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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第一章 精霊テンペスト編
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第八話 初めての旅

 朝、桶に水を汲んで顔を洗う。

 キリッとした冷たい水が、朝の寝ぼけた頭をすっきりと覚ましてくれ、専任の使用人であるエマが今日着るものなどを一式用意してくれているのでそれを着せてもらう。


 もう、力を入れすぎて物を壊すこともなく、凸凹したところでも走って歩ける。

 階段だってこんなにもスムーズに昇り降り出来る。


 日々自分の成長を実感出来、以前は出来なかったことが段々に出来るようになっていく喜び。

 そして、出来ることが増えていくと、それに比例するかのように教えてもらったことの学習速度も上がっていく。


 現在テンペストが使える魔法は最初期に覚えた物が一通り。

 火魔法の火球。風魔法の風刃。水魔法の水球。土魔法の礫弾。タイタンワードの自己強化。

 しかもそれら全てが自己流でアレンジされ、同じ程度の魔力消費で威力が段違いのオリジナルワードが出来ていた。

 ガスバーナーの炎を再現したイグニッション。礫弾をアレンジしたストーンバレット。

 探知魔法の一種だが、マナを経由して居ないため逆探知が不可能なピット。


 特にピットは視覚に同期させることで、目で見ている景色に、赤外線を感知した景色を重ねることでリアルタイムで生物等を監視できるようにしていた。

 ちなみに名前の由来は蛇などが持つ赤外線探知器官であるピット器官から来ている。

 赤外線カメラの知識があったためにすんなりと出来たが、こちらの世界の人間ではそれをイメージしろと言っても出来るものではないだろう。

 なまじ魔力という万能の力があったために、かなり高い水準の生活ができている割に、全く出来ていない物があるなどかなり歪な印象を受けるのだ。


 畑を耕したり、土を掘ったりなどに関しては魔法使いでなければ手作業のみ。機械を使うというのも一部で歯車式の装置が使われる以外はあまり一般的ではなさそうだった。


 今はクロノスワードの時間操作でワイバーンを封印されて同期が出来ないので、細かいセンサー類の調節などが出来ないが、出来ればピットも更に解像度を増して更に使い勝手が上がっていくだろう。

 もう一つストーンバレット等は、現在ワイバーンに搭載されている物を目指しているが、弾頭が複雑すぎて今の状態ではまだ再現はできない。


 複雑な仕組みで動作する弾丸を作るにはまだまだ経験が足りないらしい。


 自分の部屋の窓の横の扉を開けて、朝日が照りつけるベランダへ出る。

 腕を上に上げて伸びをして……。

 くぅ……となるお腹を擦りながら食堂へと降りていった。


「おはよう、テンピー」

「おはようエイダ」

「ついに今日から王都に行くけど、準備は出来てる?」

「問題ありません。昨日の内に全てを背嚢に詰め込んでおきました」


 特に私物が多いわけでもないテンペストの荷物は、空間拡張がなされた背嚢一つで事足りる量だった。

 これから王への謁見と、魔術師ギルドを取り仕切る大魔導師と呼ばれる、現在最も強力な魔法を操り、その知識は全てが頭のなかに入っていると言われている老練の魔法使いの元へと行くのだ。


 ハンターとしての実績は無いが、サイモンとエイダと共に実戦を繰り返すことで、普通の獣までなら対応できるほどになっていた。

 魔獣や魔物はまだ経験していないが、それを想定した訓練も受けている。

 基本的に非力なテンペストは、魔力を温存しつつ、増魔の杖を使って現在の主力魔法であるストーンバレットを放つ。

 そこまで強い魔物とかでなければ相手に出来るだろうというお墨付きを得た。

 後は頑張って素材の石を更に硬化させるか、金属を扱えるようになればメインの魔法として使えるものになるだろう。


「ああ、起きたか。おはようテンピー、今日から王都に向かって移動するけど、大体4~5日程かかる。馬車は一応エイダ様を載せるために豪華なものだから普通の馬車よりはマシだが、それでも初めての移動はかなり疲れるはずだ」

