第八十六話 まだ見ぬ大陸へ
出来るだけ早くとはいえ、今すぐにでも出発しろと言うわけではない。
ある程度の時間の猶予はもらっている。……まあ、飛空艇を作るには間に合わない程度ではあるが。
人選だが、向こうの状況がわからない上に戦闘になる可能性が高いため、やはりエイダはハイランドで待機ということになった。
ロジャーも待機組だ。彼には学園の指揮を取ってもらうという仕事がある。
動けるのはいつものテンペスト、ニール、サイラス、コリーの4人だ。
「ボク達はまあ決定として……後はギアズ?」
「彼は向こうの地理にはある程度詳しいでしょう。国状等は分からなくとも地形が分かるだけでも助かりますからね。後は隠密行動が出来る人ですが……。どうせハーヴィン候が来るなら1人貸してもらえませんかね?」
「その手があったな。名前は分からんがあの動き方はハンパねぇ」
以前、騒動を起こした者達を追跡する時に手伝ってもらった彼らだ。
闇に溶け込み、極限までその存在を薄くして誰にも気づかれずに行動できる彼らは、こっそりと情報収集するには適任だ。そもそもそういう使い方をする人材なので当然か。
国の方からは各国の外交官数名と取り巻きなど含めて大体40~50名前後、ハイランドのみ追加でハーヴィン候とテンペスト達一行が同行する。
総勢200名近い大使節団となり、更に兵士と船員、馬も連れて行くので世話係や……医師、治療術師などなど最終的には500人程度になる。
一応、余裕を持っている人数だがあまり増やしすぎても問題があるので、テンペスト達は最小限の人数で進むことになる。王国の方から護衛を付けてもらえるので戦力的にも不足はないだろう。
後程確認したところ、ハーヴィン候の方もテンペスト達が動くときには同行してくれるということだったので借りるまでもなく隠密がくっついてくることになった。
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メンバーが決まってから7日程経ち、仕事の引き継ぎなどを済ませた。
サイラスはギリギリまで設計をしてそこだけは終わらせていた。きちんと寝ていたのか気になる所だが……元気そうなので大丈夫だろう。
並行してギアズを元にして作ったテンペスト用の魔導騎兵も製作中だ。
これは完成次第ハンガーへと送られることになるだろう。
そして出発日当日。テンペストの屋敷の前で待ち合わせをしていた。
テンペストの家令は屋敷の統括をするため連れていけないので、同性の使用人であるメイを、サイラスも元ミレスの逃亡者であるラウリを連れて行く。
ラウリは相手の顔を覚えている貴重な人物だ。
サイラスもある程度は覚えているものの、恐らくラウリのほうが長く居た分少し雰囲気が変わっても見つけられるだろう。
「ニール、この旅でのあなたの侍従として彼女を付けます。身の回りの世話などをしてもらって下さい。ニーナ、今日から帰るまでは彼に仕えていて下さい」
「はい。今日から身の回りのお世話をさせていただきます、ニーナと申します。よろしくお願いいたしますニール様」
「え、あ、はい。よろしく……。え、何で?」
「今、ニールとサイラスは研究室の所長と主任という肩書で来ています。記録をしたり等は全てニーナにやらせて下さい。自分でやるとなると人を雇えない貧乏人として見られるそうです」
「あー……。ごめん全然考えてなかったよ、ありがとう。じゃあニーナ、改めてよろしく」
では……と荷物を持ち始めるニーナを制しようとして、テンペストに注意される。
荷物なども自分は持たずに堂々としていろということだった。
なんともむず痒いというか、落ち着かないが慣れるしか無い。
「あれ?コリーは?」
「コリーも自分の屋敷を持っているので当然雇っています。今、コリーの横にいる少年がそうですね。確か……ウルと言ったはずですが」
「へえ……」
コリーの横には荷物を持ったニールよりも少し背が高いくらいの獣人の少年が居た。
灰色の髪の毛と大きく尖った耳。人に近いが狼人だ。
コリー達と同じように鼻が効き、耳も良い。ただ体力と力は狼人のほうが上で、獣化という特殊な能力を持っている。
これを持っているのは獣人族の孤人と狼人、猫人の一部といったところだ。周りに溶け込んで獣視点での活動が出来るので便利な能力だったりする。
「集まってるな。ついに海か……」
「コリーは船は初めてですか?」
「ハイランドの大半は乗ったことないと思うぞ?な、ニール」
