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天使vs吸血鬼&人間

  朝起きると寿音はまだ寝ていた。


  (昔とほとんど変わってないな……てことは左脇の下にあるハート型のホクロもあるのかな……)


  考えながらも首を横に振る。やましい気持ちはないが、さすがにまずいだろう。

 わかってはいるのだが、気になる。


  (待て待て信志。やましいことじゃないんだそうだ!これは探究心!そう探究心の赴くままに!)


  信志は隣の布団に潜り込み、寿音のすぐ横にスタンバイ。

 少し大きめの服を着ている寿音の袖を捲り、肩で止める。


  (確かこの当たりに……あった。やっぱり残ってたのか。これ見ると昔のこと思い出すな)


  「信ちゃん」


  げっ いきなり名前を呼ばれてつい声を漏らした。布団から出ると全力で弁明した。


  「いや、違うぞ?探究心だ!昔お前の脇の下にハート型のホクロあっただろ?あれがまだあるのか気になってだな決してやましいことは無いんだぞ?決してな?」


  「あ、そんなのもあったね」


  分かってもらえて心の底から安堵した。


  「見たかったなら言ってくれれば良かったのに」


  「見たかったってか、なんか、不思議な感じでさ。本当に寿音がいるんだなって」


「なにそれ」


 寿音は苦笑すると、信志に背を向けて服を着替えだした。信志の方も背を向けて服を脱ぐ。




 着替え終わり、支度を済ませた二人は家を出た。


  「まだ少し早かったのかな?みんないないね」


  寿音は子供用の服がちょうどあったのでそれを着て角と羽を付けている。信志の方は前の安全地帯にもあった耐久性に優れている服を着ている。


  「純はそろそろ起きると思うんだが」


  噂をすれば何とやら、家の扉が勢いよく開き、ちょうど純が出てきた。


  「ふぁーあ、おはよ」


  「おはよ」


  「おはよう」


  純はそのまま井戸に向かって行った。また井戸に落ちるんじゃないかとか思ったが、その時はその時でまたからかってやろうと思った。

 今起きているのは純と信志、寿音だけ、他の三人はまだ疲れを癒している途中だろう。


  「信ちゃん」


  「なに?」


  「暇だね」


 朝早かったということもあり、寝ぼけた純が一人だと暇でしょうがない。

 せっかくの自由時間なのに、無駄にするのは勿体ない。前野安全地帯でもそうだったように、今回は寿音連れであそこに行こうと考えた。


  「うーん、じゃあ探検しよっか」


  家から少し離れたところに小川が流れており、川の上流に向かって歩き出す。途中で休憩を挟みながら進むとここでも森があった。

 木々が生い茂り所々から太陽の光がさし、幻想的な景色になっている。更に進むとやはり滝があった。今回も大量のマイナスイオンを感じながら登ろうかと思っていたのだが……。


