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交わりつつある日常

  検査をする。その言葉を聞くと学生が思う事は血液、レントゲンなどその程度だが、恩太郎の検査とは生きていく上で全く知らなくても良いような、どうでもいいことまで徹底的にという事だった。

 その為に三人は研究施設内にあるベッドにて、一晩を過ごすことになった。


  「結果が出たぞ」


  信志達の間に緊張が走る。金ダンに入っていたことで、何か身体に支障をきたしているところがあるかもしれないからだ。


  「まず、信志君は……普通の人間だ。それ以上でもそれ以下でもない。それで寿音ちゃんの方なんだが、これはこの地球上に存在しない細胞や、その他諸々が出てきたぞ。まぁ、吸血鬼なら当然だが。もう少し調べてみたら魔力だの何だのが分かるかもしれない」


 人間と言われてホットする信志。

 そんな信志とは違って、更に調べられると言われた寿音は、少し頬を膨らまして抵抗の意思を表している。


  「現代科学の力で分かるものなんですか?」


  信志は心の中で思っていたことをつい零してしまった。


  「可能性があるだけでまだできるわけじゃない。だが出来るなら明日には出来るだろうから、その時また来てくれないか」


  そして信志達は浩太郎も含めて追い出されてしまった。


  「なんか……お前の兄さんって自分が興味持ったことは全力を尽くすんだな」


  「だから僕も被害受けてるんだけどね」


  困ったように笑う浩太郎。いつものようにニヤニヤとした笑いではなく、長い間あっていなかった兄に会えて少しでも嬉しいという感情も少なからず見えていた。


  「あ、そうそう」


  浩太郎は腕時計で時間を確認しながら喋り出した。


  「まだ一時だね、たぶん今日中には寿音ちゃんの学校の件が出来るから今日はショッピングしないとね」


  浩太郎はやっといつも通りニヤニヤしたが、すぐにその顔は昨日の朝に見た青ざめた時の顔に豹変する。


  「私は別に学校なんか行かなくてもいいって……余計な事……」


  寿音は両手に握り拳を作り浩太郎を睨みつけていた。


  「ショッピングっていっても金無いぞ」


 寿音が行きたいかどうかは関係なく、無一文の信志に何を買わせるか。

  しかし浩太郎は豹変した表情を変えずに、信志の方を見ながら口を開く。


  「僕が出すからいいよ」


  浩太郎の声は震えていた。

 いつその狂拳(きょうけん)が突き刺さるかわからないから、怯えていたのだ。


 喋り終わり、拳が飛んできそうにないと、ため息を吐き油断した瞬間、既に寿音の拳は浩太郎の腹部に刺さっていた。


  「……痛い」


  そう言い残し浩太郎はその場に膝から崩れ落ちた。







  ショッピングモールに着く頃には浩太郎の腹の調子は回復しつつあった。


  「ここに来るのも久しぶりだな」


  「そだねー、前はよく僕と来てたからね」


  昼間なので人通りは少ないがショッピングモール独特の、様々な店の匂いが入り交じった匂いがする。


  「まずはどこから行く?てか、寿音ちゃん服ないでしょ」


「本当だな。買っとかないとまずいよな……」


 確かに、言われてみれば服を持っていないのは致命的だ。

 小学校が規定の服であれば尚更、服を買っておかないと色々とまずい。


  まずは子供用の服が買える店へと足を運んだ。

 店に入るとまず、店員が不思議そうな視線を送ってきた。確かに平日の昼間っから女の子を青年二人が連れて歩くなんて怪しい。


 そんな店員の目なんかつゆ知らず、寿音は次々に服やらズボン、下着などをかごの中に入れていく。

 その堂々たる買いっぷりにーーー。


  「寿音ちゃん、僕が出すからって遠慮はしようね?」


  「金持ちのくせに」


  寿音は小さく悪態をついてその店での買い物を終えた。

 服を買い終えると次は靴、鞄、日用品を一通り買っていき、その頃には浩太郎と信志の両手には、寿音の為に買った品々が溢れんばかりに持たれ担がれていた。


  「寿音」


  信不意に志が口を開くと、寿音は機敏に振り。


  「何?」


  浩太郎と喋る時とまるで態度の違う寿音に少し落胆しながら、話を続ける。


  「浩太郎に買ってもらってるんだからちゃんとお礼言うんだぞ」


  寿音は浩太郎の話になると、すぐに口をへの字に曲げ顔をしかめる。

 それでも一応感謝しているのかーーー。


  「金持ちありがと」


  聞こえるか聞こえないかギリギリの声を口にすると、寿音はさっさと歩き出した。


「感謝してるんだかしてないんだか……」


  「うん、まぁ……ね、いいけどね。僕はATMじゃないんだけどなぁ」


  浩太郎は困ったように頭をかいた。







  今日もお兄ちゃんは朝から家を出ていた。だが今日はそれで良かったかもしれない。昨晩あんな事があって正直顔を合わせたくなかった。


  「お兄ちゃんにはもう少し乙女心を分かって欲しいな」


  空は小さく不満を零した。学校へ向かう支度を終わらせて玄関を抜け外に出る。鍵を閉めたかを確認すると、一人とほとほと学校への道を歩いていった。


  「必要になったら言おうと思ってたのに……まだあんまり大きくないから言わなかっただけだもん」


  朝から愚痴が絶えなかった。