「基本的に休憩の時以外は座りっぱなしですからね。でもあの馬車は2名程なら寝ることが出来ます」

「私は外で寝ます、エイダ様達は広い客車内でお休み下さい」


 エイダ達が乗ってきた馬車は大型で、座るだけなら8名ほどが乗れる。

 それを真ん中に板を渡して即席のベッドを作ることで寝られるように改造してあった。

 3人の他に前回は全員連れて行った精鋭は数名のみにして、残りは隠密を二人混ぜ通常の兵で警護をする。

 二人が寝る馬車の他にもう一台付いて行く荷馬車でサイモンは眠る。


 ちなみに兵たちは外のテントで交代で見張りだ。

 下っ端は辛いのだ。


 街を出て、ゆっくりと馬車が進む。

 テンペストにとって初めての長距離移動となる。今までの自分が見ていた空からの景色とは違って、ゆっくりと流れていくその風景がとても珍しく感じた。

 暫く遠ざかる街を見ていたが、ついに坂に差し掛かって見えなくなると、席について開いた窓から外を眺め始めた。


 王都まで行く道のりは、人工的に整備された曲がりくねった道を行くことになる。

 高低差のあるこの国では、直接高いところまで行くためには断崖のような所を登っていく必要があったりするが、そこは土魔法が得意な者達が少しずつ道を切り開いていったのだ。

 馬車でも通れるように広く、しっかりと固められた坂道は時にトンネルを通る。

 この長い坂道を通るために、馬車には制動装置と重量を軽減する魔法が付与されており、馬が潰れないように工夫されていた。


 そしてそれが終われば今度は登りが待っている。

 要所要所に休憩場所が作られ、馬車数台が止められるほどのスペースが有ったりするが、宿場町等は無い。

 この辺を通る人は多いが、あまり人を溜めすぎると魔物に狙われやすくなる可能性があって下手に作れないのだ。もっと安全に、早く通れるようになれば苦労はしないがそれはなかなか出来ない話だった。


 王都はカルデラの中に作られており、空から見るとクレーターの中に王都があるように見えるだろう。

 天然の城壁となる崖は高く、そこを超えるのは難しい。

 王都へ入ってこれる道は2つ、1つは上流から流れてくる川が天然のトンネルを通って王都へ流れ込んでくる。その後途中にある湖に入りそこからは地下水となってどこか別な場所へと続いている。

 もう1つは人工的に作られた巨大なトンネルだ。

 入り口には巨大な兵士の像が彫られ、トンネル内部も常に明かりが点っており、その大きさも巨人が歩いても大丈夫なのではないかと言われるほど。

 攻めこまれたりした時にはこれまた巨大な扉が上から何枚も降りてきて、トンネルを完全に封鎖するのだ。

 それを作り出した職人たちの子孫が今でもこの国の石工や鍛冶等、もしくは魔法使いとして活躍している。


「意外と揺れないのですね」

「道がしっかりしているからね。この国の主要な道は全て魔法によって固められているんだ。だから雨が降ってもぬかるんで動けなくなることがない。ここまできっちりやっているのはこの国くらいだろうね」

「山の上に造られた国ですから、天気も変わりやすいのです。突然雨が降ってきたり……この道が作られる前にはそれでしょっちゅう土砂崩れが起きたりなどして通れなくなっていたそうですよ」

「よく考えられているのですね」


 道の近くにある崖等は全て土魔法によって強固に固められている。

 それを維持するために、定期的に見回りまでされている徹底っぷりだ。


「テンピーのいた所はこういう所はどうしていたのでしょうね」

「方法は色々です。飛行機、鉄道、自動車などが殆どになるでしょう。この国の場合には空港が設置されて空を行き来するのが早そうです。また、各街を繋ぐ道は谷であれば橋をかけ、そうでなければこの道のように舗装しています。そこを馬を使わない自動車という乗り物で高速移動するのが普通です」


 飛行機というものは前にワイバーンの説明の時に聞かされたものの、鉄道と自動車はまた知らない単語だった。

 そしてその説明を受けた二人はまた驚愕する。


「馬が要らない車ですか……それに一度に何百人と乗せて走れる鉄道。一度見てみたいものです!」

「確か……以前魔力を使って馬車を動かそうとしたが、重い荷物を動かすことが出来ず、非力すぎる上に魔力をバカ食いするということで駄目になったはずだ。研究はしているだろうがまだ実現していないな」

