第八十九話 テンペスト、恥じらいを知る
「そもそも、ある程度技術のある所であれば、今見ているように作ることは出来るんですよ。そして向こうには私と同じ知識を持ちながらも、自分こそが頂点に立つべき人間だと自惚れている奴が居るわけです。備えるに越したことはないんですよ」
技術力がある国であれば、こうして物を作るために必要なものが構築できる。
それによってどれだけのものを作れるかは、知識だけでなく発想力も問題になってくるため一概には言えない。
サイラスはこの世界における魔法と言うものを、自分の持っている技術では出来なかったことを補うために使っている。
レールガンやレーザーであれば、その性質上必ず必要になる巨大な発電機は、雷の魔法を使うことで手のひらサイズで同等以上の出力を出せるように出来た。
本来なら金属の特性上無理な構造であっても、魔法金属という硬く強靭な物を使って実現できた。
凄まじい熱量に耐え、熱による膨張も収縮も殆ど無いそれは、マギア・ワイバーンの外装となった。
また、アクチュエーターでは不可能な早さと力を出す関節部分には、魔法金属による骨格と、それを支える魔力筋によって生物的な動きによって克服した。
つまり、今サイラスは地球上では作りたくても作れなかった様々な物が、ここに来て実現可能となったことで少々タガが外れている状態だ。
これがモンク司祭ならどうだろうか?
自分が持っている力よりもより強力なものを手に入れた時、恐らくそれで暫くは満足して改善やさらなる向上を図るとは思えない。
それは今までのミレスの気質からしてもそうだったし、実際に地球の兵器を模しただけでもかなり強力な物にはなる。
しかし予想に反して向上を図り、それが成功していけば……つまりは今の博士と同じように強力なものを開発していくとどうなるか。
下手なものを持ち込んだだけでは勝ち目が無くなる可能性すら出てくるのだ。
であれば、現状最も強力なものを作り出していくと言うのは自然だろう。
「理屈は分かった。分かったが……君らはまだ男爵だぞ、自分の戦力を持てないということは忘れるなよ。今ただでさえギリギリの所で国が抑えてくれているが、これ以上戦力が偏ると他の領地の奴らが不平不満を隠そうともしなくなりそうだ」
「いっそ侯爵にまで一気に行ければ問題ないのですね?」
「……理屈ではそうだな。というか、実際それだけの働きはしているんだよな……あの土地をあそこまで発展させたのだってそうだ。浮遊島……あー、浮遊都市だったんだっけか?アレをハイランドまで引っ張ってきた挙句、生き字引のギアズをも連れてきた。逆に爵位が上がらないのが不思議なくらいだね、私から言わせれば」
「期間だろ。まだ少ししか時間が経っていないのに電撃的に男爵に成り上がった挙句、そこから更に上げるとなるともう少し時間を置きたいんじゃねぇかな?それにまだテンペストには味方が少ない。周りにコネを作って根回しをする必要がある。領地同士の付き合いもまだ数箇所程度だ」
この数カ所の領地に関しては友好的な関係を築けている。
しかし逆を言えばそれに入れなかった所からは妬まれているわけで、そういったところと積極的にやり取りをして味方を増やしていけば、彼らの推薦で爵位も上がるだろう。
それをするにはまだ早すぎるということらしい。
残った問題はニールだが、こちらも似たような理由で一時保留という感じになっているはずだ。
サイラスもまだ声がかからない。
本来ならギアズを連れ帰った時点でも行けそうな気がするのだが、今はまだそのままだ。
「私のところの商品はハイランド中に広まってるんですけどねぇ。生ゴミなどの処理機が意外と売れてますよ。大型のものは家畜の糞を集めて肥料も作れますからね」
「あれ、臭いが殆ど無いんだがどうやってるんだ?」
「乾燥させて水分飛ばしてるだけですよ。他にも色々工夫はしてますがね。あれもクラーラが試作品を作ってくれましたが、物がいいので少し手直ししただけで販売しましたね」
ライナー商会は順調に業績を伸ばしているのだ。
こちらも売れば出した分売れていくのでやりやすい。農村などでも使えるものは皆で金を出し合って一台購入するなどということもしているらしく、そういうところでは目に見えて生産量が上がっているらしい。
暫くはまったりと旅の疲れを癒やしながら話をしていたが、一通り現在の状況を話終わり一旦休もうということになった。
それぞれが部屋に戻って行き、後に残ったのはサイモンとギアズとなる。
