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謎の少女

  信志が目を覚ましたのは四五階の個室だった。


  「お、目を覚ましたか。大丈夫か?」


  初めに話しかけてきたのは自然とリーダーな立場にいる純だった。


  「信志君は無茶し過ぎよ」


  次いでこのメンバーの中でのお姉さん的存在の蓮華に言われると何故か納得してしまう……。


  「そうだ、今回の戦いで改めて思ったんだけど、戦ってる最中に怪我がどんどん増えていくからさ、瓶の中身を先に出しとくと戦ってる途中でも傷が治せるんじゃないか?」


  信志は今までの戦いの中で致命的な怪我を多くした。その度に純に助けられるが仲間にばっかり頼っていても仕方がない。ここでは自分でも勝てるようにならないといけない。仮に自分以外の仲間が瀕死の状態に陥った場合に、自分一人でも敵を倒せれるように。

 そのための効率的な案を提示した、が。


  「結論から言うと無理だ」


  純が即答する。


  「俺もやったことはあるんだがあの液体は瓶から出すと数分で消えちまうんだよ。そん時瓶を無駄にして死にかけたからなー、うん。失敗は繰り返さないようにしないとな」


  先に準備しておけば戦いに備えられて楽だと思っていた考えは安直過ぎたようだ。


  「そういえば、この階にはどんな武器があったんだ?」


  頭の中で考えを改め直し、一人で納得した信志は思考を切り替える。そのために話題を変えたが、新しい武器に対して少し興味があった。


  「今回のはトンファーってのだけど分かるか?」


  「わかるよ、棒の端のほうに短い柄がついてるやつだろ?殴り合いで使う感じのやつだよな」


  「そうそう。それなんだけど少し変わってて、普通のトンファーは硬い樫の木とかでできてるじゃん?けどこれは俺らの武器と同じ感じで色々とオプションがあるんだよ。柄の部分にボタンが付いてて例えばーーー」


  純がトンファーを握ってボタンを押すとフォースに包まれるのがわかる。そして力を込めて壁に殴りかかるとトンファーの端から勢いよく圧縮された空気が噴出されて腕に勢いが乗る。

 そして、ドカァーンと大きな音を立てて拳が壁にぶつかると、軽く粉塵を巻き上げながら壁に穴が空いた。


  「ハァハァ、こんな感じですげぇ力でるけど、しんどいんだよねぇ」


  ぜぇぜぇハァハァとマラソンでもしたかのように息を切らしている純を見て、使うには相当量のフォースがないと無理らしい。

 フォースを測ることができない以上どうしょうもないことなのだが……。





  その会話を最後に何時間が経っただろうか。いつもより長かったように感じた。純がリュックからパンや弁当を配っては食べ配っては食べ、そして寝る。この動作をいくら続けただろうか。

 暗闇の中することが無くみんな静かにその時が来るのを待っていた。集中していた訳では無いが、なんの音もなかったこの静寂を破ったのは俊哉だった。


  「ここに入ってから食っちゃ寝食っちゃ寝だから時間とか感覚が狂いますね」


  確かに安全地帯に居た頃は昼と夜がはっきりしていたから体内時計もましな方だったが、暗闇の中ずっといたら感覚が狂ってしまう。

 それだけではない。動かない時間が多いといざ動くとなると体が言うことを聞かないだろう。


  「えっと、今は昼の二時だな」


  純のなんてことない言いっぷりに俊哉や俺までも、驚愕のあまり一時停止した。


  「なんで時間わかるんですか?」


  数秒置いて動き出した俊哉は興味津々のように身を乗り出して聞いた。


  「なんでって時計持ってるし」


  俊哉がした質問なのについ首を突っ込んでしまった。


  「はぁ!?今なんて……?」


  「あれ……言ってなかった?」


  純はとぼけた顔で時計を取り出してみた。単三電池がむき出しに二つ取り付けられている時計は、どこにでもありそうな至って普通な時計だ。

 その中心から少し下には日付と昼夜が表示されている。


  「ここに来る前に買ってきたのか?」


  「まあ、そんなとこかな電池の換えも持ってーーー」


  ピカッ と、またしても激しく光が照りつける。

 今回は暗闇の中長い時間いたから目が痛くてなかなか開けられない。


  「やっと来たか、今回は遅かったな」


  純は寝ていた蓮華と悠亮を起こして荷物をまとめ始めた。リュックを背負い武器を手に持ち先頭に立って歩き始める。

 それに続いて寝起きの悠亮、蓮華、起きていた俊哉そして信志の順番で歩いて行く。


 奥の部屋も見慣れた、開けていて天井は高く部屋全体が真っ白に眩しい程に光っていた。

  辺りをよく見ると遠くに小柄な体格の生き物がいた。信志たちは慎重に歩いていくが、襲いかかってくる気配も無ければ動くことすらしない。


  「あれって本当に生き物なのか?」


  距離にして十メートルといったところだろうか、純が言葉を発すると同時に動き出した。それはただ両手を後ろに組むだけの仕草だったが、急に動いたせいで反射的に体に力が入った。

 近づきすぎないように一度距離をとるように純が指示を出した。


  「よく見るとあの子可愛いね人形みたいで。角に羽、尻尾まで生えててコスプレなのかな?」


 蓮花の声の通り、見た目は修道服をテーマとして悪魔を混ぜたゴスロリのような服装だ。胸元には十字のペンダントを付けている。人にもよるが非常に可愛らしい。

 そして一度距離を置いたが、じりじりと近づく度に見えてくる顔。顔がいいとどんな服を着ても可愛くなってしまう。今目の前に立っている小柄な女の子は敵であるがそれ以上に可愛かった。

  目の前の少女との距離は縮まっていき距離をとったが、二十メートルを切っただろう。


 その時、高い声だがそれでいて頭に響くこともなくなんとも心地の良い声が響いた。


  「ここまでたどり着いたのはあなた達が初めてだわ」


  「初めてってことは、俺たちが来る前にも人が来てたってことなのか……」


  純は顔をしかめながら呟いた。


  「そう、あなた達を含め合計で百六十八人の人が入ってきたわ」


  百六十八人……。今ここにいるのが五人だから百六十三人もの人が命を落としたことになる。


  「なんで、なんでそんなに人を殺さないといけないんだよ!?」


  誰か知らない人のだが、ここに来てわかったように必死で生きようとする人を次々と殺していくような現実に憤りを感じ、信志はつい怒鳴ってしまった。


「人は、人生という時間の決められた短い世界で精一杯に生きようとしてるのに、なんで……なんでそんなにも殺さないといけないんだ!」


  がらにもなく熱くなりどっかの馬鹿哲学者みたいに語ってしまった。


  「あなたの言うとおり命は儚い……だけどここに来た人の三分の一は同士の争い、または自ら命を絶ってるのよ」


  少女の口から信じられない、信じたくない言葉が聞こえてきた。短いあいだだったが純や蓮華たちと必死に、死にものぐるいで生き抜いてきた。

 そんな信志たちを否定するような生き様をしてきた人がいたなんて信じたくない。


  「ダンジョンに入れば戻れない、人の死を見ておかしくなるなんてざらだよ」


  少女が続けて喋る。


  「私は死ぬ事が怖い、絶望することが怖い、ダンジョンで全てが、何もかもが怖くなって自暴自棄になって、そして、死んだ」


  急に頭に痛みが走る……あの時と同じように。昔の記憶を思い出そうとするとおこる痛みと同じだ。まさか……。


  「お、お前は……まさか……」


  「そうだよやっと思い出してくれたんだ。久しぶりだね信ちゃん」


  少女は手を口元に当てて口角を上げた。

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