「駄目だったのですか……そうなるとワイバーンを飛ばすのにはまた少し遠ざかりそうです」

「いや、そちらの魔力がない世界で出来たのだ。こちらで出来ないわけがない。少し希望が出来たようだな」


 こちらの方でも自動車に似たものは研究されているらしい。

 流石に馬に負担がかかる為、その補助としてでも使えないかと言うところから始まっているらしく、自力での走行も視野に入れて研究が始まったのは最近のこと。

 そろそろ何らかの成果は出てもいいところではないか、というのがサイモンの見立てだった。


 馬車はついに道に掘られたトンネルへと入っていく。

 暗いトンネルの中は魔晶石と言われる魔力を貯めこむ性質のある石に、光を放つ魔法を付与した光石によって進む先が照らされていく。


 テンペストは目が慣れず全く見えないため、ピットを発動して赤外線を可視化する。

 光石は熱を持たないようで、そこまで温かくは無いようだった。その光をキラキラと反射する兵士たち。

 その前方で熱源が動いているのを確認する。


「何か居る?」

「ん?……本当だ。おい」

「……はっ。今トンネルの中腹辺りに誰かが潜んでいるようだと隠密の方から報告が。警戒して進みますが、一応窓を閉めて盾戸を」


 解像度が低くぼんやりと丸い点がもそもそと動いているようにしか見えない今の状態では、武器を持っているかなどは分からない。

 近づいていき、数十メートル手前という所で光石の光量が一気に上がり、暗いトンネル内が明るく照らされる。


「そこにいるのは分かっている。出てこい」

「ま、待ってくれ!出る!出るからなにもしないでくれ!!」


 そう言って出てきたのは商人風のマントを纏った一人の男だった。

 覗き窓からそれを見ていたサイモンもとりあえずは大丈夫そうだと座り直す。


「商人の方か何かですか?」

「いいえ、賊ですよ。一見商人に見えますが……マントの下は武装しています。聞いていれば馬車が魔物に襲われて命からがら逃げてきたと言っていますが……そんなに靴が汚れていない」

「道中で魔物に襲われるというのは確かに有り得る話だと思うのですが……」

「ああ、でもね彼からは賊独特の雰囲気っていうのがあるんだよ。ああして怯えて見せているけど、よく見ればこちらの装備などを観察している。今も多分探知魔法でこっちの人数を正確に数えているはずだ」


 サイモンは外の兵士に戸を叩いて合図する。

 それを聞いた兵士は話を聞いている兵士にその内容を伝え……。


「荷馬車で良ければ乗れ。王都まで送ってやる」

「本当ですか!!助かりました、ありがとうございます!!お、お礼は必ず!」


 断るものだと思っていたテンペストとエイダは驚いていた。

 敵だと思うのならなんで連れて行くのかと。


「ああ、どうせなら全員出てきた所で処分したい。なに、エイダ様やテンペストが出る迄もないでしょう」

「そうなのですか……」


 小さな荷物だけを手に男が荷馬車へと乗る。

 どう見ても普通の商人にしか見えない。後ろを歩く兵と目が合うとペコペコと頭を下げていた。


 坂を降りきった所ですでに夕方になっていた。停車場で馬車を止め、手際よく兵士たちがテントを張る。大きな家型のテントが建ち、雨が降っても大丈夫なように底を上げて床を敷いていた。

 10分ほどで完成したそれは、かなり大きく兵士たちが全員で入っても余裕がありそうだった。


「それじゃあ二人はそこでゆっくり休んでいて欲しい。用を足したい時にはすまないが外でやることになる。見張りはつけるから安心していい」

「ありがとうございます。……じゃあテンピー、食事まで少し横になりましょう。座りっぱなしでお尻が痛いです」

「ええ、私もです……座席は柔らかいのですが、流石にここまでずっと座っていると辛いです」


 座席の合間を埋めるクッション付きの板を渡して、二人分の即席のベッドが出来上がる。

 靴を脱いでそれに横たわるとやっとで尻と腰の痛みが和らいでいった。

 これを後4回も繰り返さなければならないのか……とテンペストは少し後悔し始めていた。

 なにせ窓の外を見ても代わり映えのない山の景色のみ。

 そうでなければ真っ暗なトンネルの中だったのだ。楽しみなど欠片もない。


「……ワイバーンだったらこの程度の距離あっという間だったのですが……」


 王都までは約150キロ程度。曲がりくねった道なので直線距離ならもっと近い。

 当然、150キロでさえ時速1400キロを超えて超音速巡航するワイバーンは10分経たずに通過してしまう。


「とんでもない速さなのですねワイバーンは!あぁ、そんな乗り物があればこんな苦労はしなくて済むのに……」

「私のワイバーンをこちらの技術を使ってまた元のように飛ばすことが出来れば、同じものは無理でも早い物は作れるでしょう」

「同じものは無理なのですか?」

「人だけでは絶対に飛ばすことが出来ないのです。ですから私やそれを補助する物が積まれています。確かに操縦その物は人間が行えますが、ただ飛ぶだけでも補助を全て切った状態であればあっという間に墜落するでしょう」