「結構高いね」


「まぁな。滝の横から登ろうと思ってーーー、ちょっ、お、おい、危ね!」


 ゆっくり登るのが好きだったのだが、寿音は信志を担ぐとひょいひょいと剥き出している岩肌を蹴り、あっという間に頂上まで登ってしまった。


「も、もう少しゆっくり登りたかったけど……」


「あ、ごめん。時間かかりそうだったから」


 悪気があった訳じゃないことはよくわかる。なので怒らないが、寿音は少しビクビクしている。

 怒られるかと少し怯えている寿音の頭を優しく撫で。


  「綺麗だよな」


 一言そう言いながら視線を集落へと向ける。


  「うん。こんな所があるなんて知らなかった」


 朝日は登りきっているが、その足下で平凡な集落があり、少数だが仲間がいると思うだけで、次の階へ挑むモチベーションが上がる。

 その後は他愛ない話が三十分程続き、その頃にはもうみんな起きてきていた。だがそろそろ次の階に行かなければならない。


  「さてそろそろ行こうかな」


  「そうだね次の階の敵はどんなのだろうね」


  「弱いといいな」




 家に戻るとみんな支度を済ませていた。だが少し雰囲気がおかしい。

 どこか危ない何かを見るような視線……。


  「……信志さん見損ないました」


  いきなり俊哉に言われてビックリした。だがその一言で、冷たい視線の原因はだいたい想像はつく。


  「純さんに聞きました。昨晩寿音ちゃんを押し倒してあんなことやそんなことを……」


  「信志君ここを出たらちゃんと出頭するのよ」


  あんなことやそんなことなんてしていないしら出頭もごめんだ。悠亮に至っては目すら合わせてくれない。


  「おい純!」


  「待て信志、言いたいことはわかる」


  このお調子者にはそろそろ制裁を加えないといけないらしい。


  「お前が言いたいのはつまり……次の階もみんな無事に切り抜こう!だろ」


  焦らすものだから素直に謝るかと思ったが、全く見当違いなことを言い出す純。


  「あのなあ、そうじゃなーーー」


  「いや、十分わかってる。お前は仲間思いだからな、言葉にしなくても伝わってくるぜ」


  信志の言葉を遮るように、信志には喋らせないようにして純は語ってくる。


  「もう……いいよ」


  完全に呆れた信志は次の階に向かって歩きだした。





  四十七階も個室で暗闇の見慣れた光景となっていた。


  「また暗いな」


  信志が呟いた。他のメンバーは各々自分が思った所に座る中、純は早足で部屋の一角に向かった。

 いつも通りの定位置で今回もアレを確認するんだろう。純が一人でしていることなのであまり見ていなかったが、今回は信志も一緒に武器の確認をすることにした。


  「こんな所に箱があったのか」


  「まぁな中身がが空になったら蒸発するんだぜ」


  またしても不思議を発見して興味が湧いてくる。純が箱を開けると悠亮の大剣の色違いで、水色の大剣が縦に入っていた。

 箱の大きさから見て大剣が入っているなんて思えないが、純の持っているリュックと同じで特殊な空間となっているようだ。


  「悠亮のと色違いか。悠亮のが赤色で炎が出るからこれは水色で水が出るのか?はたまた氷か……?」


  純は頭を抱えて悩んだ。深く深く悩んだが悩んだ末、結局使ってみることにした。

 大剣の柄を持ちボタンを押す。近くにいた蓮花に少し退くように指示を出して、振りかぶる。大剣のを壁に叩きつけると、壁が削れてひんやりしている。


  「正解は氷っぽいな」


  武器の性能を確かめそれだけを言って信志は、寿音の傍の近くの壁に背中を預けた。

 悠亮は既に愛剣を持っている。純も純で槍を持っているので、この剣を使う人は誰もおらず、大剣をリュックの中に入れながら口を開く。


  「これで余りは四つか」


  「トンファーと今のやつと、他にもあるのか?」


 仮に今使っている剣が壊れてしまった時のために、一応どんな武器が残っているか把握しておこうと思った。


  「いや、大した物はないんだけどーーー」


 喋りながらリュックから取り出したのは、右手には金色の指輪、左手には短刀が取り出された。

 ここにいる人全員が持っている武器にはそれぞれ固有の力が備わっている。そのため今純が取り出した指輪に短刀も何か特殊な力があるのかと思い訪ねる。


「その二つも何か力が?」


「そこなんだけど、この二つは何も無いんだ。ただフォース……魔力?を使うだけ」


 ただ魔力を使うだけの武器はまず使えないだろう。それに、トンファーは魔力を多く消費するし、大剣だと力が足りなさそうだ。

 純の言葉を聞き、今使っている愛剣を大切に使おうと改めて心に決める。


 それともう一つ、いつも純は槍で普通に攻撃しかしていなかったことを思い出し訪ねてみる。


「純がつかってる槍はなにか他の力はないのか?炎が出るとか氷が出るとか」


  「俺の使ってる槍かぁ……あるっちゃあるけど、なんつーか、俺って俺の家って槍術の道場なんだよ。だから能力使うより基礎通りにした方が扱い易いんだよ」


