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一晩の休息

 回収できるだけの瓶を回収し終わった後、信志たちは次の階へと歩き出した。四十階に行く扉を開けると中は明るく光に満ちていた。

 それは上空の巨大な球体が光輝いているから。視線を球体から周囲に移しかえると一部集落のような場所がある。


「純、ここってまさか……」


「よっしゃぁぁ!やっと安全地帯にキター!」


 純はガラスが割れそうなぐらい大声で吠えた。それほどうれしかったのだろう、信志も嬉しくないわけではなかった。素直に嬉しい。


 (俺はまだ二階しか上がらずにここに着いたけど、純たちはもっと下からここを目指してきたんだよな)


 そんなことを考えながら歩いてるうちに集落の前まで歩いていた。


「じゃあ、女子は左の家ね、男子は右にするよ。たぶん前の安全地帯の時と同じなら向かいの家が銭湯になってるから」


 そう言い残して純は一足先に家の中に入って行き、それに続いて悠亮も入ってい行く。


「俺たちもいこっか」


 信志は俊也にそう言うと俊也はにっこりと笑って はい と言いついてきた。こんなあどけない少年の笑顔を見ると少し小っ恥ずかしいかった。

 家の中に入ると純と悠亮は奥のタンスからタオルと服を取り出していた、さっそく銭湯に行くようだ。外に出ようとする純とすれ違う瞬間。


「風呂っていったら男のロマンしかないよな」


 純は小声で、聞こえるギリギリの声量でつぶやいた。振り返ると純は手を振りながら歩いて行く。


「信志さん、僕たちも銭湯行きませんか?」


「お、おう、行こうか」


 信志たちもタンスから自分たちに合うサイズの服とタオルを取り出して銭湯に向かった。

 銭湯に着くと、男と書かれている暖簾(のれん)をくぐり脱衣所に入る。そこで服を脱ぎタオルなど持ち込むものを持つと扉を開けて中に入った。


「お、やっときたか。遅いぞ、のぼせるかと思ったぜ」


 そういうと湯船につかっていた純が上がってきた。


「そういえば、ロマンとかなんとか言ってたけどあれは覗こうとかそういうことなのか?」


「いやいや、サウナだよ。サ・ウ・ナ」


「どっちが長く入ってられるかってことか、いいぜ」


 信志、純、ゆうすけ、俊也の四人は続々とサウナの中に入って行く。温度計を見る限りサウナ中は九十度近くになっており、入って少し経っただけで体に付いていた水分が乾いてしまうほどだ。

 内装はどこにでもある銭湯の普通のサウナだが、なぜか扉がもう一つついている。それから五分ほど経っただろうか、自分たちが入ってきた扉とは別の扉が開いた。


 扉を押し開けたのは華奢な細腕、そこから白いタオルで全身を覆って見えるのは、まさかの二人組の姿。その二人組もこちらの存在に気がついたのか、片一方が きゃー と言う女性特有の高い声を発する。

 そう、その声の主は理沙だった。理沙はタオルで全身を覆っていたが恥ずかしさのあまり胸を抑えて座り込んでしまった。それと変わって蓮花は微動だにしない男っぷりをみせている。


 タオルで隠し腕で抱え込むようにして抑えているが、理沙の豊満な胸は華奢な腕二本では隠しきれないほどたぷんたぷんで、今にもこぼれ落ちそうだ。

 男として、オスとして、人間の本能として、信志はつい見入ってしまったが、すぐに視線をそらす。


「な、なんで男性陣がここにいるんですか!?」


「なんでって……そりゃ、繋がってるからに決まってんじゃん」


 純の分かりきっていたかのような口調に信志はやっと理解した。


  (なるほどな、これだからあの時ロマンとか言ってたのか)


  「はぁ、理沙ちゃん、はしゃぎ過ぎだよ。そのせいで言いそびれちゃったじゃない」


  理沙もさることながら蓮花もなかなかにいい肉付きをしている。二人の魅力的な体型にまたしても見とれてしまいそうになる。

  サウナに入ってから十分が経過した。そろそろきつくなってきた頃、女子の方を見ると汗でタオルが体にくっついて体のラインがよく見える。その時、隣に座っている俊也が一番に音を上げた。


「あーもうだめだ、僕先に上がりますね、ギブです」


 やはり小学生にはキツかったのだろう。事実、信志でも苦しいほどここのサウナは温度が高い。俊也はギブと言いながらも、爽やかな顔で出ていった。

 数分が経ち理沙、その次に蓮花、悠亮の順番にサウナを後にした。そして残りが純と信志だけになったと思えば既に三十分が経っていた。


「な、なかなか残るじゃねぇか」


 純が口を開いた。


「純こそ、俺についてこれるなんてすごいな」


「ふん、まだ、こんなもんじゃないぜ」


「それは俺もだ」


 さらに十分が過ぎ、合計で 四十分が経った頃、さすがに二人の息が荒くなる。


 (あと五分経っても純が出ないなら先に出よう……そろそろ本格的にきつい)


