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進展と家族愛

  結局登校は昼からとなり、朝は恩太郎の所へ行くことになった。


  「サボり」


  浩太郎の言葉に対して寿音は睨み返すと、草食動物のように怯えて浩太郎は信志の後ろに隠れた。


  「怖い怖い」


  「お客さん着きましたよ」


  「ありがと」


  浩太郎は代金を支払いさっさとタクシーから飛び降りた。

 施設内に入ると、この前と同じく受付のお姉さんに恩太郎を呼び出してもらった。


  「久しぶりだなぁ、ぐすん、本当に久しぶりだ。我が弟よ!」


  前と同じく恩太郎は、人目を気にせず浩太郎に会えたことで大騒ぎしている。

 浩太郎の方は呆れたように一息吐く。


  「いいから、そういうのいらないから、早く行こ」


  浩太郎が促すと恩太郎は振り返り、付いて来いと、言葉を残し歩き出す。

 前と違い会議室ではなく、今回は研究施設内の一角にある少し変わった部屋に案内された。


  「さて、調べたところ色々出てきたが君たちに言っても分からないだろうが……魔力に関してなら言っても分かるかな。人間の体には、いや生物の体には元から多かれ少なかれ魔力があると分かったんだ。だがその中でも寿音ちゃんのは異質だ。通常の人間の数十倍はあるよ」


 凄い発見なのはわかっているが、寿音が吸血鬼ということもあり、あまり驚かなかった。

 それより、施設内だからといってこれをずっと持ち歩くのもおかしな話なので、タイミングはあまり良くないが恩太郎に渡す。


  「あ、それで、俺が金ダンから持ってきた物を持ってきたんですけど」


  「立派な剣じゃないか。業物だぞこれは」


  「その剣ーーーいや、金ダンには他にも様々な道具があったんですけど、ボタンを押すと魔力が使えるんです」


  恩太郎、それに浩太郎も唖然とした。


  「なぜそれを早く言わないんだ!君は馬鹿なのか!?まさか……馬と鹿のハイブリッドなのか?」


  「……すみません」


  「まぁ、だがいい。ここにはポールが持って帰った物も何個かあるからな。試作もしている。だが、重要なのはそこじゃないんだ、実際に使用した事がある者が非検体になった方がより良い結果がでるんだよ」


 恩太郎は剣と共に信志の手を掴んで、一旦部屋から出て、隣にある先程の扉とは違う、重厚感のある扉をお仕上げて信志を押し込んだ。

 部屋は真っ暗で何も見えないが、金ダンの時と同じように急に明が灯る。


  「実際に使ってみてくれないか」


  恩太郎の声はマイクを伝って聞こえた。

 信志からは見えないが、どうやら三人はガラス越しに隣の部屋から見ているようだ。


  「久しぶりだな」


  信志は呼吸を整えて両手で剣の柄しっかりと握る。

 そしてボタンを押し込んだ。


  「いいぞいいぞ!そのまま何かしてくれないか、例えば……全力で走って見みてくれ」


  言われた通りに両足に力を入れて踏み切ると、数メートル先にあったはずの壁は目の前まで迫っており、勢い余って壁にぶつかった。

 あまり広い部屋ではなかったので、止まることができなかったが、久しぶりに使ってみると予想以上の力が出て、信志も驚きだ。


  「いてて」


  砂埃と共に壊れた壁から出てきた信志を見ると恩太郎は荒い鼻息で喋りかけてくる。


  「凄い!凄いぞ!」


  「ど、どうも」


  興奮している恩太郎ならさらに指示を出してくるかと思ったが、指示どころか声すら聞こえなくなった。


  「あの、もう終わりですか?」


  やはり応答はなく、再度訪ねようとしたところで扉が勢いよく開いた。


  「うわッ!?びっくりした……」


  恩太郎は部屋を出ていたので返事ができなかったらしい。


  「いやー、いいデータが取れたよ」


  いきなり両手を掴まれると、ぶんぶんと振ってくる。

 興奮してるのはよくわかったが、落ち着きのない恩太郎に、軽く呆れる信志。


  「僕は別に初めから君たちを邪険にしてた訳じゃないんだ」


  信志は人が嘘をついているかどうか、感覚でなんとなくわかるが、この男からは何も感じなかった。

 だが、嘘くさいとは思った。


  「今嘘だって思ったでしょ。僕はね僕の父親ができなかった事を成し遂げたいんだ。僕の父親は昔からもう一つ別の世界があるんじゃないかって、その真実を追い求めていたんだ」


 意外にも父親の後を継いで研究しているという、信念を持った人だと思う。


  「そうなんですか、今お父さんは?」


  「去年の事だ……静かに息を引き取ったよ」


  恩太郎の涙ながらの暴露話に印象が変わりつつあったがーーー。


  「あーあー、信志君、嘘だよ。僕お父さん今は仕事やめてハワイの別荘でのんびりしてるんだ。兄貴はただ信志君たちに興味を持っただけだよ」


  恩太郎の涙ながらの話に夢中で忘れていたが、浩太郎と父親が同じだった。

 学校で前に聞いていたが、浩太郎の父親は定年を迎えてから仕事を辞めて、溜めに溜めまくった財産をはたいてハワイに移住したと。


  「ま、まぁ、時にそんな事もあるものだ。人生経験の一つとして覚えておきたまえ」


  恩太郎は信志の肩を叩くと高らかに笑いながら部屋を後にした。


  (嘘だったのかよ……でも興味もたれたって事は少しは進展したって事だよな)


