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新しい仲間と数の暴力

 信志達は三十九階の個室に入る。

 そこは三十八階と同様に、真っ暗になっていた。 


「次こそは安全地帯に入れるといいな」


 入って早々そう純が呟いた。

 信志はこの未知の生物がいる金ダンの中で、ドラゴンとの戦闘を経て、安全地帯なんてあるわけがないと思った。


 正直ここに入るのだって嫌だ。

 さっきまで入っていられたのは、状況が飲めずに動揺していたからであって、冷静になると、信志は昔のことを思い出し少し気分が悪くなる。


 (できるなら光が欲しいな。さっき純が言ったけど、ここが安全地帯じゃないならこの暗闇の中で襲ってこない保証なんてどこにもないじゃないか……)


「今回も武器あったぜ」


 そう言った純の方を見ると鞭を持っていた。


「さてと、じゃあさっそく能力検証といきますか」


 純はボタンを押した。

 そこで一つの疑問が浮かび上がってくる。どうして自分の武器だけ能力が分からなかったのか……?


 その疑問を素直に純にぶつけた。


「純……何で俺の剣は、能力が分からなかったんだ……?」


「ん? そんなの、理沙ちゃんが来てからすぐに信志が来たからだよ」


 実に単純な答えに、純に一瞬でも変な気を持った自分が恥ずかしかった。

 そんなことはつゆ知らず、純は壁に向かって鞭を振り回しているとーーー壁に当たった鞭はつる植物のように、枝分かれしながら張り付いて行った。


 そして壁は鞭の圧迫に耐えられなくなり、崩れ落ちた。


「こんな能力なのか、なかなか使えるかもしれんな」


 武器の能力検証が終わってから純は、リュックからパンを取り出して皆に配ってくれた。純の話では安全地帯には食料があるとか。

 信志たちがパンを食べている途中に、何か音が聞こえてきた。


 それは遠くから、次第に近づいてきてーーーそして、マットに重い何かが沈み込む音が響く。

 パンをかじりながら全員が理解した。人が降ってきた。


 しかも子供だった。


 イテテと顔を持ち上げる少年は、暗闇に眼が慣れたおかげで見えるが、目鼻立ちはスッキリとしており、白髪だが切りそろえられた髪は清潔感を漂わせる。

 その少年はーーー。


「……え、この子ってまさか、佐久間俊也君!?」


 理沙の反応が一番早かった。

 佐久間俊也、最近テレビでよく見る、今が最盛期の売れっ子子役だ。


 彼の演技力は大人顔負けで、覚えていないが、最年少で何か賞を受賞したとニュースで見たことを記憶している。


「なんでこんな子供が金ダンにいるんだ?」


 わけがわからなかった。まだ十歳にも満たない子供が、大の大人でも次々と命を落とす金ダンに来ているなんて、考えられなかった。


「ここは、金ダンの中なの? 僕ここから出られないの?」


 十歳にも満たない子供の震え声が響いた。


「こんな子までここに入れられるのかよ……」


 ここに入れられる、純は確かそう言っていた。


「純、どうゆうことなんだ!ここに入れられるってのは。俺はここに入る寸前の記憶がないんだ、何がどうゆうことなんだ!?」


 信志はせっぱ詰まったように純に聞く。自分でもこんなに取り乱してるとは思わなかった。

 暗闇に対する恐怖、安全地帯があるかどうかすらわからない以上、いつ襲われるかわからない恐怖から平常心を保てなかったのだ。


「おいおい、落ち着けって、ここに来た時の記憶がないって言ったよな? たぶんそれは誰もが同じなんだ。俺もなかったけどおっさんに聞いちまったんだよ……。日本には、いや世界中どこにでもある裏企業みたいなものが借金抱えた家の親がの子供を預かり金ダンに行かして万が一の賭けをしてるってな。それだけじゃない、金を積んだら消してほしい人を金ダンに送り込むってな」


