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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第三章 束の間の平穏編
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第八十話 浮遊島探索

 ついに浮遊島の探索許可と、同行者が決定した。


 宮廷錬金術師のトーマス・ベッカー。長年城で錬金術を研究し、様々な発見を行ってきた。その殆どは化学反応によるものだが幾つかは魔法金属などに関するものだ。

 当然ながら新しく出来た研究施設の話は耳にしているし、そこでは先進的な事が行われていると知っている。以前から行きたいと思っていたが、極秘情報が多いということもあり許可が降りず……また、同僚たちはどちらかと言うと何であっちばかりがと文句を言う者達ばかりだった。

 その為今回の話が出た時に自分から立候補したのだ。

 無駄に足を引っ張りそうなものたちが行くよりは、自分が行ったほうが絶対に良いだろうと。ついでに何かしら色々と話を聞けたら面白そうだと。


 宮廷魔術師のクレア・アボット。女性魔術師として宮廷魔術師となった優秀な魔術師。

 繊細な魔法を操り、ゴーレムの生成などを得意としている。

 死霊術の知識も深いため、そういった事件が起きた時に調査に出向くのは彼女だ。

 こちらは立候補ではなく推薦だ。テンペスト達の反対勢力の代表のような形で出ることになったが、世間で言われていることが事実であるのであれば、それに従うつもりでもある。