 コンピューター制御によって、本来ならば安定して飛行出来るような設計をしていない戦闘機でも、負担を感じずに飛ばすことが出来る。パイロットが操作していなくても翼がピクピクと細かく震えるように動いているが、そういう細かい調整を行ってなんとか飛べるものだ。

 これは運動性能を上げるためにわざと安定を崩した設計をしているためで、これを人の手のみで制御し切るのはすでに不可能なレベルになっている。


 人を運ぶだけであれば、空力的に安定した物を作ったほうがいいだろう。

 それは昔、人力のみで動かしていた事を考えれば不可能ではないはずだ。


「いつか、空をそういうものが飛べればいいのですが」

「空を飛ぼうとしたことはないのですか?」

「いいえ?もちろん鳥や鳥の獣人達が飛べて、自分達が飛べないわけがない!と頑張って空を飛ぶ方法を模索した時がありました。空気を温めて空に上る方法が編み出され、上手く行ったのですが……飛竜の餌食になったのです。空には敵が多いため下手に空を飛ぼうものなら空を飛ぶ魔物達が襲ってくることが分かったのです」

「なるほど……それに対抗するには気球は遅すぎるということですか」


 当然、対抗するために武器を積み、魔法使いを乗せたけれど……風まかせの上に速度も遅い気球では逃げることが出来ず、なんとか戦えていても矢が付き魔力が尽きれば結局襲われて終わった。

 対抗するためにはそれらよりも早く飛ぶか、対抗出来るだけの武装を付けなければならないことが分かったのだ。


「だから、あなたのワイバーンは理想なのです。火竜よりも早く火竜よりも強い。あのような移動手段であればきっと安全に……」

「戦うための機体ですから、その為に犠牲になっているものも多数あります。多くの人たちが利用する為の物であれば、あれとは真逆の物を作らなければなりません」


 それでも武装などを取り付けることは出来るかもしれない。

 乗客を運ぶ以上は安全でなければならないが……。装甲を取り付けて重くするというのは航空機であれば考えられない。しかし、ここでは重量を軽減する魔法があるらしい。この馬車を操るときにもそれが使われているということなので、どれほどの重さを軽減できるかは知らないが使い道があるかもしれないのだ。


 ただ今度は素材というものにもぶち当たる。

 貨幣を教えてもらった時にミスリルという金属があるということは聞いた。他にも色々とこちらの方では知られていない金属があるそうだが、それがどの元素に当てはまるのかがまだ分からない。


「どうするにせよ、知識を深めなければ選択肢が増えません」

「王都に行けばあっという間ですよ、テンピーなら」


 □□□□□□


「食事を持ってきた。開けてくれないか?」

「今開けます」


 ノックとともに聞こえたサイモンの声で目を覚ます。

 どうやら話をしている間に眠っていたらしい。エイダは横になっていながらも眠っては居なかったようですぐに反応してドアを開ける。


 簡単ではあるけど量は多めの食事だった。


「ん……美味しい」

「料理当番の方が頑張ってくれたようですね。普通、ここまで手が込んだものを作ることはまず無いですから。私たちに気を使ってくれたのかもしれません」


 外はいつの間にか闇に飲まれ、時折虫の音が響く。

 遠くの山の方で青白い光が浮かび上がって空へと昇る。


「アディ、あれは何?」

「光虫です。手のひらほどもある虫で、腹のあたりが眩しいくらいに光るんです。目立つと襲われやすくもなるのですが、なぜあのように目立つような方法をとっているかは分かりません。ただ、群れることで一つの大きな生き物のように見せて襲われるのを防いでいるのだとは言われています」


