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第二のダンジョン

 横浜市内に又しても金ダンが出現してから数日経った今。信志と寿音はその中に入っている。

 以前信志と寿音が出てきた金ダンと同じならここは一階でここから上がっていく筈なのだが、少し状況が異なっていた。


「この部屋って……」


「そうね、戦ってた場所と同じだけど」


 前回の金ダンでは戦う前にはある程度の時間が有り薄暗い個室で時間が来るまで待機するようになっていたのだが、今回は始めから戦闘を繰り広げていた大広間からのスタートだ。だが、その大広間も以前比べると少し狭いように感じた。


「あーあー、マイクテストマイクテスト。聞こえる?」


 信志の耳に入ってきたその声は浩太郎のもの、そして金ダンでは外部との通信が取れるという事は俊哉の行動で学んでいた事だ。

 それを利用して浩太郎や恩太郎と通信をとることに成功した。


「問題なく繋がってるよ」


 この会話は耳につけているインカムを通して聞こえてきている。因みにそれは寿音も着けている。


「寿音ちゃんも聞こえてる?」


「大丈夫だよ」


 返事をする寿音の声には以前とは違いトゲが無くなっている。

 それは寿音が浩太郎に殴られてからの三日間の時間で浩太郎に心を開いたからだ。


「それより浩ちゃんの方は大丈夫?恩ちゃんに犯されてない?」


「馬鹿言わないでよ」


 寿音の表情はとても明るく、お日様のようだった。その顔を見れば以前の浩太郎への態度との違いが一目瞭然だ。

 だが、そんな事はさて置きまず周りを確認した。


 周囲には信志と寿音以外には高校生であろう女性が三人、それに金髪でピアスを付けている無精髭の男に、スーツ姿の女性が一人、至って真面目そうなスーツ姿に鞄を持った二十代前半だろう男が居た。