  「へぇ道場なんだ」


  隣で聞いていたであろう蓮花が興味深そうに聞いてきた。

 蓮花と純は下層からずっと一緒に戦い抜いてきた仲だ。その二人は互いに素性を知っているものかと思っていたのだが、意外だった。


  「あんまり自分のこと喋らないからな……」


  純は頬を掻きながら困ったように喋った。


  「あんまり思い出したくなくてさ」


  辺りにしんみりとした空気が流れる。


  「そ、そうだよねごめん少し気になって」


  空気を察したのか蓮花は純に謝った。ここに来た時に純が言っていた、金ダンに入ってくる信志たちと同じぐらいの年齢の人の殆どが同じ理由だということを思い出し納得した。

 その後は話が無いまま数時間が経った。寿音が信志にちょっかいをかけてくるぐらいで特にこれといったことは何も無く……。


 ついにその時がやって来て、そして辺りが光に満ち溢れる。


  「へいへいやっと来たか」


  純が呟いき立ち上がると悠亮、俊哉、蓮花も立ち上がり歩き出す。信志も立ち上がりまだ座っている寿音に手を差し出す。


  「行こう」


  笑顔で言うと寿音も笑顔で答えてくれた。


  「うん」


  奥の部屋に着くといつもの如く辺りは光り輝いている。ケータイの明るさを最大にして近くで見る時ぐらい目が痛い。やはりこれは慣れることはないだろう。


  「おい見ろよ」


  純の言葉を聞き辺りを見渡すが何もいない。


  「上に飛んでるやつって」


  見上げるとそこにいたのは、白い翼を生やした人型の生き物だった。神話や伝説で耳にすることは多いだろうが、まさか実在するなんて誰も想像しないその生き物は。


  「天使ね」


  寿音が口を開く。


  「天使族は向こうの世界でも強力な種族の一つよ」


  額に汗を浮かべながら喋っている。寿音が言うことだ間違いはないだろう。信志は武器を手に取りボタンを押す。

 寿音の横顔には焦りの色が見え隠れしている。それだけ強力な敵ということだ。


  (おい影!天使なんて……ど、どうしたらいいんだ)


  ((久しぶりだな俺。で天使がどうしたって?え、て、ててて天使!?なんでだ!?))


  (それはこっちが知りたいよ!天使なんてどうしたら倒せるんだよ)


  ((倒す方法か……知らんな))


  (嘘だろ……)


  ((いや、天使ってすんごい強いんですよ?まあ基本無理だよね))


  (まじかよ……)


  「みーなさーん、こーんにーちはー」


  純並にお調子者の声で喋ったのは天使。二つの意味でヤバイ気がする。


  「えーっと僕は難しいことが苦手なので、えーみなさんには死んでもらいまーす」


 笑顔でとんでもない事言い放つキチガイ天使は、片手を上げてみせる。


  「純が進化したらあのぐらいめんどくさくなるのかな」


  「信志君その場合は三回は進化しないとダメよ」


  「三回であそこまであるんですね……」


  「ちょっと!俺そんなに酷いの!?」


  信志、蓮花、俊哉の会話に純が突っ込む。寿音が言ってたように天使は強力なはずなのにこの四人はマイペースで話していた。


  「危ない!」


  急に寿音が信志を蹴りドミノ倒しのように純、蓮花、俊哉を倒した。何事かと思い、起き上がってみると元々信志が立っていた場所には小さな穴が無数に空いていた。

 何が起こったかはわからなかったが、攻撃されたのだろう、キチガイに。


  「あ、危なかったありがとう寿音」


  「次来るわよ」


  六人は四方八方に走り出し距離をとった。お互いに離れることで敵の攻撃を回避する時に接触するのを防ぐために。


  「まずは君からだよ裏切り者の吸血鬼ちゃん。ウォルさんは許しても僕は許さないから」


  天使は人差し指を寿音に向けると、何かを飛ばした。寿音は瞬時に避けることで当たらなかったが、地面には信志が立っていたところと同じように、小さな穴が空いていた。


  「魔力弾か」


  寿音が喋った。魔力弾とは魔力を圧縮し高速で打ち出すシンプルな攻撃方法だ。

 しかし、欠点は魔力を飛ばすというだけあって、魔力の消費量が多い。魔力量が多い天使族にだからこそできる芸当だ。


  「へぇ今のかわすんだ。いい反応するねさすがは吸血鬼ってところかな。けど今のは序の口だよ」


  天使はもう片方の手の人差し指も寿音に指すと両方の指から魔力弾を放った。一秒に四発といったところか。片手で一秒二発スピードはプロ野球選手の投げるたまより早い。

 並の人間なら何をされたかすら分からずに死ぬだろう。だが寿音は吸血鬼、ひょいひょいと軽くかわしていく。


 寿音は魔力弾をかわしながら壁の方に走っていった。その間に放たれた魔力弾は五十発程だろうか、縦長い蜂の巣ができている。

 壁につくと壁と平行に走る。走り抜ける地面には穴があくが、寿音に当たることは無い。そのまま勢いがつくと体を横に倒し、地面と並行に走る。不思議な光景だ、小学生が壁を走っている。