「なぁ、純、お前そろそろ出たいんじゃないのか?頭がぐらぐらしてるぞ」


 純は首がすわってない赤ん坊の様に首があっちこっちにごろごろと動いている。


「信志こそ、床に寝転んでるじゃねぇか、本当は出たいんだろ?」


「まぁ……正直きついわ。俺は、あと五分で出る、もう死にそうだ」


「そうか、なら俺も五分で出る。それまでに出んなよ!」


 そう言うと二人は隣に座り黙り込んで時計をみる。残り一分。最後の一分が長い、時計の針の動きが遅く感じることにイライラを感じるが、ついにその時が訪れる。針が十二の文字と重なったと同時に信志と純は動き出した。

 二人は勢いよく扉を開けて目の前にある水風呂に飛び込んだ。本当は汗を流さないといけないのだが、今の二人にはそんな余裕はない。バサーン と音が響き大量の水が流れ出る。


 高まっていた体温が皮膚に接している水全てに奪われていき、広がっていた血管が狭くなる。そして心拍数の急上昇、体には悪そうだったがなかなかに癖があった。

 水面から顔を上げる。


「気持ちいいぃぃぃい!!」


 純の声が響いた。


「なあ、純、これは……癖になるな」


「だろ?ここの風呂は外と違ってなんか、こー、なんだ。普通じゃないから楽しいし、気持ちいよな!」


 体が芯から冷えてきた頃に水風呂から上がり体を洗って脱衣場に行く。純は扇風機に当たっていたので先に出ることにした。

 外は薄暗くなっていた。それは上空にあった球体が太陽のように沈んだわけではなく、光量が落ちたからだ。銭湯を出て向かいの家に向かう途中に不意に誰かに腕を引かれる。


 そのまま家の横に連れていかれた。よく見ると蓮花の顔が見える。蓮花は人差し指を立て口に当てている。要するに喋るなということだ。


「純に言っておきたかったんだけど、先に出てきたの信志君だったから、まぁいいわ。静かにしてね」


 状況が全く読めなかった。だが蓮花の強い視線を感じて黙り込むことにした。するとかすかに声が聞こえてくる。


「聞こえる?」


「かすかだけど聞こえる、それがどうかした?」


 蓮華は渋い顔をした。そして、自分の場所と信志の場所を入れ替えた。


  「見える?あれ俊也君なんだけど」


  「あぁ、見えるよ一人で話して右手を耳に当てて……ケータイ!?」


  「しーっ!静かにして!」


  蓮華は慌てて信志の口を抑えた。


  「ごめんごめん、それよりなんで俊也がケータイを?それに誰と話してるんだ? 」


  「もう少し静かに聞いてみましょう」


  二人は静かに俊也の行動を観察することにした。蓮華は信志と場所を入れ替わったせいで見えずらいのか信志の上に身を乗り上げて見ている。


  (胸が当たって集中できないな……)


 顔が熱くなるのを感じ、蓮華の胸に意識が行きそうになるのを理性が頑張ってストッパーをかけてなんとかして俊也の会話に集中する。


「あぁ、順調だよ。ポールの話が本当ならあと数階で出れるはず、大丈夫だって、わかってる。最後皆気が緩んだ時に不意打ちで全員殺す、これでいいんだろ?」


 小学生の口から出た言葉とは思えない言葉に信志と蓮華は目を丸くした。十歳にも満たない子供が油断した相手を殺すなんて言うわけがない。俊也は子役であるがために芝居なのかもしれないが、こんな場所ですることでもないだろう。

 そうなればこいつは一体何者なんだ……?真に何者かわからない以上みんな危ないが、それ以上に危ない。


 この話が本当なら子役というだけあって表と裏の使い分けが上手い。このまま進んでいけば絶対にどこかで危険にさらされるに違いない。


「……今のまずくないか?」


「やばいわ、あの子危険すぎる……。皆にも知らせないと」


 その夜、皆が寝静まっただろう時間を見計らって信志は蓮花の待ち合わせ場所に行った。


「信志君は俊也君を起こさないように純と悠亮を起こしてきて、私は理沙ちゃんを起とくから私たちの家に来て」


 わかった と言うと信志は家に戻り純の元まで歩みを進める。途中で俊也が起きないか確認するも、ぐっすり寝ているようで起きる気配はなかった。

 何も知らずに大人しく寝ていれば俊也はただの無垢な子供にしか見えないんだが……。


 だが、それはそれとして、まずは俊也の目的がわかってしまった以上早く純と悠亮を連れて女子がいる家に行かなければならない。信志は純の肩を揺すった。しかし起きない、さらに強く揺するが、まだ起きない。


 (あほ純!早く起きろやい!)