 全員が全員状況の整理ができないのと、ここにいる人は信志と寿音を除いては誰一人として共通点がないのか、喋っているものは少なかった。

 そんな中見慣れた物が信志の視界の端に現れた。


 それは何か箱のような物だ。これは一見したら何が入っているのか分からない不気味な箱だが、信志からしたら希望の箱ともいえるものだ。

 寿音の手を繋ぎ数人の合間を縫って歩み寄る。そして箱の前に着くと片膝をつき箱の蓋を持ち上げた。


「やっぱりな」


 予想と自信が確信へと変わった。

 その箱の中には純が持っていたのと同じリュックに、薙刀が入っていた。


「薙刀ね、でも一個しか無かったら初めの頃は戦いが大変そう……」


 寿音の言う通りだ。

 仮にここに百人人がいたとして、そんな中でも武器が一つしかないとなれば何人残れるか分かったもんじゃない。


「まあ、でも今は見た限り六人しかいないから守れるだろ」


「信ちゃんと私がいたらなんとかなるよね」


 寿音がニコッとしながら返してきた。寿音の笑顔はまんま小学生、いや、小学生なのだが精神年齢が小学生を超えているとは思えなかった。

 信志は事前に持ってきていた袋に入った剣と、その他多くの小道具が入っている鞄をまとめてリュックの中へぶち込んだ。


「つーか、ここどこやし。あたし早く彼氏んとこ行きたいんすけど。……圏外かよ」


 この状況でケータイを構い苛立ちをみせながら高校生であろう内の一人が言葉を発した。その声はこの空間に空気振動を介して伝わる。

 それをきっかけに次々と苛立ちに不安の声が聞こえてくる。


「ここは一体どこなの?」「めんどくせぇな早く出せよ」「どこなの」……と、各々の心の声が零れ出てくる。


 そんな中パンパンと不安を断ち切るように、声を遮りながら手を叩く音が聞こえる。


「皆さん落ち着いてください」


 音のなる方へと周囲の視線が集中する。信志も視線を移すと、そこにいたのはスーツ姿の男だった。


「僕は警察官です。横浜署に所属しています」


 警察官と名乗る男は勝手に始めた自己紹介を短く終えると、話を続ける。


「たぶん僕達は関係なくここに集められました。それは皆さんも薄々感じてますよね?まずは自己紹介をしませんか?僕は春風秋作(はるかぜしゅうさく)です」


 高校生達がざわつきだした。ざわついたのはその三人の高校生だけだった。

 他の人は全員初見なのか話し相手がいなく黙り込んでいる。


「そ、そうだな。俺は谷村紙哲平(やむらがみてっぺい)だ」


 意外にも喋り出したのは高校生達では無く、黙り込んでいた組の一人、金髪に無精髭の男だ。

 谷村紙は少し緊張でもしているのか額に汗をかいている。それも仕方の無いこと、日本人は元々奥手な性格の人が多く、そんな人が積極的に喋るには緊張もするだろう。


 それをきっかけにまた一人口を開いた。


「私は 渡邉咲希(わたなべさき)よ」


 これで自己紹介をしたのは三人と、全体の約半分ときた。

 この流れで信志も自己紹介をしようかと喋りかけた時、高校生三人のうちの一人が口を開いた。


「なんか、そーゆー流れになったし?あたしは飯塚百合子(いいづかゆりこ)、高三です」


 女子高生三人組の真ん中に腕を組んで立っていた茶髪に色黒の肌が、やんちゃだが運動焼けをした元気はつらつ感を出している。

 それに続いてまた一人喋り出す。


「私は、水間綾之(みまあやの)、百合子と同じ」


 素っ気なく話したのは冷静というか、何にも興味が無いというか。

 派手な水色のショートヘアと言えば浩太郎も派手だから言えないが、彼女は百合子とは対照的に肌は白く猫のようにツンとした態度をとっている。


 それに続き最後の一人もぼそぼそと言い出した。だが、あまりの声の小ささに聞き取れない。

 そんな友達を見かねてか、百合子が口を開く。


「あっきぃさあ、もっとデカイ声でないの?」


 信志は基本的に女子との関わりが少ない生活を送っていたので知らなかったが、最近の女子高生は友達にも厳しいようだ。

 そんなことを言われた当の本人は友達が怖いのか、緊張しているのか分からないが震えた声で強く話だした。


「あ、あの……私、沢村亜希(さわむらあき)って言います……」


 小動物のようでとても可愛らしかった。いや、それもあるだろうが、彼女があの三人の中でも一番美人ではないか?

 黒髪ロングに小柄だが、三人の中で一番強調されるべきポイントが強調されている。


 亜希が喋り終わり、静かになった頃を見計らって信志は口を開いた。


「俺は野守信志(のもりしんじ)


 寿音を指さして。


「こっちは寿音だ」


 信志が喋り終わると又しても秋作が仕切りだす。


「自己紹介も終わったし話し合いたいんだけどーーー」


 やっと一息つけると思ったのもつかの間、聞き覚えがあるようなその声が、人の声では無いその声がこの空間に響き渡った。


「きゃっ!?」


「な、なに!?なんなの……?」


「人……の声じゃ無いよな」


 皆それぞれ表情が曇り始めたその時、上空から何かが降ってきた。自己紹介をするに当たって全体的に円形になっていたその中心には砂埃が舞っている。

 次第に見えてくる影は、背丈は寿音と大差無いだろうが、その双眸は赤くギラギラと輝いている。


 徐々に履けている砂埃の中で、脚は靴を履いておらず、剥き出しになっているが人のものではない。緑色をしている。腕も緑色で、ナイフのような得物を腰にぶら下げているそれはーーー。