「うん。ボクも無いよ。なにせ船が出せるような海に面した土地がないからね」
「それならば船酔いに気をつけてください。……テンペストはどうでしょうね?船酔い等は……」
「私も初めてなので分かりません。対策はありますか?」
「……無いですね。慣れて下さい。こればかりはどうしようも……」
一応、酔いにくくする方法などはあるが、結局のところ慣れるしか無い。
酔い止めの薬なども無く、ハイランド勢はほぼ全員が船初体験の状態ではお手上げだ。
「まあ、乗る前の食事は控えておくと良いでしょう。向こうに着くまではかなり時間があるのでその間に慣れる……と思いますよ」
「不安しかねぇ……あれだろ?馬車酔いよりも辛いって聞いてるぞ」
「逃げ場ないですからね。しっかりした大地は望めないでしょうから」
馬車や魔導車であればまだいい。停まって暫く落ち着く場所がある。
しかし、海の上ではそうは行かない。波の上にある船は常に動き続けるし、陸地がなければ逃げられない。
一応、最短距離で一気に行くというのも考えているが、船で1日ほど行ったところにある島で一度休憩するということは決定している。
船に慣れていないハイランドの面々のための救済措置だ。
そこよりも先は凄まじい流れだという海流に阻まれて進めなくなるということで、まともに探索されたことは殆ど無い。
まあ、そこまでして遠くに行かなくとも、それなりに漁獲量などもあるためあまり外に出なかったというのもあるようだが。
オルトロスに分乗して乗り込み王都に向けて出発、到着してからは全員が揃うのを待ってからルーベルの港まで行くことになる。
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王都、王城前。
ずらりと並んだ王都の人員輸送用オルトロス。こうして10台がずらりと並んでいると、サイラス的には地球に居た頃の駐屯地などを思い出す位だ。
そこにデジタル砂漠迷彩のテンペスト所有のオルトロスが2台、サイモン所有のオルトロスも2台。
オルトロスはあれからも作り続けて王都に卸していたので、王国軍所属のオルトロスはかなり増えている。きっちりと乱れなく一列に並べられた状態を見るとやはり軍隊だなと思う。
これらは全て船に積み込んでいくが、テンペストは自分達とサイモンの物に関しては収納してハンガーに送っておく予定だ。
「やっぱり王都も魔導騎兵は持ってくんだね」
「コットスだね。流石にフォルティシアは居ませんか」
コットスは戦闘用に最適化された魔導騎兵で、サイラスのサーヴァントの下半身を人族型に変えて装備なども王都の注文通りにしたものだ。それを4機持ってきている。
大きな盾と剣を装備している物で、飛び道具は装備していない。
向こうに着いた時には暫くの間は出さずに船に置いておくつもりでいる。これで上陸したら色々と問題があるだろう。
オルトロスは移動に必須なのでもう使うことにした。
馬車もあるので近場は馬車で、遠出はオルトロスの様に使い分けるのが良いだろう。
「そういえば馬車は何処にあるの?」
「馬車はもう大分前に兵士と物資を乗せて出発している。久しぶりだな皆」
「サイモン、お久しぶりです。付いて来てくれるのは心強いです」
「他人行儀だな……。もうちょっと娘らしくして良いんだぞテンペスト?」
ちょっと悲しそうな顔をしているサイモンだった。
それはともかくとして、暫く皆と談笑していると突然周りが静かになった。
見ると国王達が来ている。訓示が始まるようだ。
「諸君、よくぞ集まった。これから諸君らが向かうのは海の向こう、これまで多くの挑戦者達がそれを破ろうと必死になり、そして散っていった先だ。未だに僅か数名しかこの大航海を成功させたものは居ない」
拡声器を使っているように声が響く。
音響関連の魔法でも使っているのだろう、色々と便利に使えるものだ。
大陸までの距離ははっきりしないが、今使われている帆船であれば自然任せの旅だったのだから相当な苦労があったはずだ。
テンペスト達が介入しなくても、モーターの様な物は出来上がりつつあったようなので遅かれ早かれ船の推進機関などに採用されていたかもしれない。
「しかし!それはもう過去のことだ。我が国の技術と設計を使った船が完成し、十分な検証を行った結果あの水流の壁を突破できることが明らかとなった。ルーベル、コーブルク両国の船乗りとしての技術と、我が国の技術を合わせてこれより誰も成し得なかった、他大陸との国交を結ぶため3国同盟使節団を送る事となった」
