新たな友達新たな老人
学校に着くと教室中がざわめいていた。
「この時期に転校生って事は何かやらかしたんかな」
「意外といじめっ子だったり」
「いや、親の都合だろ」
などと転校生に対しての憶測が飛び交っていた。
昨日先生が言っていたことを思い出した。今日転校生が来る。
「どんな子が来るのかなぁ。かわいい子ならお友達になりたいなぁ」
前の席に座る桃が振り返りながら語りかけてくる。
「来るなら一限目からだよね、それだったら……国語が潰れーーー」
「空ちゃんはお勉強熱心だよねぇ」
「桃はちゃんはもう少し勉強した方がいいよ?この前のテストだって三十点は低すぎたよ」
桃はマイペースな性格だからなのか、勉強の方も置いていかれることがよくある。
その度に空は桃の家に行き勉強を教えている。
最近は桃の家に行くことが無いから、点が下がってきている様子。
「今度桃ちゃんの家に行ってしっかり教えてあげるよ」
勉強を教えると自分にも返ってくる。いつも桃の家でテスト勉強している時に、違ったところを教えあってお互いに成績を上げてきた、空にはよく分かっていた。
そこで会話を途切らせるようにチャイムが鳴り、扉が開くと担任の先生が入ってきた。
その後に続いて女の子か、はたまた男の子が入ってくるかと思っていたが、誰も入ってこなかった。
「えーっと、転校生は今日の午後から来ることになったので昼休憩を使います。それまでに自己紹介を考えておいて下さい」
先生の言葉に対して子供らしい講義の声が飛び交った。
確かに昼休憩という貴重な時間を潰されるのは誰だって嫌だ。しかし先生の決定事項は絶対で、そのままホームルームが進んでいった。
浩太郎の家に戻り数十分が経っただろうか。目の前にいるのが本当に信志の知っている寿音だとは分からなかった。
髪の色は金髪から黒髪に、ツインテールからポニーテールへ、赤ぶちメガネをかけると、本当に別人だ。
「あ、あんまり見ないで……」
信志はつい寿音の照れ顔を見入ってしまった。
「可愛くなったじゃん」
浩太郎は着せ替え人形を見るかのような目で、ニヤニヤしながら見つめていた。
「元からだし」
浩太郎に言われると真顔に戻り、寿音は小さく吐き捨てて近くにあった鞄を手に取った。
「信志君もそう思うよね?あ、そういえば信志君前にポニーテール萌って言ってたね」
「余計な事言うなよ」
信志は恥ずかしさのあまり浩太郎の肩を軽く叩いた。
「信志ちゃん……ポニーテールがよかったんだ。どうかな……?」
寿音は元々容姿に優れていて、それでいて上目遣いで話しかけられると胸が踊った。
素直に可愛い、その一言に尽きる。
「ま、まぁ、悪くは無い……かな」
頬を掻きながらなるべく顔を合わせないように言った。顔を見るとこっちも恥ずかしくなってしまう。
「そ、そっか」
寿音の方もまんざらじゃない様子でそっぽを向く。
「おやおや?お二人さん、学校」
浩太郎は自分の腕時計を二人に見せながら指でトントン叩いていた。
今の時間は十二時前、ただでさえ初日から遅刻しているので、早く寿音を学校まで送らなければいけない。
「学校までは俺たちも送るからな。終わったら迎えに行くから校門で待っててくれ」
寿音は無言で頷いた。
学校まで多少距離があるので、三人は慌てて家を飛び出した。
給食を食べるのは好きだが食器やご飯を運ぶのは嫌いだ。あんまり力仕事は得意じゃないからだ。
いつも教室に持って運ぶ頃には、両腕がパンパンになっている。
「疲れた」
空は小さく零すとさっさと食器を並べ始めた。
食器は並べるが、そこからは皆が協力して全員分の給食を配るようになっている。
給食を運んだ人は器に入れる作業があるが、食器を運んだ人は何もしなくていいとい特権がある。
空はその特権をフルに使いって頑張って働くクラスメイトを眺めていた。
「空ちゃんはいいなぁ休憩できてぇ」
声のする方へ顔を向けると桃が必死におかずを配っていた。
そからは渋滞ができており、男子からのブーイングの嵐が桃を襲っている。
「桃ちゃんファイト」
声をかけるが桃は既に作業に集中しているので、無視を決め込んだ。
全員分の給食を配り終わると、ようやくお待ちかねのお昼ご飯だ。
「いただきます」
給食係の人の掛け声と共に、クラス全員が息を合わせて言う。皆腹ぺこで早く食べたいのか声が大きかった。
ここからは友達と喋りながら食べるもよし、早食いを競うもよし、大食いを競うのもよしと、各個人の勝手に食べ進めていい時間となる。
空は桃と雑談をしながらよく噛みながら食べていた。
「先生昼休憩の時に転校生来るって言ってたから、もうすぐだね」
「早いねぇ時間が経つのは早いねぇ」
「桃ちゃんは授業中たまに寝てるからね……」
空は苦笑しながら言った。
その時、騒がしい教室内の音に紛れながら、扉を叩く音が聞こえた。
担任の先生が立ち上がり廊下に出ると、一分ほどで戻ってきて、先生は二回ほど手を叩く。
「はーい、注目して下さい。ちょっと早めですけど転校生が来ました」
先生の言葉に全員が静まり、そして先生は廊下を向くと手招きをした。
そこから現れたのは、特徴的な赤ぶちメガネに綺麗で長い黒髪をポニーテールでまとめ、顔立ちもクラス、いや、学校全体で見てもずば抜けて優れている、超絶美少女が入ってきた。