 信号機が赤色なので立ち止まり、自分の胸を両手で掴みながら首を傾げて考えているとーーー。


  「空ちゃ〜ん」


  後ろから聞こえてくる朝から元気いっぱいの声。空は即座に誰の声なのかわかった。同じクラスの桃ちゃんだ。


  「空ちゃんおはよぉ」


  「おはよう桃ちゃん」


  桃ちゃんとは一年生の時からクラスが同じな事もあり親友だ。もう慣れているが、このおっとりとした性格におっとりとした言い方で、本当に同い年だとは思えなかった。


  「そういえばぁ、空ちゃんちょっと暗めだねぇ。何かあったのぉ?」


 空の顔を、瞳をまじまじと見てくる桃に、少々顔を赤くしながら押し退ける。


  「え、そ、そんなことないよ!たぶん寝不足なだけ」


  焦った。そんなに暗い顔をしていたとは、自分では全くわからなかった。

 信号機が青になると二人は揃って歩き出す。学校までは左程遠くない距離なので、たわい無い話をしていると、直ぐに学校についてしまう。


 教室は今日もいつも通り朝から騒がしかった。

 やはり男子たちはがヒーローの話をして盛り上がっていた。


  「でさ、怪人をヒーローがーーー」


  より一層盛り上がりそうな時にホームルームを知らせるチャイムが割って入る。その直後に担任の先生が教室内に足を踏み入れた。

 先生は若く爽やかでかっこいい。女の先生から人気が高いのもあるが、小学生にも隠れファンがいる程かっこいい。


 先生は教卓机に両手をつけると。


  「皆も気づいてるかも知れないけど明日転校生が来ます」


  先生一人の喋り声が通った後、ざわざわと所々から話し声が聞こえてくる。


  「えーと、皆仲良くしてあげて下さいね。ではホームルームを続けますーーー」


  「空ちゃん、転校生ってどんな子かなぁ?」


  一つ前に座っている桃が体を半回転させて話しかけてきた。


  「んー、男子ならクラスの男子みたいにヤンチャなのかな……けど女子だったら友達になりたいかも!」


  「へぇ!空ちゃんは友達作るの上手だもんね。友達になったら私にも紹介してね」


 この性格のせいか、友達というものがひと握りしかいない桃ちゃんは、コミュニティを増やすために助けを求めてきた。

 空も友達が多いわけではないし、友達になれるとは限らないので。


  「なれたらだけどね」


  寿音は苦笑しながら言った。

 ホームルームが終わると先生に呼び出され、廊下に連れ出された。周りを見るとニヤニヤしながら見るものもいれば、嫉妬している者もいた。

 廊下にはもう既に数人教室から出ている者がいたので、職員室までついて行くこととなった。


 先生の職員机の前に立つと、椅子に座っている先生が口を開く。


  「お前のお兄さんはどうだ?元気にしてるか?」


  先生は空の家庭の事を知っている。だからこそ空の身を案じてくれたのだろう。


  「大丈夫ですよ」


 笑顔で応対する。


  「そうか、そらならいいんだがな。お前のお兄さんは高校に行かずに働いてるって聞いてるからな。何かあったら相談してくれよ」


  「はい」


  短く返事をすると職員室を後にした。急いで教室に戻ると席に座り勉強道具を出した。

 丁度そこで授業開始のチャイムが鳴った。







  一日でこんなに沢山福沢諭吉を使ったのはいつぶりだろうか。今日一日で数万円は飛んだだろう。

 フードコートの一角で、昼ご飯と休憩を兼ねて座っていた。


 浩太郎はズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、ニヤニヤしながらつついていた。


  「何してるんだ?」


  「いや、予想外な事があってね。正式に明日から学校に行けるようになったよ」


  浩太郎は信志を見つめ、顔を一切動かしていない。

 仮に寿音に視線を向けると、そろそろ本当に胃が破裂するかもしれない。


  「早いな。流石は浩太郎だ。じゃあ明日から寿音は小学生にって事か」


  そう言いながら寿音の頭をぽんぽん触ると、寿音は嬉しいのか嬉しくないのか複雑な表情をしていた。


  「別にいいって言ったのに……」


  「そういう訳には行かないんだよ」


  「小学生なんて低脳の集まりに、何で私が」


  寿音は愚痴を隠そうともせずに、普通に聞こえる声で言っていた。


  「あんまり文句言うなよ」


  信志は寿音の頭を二、三回チョップする。


  「そういえば、俺達も学校あるけどいつから行くんだ?」


  浩太郎に尋ねると両手を上げて首を傾げる。


  「そんなの僕は知らないよ。先週は普通に学校行ってたしね」


  「俺は無断で数週間欠席……か。俺留年するんじゃね……?」


  「留年しても退学しても僕の家に泊めてあげるからさ、また賞味期限切れてる牛乳飲もうよ」


  顔を上げると浩太郎がニヤニヤしながら見下していた。

 昨日飲んだ牛乳の事はすっかり忘れていたが、思い出すと急に腹痛に襲われた気がした。


  「すまん、トイレ行ってくるわ」


  信志は両手で腹部を抑えながら立ち上がる。


  「ちょっ」


  浩太郎は反射的に信志の腕を掴んだが振りほどかれた。これも報いなのだろうか。寿音と二人っきり。

 胃がもたないだろうと、信志は笑いながらトイレへ向かった。

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