いきなり乗り付ける形になるが、今までも回数は少ないものの出来なかった訳ではない。
ただし、着いた頃には乗組員の大半が死亡していたりなどと悲惨な状況で、帰ってくることすらままならなかった。
それは当然向こう側から来るものも同じだ。
しかし、今回は違う。
サイラスによる機関部などの設計と、新しい船の形、それに加えてコーブルクとルーベルの造船所の技術協力によって全く新しい船が出来上がったのだ。試験のため進水し、問題のポイントを全く問題なく通り抜け、そのまま戻ってくることすら可能となった今、通常の航海ならば問題なく行えるといえる。
「諸君らはその栄えある第一号であり、歴史に残る快挙となるだろう。船の守りも硬く、皆も知っている通りカストラ男爵領のドレイク研究所で作られた強力な武器、堅牢な装甲によって守られたそれはいかなる魔物であろうと蹴散らす事が出来るだろう。新しい地を知り、新しい技術を知り、その地が有益であるか、隈なく調べ……必ず全員帰還して報告せよ。以上だ」
訓示が終わり、号令とともに全員がオルトロスやコットスへと搭乗する。
テンペスト達は……テンペスト、ニールとその侍従にラウリ。
そしてサイラスとコリー、侍従のウル、ギアズと振り分けられた。
「ではラウリ、お願いします」
「かしこまりました、テンペスト様。いよいよ船旅ですね」
「ええ、サイラスが設計した時には揺れは少なくなるはずだと言っていたので、従来のものよりは乗り心地は良いのでしょうが……」
「ボク達乗ったこと無いから比較できないよね」
車列が動き出す。
先頭に王国の騎士たちを乗せた戦闘用車輌、次に外交官達の車輌が並ぶ。
テンペスト達とサイモン達は最後尾だ。
一応、襲われた時に対応できるように……という事だが、そもそもこのコットスが並走している車輌になど近寄りたくもないだろう。
新しく作り直され、アスファルト舗装となった山道を下っていく。
広くなり、滑らかな路面となったことで、小回りの効くオルトロスはスイスイと坂を下れるようになっていた。
途中に出来た山肌を掘り抜いて整備した駐車場で一度小休止を取り、車酔いを起こした人達がぐったりしている横で、今までの苦労を知っている人達が揺れの少なさと速さに感動していた。
「テンペスト、トイレにいくなら今のうちだぞ。ここには簡易ではあるもののトイレが設置されたそうだ」
「そうなのですか?便利になったのですね。では行ってきます」
メイと共にテンペストがトイレへ消える。
きちんと中は男女別となっているので安全だ。
いそいそとトイレへと行く人達が増えていく。やはり女性陣には有り難いようであっという間に列ができていた。
男性は男性で兵士のような鎧を着込んだ者達が、付け外しに時間がかかったりして大変そうではある。
しばらくして車酔いの人達もある程度回復し、今度は平地まで一気に降りる事になる。
その後は一度道中の森のなかで一泊していく。
「そう言えば……あの箱ってどうなったの?こういう時に使えればとても便利だよね。物資の移動とか」
「ああ、全く進んでいないね。魔法陣が見えないんだ。恐らく、記述を完成させた後に起動するとそのまま謎の空間へと繋がるんだろう。こればかりはロストテクノロジーとなってるようだから分からないね」
「……失われた技術……なあ、博士。ギアズに聞いてみたか?」
「いや……というかさっきまで私も忘れてたくらいだよ」
失われた物を知りたいなら、失われた文明の遺物に聞くのが一番だろう。
空間に関してはかなり高度に使いこなしていたような事を以前聞いた記憶がある。
『ん?大量の物を収納できる謎の空間を持った箱?この国で使われている大容量の鞄などではないのだな?それならば「アウァドロ」などと呼ばれたものだろう。あまりにも物が入るということで「大食い箱」などと言われていた』
「あったんだ……」
『うむ。とある魔物の魔晶石が必要でな、これが少々厄介なやつなのだ』
「食らう者」や「人食い箱」と呼ばれる魔物だそうだ。
浮遊都市の時もそうだったが、ギアズの居た所はかなり直接的な名称を付ける傾向があるようだ。
人食い箱と言う名前の通り、箱の形を取って人の生活に紛れ込む。
そして何の気なしに開けた人を吸い込むという。
食われた者は戻って来ない。しかし、何故か物は戻ってくるのだという。
身体だけが消え、身につけていたものは全てその中に保管される。この時、元々そこにあった箱の中身も入っているので、恐らくこの人食い箱の正体は不定形の何かで箱が近くにあるとそれに入って獲物を待つのだろうと言われていた。