 純に肩を強く掴まれて、一度深呼吸して平常を取り戻す。


「お兄ちゃんたちは誰なの...…?あの黒服のおじさんたちの仲間なの?」


 落ち着きを取り戻すと俊哉が話すが、その口からは意外な言葉が出てきた。

 この子は誰に連れてこられたか覚えていたのか?そんなことを思っていると純が喋りだした。


「待て待て、俊也くん俺たちはおじさんほど歳くってないぜ? 俺たちは君と同じでここに連れてこられたんだ。だから協力してここから出ような!」


「うん」


 純と会話を交わして落ち着いたのか、俊也は泣き止んだものの、いまだに顔はくしゃくしゃになっている。

 蓮花は立ち上がり全員に俊也の周りに来るように指示を出すが、悠亮は相変わらず無口で端っこの方で縮まっている。


「自己紹介しよっか、私は野口蓮花。よろしくね」


「俺は川上純だ。よろしく! で、あそこの隅っこにいるのが磯崎悠亮だ仲良くしてやってくれよ」


「俺は野守信志。よろしく」


「わ、私は、山寺理沙です。えっと、俊也君! ファンです!!」


 自己紹介ついでの告白に一同少し引き気味だったが、よく考えてみればこの子が俊也だと初めに言ったのは理沙だった。


「皆さんよろしくお願いします、佐久間俊也です。」


 自己紹介されている間に少しは落ち着いたのか俊也の声には少し力が感じられた。

 この状況に対応する力があるのは流石子役というところだろう。


「今はまだ名前覚えられなくてもいいけど、ちゃんと覚えてね。ここではお互いに協力するから名前を呼びあうことも多いから」


「ではでは、次は俺の番かな。いつ敵と戦うことになるかわからないから手短に話すぞ? よく聞いとけよ?」


 純は小学校の先生が子供に言い聞かせる時のように、柔らかく優しい口調で話した。


「まず、これをあげよう。俊也もここで戦っていくための武器だ。壊すなよ?」


 そう言うと純は、リュックにしまっていた鞭を俊也に手渡した。


「これは……鞭?」


「せいかーい! 鞭だ、ここのボタンを」


 後のことは純に任せようと思って座り直して壁に背を預ける信志。

 そして純の説明が一通り終わったのか、二人とも座りだし壁にすがりながら、他愛もないバカ話をし始めた。


 そんな中に理沙も混ざり三人で騒ぎ始める。

 しんとしている空間で、三人の緊張感の無いバカ話だけが響き渡る。


 それは、不安な感情を吹き飛ばしてくれるような、暗闇の中の光のようにも思えた。

 何時間経ったのだろう三人のバカ話の話題も尽きた頃、その時はきた。光が差し込んできたのだ。


「純さんこれってまさか……?」


 初めに口を開いたのは俊也だった。


「ああ、とうとうきやがったぜ」


 純はさっきまでの表情とは一変して、真剣な眼差しで光り輝く方を見つめていた。

 そして、頬を数回叩いて気合を入れると、純は歩き出した。


 (ドラゴンの時とは違って叫び声とかは聞こえないな)


 そんなことを思いながら純の後をついて行く。

 歩きながら、大広間に入る前にボタンを押した。


 ドラゴンの時と同様奥の部屋は広かったが、生き物が一匹たりともいなかった。

 左右を確認し、天井まで見上げるが、地面に立つものはおろか、飛んでいるものも確認できなかった。


「何もいないぞ……?こんなことがあるのか?」


 この空間には生き物が六人しかいないので、信志の声は響いた。


「そんなことは……今までこんなこと一回も無かったわ。まさかステルス性の能力を持った敵がいるの!?」


 蓮花の言う事は一同が納得した。何もいない、姿も見えない、そんな状況はこの部屋には敵がいないか、ステルス性の能力を持っているかしか考えられなかった。

 敵がいないなんて考えはハナから誰にもなかったので、自然と消去法でステルス性の能力持ちの敵がいると思ってしまった。


「皆気を付けろ。敵が見えない以上どうしようもない。皆で輪を作るような形になって四方八方確認しよう」


 純の指示に皆素直に動いた。それが最善だと、そう思っていたからだ。








 ーーーそして数分が経過した。


 (いったいどこにいるんだ……? もうとっくに攻撃してきてもおかしくないのに……)