 その神秘的な光景に暫し目を奪われる。

 目が慣れてくると、ぼんやりと光が灯る植物なども散見され、ここは本当に自分達が居たところとは全く違うのだと思い知る。


 馬車の側を見れば、停車場の敷地の縁にそって光苔と呼ばれている苔が植えられているそうで、ぼんやりと黄色い光を放っていた。

 暗い所にはこうして植えておくことで不用意に前に進んで崖から落ちないようにしているのだそうだ。


 馬車の中は光石で明るいが、だからといって何かすることがあるわけでもない。

 とりあえず自分の装備のチェックをして、弓矢と増魔の杖を出して眠りにつく。


 □□□□□□


「テンピー、起きて、テンピー」

「んー……なーに?アディ……まだ暗いよ?」

「精霊がざわついているの。サイモン様の言っていたことは本当だったみたい」

「……本当だ、ここから約30メートル程の所で複数の人間の反応がある。完全に囲まれています。サイモンは気づいているのでしょうか?」

「多分……。でも、一応念の為にこちらも用意しておきましょう」


 覗き窓から外をピットを使って見ると、白い光点が動いているのが分かる。

 こちらを監視し、いつでも攻撃できる状態だ。

 反対側の覗き窓について見ると、サイモンと二人の兵がすでに武器を手に構えていた。

 テントの中では全員寝ている中、一人だけ端っこに座り込み……抜け出た者が居た。恐らくあの商人風の男だろう。


「商人風の男が逃げました。それと同時にテントの中でも動きがあります。どうやら全員が気づいているようです」

「凄い……そんなに分かるのね。この暗い中でも周りが見えているのですか?」

「見える。少しぼやけたような感じになるけれど、100メートルほどの範囲までなら見えています。後でアディにも教えましょうか?」

「本当!?いや、でもそれはテンピーの技術だからそんな簡単に……」

「サイモンも、アディも一緒に旅をして異変を突き止めると言っていましたね。そして私は出来る限り協力するとも。ですからその協力の内だと思って下さい。二人にはどういったものかを知って貰って、広げていいものかどうかを判断して欲しいのです」


 テンペストにとっては広く認知された技術。

 しかしエイダやサイモン達には未知の技術。

 技術を公開して大金を手に入れるのは容易いが、それによって無用な争いが起きそうであれば公開はしないつもりで居た。そして、その技術を教える事に関しては二人は信用出来る。

 ついでに言えば、自分の言うことが理解出来なければ魔法はその効力を発揮しない為、再現できるかどうか分かれば、自分の知識を元にした魔法を他のものがどの程度扱えるのかどうかの目安にもなるだろう。

 どの道、大魔導師という人物の元で勉強し終えてからになるだろうが。


「敵、動きます」


 音を立てないようにゆっくりとこちらに向かってくる賊達。

 20人はいるだろうか、斧や剣などで武装している。

 その中の数人が弓を構えて引き絞ろうとした瞬間、突然弓持ちの背後から現れた者がその喉を切り裂く。

 ここまで全くの無音だ。


「……凄い……恐らくこちらの兵が二人、敵を削っています」

「え?音は聞こえないけど……」

「すでに5名死亡。死体に気づいたようですが何が起きたか分かっていないようです」


 テンペストの目には狼狽えている人の様子が見えている。

 顔の部分等の皮膚が露出したところだけが特に白く光って見える光景。

 熱を視るという通常の人間には出来ない目を持つテンペストだけが見える風景。


 こちらの陣営も動き始めており、逆に矢が賊に降り注いだ。

 バレたのが完全に分かった賊達は人数に任せて一気に近づき、数で押すつもりのようだが、光石の眼も眩む明るさが闇を裂き視界を潰される。

 

 ほぼ一方的に魔法や矢が打ち込まれて賊は壊滅し、リーダー格であろう男と、逃げようとしていた商人風の男が取り押さえられたのだった。


「皆さん本当に強いのですね……これなら道中も安全です。それにテンピーが居れば心強いです」

「そうですね。……サイモンがこちらに来ます」


 少しの間を置いてノックが響く。

 賊を倒したという報告だったが、全て見ていたというテンペストの言葉に苦笑いしていた。

 しかし手出しをしなかったということはこちらの言葉を信用してくれたという事でもある。精霊の声を聞けるエイダと闇を見通す眼を持つテンペスト。

 二人がいれば恐らく何も知らない状態でも不意打ちは効きそうにないな、と考えるサイモンだった。


「今回は来ることが予め分かっていたが、もし奇襲されそうであれば教えてほしい。対処はこちらでやろう」

「分かりました。とりあえず、今日はゆっくりと眠れそうですね」

「ん……流石にもう眠い……。お休みなさい、サイモン」

「明日の朝は起きるまで起こさないでおくよ。食事は取って置くからゆっくりと寝て疲れを癒やして欲しい」


 その間は外で指揮を取りつつ、荷馬車で一人横になるつもりで居た。

 流石に見た目が幼いように見えるとはいえ、エイダは18歳。テンペストは10歳の身体だが所々大人びて、所々逆に幼い子供のようなもの。そんな女の子二人が寝ている所に独身男性が入り込むようなことはするつもりがなかった。

 紳士である。

 そもそもテンペストは恐らく気にしないだろうが、エイダに手を出した場合物理的に首が飛ぶ。それがどんな英雄だとしても……。

ちなみに便をした後はエイダに浄化魔法をかけてもらっています。

まだまだ手間のかかる子。

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