「お、おい……こいつって」


 そう、この生き物はゴブリンだ。ゴブリンを見ると嫌な思い出を思い出してしまう。

 俊哉と理沙、そのどうしようもない怒りを堪えながら寿音に話しかけた。


「今戦えるのは俺と寿音だけだから、ゴブリンが他の人の方に行ったら食い止めるぞ」


 寿音は無言で頷いた。


「え?なになに?僕は音しか聞こえないんだからさ、実況実況!」


 浩太郎の呑気な声が耳をつく。


「ゴブリンが出たんだ。でも一匹だから俺と寿音だけで簡単に鎮静できると思う」


「へぇ……んじゃ、頑張ってねー。僕は邪魔しないようにしとくから回線切ってていいよ。あ、寂しくなったら繋げてね」


 浩太郎のにやにやした顔が容易に想像つくが、そんな邪念も邪念は振り払って、寿音のインカムも預かりリュックにしまい込んだ。


「キィヒィヒィェエエエ」


 ゴブリンは言葉と捉えればいいのか声を発すると弱いと判断したのか、三人で肩を寄せながら震えている百合子らに突っ込んでいった。

 やはり、普通では考えられない非常事態に陥ると人は行動することが出来ない。


 この場にいる二人以外は動けていなかった。

 寿音はゴブリンが走り出したと同時に地を蹴った。三人は対角線上に居たので走り出しがほぼ同じでも時間がかかる。


 そんな事はつゆ知らずゴブリンは猛スピードで駆けていくーーーだが、それでも寿音のほうが速かった。

 もうすぐ手を伸ばせば届く距離まで迫った時、目の前のゴブリンの更に前に人影が現れた。


「どりゃぁぁぁあああ!」


 それは、秋作だった。警察官は柔道や剣道を習っているとは聞いたことがあったが、秋作はゴブリンの勢いを利用してオリンピック選手並みの見事な背負い投げを披露して見せた。

 ゴブリンはくるりと一回転して背中から地面に叩きつけられる。


 ふぅと秋作は汗を拭うが、信志達からしてみれば驚き以外の何ものでもない。

 だが、魔力も使ってない一般人がゴブリンを易々と倒せるわけがない。


「ふぅ……危なかーーー」


「まだだ!気をつけろ!」


 ゴブリンは起き上がり力強く地面を蹴ると、秋作の懐へ飛び込んだ。


「わわわわッ!?」


 秋作は大きく尻もちをつく。その腹部には緑色の塊が四肢をしっかりと秋作に固定して小刻み動いていた。

 信志は秋作の方へ全力で駆け寄った。


 あと数歩で届く距離まで迫った時、背負っていたリュックから抜刀し、その剣先をゴブリンのうなじから突き立てた。

 出血はせずにゴブリンは静かに灰へと化す。


 その場に残ったのは灰と瓶、そして沈黙だった。

 無事に……では無いが、今回の金ダンでの初勝利を上げたのに重い空気が流れていく。


「あ、ありがとう」


 だが、秋作だけが口を開いた。

 他の人は規格外の事が起こり動揺して整理が付かないのか、はたまた信志の行動に恐怖したのか、襲われかけていた百合子らも微動だにしなかった。


「ぐっ……いったい」


 周りの雰囲気を気にしていたがそれどころではない。まずは秋作の手当が先だ。

 信志は瓶を拾い上げるとそれを秋作に手渡した。


「これを飲んでくれ、ゆっくりでいい」


 秋作は渡された瓶に一瞬躊躇したが、ゴブリンから救ってくれた信志の事を信じたのか、一息に飲み干してみせた。


「な、なんだ……体が光出した!?」


 これは傷が癒える時の光。ゴブリンに噛まれていたであろう腹部は損傷が浅かったのかすぐに完治した。


「これは……?いや、君はーーー」


「それは落ち着いてから話したいかな」


 そう言って信志が手を差し伸べると秋作はその手を強く握り立ち上がった。


「そうだね、ありがとう」


 この感謝の言葉を述べる時の秋作の顔は性格がよく分かる。警察官としてゴブリンからの攻撃を体を張って守る。立派な人だ。


「ちょ、ちょっと、貴方のそれ」


 声の主を見ると渡邉が信志の方へと指を突きつけている。


「な、なんでそんな物騒な物持ってるのよ……」


 そう言われると心が痛くなる……が、信志は右手に持っているけ剣をリュックにしまうと口を開く。


「それも落ち着いて話したかったんだけど……まぁいいか。ここは金ダンの中なんだ」


 この状況にその言葉に信ぴょう性が高い。そのせいで金ダンの中だと言うところにツッコム人は誰もいなかった。

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