「……ギアズ殿、食事は出来るのか?」
『前にやったことはあるのだが……まあ、予想通りに隙間から溢れて終わりでしたな。旨いものが食えないと言うのは少し寂しいものだが、今儂がここに居る事には感謝している』
「アンデッド化というのもいいことばかりではないな」
『全くだ。好きでやろうと思うヤツの気が知れん。それにしてもあの者達には本当に驚かされる』
文明が若干退化していた事を知って少々がっかりしていたギアズだったが、カストラ領だけはそこだけ文明が進んでいるのではないかと思うほどに違っており、自分たちが居た時代と同じところもあればそれよりも進んでいるところもあるなど興味は尽きなかった。
研究室に入れば更に知識の宝庫と言えるものばかりで、技術者としてもこれらの知識を得られればどれだけのものが作れるかを想像して歓喜したのだった。
『サイラスという男は……あれは何なのだ?』
「ん?聞いていないのか?まあ、関係者となって一緒に行動しているんだ、知っていても構わんだろう。だが認めた者達以外には漏らさないようにしてもらう」
そしてサイモンはギアズにテンペストとサイラスの正体を教えた。
何と戦わなければならないかも。
流石にテンペストが本来は人ではないということには少々驚いていた。
『精霊……だと……。神々の使いであるあれか?』
「私達のところでは精霊そのものが神と同じであるという考え方だが、まあそう認識してもらっていれば問題ない。実際にお告げをくれたり力を授けてくれたりするあの存在のことだ」
『それを創り出したというのか?人が?』
「本人はエーアイとか言っていたな。人工的に作られた人格、人を模して機械と人との意思疎通を円滑にするための存在だったとか。精霊術師のエイダ様がテンペストを空飛ぶ機械から引き離して人の器に入れた」
その後、暫くは眠ったままだったが突然姿を変えて顕現した。
人の身体に慣れるまでは息をすることすら自発的にできておらず、まともに生活できるまでは相当時間がかかったという事も教える。
「人としての感情を理解する、表現するということが苦手と言うよりはそもそも知らないんだよ、テンペストは。それがニールと暮らすようになってからはどんどん人間らしくなっている。恋は人を成長させるとはよく言ったものだ」
『うむ、あの二人はとてもいい雰囲気であったな。初々しくてこちらも見ていて微笑ましく思うぞ』
「まあ、そういう事でだな、ギアズ殿にはテンペストのサポートをお願いしたい。先も言ったようにテンペストは自分を精霊とは思っていない。しかし実体はエイダ様が言うにはやはり精霊そのものであるという。それであれば闇の存在とはいえアンデッドとなり肉体を失ったギアズ殿はそれに近い存在といえる。新しい力の使い方を教えてやってほしい」
『それは、死霊術を教えろ、ということか?』
「その物は教えなくとも、どういったものであるかを説明するだけで理解するだろう」
『どこまで似通っているかは分からないが……やってみよう。どちらかと言うと儂が教えてもらうことのほうが多いかもしれんが』
ギアズとしても、テンペストのように他の生命のないものに乗り移ると言った芸当が出来れば、色々とやり方があるだろう。
もしかしたら人の体を取り戻せるかもしれない。死体に取り憑くつもりはないがあれだけのことが出来る技術があるのだから、そのうち人間1人くらいは作りそうな気がしたのだ。
むしろあの魔導騎兵とやらに移ったままというのも悪くない。
自分も得るものがあるし、悪い話ではない。そもそも協力するつもりだったのだから何の問題もなかった。
「ところで、睡眠はどうしてるんだ?」
『特に取らずとも問題はないが、意識レベルを落として朝になったら覚醒させている。ずっと起きていることは可能なのだが、やはりある程度は形式的にでも寝ておかないと気が狂いそうになるぞ』
「……睡眠というのはやはり大事なのだな」
色々と話をしていく内に、アンデッドとしての特性なのか、状態異常に関する魔法も扱えるようだということが分かってきた。本人もあまり気にしていなかったが、生きている者にとってはかなり厄介な魔法だ。
麻痺、睡眠、毒などはその最たるものだが、盲目、感覚喪失など直接命に関わらないが、かなり危険なものもあったりした。
面白いものでは相手に意味もなく恐怖だけを感じさせると言うものまである。
「これを研究したら色々と分かるんじゃないか?」