しかしその瞬間や、本体自体を見たものが居ないため生態に関しては謎のままだったのだそうだ。
ある日突然家にある箱が人食い箱に変化する……そんな恐ろしい魔物が現れたときは国中が大混乱に陥ったという。
人々は服をしまった箱を開けられなくなり、商人は自分の荷物を確認できなくなった。
当然ながら好奇心旺盛な子どもたちが犠牲となり、国を挙げてこれの対策に当たり……なんとも単純かつ気の抜けるような対策と弱点が明らかとなったのだった。
対策は常に蓋を開けておくと言うもの。
箱として認識されない限りは取り憑かれないことが分かったのだ。
そして弱点はなんでも吸い込むというその口そのものだった。
まず、蓋を開けた瞬間にその前にいる物が吸い込まれる。これを防ぐために離れたところから蓋を開けて確認し、もしも人食い箱であることが分かったらそのまま蓋を外すか、頑丈な障害物を置くなどして蓋が閉じるのを防ぐのだ。
後は放っておくだけで勝手に死に、後には元に戻った箱と、その中に吸い込まれた犠牲者の持ち物と元々入っていた物が散らばる。
『そして、その荷物の中をよく見てみると運が良ければ魔晶石が紛れているというわけだ。黒曜石のように黒く、光を当てても光沢が出ない不思議な魔晶石だ。どんなに明るい所で見てもそこだけがポッカリと穴があいたかのように真っ黒い影の様に見える』
「なにそれすっごい怖い魔物なんだけど!」
「それを加工したのがそのなんでも入る大食い箱ってわけですか。生き物を入れてはならないっていうのはそういうことか」
『別に、もう生きているわけではないから吸収されることはないが、生きているものは死体となって戻ってくる。……む、儂が入った場合はどうなるのだ?』
「適当なアンデッド放り込んだら分かるだろ。ギアズが入るのはその後にしとけ……」
便利だからという理由で、鳥の運搬に大食い箱を使った者がいて、いざ売り出そうと取り出したら全て息絶えていたそうだ。
しかし生きてさえいなければ問題なく、腐ることが無くなるなど、色々と有用であったそうだ。
今研究室に置かれている物も同じような感じだったので、やはり同じものと思われる。
ギアズが中に入ることに興味を示したが、流石に行った先がどういうものなのかは完全に未知の世界なので、他のアンデッドを収納してみてどうなるかを試してからにしようということになった。危険すぎる。
そういう話をしていたらあっという間に休憩が終わり、今日の野営ポイントまで進む事になった。
暫くはまたずっと狭い車内に篭りきりとなる。
だんだん周りが鬱蒼と茂ってきて、やがて下り坂がほぼ平らになっていく。
ついに山を降りきったというわけだ。
しかし舗装されているのはここまでで、今度は土むき出しの通常の舗装路となる。
当然乗り心地は悪くなるが、それ自体はエキドナで体験済みだ。オルトロスのサスペンションがあればある程度はなんとかなる。
車体が軽いためエキドナに比べると大分動くのは避けられないが。
「メイ、大丈夫ですか?」
「だ……いじょうぶです……」
「いやその顔真っ青だよ!?止め……られないか……」
自分たちだけなら車を停めることも出来るが、今は集団行動中だ。我慢してもらうしか無いだろう。
しかしメイの顔はかなり辛そうだ。
事前にサイラスに教えてもらった酔った時の対策をすることにした。
「メイ、ちょっとごめんなさいね……少し服を緩めます」
ピシっとした外出用の礼服のボタンを外し、コルセットを緩める。
助手席へと移動させて窓を開け、シートを倒して楽な姿勢にさせた。
「どうですか?少しは楽になるかと思います」
「はい、さっきまでよりはかなり楽です。申し訳ありません、テンペスト様……」
「気にしないで下さい。慣れていない以上防ぎようがありませんので、あなたのせいではありません。……少し目を閉じて眠って下さい」
「ニーナは平気なの?」
「はい。今のところ特に問題はありません、ニール様」
「あなたも服を緩めておいたほうが良いでしょう。服の締め付けも原因の一つなのだそうです」
「ありがとうございます。申し訳ありませんがそうさせてもらいますね」
身体を締め付けていた物を緩めて、ホッとした顔をするニーナ。
やはり結構辛かったのだろう。
車内にいる間だけでも楽な格好にしていないと、これから先もまた具合が悪くなる可能性がある。
そのまま暫く行った先で、突然車列が止まった。
今日の野営場所はもっと先のはずだ。