 それからまた数分が経過し、部屋に入ってから早十五分は経過しただろうか。

 周りには見えない敵がいると思っている状況の中で、皆の集中力は落ちてきている。


「これって、本当にステルス性の能力を持った敵いるんですかね?」


 理沙が緊迫した状況の中言葉を発した。

 それは集中力が切れたという証であり、理沙の限界点でもあった。


 一人だけ意識が逸れそうになっていた時、それはやって来た。


「きゃ!?」


 女子の驚いた時に出る高い声が聞こえ、一同が声のした方へ視線を向けるとーーー。


 集中力が切れるのを待っていたのかのように、地面から手が伸びて理沙の脚を掴んでいた。

 それを機に地面が揺れだしーーー所々でひび割れが起こりーーーそして、次々と獣の腕が出てきた。


 一本、また一本とどんどん出てくる毛に包まれた腕。

 出てきた手は地面を抑えると、地面から全身を押し出した。


 その生き物は全身が毛だらけで、地球上の生き物に例えるとゴリラが一番近いだろう。

 だが決定的に違うのは、その背丈と地中にいたということだ。


 ゴリラにしては大きすぎる背丈は三メートルは超えており、そんなゴリラのような生き物が次々と出てくると、あっという間に辺りには五十匹を超えるゴリラ型生物がいた。

 その全匹が武器らしきものは所持してはいなかったが、見た感じ素手ゴロでも十分強そうだ。


 急展開な状況下で、純は理沙の脚にしがみついていた腕を切り落とした。

 少しは動揺していたようだが、純は他の人よりも冷静だった。


「ありがとう……いてて、立ってられないかも……」


 理沙の両足を確認すると、真っ青になっており、集中力が切れたせいでフォースが弱まっていたのか、もうこの脚は動かないだろう。

 だが、このピンチを打破したら瓶の力で何とかなるはずだ。そんな時に悠亮が珍しく口を開いた。


「山寺はそこにいろ、他の奴で山寺をかばいながら戦おう。この数だ、個々の能力はそこまで高くないはずだ。佐久間は山寺に付き添って守ってくれ初陣でこの数を相手にするのは無理だろ」


 ドラゴン戦の経験を生かして、自分一人で特攻するのではなく、自分の思うところを言う悠亮。

 彼は無表情で何を考えているかわからないが、非常に冷静だった。顔色一つ変えておらず、もしかしたらこの男は純よりも冷静なのかもしれない。


 悠亮、純の二人は同時に全力で駆け出した。

 二人は敵を両端に引き連れて戦うつもりだ。そのおかげで理沙の周りには二十匹ほどしか残っていない。


 (俺も少しは注意を引かないとな)


 信志も二人とはまた別の方向に向かって走り出した。


(いいぞ、五……いや八匹はついてきてる)


 信志が走ることによって理沙の周りにはもう十匹と少ししか残っていなかった。

 理沙の近くには俊也と蓮花もいる。三人いれば十分だ。


「しかし、俺一人でこれはきついな……」


 つい愚痴がこぼれてしまったが、それも仕方のないこと。悠亮、純、蓮花は今まで散々戦ってきたが、信志が戦ったのはドラゴンだけ。それも実質一撃もくらわしていない。

 愚痴をこぼすのも無理はないだろう。愚痴はこぼすが、それでもやるからには全力で。


 ゴリラ型生物に追いつかれないように走り壁までついた。

 純と悠亮に目を向けると壁際で既に交戦中の模様だが、その視線を遮るようにゴリラ型の生物が立ちふさがった。


 周りを見回すと既に囲まれていた。








「三人とも注意を引いてくれたけど、私の武器は近距離戦用の武器じゃないのよ……一人ぐらい残ってよね」


 蓮花が愚痴をこぼした。仕方がないことだろう囲まれている。それにドラゴンとの戦いの時に見せたが、蓮花の武器は青白い光の玉を飛ばすという遠距離攻撃をするの武器だ。これでは分が悪すぎる。

