが、壁がどんなものかは分からない。ぼんやりとした明るさの中では分からない。
それと他に、たくさんの鎧があった。どれもちゃんと飾られており、大事そうに扱われていた。ただ一つ、なにもかかっていない鎧立てがあった。
「さあ、その鎧を渡してくれ。ここに新しくアリスの鎧を飾らなければならないんだ。」
私は抵抗もせず、人型に鎧を渡す。人型はそれを、丁寧に丁寧に飾った。そして、この部屋に何も飾っていない鎧立ては無くなった。
「ふぅ。やっぱり、毎回違う記憶が楽しめるからやめられないね。中でも君は珍しい女性の記憶。幼いころから騎士の家系で育ち、騎士として育てられてきた。わがままも許されず、自分を表に出すことはなかった。戦争を経験していく中で、君はそれに耐えられず、自分から命を……か。よくありそうな話だけど、面白かったよ。さて、次はどんな記憶が楽しめるかな?」
私と人型は対して話もせずに、小屋の出口へ向かった。私がドアを出ようとすると、人型が止める。
「最後に、僕の名前を言おう。僕はヘム。この地球を守るために、この場所を管理する役目を持っているんだ。まぁ、覚えておくといいよ。」
私は言う。
「アリから聞いたから知ってる。……次の奴は、私に任せて。」
※※※
翌日私は上空から、川を見ていた。特に変化はなかったが、突然人間が出てきた。その人間は、川の水を飲み、そして顔を洗っていた。私はその人間の後ろに、翼をはためかせ急降下した。
突如吹き荒れた突風に、人間は驚く。私は、人間が逃げないように、尻尾を使って束縛する。
「なんだ!? 竜!? くそっ、放せ。放せよ。」
生意気そうな男子だった。だが私は、彼がすでに人間でないことが分かる。そして、このあとすることも。私はアリみたいには甘くない。すぐに、彼の右腕を右手のかぎづめで切り裂いた。
少年は絶叫したが、私が言い聞かせると落ち着いた。いや、気づいたんだろう。自分が何者なのかを。少年は急に悟ったような顔になると私にこういった。
「……あなたの名前は? それだけ、聞いておきたいんです。」
私は少し、嬉しいような気持ちが芽生えたような気がした。だが、それはすぐに消え去った。私はヘムに聞いたあの名前を思い出そうとした。だが、不思議と思い出せなかった。
「すまない。アリ、までは思い出せるのだがな。アリ、とでも呼んでくれ。」
「奇遇ですね。僕も、アリまでしか思い出せないんです。」
私は、少年の顔に一瞬微笑みが見えたような気がした。そして、私の心にも嬉しさが芽生えたような気がした。どちらとも、すぐに消え去ったが。
少年は、どこかへ去っていった。海の向こうへと、去っていったような気がした。だが、私は何も思うことはないし、何かするようなことでもない。私は翼を動かして、上空へ上がった。
三日月の島は小さくなっていた。その変わり、あの丸い島のような汚く見える場所が、三日月の島にも少しあった。私はその場所へ向けて、翼を動かす。
人々が、「竜だ!」と叫ぶ声がどこかで聞こえた。
ここまで読んでくれた人へ向けて、ありがとうございました。
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