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脱出

  四九階で覚えていないが聖騎士を倒し、純が俊哉それに蓮花を殺して自分まで殺されそうになった。訳が分からなかった。仲間と思っていたのは自分だけだったのか?他の人も俊哉と同じく何か考えがあったのか?それともあれが純の本心だったのか、信志にはわからなかった。

 しばらく寿音に付いて行き壁沿いを歩いていた時。


  「あった」


  寿音の声が聞こえた時、壁を触っていた左手を見ると手首まですっぽりと入り込んでいた。

 手が触れている部分は流れのない水面に小石が落ちた様に波紋を打っていた。


  「こっちよ」


  手首から(ひじ)、肩まで入ると半身が壁に入り込み、揺れる水面のように波打つ壁を残して寿音の体は壁に飲み込まれていった。


  (本当に入れるのかよ……)


  若干疑い気味に目をつぶり壁に当たりに行くと、すり抜ける事ができた。

 某映画のようだと思いながら、薄暗く細い通路を寿音の背を見ながら歩んでいく。数十メートル歩いた時に寿音が急に立ち止まった。


  「着いたよ」


 そう言って目の前の大きな扉を押し開けると、戦いが始まる前の光景が脳裏をよぎる。暗闇を晴らすように差し込む光。

 部屋に入ると、壁沿いには本棚が隙間なく並び部屋の中心には老人が一人立っていた。


  「ウ、ウォルさん」


 寿音が緊張気味に話しかけた。


  「あーうん、寿音ちゃんか。そっちの人は……信志君だね?」


  ウォルと呼ばれる老人は信志の顔を見ると一度目を逸らしもう一度信志の顔を見た。


  「俺の顔に何か付いてるのか」


 初見で人の顔を二度見するような、失礼なジジイに少し強めの口調になってしまった。


  「すまんすまん。まぁ、近くに来てくれ」


 ウォルという老人は、信志に体を向けてしっかりとお辞儀をすると。そのまま呼ばれるがままに、信志と寿音はウォルの前一メートルの所に立った。

 ウォルは手を下に振り、 座れ とジェスチャーをして二人の腰を下ろさせる。


  「ここに来た理由はだいたいわかってるんだが、その前に信志君に言っておきたい事があるんだがいいかな?」


 信志は首を縦に振り続きを促した。


  「私は何年か前に金ダンに入って、そのままコスモス様に使えるようになったんじゃ」


 素直にコスモスという何者かもわからない人の下につくという道を選んだというウォルの発言に、信志は絶句する。

 数秒で脳内を整理し、言葉を返す。


  「え、じゃあじいさんさんも元はこっち、α世界の人だったって事なのか?」


  「いかにも。α世界にいた頃は私には居場所が無かった。借金も大量に背負って、それで金ダンに入れられたんだがそのままβ世界に行ったってわけじゃよ」


 信志が金ダンに入れられた理由は、大まかだが予想がついている。それでも戻りたいと思えなくもない居場所が、一応ある。しかしウォルにはその場所もなく、何もないまま金ダンに入れられたので、β世界に行くことを決心したのだろう。

 話の流れから、ウォルの生い立ちを推測したところで。


  「前フリはこれぐらいでいいかの。さて本題なんだがらここを出るにはあそこに行けばいいぞ」


  ウォルは自分の背後にある扉を指さした。扉はウォルの後方二十メートルにある。

 やっと血塗ろにまみれた、この世界から脱することができると思い安堵する。


  「ウォルさんありがとね」


  寿音はニコッと笑いながら言った。そのままウォルの横を通り扉に向かっていくが。


  「待てよ」


  どこからともなく聞き覚えのあるような声が部屋中に響き渡った。だが、この部屋にはウォル、信志、寿音の三人しかいない。

 影のように自分の脳内に直接話しかけられているのか、それともただの空耳だったのかと、割り切って行こうか悩みながらも歩いていると。


  「忘れたとは言わせないよ。君に負けたなんて絶対に認めない」


 やはり空耳ではなく、寿音にも聞こえているようで、二人とも足を止める。

 ウォルは無言で立ち上がると本棚の方へ歩き出した。本棚につくと赤く分厚い本を奥へ押し込む。まさかと思ったがそのまさか、本棚が横にスライドして奥からはガラス張りの部屋が現れた。


「お前……何でお前がそこに」


「はぁ?そんなの君には関係ないね。僕は僕の意思でここにいるわけじゃないんだ。それよりさぁ、僕は早く君を殺して、それで人間なんかより天使の方がよっぽど強いって事を証明したいんだ」


  聞き覚えのある声だと思ったていたが、あのキチガイ天使がそこにいた。あの時に倒したとばかりに思っていたが、いや、確かにバラバラの肉塊へと変わっていたはずなのに、今ここにキチガイ天使がいる。


  「こりゃこりゃ、喧嘩はよさんか」


  孫の喧嘩を宥めるように、キチガイ天使の一方的なウォルが仲裁に入るが、キチガイ天使は口を閉じずにありったけの罵声を浴びせてきた。

 が、重ねる度に酷くなるキチガイ天使の言葉に、とうとう老人も頭にきたのか。


  「ディル!黙らんか!」


 人が怒っているのにこう感じるのはおかしいと思うが、懐かしい感じがした。昔子役の仕事が嫌で、サボった時におじいちゃんに怒られた時のことを思い出した。

 懐かしさを感じている信志とは違い、キチガイ天使の方は背筋をピンと伸ばし、口は糸で縫い付けたかのようにピクリともしなくなっていた。


  「ウォルさんってそんなにすごいのか?」


  あのキチガイがこうも大人しくなるのが不思議で、寿音にこっそりと言う。


  「ウォルさんは五大賢者の一人なの。五大賢者は聖騎士の強い人たち五人って感じだったはず」


  聖騎士の中でもトップクラスの老人と言われ、目の前にしてもやはり恐怖感は無かった。


  「信ちゃん行こ」


  寿音に袖を引かれウォルが指さした扉へと歩き出した。


  「おい吸血鬼」

  キチガイ天使がまた横槍を入れてきた。


  「なに?」


  「ほんとに行くのか?知らねぇぞ」


 信志には話している内容がさっぱりわからなかった。

 寿音は少し険しい顔をしていたが、気持ちを切り替えたのか晴れ晴れとした顔になりまた歩き出した。


  「気を付けるんじゃぞ」


  「ありがとねウォルさん」


 寿音は礼を言って、扉の前に立ち二人で片方ずつ取っ手を握ると手前に引こうとした。だがびくともしなかった。


  「押すのかな?」


  寿音の言う通り押すことにしてみた。だが押しても開く気配はない。


  (どうなってるんだ?)


 頭をかきむしりながら悩んでいるとウォルの声が聞こえた。


  「横にスライドするんじゃよ」


  ウォルの言葉通りに、寿音と息を合わせて扉を横にスライドさせると微力でも動いた。


  「あ、ありがとう」


  一応礼を言っておくが、できればもう少し早く教えてもらいたかった。


  扉の先は暗闇になっており何も見えない。そのため寿音と離れないように手を繋いでいた。扉の中に入り数十メール歩いた所で、急に坂道が出現しあまりの急角度に足が回る。

 また道が平面に戻った時、石造りの道に急に草むらが出てきた。さらに進むと、鈴虫らしき声が聞こえ蝉の声も聞こえ、たくさんの生き物の鳴き声が聞こえてきた。あたりを見回すと歩いてきた暗闇の道のように暗いが、遠くに沢山の灯りが見えた。


  「帰ってこられた」


 寿音の声を聞き、現実世界へ戻ってこられたとゆっくりと実感していく。

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