  「ワイヤーアクションかよ」


  アクション映画でも見ているのかと、疑ってしまう光景に、足が止まってしまう。

 その余裕がどこから来るのか、その時はわからなかったが、寿音がキチガイ天使とタイマンを張っているから、他の人には攻撃が回ってこないのだ。


  「くっそ、ちょこまかと動きやがって餓鬼が」


  天使は魔力弾を打ち続けるが全く当たらない。寿音は壁を走りながらどんどん駆け上がっていく。この広間は端から端まで広く円形になっている。壁を走るということは回りながら上がるということ。

 相当のスタミナと、速力が必要になる。まず信志たちにはできないだろう。


 順調に駆け上がっていき、天使と同じぐらいの高さに登ると、更に壁を強く蹴り天使に飛びかかった。真っ直ぐ天使に飛んでいくため、空中ではあまり身動きが取れずに、左足と左肩に魔力弾が当たり貫通した。

 寿音は痛みをこらえながら天使に殴りかかる。天使はかわそうとするが、動こうでした時に、両方の翼から煙が上がり動きが鈍くなった。


 一瞬気を取られたキチガイ天使の隙を逃さずに、全力で殴りかかった。天使は大きな音を立てて墜落したが、寿音の拳を両腕をクロスさせて防御する。

 寿音の攻撃とはいえ、相手は天使、守りに入られればあまりダメージは無さそうだ。


  「人間如きが僕に傷を負わせるなんて、いい度胸じゃないか」


  キチガイ天使は起き上がると同時に地面を強く蹴り低空飛行で蓮花に急接近。五十メートル程の距離をほんの数秒で移動するそれは、人類が築き上げてきた走るという単純だが、血のにじむような努力を軽々と凌駕している。キチガイ天使は右拳に力を入れ振りかぶる。

 蓮花は両腕を胸の前で縦に構え、腰を落として踏ん張る。が、防御越しでも勢いが殺しきれなかったのか、踏ん張っていたが五メートル程後方に飛ばされてしまった。バランスを崩すことなく立ってはいるが、拳が接触した左腕には大きな痣ができていた。


  「やっぱり人間って魔力制御も下手くそだし、なんでコスモス様はこんな下等生物を押すんだろうね」


  天使は両手を広げて首を傾げている。その隙に純は回り込み悠亮と天使を挟む形になった。


  「なぁ天使って翼が無くなったら飛べねぇのか?」


 純と悠亮は同時に槍と大剣を振り下ろす。だが天使は両足を地面から離しギリギリのタイミングでかわした。そのまま純と悠亮の息ピッタリの攻撃を宙に浮きながら尽くかわしていく。

 二人の挟撃は熟練された達人を思わせる程息があっており、見とれそうになる。


  「遅いよー遅い遅い。遅過ぎて蚊に刺されちゃうよ」


 だが、純と悠亮は全力で切りかかっているのに天使は軽々しくかわし、調子に乗っている。相手が格下とみて余裕を出しすぎたのが仇となったのだろう、いきなり天使の翼から出血した。

 キチガイ天使は一瞬顔色を曇らせる。そして攻撃された方を見ると、寿音が小さな石ころを投げていた。キチガイ天使を地面に叩きつけた後に着地し、天使がぶつかって壊れた地面から石を拾って投げていたのだ。


  「ちっまたお前か」


  キチガイ天使は純の攻撃をかわし純の腕をとり後ろに回り込んだ。


  「これで君は攻撃をできなーい!けど僕はできるんだよ」


  天使は純越しに魔力弾を打ち出す。魔力弾は純の左脇腹を貫き寿音の右肩を貫いた。


  「寿音!」


  信志は寿音の元に駆け寄ろうとしたが、来なくていいと寿音の左手に止められる。

 寿音は吸血鬼だからかわからないが、治癒魔法が使える。だから寿音は自分には魔法瓶を使わなくてもいいと言いたいのだろう。


  「純を助けてくる」


  信志は寿音を信じて純の元へと駆けていく。純の傷は小さいが体内を貫いている。出血が多くなれば命は無いだろう。信志が向かっているその間にも魔力弾は純を通して迫ってくる。だが、左右に動きながら走っているため当たらない。キチガイ天使の魔力弾の威力は当たれば強力だが、命中率はそこまで高くない。

