笑うゴリラと集団戦
蓮花の方は何とかもちこたえてるな。そんなことを思いながらも信志はゴリラ型生物に囲まれていた。後ろは壁、周りにはゴリラ型生物。その中の一匹が歩み寄ってくる。
ゴリラ型生物は小刻みに左右に揺れファイティングポーズをとっている。
(こいつ……俺とタイマンでやりあうつもりなのか?上等だ、まあ相手が一匹なら俺にも勝機はあるしな)
信志は考えていた、相手が八匹同時に襲い掛かって来たらまず勝機はないだろう。自分の武器は伸びるしか取り柄がないからだ。
しかし、相手が一匹なら、一匹ずつなら相手の行動パターンなども考えながら戦えば勝機ある。相手が一匹ずつ来るように祈りながら剣を体の前に構えた。
周りのゴリラ型生物が静かになったその瞬間小刻みに揺れていたゴリラ型生物は正面から突っ込んできた。警戒はしていたが相手の強靭な脚力から繰り出される速度に信志は対応しきれなかった。
気が付いた時には目の前に大きな拳が迫っている。それを右方向に避けようとしたが左顔を殴られそのまま壁に顔がめり込んだ。
すさまじい衝撃のあとに今までに経験したことのないような激痛が信志を襲う。悶絶ものだ、意識が遠くなる……。
だが意識が飛びかけたとき、片足を掴まれそのまま壁から引きずり出された。その時地面に背中がぶつかる衝撃で意識が戻る。
起き上がろうとするが脚に力が入らない。ゴリラ型生物の方を見るが視界が崩れ、目の前に立っているのが三、四匹に見えてくる。
相手はまたしても小刻みに揺れている、それに周りのゴリラ型生物が騒ぎ立てうるさい。しかしそんな事よりも信志と対峙する相手は笑っていた。
ゴリラ型生物は無抵抗な虫を殺す子供のように楽しんでるように感じた。
それには信志もカチンときた。信志は剣を地面に突き立て起き上がる。
「くそゴリラ野郎……楽しみやがって……そのあほ面に一発ぶち込んでやらぁ!」
信志が叫ぶと周りのゴリラ型生物は静かになった。大人しく観戦がしたいのだろうか。
信志は言う事を聞かない脚に鞭打って走り出した。
同時にゴリラ型生物も駆け出す、信志は剣を左から相手の腹部に向かって水平に振り、切りかかった。が、ゴリラ型生物はギリギリのところで上に飛びかわし、信志の顔をめがけて右手で殴りかかる。信志の方もギリギリのところで左に頭をそらしたが耳をかすった。
じんわりと熱くなる痛みに耐えながら剣を右下から左上に切り上げた。すると手ごたえがあったがゴリラ型生物は後方に飛び距離を取った。距離を取ったはずなのに何か肩に違和感を感じ、視線を移すとそこには右腕が乗っていた。
ゴリラ型生物は空中にいるため回避をすることができず右腕を刈り取られたようだ。ゴリラ型生物は自分の右腕を抑えながら大声で叫んだ。
ここを好機と見て信志はゴリラ型生物の腕を振りどくとまっすぐに走っていった。
信志は剣をゴリラ型生物の上から振り下ろした。しかし、ゴリラ型生物は剣をを掴んだ。けして切れ味が悪い剣ではない、だが引き抜こうとしたがものすごい握力でびくともしない。
離さない剣ばかりに集中していたのが隙となりゴリラ型生物は信志の横腹に蹴りを入れた。そして悶絶する信志のを右腕を掴み噛みついた。
肉が裂け骨がきしむ、振り払おうとしてもびくともしない。何発も顔面を殴るがびくともしない。
痛みのせいで力が入らなかった。
(剣を振っても長すぎてうまく当たらない...くそったれぇ)
そんな信志の思いが通じたのか剣が少し震えたような気がした。そして剣の長さがナイフほどの長さになった。
信志は剣が短くなったことに驚きはしたが、それよりも無我夢中でそのナイフをゴリラ型生物の体の中心に刺した。
ゴリラ型生物は腕から口を離し後ずさりする。最後のチャンスだと思い信志はすかさずナイフをねじ込んだ。さらに深く、最後にもう一突きゴリラ型生物を押し倒しながら馬乗りの状態で体重を上乗せし、力いっぱいに押し込んだ。
そして最深部についたのか、何か核のようなものに当たる感触がし、ゴリラ型生物は灰になった。
「いってぇぇぇええええ!!!」
無我夢中だったため痛みをあまり感じなかったが気が抜けると一気に痛みが走る。周りのゴリラ型生物達は呆然と立ち尽くしていたが、信志の叫び声で現状をやっと理解したようだ。