「ニール」
「うん。ちょっと待ってね……。……モニタに出すよ。あれ?コットスが動いてるね」
「……敵のようです。恐らく魔物ですね、コットスが対応に当たっているようですからすぐに終わるでしょう」
テンペストの感知には先頭車両付近に群がる魔物と、その魔物を次々と屠っていくコットスの反応があった。やや大きめの群れだったようだが、魔導騎兵であるコットスには太刀打ちできずに一方的にやられているようだ。
結局、テンペストの言う通り対して時間も経たずに掃討完了し、また動き始めたのだった。
「毎回思いますが、このオルトロスの機能はすごいですね。外の様子などがモニタに映し出せたり、夜になればどんなに暗くても見通せるようにしたり」
「この機能がついているのは私達の持っているオルトロスのみです。現在流通している物は戦闘用、人員輸送用含めどちらにもその機能は付いていません。この車輌には他にもあります」
上部に取り付けられているガトリング砲が乗っかったタレットや、それを車内で制御するためのガンナーシート。そして、簡易ながらも実はこのオルトロスには座席が二段ベッドになるように作られている。
5人まで眠れるようにしているのでわざわざ2台で分乗しているのだ。
ただし1人がようやく眠れる程度の狭いもので、上下の間隔も近いため窮屈ではあるが。運転席と助手席を繋げられるところが一番大きなスペースになっている……と言っても、頭と足の方に余裕があると言うだけなのだが。
「それなら外で野営しなくて良いのですね!常に気を張っているよりは大分楽です。見張りとかはどうするんです?」
「見張りは王国の兵が担当するそうです。私達も確かに武力を持っているわけですが、基本的に護衛として兵は付いてきていますし、私たちは彼らが護る対象となっているのです」
「では本格的に楽ができますね。何かあってもこのオルトロスが破壊されるとは思えませんし」
「そだね。最悪ボクがタレットを操作して蹴散らすことも出来るし、ここに座ったままで魔法も使えるから大丈夫だよ」
「そんな機能まであったんですか……。俺、本当に皆さんの敵に回らなくてよかったと思います……」
元々敵ではあったのだが。
今ではすっかりサイラスの下であくせくと働く忠実な部下だ。若干、サイラスを見る目が心酔している時があるので危うい気がする。ちょっと依存しすぎている感じがあるのだ。
戦闘能力としても、ちゃんとした師が付いて正統な剣術を学ばせているので、まともにやりあうならコリーと同格近くまで上がっている。
ちなみにコリーも最近は魔法だけではなく、きちんとした剣術、体術を学んでいるらしくめきめきと力をつけている。もちろん、コリーから教えてもらっているテンペストも年齢の割には大分強くなっているし、当初に比べればかなりの体力が付いている。
同時に魔力も増えており、ストーンバレットであれば十分継戦使用が出来るレベルとなった。
まだまだ成長期なのだ。
日が落ちて行き、野営ポイントまで到着した。
以前、テンペスト達が盗賊団を壊滅させた場所だった。あの後いつの間にやら綺麗に整備されて、かなり広い休憩所となっていたようだ。
いつの間に出来たのか、食事のためのテーブルとベンチが幾つか設置してある。
ただ今回は人数が多いため、外交官の人達が優先的に使うことになった。
テンペスト達はオルトロスの後部ハッチを開けて、そのすぐ近くにテーブルと椅子を用意していく。
その脇でテンペストが横2m、幅1m、高さ1mちょっとの大きめの箱のようなものをハンガーから呼び出した。
「えっ、テンペストそれ何?」
「簡易のキッチンシステムです。空間収納持ちでないと持ち運びには不便ですが、こうしてその場で取り出せるのであれば随分と便利ではないかと思って作ってみたのです」
「テンペスト様、使い方を教えてもらえますか?準備と調理は私がやりますので」
「ええ、お願いしますねメイ。もう体調はいいのですか?」
「はい!おかげさまでとてもスッキリしています。少し仮眠も取れましたので」
簡易キッチンの説明をしてその場で調理を始めるメイ。
それを他の人達が驚いたように見ていたのは誰も気付いていなかった。
ついに他大陸へ向けて出発です。
今回から新しい章へと移りました。まだまだ続くよ!
そして今回からは何かとニールがテンペストと同室になります。
もう完全にパーティー内からは夫婦扱いなので問題ありません。むしろ1人だけの女性なので同室に出来るメンバーが殆ど居ないという……。