 純との距離が十メートルを切った。気合を入れて信志は声を上げながら剣を前方へ突き出した。


  「馬鹿じゃないの?剣が届く距離じゃないでしょ」


  キチガイ天使は大笑いしている。確かに今の信志の剣は一メートルかその程度だが、それはあくまで 今 の長さ。キチガイ天使の顔が次第に曇っていく。視線を下に落として自分の腹部を確認すると、信志の剣が刺さっていた。

 吐血しながらしながら後ずさりをするキチガイ天使。純の身長は信志よりも少し高い、それに比べてキチガイ天使は信志よりも低く、百六十センチ程しかない。この身長差のお陰で、純の腹部に刺した剣は、キチガイ天使の重要機関が詰まっている所に当たったのかもしれない。


 純との間に距離ができたことで、信志は瓶を手に取り純の腹部から剣を抜いた。


  「ごめんな純、今治してやるからな」


  信志が純を介抱してる間に、悠亮と俊哉と寿音が天使に一斉攻撃を仕掛けていく。


  「くそ……人間如きが、この僕に……許さない絶対許さないぶっ殺してやる!!!」


 天使に治癒魔法を使わせる間もなく攻め続ける。キチガイ天使の動きが鈍ってるため三人で包囲するのは容易だった。

 寿音が先に攻め、キチガイ天使に近づき連打する。キチガイ天使は後ずさりながらも、全ての攻撃を受け止めた。


 だが下がった先には俊哉が待っていた。俊哉は鞭を伸ばしキチガイ天使の体を縛り上げる。そのまま徐々に圧力をかけていき潰そうとしているが、天使の腕力が強すぎて潰せない。それでも時間は十分に稼げた。寿音と俊哉がキチガイ天使と戦っている間に悠亮は大剣を巨大化させていた。

 キチガイ天使が気づいた時には大剣は八メートル程の大きさになっており、悠亮はその大剣を振り下ろす。


 俊哉や寿音も巻き込まれるかもしれない、だがそんな心配は誰もしていなかった。寿音が俊哉を担ぎ、一足先に逃げていた。俊哉の鞭は寿音の走るスピードと比例して伸びていく、息の合った連携だ。

 打ち合わせもなしにここまででしている三人を見て信志は驚愕する。


 悠亮の大剣が天使に当たると同時に大爆発を起こした。信志が見た中では、ドラゴンの時に匹敵する程の威力だ。黒煙が立ち上がり、まずは悠亮が出てきた。今回はドラゴンの時と違い剣の柄を長くしていたので悠亮への被害は少なく済んだようだ。

 煙が消えてくると天使の姿が見えてきた。俊哉が近づき確認すると頭が千切れて転がっていたのがわかった。他の部分は言うまでもなくバラバラの肉塊になっていた。


  (なぁ天使って凄い強いんじゃなかったか?)


  ((まぁ俺たちだけじゃ無理だったろうな))


  (と言うと?)


  ((寿音だよあの子が吸血鬼ってのは知ってるだろ?吸血鬼ってのは向こうの世界では聖騎士、まぁ人間からしたら勇者ってやつだそれと天使に次いで吸血鬼が強いんだよ))


  (え、吸血鬼ってそんなに強かったのか……)


  改めて思うが寿音の強さは折り紙つきだ。向こうの世界で三番目に強いなんて、味方になってくれたら殆ど敵なしだ。


  「そいつからは瓶は取れねぇのかよ」


  介抱されていた筈の純がいつの間にか起き上がっていた。


  「てか信志!めっちゃ痛かったんだが?どういうことだ?」


  言い訳を考えていなかった……。ここで閃いたのが、親指を立て。


  「信じてたぜ純」


  渾身のドヤ顔で言うと、やはり純にネチネチグダグダと怒られた。だが全員が無事でよかった。信志はそっと胸をなで下ろし次の階に向けて歩き出した。

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