信志は痛みを必死にこらえながら警戒をしたが襲ってくるどころか一匹たりとも近づこうとはしない。それどころか後ずさる者すら目に入った。
それほどさっきの仲間の死の影響が強かったのか、だが信志にとっては好都合だった。このまま痛みが少しでも引くまで時間を稼ぎたいところだ。
はっ とひらめき信志はおもむろに灰の中をあさりだした。すると案の定瓶があった。手あたり次第に瓶のふたを開けていき中に入っている液体を口に含む。甘かったり酸っぱかったりいろんな味が混じりすぎて正直まずい。
その液体を飲み込むと右腕が光りだした。温もりを感じる光は悠亮の時のように傷をどんどん治していく。それに少し力が増したような気がした。
完全に右腕が治ったのか確かめるためにナイフを握ってみる。
(よし、痛みはもうない、握った感覚もなんら問題ない)
信志はナイフを右手に持ち一番近そうなゴリラ型生物の方へ走り出した。
蓮花は次第に顔色が悪くなっていく。一度に使うフォースの消耗が激しすぎた。
「俊也君少し支えてもらえるかな?私の意識が無くなったらこの光の壁は消えちゃうと思うんだ」
俊也は蓮花を自分に寄りかからせるためにに近づいた。
「蓮花さん、この光の壁が消えるまで敵は入ってこれないんですかね?」
俊也が意味深なことを言った。確かに光の玉一つ一つに触れながらドラゴンの時のように再生されればこの壁は役に立たなくなる。
「大丈夫よ……そこまで知性があるとは思えないからね」
今はこの動けない状態からどうするかを考えないといけない。光の玉の隙間から純の方を見るとあと四、五匹というところか。悠亮はあと三匹、信志は右腕を怪我している。それに囲まれているが戦っていない様子だ。
一番早く応援が駆けつけたとしても後四、五分はかかりそうだがそれまでに考えないといけない。
その時、また地面が揺れた。不吉な予感がするが……その予感が的中、蓮花の近くから理沙を掴んだ時のような手が出てきた。
光の玉の間は通れなくてもゴリラ型生物は地中から攻めてこれることをすっかり忘れていた。
あっという間に三匹も侵入に成功した、中はそんなに広くないので万が一光の玉に当たれば致命傷だ。そんなことを思っていた矢先、俊也が立ち上がった。
「ぼ、僕が戦はないと、他の人が死んじゃう……そんなのは嫌だ!」
俊也は鞭をゴリラ型生物に振った。一匹は頭が悪いのかかわそうとして後方に飛んだら光の玉に当たって灰になっる。残りの二匹はお互い左右に飛んだが俊也の鞭が枝分かれし、うまく捕まえて潰した。
蓮花は座りながらその光景を見ていたが俊也は笑みを見せることはなかった。倒したのはいいものの、一匹が自滅したせいで少なからず光の玉が無くなってしまう。さっきよりはっきり外の状況がうかがえるようになった。
信志はゴリラ型生物の懐に入りナイフを力いっぱい突き刺した。ゴリラ型生物は灰になったが一匹倒しただけで安心はしていられない。後ろから他のゴリラ型生物が襲いかかった来た。
それを前方に転がり上か叩きつけられる攻撃をかわしたが、転がった先から他のゴリラ型生物が蹴りを入れてきた。信志は腕を顔の前で重ね蹴りを防いでみせる。蹴りの勢いは凄まじく防御した腕が軽く痺れていた。
だが痺れを気にしてなんていられない。蹴り飛ばされた先が壁とは反対側だったのが幸いだ。そのおかげで動ける範囲もかなり増えた。
信志は少しずつ距離を詰めていく。その時ゴリラ型生物の方から仕掛けてきた。残り六匹、初めに攻撃をしかけてきたゴリラ型生物は顔めがけて殴りかかってきた。この攻撃パターンは今戦いで散々味わってきた。
そのため返し方も一通り学んだ信志はその攻撃を左に体を倒しながら右腕で弾き、そのまま右手のナイフで眉間を刺した。
その直後、背後に回り込んでいたゴリラ型生物が飛び蹴りをして信志はまたしても飛ばされた。数が多い分周囲を警戒しなければなからいが、攻撃を全て防ぎ切るには信志はまだ経験が少なすぎる。今度もまた飛ばされたが今度は壁の方向に飛んでいく。
その先にはまたゴリラ型生物が待っており大きく腕を振って殴りかかってきた。が、その攻撃をかわし信志は腕にしがみつき空中で腕を掴んだまま前転する勢いで回り、ゴリラ型生物を地面に叩きつけた。そして同じく体の中心をナイフで一刺しする。
(よし、あと四匹、なんかわからんが力が有り余るぞ!これならいける!)
