プロローグ
今回の話に限り、一度だけループのようなものがあります。
ホラー描写をうまく書けているかは分かりませんが、お楽しみください。
波の音。それが聞こえて、私は目を覚ました。私は倒れていた。口元に少し砂がついていて、動かすと口の中にも砂が入っているのに気づいた。そこまでして、身体がとても重くあまり動かせないのにも気づく。
どうやら私は、長い間ここにいたらしい。どうしてここに居るのかは覚えていなかった。それどころか、昔どう過ごしていたのか、何をしていたのかを思い出せない。私は多分、記憶喪失になっているのだと思う。
何とか体を持ち上げ、立つことに成功する。そこで私は、全身に重い鎧のようなものを着ているのに気づく。体が重いのはこれのせいでもあったことに私は悪態をつき、すぐにそれらを脱いだ。それをするのも一苦労だったが、ごく自然に鎧を脱げることに疑問を感じた。腰に剣もついていたから、私は騎士なんかでもしていたのかもしれない。体が一連の動作を覚えてしまっているのだ。
鎧を脱ぎ終わったあと、一度私は剣を握った。ろくに動かしてなかったであろう筋肉が痛んだが、何とか構えることができた。自然と私は剣の動かし方が分かった。だが、身体が悲鳴をあげるので私は諦めて、剣だけを手元に持ち鎧は置いたままにした。
綺麗な場所だった。そしてとても心地よい場所でもあった。程よく照らす日光。優しく肌を撫でる風。たくさんの緑。音を奏でる海。私はこんな場所を初めて訪れた。実際記憶が無いから、初めてなのは当たり前だが。だが、私は記憶があっても、これ以上の場所は知らないだろうと思った。それほど、綺麗だった。
あてもなく歩いていると、視界に変化があった。自然ばかりだった場所に、人口のものが見られたからだ。 それは小屋だった。木造の小屋で、そんなに大きくはなかった。ベランダがあり、入口には階段がついていて、全体的に地面とは離れていた。ベランダには、木が二本立ててあり、そこにつっかえ棒と共に服が干されていた。さらに、その下に犬がいる。犬は、寝ていた。真っ黒だった。
私は、そこに確実に人がいることを確信し、急いで入口に向かった。ドアにはドアノブ以外何もついていないので、ノックをする。
「……ぃ、あ、せん。ぇか、ぃぁ、せん、か。」
ここにきて初めて声を出したが、それは声と呼べるものではなかった。かすれていて、乾いた音だった。私は喉に痛みを感じ、これ以上声を出すことは不可能だと知る。水分を含まなければ、発声は無理だろう。
そんな時、幸いにも小屋の中から足音が聞こえた。私はホッとし、ドアが開くのを待つ。
ほどなくして、ドアは開いた。キィ、と音がして扉は開く。開いた向こうに立っていたのは、深くフードを被った、顔の見えない人間だった。
ただ一つ、大きな充血した目玉だけが私には見えた。
「やぁ、人間。ここに辿り着いたんダネ。おめでとう。歓迎するよ。」
無機質。無感情。突然。刹那。不可解。粘質感。ノイズ。暗闇。数えきれない表現が似合う、負の声。
私は一瞬で思考した。なんとなく、歩きながらぼんやり考えていたことを、今はっきりと思考した。
ここはどこだ。日光があり、海があり、自然があり、風もある。そうだ。ここは地球だ。
だが、本当にそうなのか? 今歩いてきた道までに生き物はいたか? 私の歩いた足跡はついていたか?
あの真っ黒い犬は犬なのか? 目の前にいるこの人型は何だ? そして、私は誰だ?
ここに時間の概念はあるのか? 私が目覚めてから時間はたったか? 太陽は動いたか? 海は波を立てていたが本当にあれは波なのか? 風は吹いていたが、あれは風なのか? 自然はあったが、あれは木や草なのか?
ここはどこなんだ?
そんなことを、何故か今、一瞬ではっきりと思考した。
その時、私の中に、心に、強大な恐怖が襲ってきた。
視界が揺らぐ。寒気がする。私は、確信する。死ぬ。理由は分からない。どうやって死ぬのかは知らない。どうしてそう感じるのかも知らない。ただ、わかる。
目の前にいるのは、死神だ。そして、私はそれに殺される。
「さぁ、君も今日からここの住人サ。」
ぐにゃぐにゃ。分からない。思考は停止はしていないが、ぐにゃぐにゃした。私は今、莫大な情報を頭で処理し、それを行うためのエネルギーを酷使して、今、精一杯その情報をまとめようとしている。
ぐにゃぐにゃは止まらない。私はついに、ぐにゃぐにゃと一体化した。四肢の感覚はもうない。ただ私は、流れ込む情報の波と共にぐにゃぐにゃした。ぐにゃぐにゃ。もう私は、何も考えることはできないでいた。あれ、できないのだろうか。ぐにゃぐにゃを考えているのか。どうなんだろうか。
もうどうでもいいや。全部、ぐにゃぐにゃだ。
ソレデイイ。
私は気が付くと、また同じ海辺にいた。
ふぅ。どうだったでしょうか。こんな感じに進めます。
次回からはあんまり怖くないかもしれません。