『なるほど対策を取れるかもしれないというわけだな?話をしておくか……』
その後は昔栄えていたというギアズの国の話で盛り上がったという。
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サイモンの部屋を出て自分たちの部屋へと戻ったテンペストとニールだったが、一つの問題に直面していた。
最初にこの部屋に入ったニールだったが、荷物を置いてすぐに出たので気づかなかったのだ。
「まさかこのベッドだったとは思わなかったよ……」
「何か問題があるのですか?」
「いや、問題っていうか……ベッド1つしか無いってことはさぁ」
「このベッドで2人で寝ればいいのですよね?問題ありません」
「そ、そう?」
2人部屋とは聞いていたが、夫婦用なのだろうかベッドが2台というものではなく、大きなベッドが1台あるだけだ。
クイーンサイズ程度だろうか、小柄な2人なら4人になっても楽に眠れるくらいだ。
当然問題があるのはニールの方で……。
「私は付き合っている男女はひとつ屋根の下、同じベッドの上で生活すると聞いたのですが……違ったのですか?」
「誰が言ったの!?いや、まあ違っては居ないけども!」
「メイですが。違っていないのであれば特に問題ありません」
問題はあるよ!と声を大にして言いたい所だが説明がしにくい。
あの下着で同じベッドの中にというだけでも我慢をするのが辛いのだ。
「ああ、そうでした……欲情してしまうのですね?」
「ド直球で言うよね!?そうだけど!」
「大丈夫です。私は気にしませんし、ちゃんと理解はしていますから。しかし私がしてあげられることはまだよくわからないので教えてもらえれば……」
して欲しい。して欲しいけどここは我慢だ。そもそもどういう行為なのかよく分かってないっぽいのだから、それにつけ込んでやらせるなんて出来るわけがない。
というか、やった場合殺される。死ななくても半殺しにされる。
「し、しなくていいから!まだ駄目だから、ね?そういう事はまだテンペストには早いっていうか……うー……」
「困りましたね、この船には娼婦等は乗っていないということなのですが……」
「居ても呼ばなくていいから、ね?ボクも頑張るから……」
寝る前にしっかりとスッキリしてから、落ち着いてベッドに入ろう。そう固く決心するのだった。
ここに来て急に距離が近づいたのが嬉しいのは嬉しいが……心の準備がないままだったので焦るのだ。
そして表情にあまり出ない。
嬉しそうにしている時などは分かりやすくなってきているが、困っている時や悲しい時等は未だに良く分からない。
もう一つ、怒っている時は少しわかりやすいか。
なんというか、目が据わっているというか……。なんとなくの雰囲気が伝わってくるのだ。
とにかく、これから何日掛かるかは分からないがこの逃げ場のない洋上で過ごすことになる。
いい加減ニールもこれに慣れなければならないだろうと思い直した。
テンペストと2人、この部屋で一緒に寝るくらいどうってことないではないかと。
そして夕食後……。
ついにメイがダウンした。
「も、申し訳ございませんテンペスト様……」
「対策しようにも難しいのですから気にしないで。それに、揺れは少ないですが大きく上下する感じがかなり感じられます」
「この揺れのせいで感覚がおかしくなって気持ち悪くなるんだっけ?まあ、メイはこのまま休んでてよ。ニーナも……ちょっと顔青いし休んで。ボク達は自分たちのことくらいは出来るからさ」
「ありがとうございます、ニール様。でもまだ私は……」
「ニーナ、あなたも休みなさい。少しでも気持ち悪い時には動くと余計に酷くなると言っていました。とにかく目を閉じて寝ている方が良いでしょう。最悪吐きたくなった時にはこの桶に出して下さい」
テンペストが強めの口調で強制する。
休まずに悪化して倒れられても困るのだ。
今のところニールもテンペストも症状は出ていないが、いつ出てもおかしくないかもしれない。
自分の部屋の方へ移動してから、サイラスに言われた原因をもう一度考えてみる。
「船酔いの原因は、サイラスが言うには三半規管と視覚情報との平衡感覚の差によって生まれると言っていました」
「三半規管……えっと、たしか平衡感覚を司る器官……耳のところだっけ?」
「合っています。そこで人は回転加速度を検知して居るというわけです。しかし目で見た情報とその感じ取った回転が噛み合わない時に、船酔いになるということでした」