 どうしたものかと考えていたその時、一匹がお構い無しにと理沙に向かって飛びかかった。


 しかしそこは蓮花の光の玉数十個が、ゴリラ型生物の頭を吹き飛ばした。


 ゴリラ型生物は地面に倒れピクリとも動かずに灰になった。だが先行した仲間をきっかけに次々と襲い掛かってくる。

 光の玉を投げるまでの時間に対して、相手の襲いかかってくる時間の方が断然早く、攻撃が間に合わなくなり、蓮花は腕を取り押さえられそのまま持ち上げられた。


 いくらあがいても女である以上そこには、確実に力の差が生じていた。

 ゴリラ型生物は腕を持ったまま蓮花の後ろに回り、正面には他の二匹が寄ってきた。


 蓮花の前に立つと握り拳を作り、みぞおちに一発拳を入れる。体をフォースで強化しているとはいえ、直接もらうと痛い、苦しかった。

 そんな中でも蓮花は仲間の心配をしていた。理沙の方に目を向けると一匹が近づいて行くのが見えたが、またしてもみぞおちに拳がめり込み、そのまま畳みかけるかのようにタコ殴りにされる。


 (体中が痛い、意識が……飛びそ……)


 そう思いながらも理沙達の方に目を向け続ける。どこまでも仲間思いな蓮花だが、意識が飛びそうにーーー。


 飛びそうになったその瞬間、目に映った光景には多少驚愕したが、良く見てみると、夢でも見ているのか錯覚するようなそれが瞳に映った。

 それは、俊哉がゴリラ型生物を鞭を使って拘束し、潰したことなのだが、蓮花が目を疑ったのはそこではなかった。笑ってい。十歳にも満たない幼い少年が、ゴリラ型生物を潰して、生き物を殺して笑みを浮かべていたのだ。


 だがその表情はすぐに元に戻り、そのまま鞭をふるって蓮花の後ろにいるゴリラ型生物をも捕らえ潰した。

 蓮花の前にいた二匹は仲間が潰れた姿を目の当たりにして、蓮花たちから距離をとった。


「蓮花さん大丈夫ですか?」


 言いながら俊也が近づいてきた。


「ありがとう助かったわ」


 そう言い返すと蓮花は立ち上がり俊也に支えられながら理沙の元に戻った。だがダメージが蓄積されすぎたせいか蓮花は倒れこんでしまった。

 ゴリラ型生物は二匹倒し三人とも集まったものの戦況はいまだ最悪。


 理沙は足が動かない、蓮花は体中殴られて重症、まともに戦えるのは俊也だけだ。

 それでも蓮花は立ち上がった。ここで自分が戦わないといけないという使命感なのか、仲間を助けたいという強い思いなのか、はたまたその両方なのか蓮花本人にもわからなかったが、これだけは言える。


 ここでの一番の先輩である私が先にダウンしてどうする。


「ゴリラ野郎……なめんじゃないわよ。全力で、一匹残らずに倒してやる」


 一呼吸おいて。


「二人とも下がってて、後は私に任せて」


 蓮花は手の甲を上に向けると、先刻ゴリラ型生物を倒した時と大きさはほぼ同じだが、大量の光の玉が出現した。

 光の玉は雪が舞うように空中で緩やかに動いているが、一定の場所からはそう離れないようになっており、あっという間にゴリラ型生物と蓮花たちの間には、光の壁ができていた。

 光の玉が動くこともあり、多少隙間はあるが、ゴリラ型生物が通れるほどの隙間ではなかった。


 ゴリラ型生物の一匹が光の玉を右手の指先で触れると、触れた瞬間に右腕ごと吹き飛ばして消失させた。

 今までの光の玉だと同時に数個当てないとそんなに火力は出なかったが、蓮花の奥の手は大量かつ一撃の大きい光の玉を数百個と作り出すことだ。


 流石にここまで沢山の光の玉を出すとなるとフォースの消耗も激しいはずだ。


「さてと猿ども……私の全力をもってあんたらを叩きのめしてやるよ」


 額に汗をかきながら辛そうにも見えたが、蓮花は笑っていた。

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