 鼻をつまむと、いびきが止んで静かになる。そして。


「ぷぁは、はぁはぁはぁ、どうなんー?んん!?」


 純の予想以上に大きな声を抑えるためにとっさに両手で口を塞ぎ込んだ。


「静かにしろ、いいな?よく聞けよ、今から悠亮も起こしてきて女子の所行くぞ。別にやらしい考えはないからな?あと、俊也は起こすなよ。子供だからとかじゃないからな?」


 なんとか無事に俊也を起こさずに純と悠亮を起こして女子の家に入った。理沙は寝ぼけ眼でこちらを見ている。


  「あのぉ、なんで男子がこっちの家に来てるんですか?」


  理沙は目を擦りながら言った。


  「そうね、そろそろいいかしら」


 だが、純粋に気になったのだろう理沙の質問をスルーして本題に入る。


  「そうだな、万が一にも俊也が起きる前に早くしとこう」


「じゃあ始めるわ。睡眠中だったのにごめんけど、集まってもらったのはーーー」


 蓮花は集まってもらった理由、俊也が危ないと言うこと、襲われないように気を抜かないことを話した。


「それってさ、俊也を拘束してたら問題なくね?」


 純が言った。その発言にゆうすけも同意した。


「それは、かわいそうじゃありませんか!俊也君はまだ子供でそんな……」


「だからって子供だろうと武器を持ったら人を殺せる。それに金ダンの道具だ、寝込みを襲われたら壊滅的だぜ。そうならないためにもだ」


 純が本心でそう言っているのかはわからなかった。常に優しく、仲間のことをよく心配する人が子供を殺すだろうか?

 だが、逆に言えばそれは仲間のためなら()りかねないということにもなる。


「そうね、純の言う通り。だけど私はそうはしたくないわ。俊也君は最後に不意打ちでって言ってたからそれまでは何もしてこない気が……、それに注意してる五対一だったらあの子には勝ち目なんて無いから」


 蓮花の意見は一理ある。信志もその場にいて聞いていたが、確かに最後に不意打ちと言っていた。不意打ちなら危ないが、注意しているということは、相手はわからないがそれは不意打ちにはならない。なので信志は蓮花に賛成した。


「俺は蓮花に賛成だ。常に注意してれば、不意打ちで襲いかかってきた俊也を逆にハメやすくなる」


「そうよね、ありがとう信志君。他の皆はどう思う?」


「わ、私も蓮花ちゃんに賛成です」


「まぁ、俊也がそう言ってたならそれでいいかな、けど、気は緩まないように」


 純は三人の意見に押されてなのか、最後は蓮花に賛成してくれた。それには悠亮は無言で頷いた。


「じゃ、そういうことで戻りますか」


 その夜はそのまま解散となった。部屋に戻りすぐに就寝すると、時間が経つのが早く感じた。それはもう朝になっていたのだ

 起きると純は支度を始めていた。


「どうしたんだ?こんな早くから」


「あー、うるさくしちまって悪かったな。今から出発の準備をして、飯食ったら次の階に行くんだよ。他のみんなもそろそろ起きる頃じゃないかな?」


「え、今次の階に行くって言った?そんなに早く行くのか?」


「まぁ、食料の関係上すぐ行かないとさ、この先の安全地帯が何階先になるか分かんないからできるだけ多くの食料を持って行きたいんだよ」


 そう言いながら純はいつものリュックに荷物を詰め込みまくって背中に背負う。


「それもそうだな」


 確かに、食料がないと話にならない。金ダンの経験が少ない信志はまだひよっこということだ。

 目覚めの悪い頭をぶんぶんと振り、二度頬を叩くとすぐに外に出た。近くの井戸で顔を洗う。純が他の人もそろそろ出てくると言っていたので、まだ少しは時間があると思っい、辺りを散策することにした。


 (昨日は意識して見てなかったけど結構広いんだな。家もそこそこあるし)


「おーい!信志君!」


 遠くから自分を呼ぶ声がする。辺りを見回すと右方向で理沙が手を振っていた。その後には他の仲間たちもいた。

 全員次の階に行く準備が整っていたらしく、一番びりっけつで支度を終わらせた信志は、大きく手を振っている理沙の方に走り出した。


 純が意識的に騙したのか、それともたまたまそうなったのかはわからないが、自分がのんきに散歩している姿を働かない脳をフル回転させて考えると恥ずかしくなってくる。

 信志は少し純を恨んだ。

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