「じゃあ、両方の情報が一致すればいいって事?」
「恐らくそういうことになります」
実際は波によって斜めになったりしているのに、景色は常に変わらないためそれが不快感となって現れる。
ならば揺れと同期する何かがあれば……。
「ねえ。テンペスト、これどう?さっきから結構揺れてるけど」
「なるほど、液体ですか。これなら確かに視覚と一致するでしょう」
そう言うと空中に球の形で範囲指定した中に半分ほど水を溜めた物を浮かばせた。
ゆっくりと目の前に浮いている球の中で水が動く。
実際は動いているのは自分たちの方なのだが、部屋の水平線と水の水面が噛み合わないことがよく分かる。
「これが酔いの原因かぁ。後でグラスに水入れて二人の部屋に置いておいてあげようか」
「そうですね。これを見て視覚情報を補正すれば大丈夫でしょう」
浴室は部屋に小さいものがあった。
旅の途中では入れないことはザラなので、こういうのは他の人にとっては有り難いだろう。
テンペスト達は自前で持ってきているわけだが。
ちなみにこの水は海水を利用している。塩分やその他不純物を除いて飲用できるものへと変えるための魔道具がついているのだ。
これによって一々魔法によって生み出さなくても済むようになっている。
お湯に関しては機関から発生する熱で沸かしているので特別必要な装置はない。
ベッドに寝っ転がりながらテンペストが風呂から上がるのを待っていると、扉が開く音が聞こえた。
「ニール、すみませんが髪を乾かすのを手伝ってもらえませんか?」
「あ、いい……よ……って!テンペスト!裸、裸!」
「着替えをいつもはメイが持ってきてくれていたので持っていくのを忘れていました。それにニールなら見られてもいいですから気にしません」
タオルで頭を拭きながら、何も付けずにテンペストが出てきたのだ。
まさかここでメイ達が居ない事での弊害が出るとは思っていなかった。
「それは嬉しいけども……」
「ニールは導尿カテーテルの挿入でもう私の全てを見ているのですから、そんなに恥ずかしがることではないのでは……」
「そう、なんだけど……ああもう、見ちゃうからね!?」
しっとりと濡れた髪の毛を拭いているテンペストが居た。
それをしっかりと目に焼き付けつつ、平静を必死で保ちながらテンペストからタオルを受け取る。
既に水分をかなり吸っているので新しいものへ交換することにした。
「いいと言っているではないですか」
「とりあえずタオル……はい、これ。身体に巻いておいて。今髪の毛の方を乾かすから……」
「しっかりと水分を髪の毛から取って、ある程度乾いたらこの精油をつけるそうです」
そのままではあまりにも辛すぎたので、まずは肌色を抑えてもらった。
ベッドに座ってもらって、後ろでテンペストの長い髪の毛をタオルで挟むようにして乾かしていく。
少し暖かくしながらやっているとすぐに触っても濡れないくらいに乾いていった。
精油を塗ってまた少し乾かしたら終わりだ。
テンペストの白い背中から尻にかけてはタオルがかかっていないのでモロに見えているが、まだ耐えられる。
「ありがとうございますニール。では入ってきて下さい」
「うん。……テンペスト、ボクのこと信用してくれるのはとっても嬉しいよ。ありがとう。でもやっぱり女の子の裸は男の前で気軽に見せるものじゃないよ?」
「ええ。でもニールには慣れてもらわなければなりませんから。いつも私に気を使ってくれたりするのは嬉しいのですが……色々としてもらう都合上、私の身体を見て緊張されても困る時が出てきます」
「わざとやってたの?!」
「はい」
そう言ってくすりと笑っているテンペストを見て、怒る気も無くなった。
逆に、今まで慌てたりしていたのが失礼だったんじゃないかとまで思えてきた。確かにちょっと慌てたり、見ないようにしたりとやっていたけど……実際に必要な時に手が震えたりしていた位のボクでは大事な時に何も出来ないかもしれない。
「なんか、ちょっと落ち着いたよ。ごめんねテンペスト、拒否されてるように感じてたよね」
「少し……ですが。大切に思ってくれているのか、見る価値が無いと思われているのか分かりにくかったのです。先程言った慣れてもらうためというのも確かにあるのですが、そこを知りたかったというのもあります。……そして私も少しではありますが、恥ずかしいという感情が理解できた気がします」
「あ、ちょっと恥ずかしかったんだ?」
言われてみれば少し頬が赤いような……?