その別世界から来たような美少女を前にしてクラス中の静けさはより一層濃くなる。
その少女が黒板の前に立つと、自己紹介らしからぬ自己紹介をした。
名前だけを言ってすぐに指定の席に座ったのだ。
昼休憩が終わる頃には転校生の周りには誰も近寄らなくなっていた。
それだけなら良いのだが、無愛想な転校生に近寄ろうとしないクラスメイトの中には、あらぬ噂を流そうとする者がいた事には我慢できなかった。
「あ、あのさ」
空は転校生の元へ歩み寄り言葉をかけた。
転校生は返答はしなかったが、続きを話せと促すような目をしていた。
「寿音ちゃんって今日来たばっかりだよね。学校の案内とかしてあげようか?」
「別にいい」
小さく拒みそっぽを向く寿音を目の当たりにして、こんなに愛想の無い小学生がいるのか、と思う。
だが空も諦めなかった。
「寿音ちゃんは好きな食べ物とかある?」
今度は返事すら無い。
「好きなタレントさんとかは?」
また返答はなく。
「前の学校で好きな子とかいた?」
微動だにしない。
「お兄さんとか兄弟いる?」
最後の質問を投げかけると眉毛がピクリと動いた。
空はその隙を見逃すことなく畳み掛ける。
「お兄さんがいるの?」
図星だ。だが次第に寿音は険しい顔をした。
寿音は空の方を向くと、やっと話をする気になったのかと思っていたがーーー。
「貴方には関係ないでしょ」
その一言には完全に度肝を抜かれた。
「そ、そんな言い方しなくたっていいじゃない!」
近くにあった机に平手打ちを浴びせると、つい声を荒らげてしまった。
空は言われたことに腹が立ったが、それ以上に感情的になった自分が恥ずかしかった。
そこで丁度、残りわずかだった昼休憩が終わりチャイムが鳴り響いた。
家に着くとどっと疲れが出たような気がした。
いや、本当に疲れた。
(誰だよあいつ……)
家に信志の姿は無かったが浩太郎はいた。
正直浩太郎と二人で家にいるのは嫌だった。
「あ、おかえり〜」
いつも通りニヤニヤしている。
学校のことを聞こうとしているのか、近づいてくる浩太郎を無視して、信志との共同部屋に戻る。
「疲れた〜。ちょっと散歩でも行こうかな」
浩太郎と二人っきりになるのが嫌だったのもあるが、少しはリラックスしたいと思った。
荷物を置いて寿音は、玄関に向かった。
「どこか行くの?」
言葉の主は浩太郎だ。だが別に浩太郎に理由を告げる必要は無いだろうと思い、そのままドアを開けて夕暮れの街へと足を運んだ。
といってもする事が無かった。しばらく歩いていると土手に出た。
夕暮れの中で青春を満喫している、カップルや野球部やらがいて意外と騒がしい。
そのまま土手を歩いていると、何やら草むしりをしている老人がいた。
「最近の若いのは野草を食べんからいけんのぉ」
独り言だろうが大きく、目視していなければ他人と喋っているのか区別がつかないだろう。
何故かそんな老人に興味を惹かれ、つい話しかけてしまった。
「おじいちゃん何してるの?」
老人の横に座り込み返答を待った。
「お嬢ちゃんは野草に興味あるかい?」
「無いよ」
「即答かい。まぁ、最近の若いのはそうじゃろう。わしの小さい頃は食うにも野草しかなくてな、近所の土手なんてすぐに狩りつくされとったわい」
「そうなんだ、私帰るね」
全く興味が無くなった。
それどころか話しかけたことが不思議でたまらない。
「ちょっと待った」
老人はいきなり手を引きストップをかけてくる。
「ちょっとこれを舐めてみてくれないか」
そう言って出されたのは雑草にしか見えないような草だった。寿音は嫌々ながら舐める。
すると蜂蜜程は甘くさないが、甘くて美味しかった。
「美味しい」
自然と口から言葉が漏れるような美味しさだった。
それんな寿音の反応に老人は嬉しそうに、笑顔でそうじゃろそうじゃろと言いながら語りだした。
「美味しい草もある。食べれる草もある。だがやはり時代の流れなのかのぉ……若者は食べようとせんのじゃ。この草たちの先祖は立派に今の日本を支えてきたんじゃがな」
「それって……」
「日本が戦争に負けてからの事じゃ、食べ物がなくなると奪い争う。そんな愚かな事をする者が出てくるんじゃ。じゃがその中で野草達は飢えてかなわんかった人達の救いじゃった。わしも救われた一人でじゃから、じゃからこそ野草の有難味を皆に知って欲しいんじゃ」
老人は遠い目をしていた。
だいぶ昔の記憶なのだろうか、目尻には今にも零れそうな涙粒があった。
「おっと、じじいの話に付き合わせて悪かったのう」
寿音はこの不思議な老人の、他の人から見れば馬鹿だという人もいるだろうがだが、熱い思いを持ち野草のことを広めようとしていることに感激した。
「ううん、おじいちゃん凄いよ。私はまだ子供だけど、だけど言いたいことが凄く伝わったよ」
「そう言ってくれると嬉しいのぉ」
その後挨拶をして老人とは別れ、寿音は自宅を目指して歩き始めた。
(暇つぶしで来たけど、なんか不思議なおじいちゃんだったな)
そろそろ日が暮れるので、足早に帰った。
その横顔は学校では見せなかったような、笑が浮かんでいたが、寿音にはわからないことだった。