  嘘をつかれたりからかわれたり笑われたりと、恩太郎に対する気持ちは良いものではないが、少しでも興味を示してもらえた事は素直に嬉しかった。

 これから世話になる人なので、一応信頼はしようと思った。








 今日の目覚めは悪くない。

 しかし昨晩起こったことは現実か、それとも悪夢か区別が付かなかった。非日常過ぎて考えても答えは出てこない。


 隣の布団を見ると珍しく純は出かけておらず、爆睡しているではないか。


  「朝ごはんの支度しよ」


  朝ごはんはいっつも一人で食べていたから、一人でも多くの人と食べられることが正直嬉しかった。

 一人で食べるご飯は心細い。


 キッチンに立ち朝食の支度をしていると純は、ボサボサの髪を掻きながら起きてきた。


  「お兄ちゃんおはよう」


  「おはよぉあぁあ」


  純のあくび姿も久しぶりに見たが、やっぱりおじさん臭かった。


  「もうすぐで朝ごはんできるからね」


  呼びかけるが返答が無かった。気になって振り返るとテーブルに着いてはいるがうたた寝をしている。

 空はでき上がった料理をテーブルに運ぶと、純の肩を揺すった。


  「ご飯できてるよ、おーきーてー!」


  「分かってる分かってる。羊の丸焼きだろ」


 羊の丸焼きなんて食べたことないのに、頭の中で何を食べてるのか気になるが、起こすためにさらに強く肩を揺する。

  それでも純は鼻ちょうちんを作りそのまま一回、二回と前後に揺れーーーガシャンッ!と、朝食に顔を突っ込んだ。


 やると思ったが本当にやるとは……。


  「あっち!うわ!?なんだこりゃ……」


  「お兄ちゃんほんと……ばか……」


  空は呆れるがままに吐き捨てた。

 せっかく作った朝食も顔を突っ込めばもう食べられないので、仕方ないと自分の分の朝食を半分分ける。


  「もう、気を付けてよね」


  「ごめん……なさい」


  「分かればいいんです。少なくなっちゃったけどちゃんと食べてね」


  「兄ちゃんは大丈夫だから空が食べな。お腹減ってなくてさ、てか痛くってさ、うんこ出るかも」


  「ご飯中なのに汚い。私食べてる途中なのに」


  よくある純の無神経なところは少し嫌いだ。今のもそうだがいつもいつもおっぱいおっぱいとうんざりだ。

 立ち上がりお茶を取りに行くために冷蔵庫に向かうと、純はまたカクカクと前後運動をしている。


 ため息をついて視線を冷蔵庫に向けようとした時、気が付かなかったがよく見ると、純の服は所々が赤く染まり擦れていたり、穴が空いているではないか。


  (まさか……あの夢って本当だったんじゃ……)


  誘拐されて、純が助けに来て悪い人を倒す。まるで正義のヒーローだった。

 そんな作り話のような事は夢だけだと、そう思っていたが気になって聞いてみた。


  「お兄ちゃん、その……服傷ついてたり汚れてるけど……」


  「ん?あ、これか、昨日不良に絡まれちまってさ。痛かったな」


  嘘だ。純は嘘をつく時はいつもどこか遠い何かを見ているような、目の前の人と喋っているのに喋っていないような、そんな違和感のある仕草をする。

 だがこれが純なりの、不器用な優しさだということはわかっている。


 誘拐なんて大事になれば、空がいつも通り生活しづらくなるのを案じてのことだろう。

 空もそこまで馬鹿ではないので、純の嘘に気付かないように振舞った。


  「そうなんだ。気を付けてね、純お兄ちゃんが怪我してるの見たくないもん」


  「大丈夫だよ。心配ばっかしてたら禿げるぞ」


  純は笑いながら空の頭を撫でた。

 最近は頭を撫でる頻度が増えたような気がするが嫌なわけじゃなく、むしろして欲しいぐらいだから全然気にしない。

  朝食を食べ終わると学校へ向かう支度を始める。その間に純は朝食に突っ込んだ顔や、汚れていた服をまとめて洗うために風呂に入った。


  「今日は体育あるから体操服と、あと……国語……よし」


  準備を終える頃には風呂上りで腰にタオルを巻いた純が出てきた。


  「私もう行くからね」


  純にそう告げると玄関に行き靴を履いた。

 ドアを開けると眩しい程に太陽の日差しが降り注ぐ。


 太陽を見ると、攫われた時の夕日と重なり、学校に行くまで、それに次に純に会うまでが凄く不安になってきた。


  「何してんだ?」


  いきなり純の声が聞こえてびっくりした。

 玄関を開けっ放しにしてたから何事かと思って来たのだろう。


  「純お兄ちゃん……ちょっと来て」


  純は首をかしげながら近づいてくる。


  「は、お前まさか……いっつもからかってる仕返しにこのまま俺を外におびき出してタオルを取るつもりなんだろ!分かってて近づくような馬鹿はしないぜ」


  「違うよ……いいから」


  純は慎重に近づいてき、そして空のすぐ横に立ち、目線を合わせるために腰を落とす。


  「私のヒーロー……大好き」


  耳元でそう囁くと純の頬に短くくちづけをした。


  「それじゃ行ってきまーすッ!」


  空は今度こそ一歩踏み出し学校まで元気よく登校した。

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