でも凄い前進だろう。ずっとその感覚がなければいつか間違いが起こってしまうかもしれない。
恥ずかしいと言う感情が芽生えたことによって、更に女の子らしくなっていけるでのはないかとニールは思う。
「ニールが私を正面から見た時、少し恥ずかしいと言うむず痒い感覚がありました。多分この身体が元々持っていた感情が現れたのだと思いますが、同時に何故ニールがそういう反応をするのかと言うのが分かったと思います」
「まぁ、分かってくれたならいいよ。でもテンペストの全てはボクが独占したいな、女の子同士なら良いけど」
「大丈夫だと思います。私もニールだけに全てをさらけ出しますので」
そう言ってテンペストが向き直って正面から抱きついてきた。
抱き返そうと思ったが、ニールの手が空中を泳ぐ。肌に触れてもいいものかどうかを考えてしまう。
でも、もう大丈夫。
しっかりと抱きとめてその柔らかな肌と体温を感じた。
「……やっぱり、落ち着きます」
「ボクは……落ち着かない感じがまだするけど、頑張って慣れていくよ。頼ってもらえるように頑張る」
「はい。私は……二人でいる時には、こうして抱きつかせて下さい。そう、寂しい、というのでしょうか?それもわかったような気がします……あっ、ごめんなさい」
離れる時に手が滑って、ニールの股間に届いてしまった。
突然のことに固まるニールだったが……。
「あの、ごめん、テンペスト……その手をまじまじと見るのはやめて……」
「いえ、前に見たときよりも硬くて少し大……」
「お願いだから言わないで……」
「わかりました」
そそくさと風呂場へと逃げていくニールだったが、そこに脱いだ後の服がそのまま残っているのを見てしまった。
ちょっと手を出しかけたが引っ込める。
「……ふう……。危なかった……」
湯船に浸かりながら色々と思い返す。
しっかりと目に焼き付けた光景。
まさかわざとやっているとは思わなかったが、少しは落ち着けたとはいえまだ刺激が強いのは事実だ。
テンペストの手が触れたときなどは正直ちょっと焦った。
今は既に強制的に落ち着かせたので問題ない。
少し間違えば暴発の危険もあったのだ、それが回避されただけでも有り難い。
「もっとしっかりしないとなぁ。……とりあえず寝よ」
こんなことくらいで一々反応していたら駄目なんだと言い聞かせてベッドへ向かう。
既にテンペストが居る中に自分が入っていくのは初めてだ。
ちょっと緊張しながらもベッドに潜り込めば、テンペストがニールの方を見ていた。
「ニールの近くに居られるというのは幸せな感じがします」
「ずるいよ、そんなに冷静でいられるなんて。ボクなんかずっとドキドキしっぱなしなんだから」
「私はそういうことをまだ感じられては居ないので羨ましいです」
「丁度良いくらいに分けれたら良いんだけどね。おやすみ、テンペスト」
「私はこれがずっと続いて欲しいと思っていますよ。おやすみなさい、ニール」
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「メイ、流石に寝ているときは……」
「でも、テンペスト様ってば多分脱ぎっぱなしとかですよ……洗ったりしなければならないですしそれだけでも回収を……あら?」
「どうしたの?……あっ」
夜中にようやく船酔いから回復した二人は、テンペストがやらかしているだろう事の後始末に来たのだ。案の定脱いでそのままにしてあった服を、ニールのものと一緒に回収するために入った時にそれを見てしまった。
「お2人の距離が私達が眠っている間に縮まったようです……」
「えぇ……どうやって縮めたんだろう?見たかったなぁ。テンペスト様とニール様って凄くお似合いですよね」
「ちっちゃい子同士のカップルってなんでこう可愛いんでしょう。応援したくなりますね!」
「とりあえず、回収したら出ましょう。起こしたらかわいそうです」
メイとニーナが立ち去った後、明かりを落とした部屋で同じベッドの中、顔を付き合わせる形ですやすやと眠る2人が居た。
賢者モードのニールは紳士です。