しかし、ゴリラ型生物は逃げ出していった。それは信志がこの戦いで急激に成長したこと、そしてなにより幾ら攻撃しても反撃をされることに勝ち目がないと判断したのだろう。
隙間から純の方を見ていると純はあと二匹、悠亮を見ると最後の一匹だった。悠亮は最後の一匹を爆発で消し飛ばすと蓮花たちには目もくれず純の元へ駆け寄った。
悠亮は純が他の誰よりも大事らしい。それは分かっていたことだ。
今度は薄い期待を持ちながら信志の方を向いた。その時蓮花の目に映ったのはゴリラ型生物が四匹と信志が走って蓮花たちの方に向かってきている光景だ。信志は全員倒しきれずにこちらに逃がしてしまったらしい。
蓮花の周りには合計で十一匹のゴリラ型生物がいる。次いで信志も追いついた。
「信志君、この光の玉に当たったら致命傷なんかじゃ済まないから気を付けて」
「わかった。純と悠亮が来るまでの時間稼ぎぐらいはできるよ。今の俺は、なんか、こう……力がどんどん溢れてくるんだ!」
信志は一番近いゴリラ型生物のに近づきまたの下をくぐり、背後から体の中心を刺す。すかさず右隣のゴリラ型生物の右足を切り、背面から崩れ落ちて仰向けに地面に倒れたゴリラ型生物の上に乗り中心を刺した。
そんな信志の鬼神っぷりに臆したのか周りからゴリラ型生物は逃げていった。そして光の玉の壁を挟んで向こう側に位置どった。
その時、純と悠亮が駆けつけた。反応が遅れたゴリラ型生物達は純の槍で串刺しになり、悠亮の剣の爆発でこっぱみじんに吹き飛んでいった。
不意打ちの純たちに驚き一匹ゴリラ型生物は信志の方に逃げてきたが体の中心を刺して倒す。
「やっと全部倒しおわーーー」
全て倒し終わり気が抜けたのか蓮花はその場に崩れ落ちた。フォースの使い過ぎで気を失ったようだ。
「なあ純、フォースは瓶の力じゃ何ともならないのか?」
信志は気になって聞いてみた。
「フォースは無理なんだ、瓶は傷を治すことしかできないからな。フォースの場合は怪我じゃなくて消耗してるわけだから自然回復を待つしかないんだよ」
「なるほど、それなら休ませてあげないとな。じゃあ、瓶回収して行こうぜ」
「そのことなんだけどさ、瓶ってすぐに回収しないと消えちゃうんだよね……」
純は頬をかきながらそっぽを向いていた。
「おおぉぉい!何で今まで言わなかったんだよ!?」
「言ったけど回収してないのかと思ってさ」
純は額に汗を浮かべていた。
「ばかか!」
純の話を聞いていた信志と理沙と俊也の声がシンクロする。
「もう、なんかいいや、回収できる分だけでも回収しよう」
信志は半ば呆れ気味に言った。