 そして人員輸送ポッドはやはり10人乗りに組み替えたため、ニールや護衛も増やすことが出来た。

 護衛としてついてくるのは聴取を行った近衛兵隊長ギルベルト・アンブロスと、近衛兵より女性騎士のゾーイ・ラトクリフの2人だ。


 コリーがやはり不安だと言うことで、ポッドを組み替えて護衛を増やそうということになったのだった。

 実際やりすぎて悪くなるわけではないので、採用とした。


「錬金術師のトーマスです。サイラス博士、お噂はかねがね。お会い出来て嬉しいです」

「ありがとう。私も高名な錬金術師の一人と会うことが出来るとは運がいい」


 トーマスはそう言って握手を交わす。

 ニールのことも知っていたらしく、同じく握手をしていた。


「クレア・アボットです。魔術師で今回の調査ではその地下空洞にあるという魔術式を分析します」

「また会ったな。ギルベルトだ」

「ゾーイ。よろしく頼む」


 女性が居たのは少し驚きだったが、テンペストしか女性が居ないということにはならないのでコリーにとっては少し安心できる。


 そしてこちらはテンペスト、コリー、サイラス、ニールの4人。

 席数が増えたことでニールも連れていけるようになった。

 全員が念のためにフル装備で向かう。事前にサーヴァントが持つためのカゴを作ってもらったので、サイラス以外は全員そっちに乗る為装備が重くても問題ない。


「それにしても、こんなに吹雪いているのに……大丈夫なのですか?」

「問題ありません。視界が無くとも座標を使って正確に移動できますので。……では乗って下さい」


 全員が乗ったのを確認してワイバーンが浮き上がる。

 窓の外は全く何も見えないくらいに吹雪いているが、何の躊躇もなく目的地へと飛び浮遊島へと到着した。


 □□□□□□


「本当に普通に着いた……」

「彼らの事でいちいち驚いていると身がもたないぞ、ゾーイ」

「はい、隊長」


 ギルベルトとゾーイがそんな会話をしているが、錬金術師のトーマスと魔術師のクレアはとりあえずそれは置いておいて、この浮遊島の調査を始めていた。

 土を採取したりその辺の草を採っている。


 浮遊島内部はやはり結界があるようで、風も雪も特に入ってこなかった。

 気温も暖かくそこまで寒くない。


 ワイバーンを格納して代わりにサーヴァントを出すと流石にふたりともびっくりしたようだった。普通に食いついてきたのだ。


「カストラ卿、先程のはなんだろうか。突然あの大きな物が消えて魔鎧兵が出てきたのですが」

「興味深い、恐らく空間魔法の一種だと思いますが、ゲートを開けずにどうやって……」

「お前ら、食いつくのそこかよ……」


 マギア・ワイバーンには対して興味を持っていなかったくせに、魔法が絡むと突然これだ。

 あっちも魔法技術の塊なのだが、気づいていないらしい。


「ただの空間魔法です。広い空間に転送しているだけですが、私の出し方は少々特殊なようです……が、今はこの島に集中して下さい。すでに魔物が何匹か集まってきています」

「む、……確かに。この音……ソーンアスピスだ!絶対に近づけるな!」


 鱗の一枚一枚の先端が小さな毒針になっている蛇だ。

 体長は大きいもので5メートルほど。頭の後ろから首のあたりまでにかけての毒針は特に長く、威嚇する時にはそれが大きく開かれる。

 そして今、目の前のそれは威嚇を始め……。


 テンペストによる、大砲かと思うような音を立てて発射されたレールガンに貫かれ、一撃で沈んだのだった。


「気をつけ…………えっ」


 次にゾーイが声を出した時にはもう終わっていた。

 首を失って胴体だけでのたうち回る巨大な毒蛇だが、もう近づかない限りは全く問題ない。


「ニール、収納はしなくていいです。触るだけでも危険なので。帰りにまだあったら回収しましょう」

「あ、うん。そうだね。サーヴァントなら掴めるかな?」

「え、えぇ?」

「ゾーイ……、私も初めて見たがあれが彼らの力だ。遠距離は問題ないだろう。むしろ本番は皆がこの下にあるという遺跡の調査を始めた時だ」


 未だ今起こったことが理解しきれていなゾーイをギルベルトが宥める。

 そしてギルベルトの言う通り、彼らの力が本当に発揮される時と言うのは、下に降りてコリー以外の全員が調査を開始し始めてからだ。

 それまではほぼ全員が戦力となる魔術師であり、ハンターだ。


「テンペスト、それは洞窟内ではサイレンサー付けておいたほうが良いよ」

「そうですね。常時取り付けておくことにします。ではサイラス、お願いします」

「では皆さんこのカゴに入って下さい。今からサーヴァントで現場まで運びますので」


 □□□□□□


 道中はやはり不気味なくらいに魔物や動物が少なかった。


『クレアさん、この洞窟に入る時何か感じましたか?』

「いえ。むしろ奥に進むに連れて圧迫感を感じます。魔物が少ないのはその影響では?」

「ロジャー、何か感じますか?」

「クレアの言う通りだね。本当に、本当に僅かな差なんだけど少しずつ強くなっている感じ。博士はサーヴァントに乗ってるから余計に気づきにくいだろうなぁ。テンペストも意識すれば分かると思うよ」

「え、ボク分かんないんだけど……」

「ニールは大出力を扱うからじゃない?繊細な魔力行使をする人ほどこういう僅かな変化には敏感だし。テンペストも大出力に見えるけど、魔力消費自体はさほどでもないし、実際かなりの細かい事をしているから多分だけど……感じたり出来るはず」


 少し集中して肌の感覚を意識する。

 すると目に見えない膜に包まれていくようなとても微妙ではあるものの、確かに何かを感じた。


「結界、と言うよりは放射されているエネルギーといった方が分かりやすいかもしれません。魔物はその変化が気に入らないのでしょう」

「奥には強力な出力を持つ何かがあるということ。それがここを浮かせている物の正体でしょう」

『あ、大出力のマナ供給装置はありました。それじゃないですかね?ただ、私が見る限りではあれは供給装置であってその物ではないはずです。まあ今回はロジャーとクレアさんのように元々詳しい人達がいるのでもっと詳しく解析出来そうです』


 小さな戦闘は数回あったものの、危なげなく切り抜けていきようやく最深部の遺跡らしきところへと着いた。

 やはり力の出処はこの供給装置のようで、魔術式を精査したところマナを集めて貯蓄し、それを使って何かに魔力を供給している。

 残念ながら何処につながっているかは分からないが、まずは周りの探索から始める。


「ここからはサーヴァントは入れない。テンペスト、回収しておいてくれないかな?」

「分かりました。ではコリー、そして護衛のお二人には私達のサポートをお願いします」

「任せとけ」

「必ずお守りしよう」


 テンペストはこの場にいる人全員を味方で登録し直し、周囲を探るが特に問題はなかった。

 マナの濃度が高く、これは供給装置がマナを周辺から集めているからだろう。

 そしてサイラスが以前来た部屋へと向かう。


 何枚か置かれている地図の石版。

 厚さは5cmほどもあり、大きさも1m×1.5m程度。かなり重いので動かすには力が必要だ。

 元々置いてあるこの大陸の石版を見てみると同じ大きさで、更に下の台からは取り外して交換が可能になっている。


「交換すればその場所へと移動できるということでしょうか」

「多分。でも今はまだ下手に動かさないほうが良いと思う。博士、この駒を動かしたら移動したんだよね?」

「ああ、とりあえずそこからは動かさないほうが良いだろう。それとまだ石版は動かしてないが、交換する時には一度動力を止めなければならないとかだと、どうなるか見当がつかないだろうから動かさないというのには賛成だ」


 他には壊れた石版や、コップらしきものなどが散らばっているくらいで特に何も無さそうだった。


「ここには特に他に見るものは無さそうね。結局、この島を操作するための場所ということ?」

「恐らく……。この板を外せば何かしらの魔法陣なんかが刻んであるかもしれないけれども。あぁそうだ。テンペスト、この石版含めて全ての石版の地図を記憶してくれないか?」

「ああ、なるほどそうでしたね。ではこちらの方はもう終わりましたので、そこに立てかけられているものをお願いします」


 サイラスとギルベルトが二人がかりで石版を動かし、一枚一枚を瞬時に記憶していくテンペスト。

 それを見てクレアとトーマスが不可解そうな顔をしていた。


「……覚える……って、ただ見ているだけじゃないですか。まさかそれであの複雑な物を覚えているんです?」

「とても信じられないです。書き写しても相当時間がかかりそうなのに……」

「テンペストは少し見ればそれを完全に記憶できるよ。写本もそうやっているから、写本したものは全て覚えてるよ」

「……では……死の大海冒険記2巻142頁第3行」

「『のだ。』のみですね」

「おもしれぇ所指定したなまた……」


 丁度文末で改行されたところのみだったようだ。

 クレアも適当に指定しただけなので当たっているかは分からないわけだが。

 何故そんな場所を適当に選んだのか。


「……そこまで覚えていないとか、適当に有名な場所を言ったら嘘……と言いたかったのですが。逆に分からなくなってしまいました」

「せめて答え知ってるやつでやってくれ。意味ねぇだろ……」

「後で調べて答え合わせをすればいいでしょう。それより、これらの記録は終了しましたので次の部屋へ移動しましょう」


 テンペストが促し、他の扉を開けて行く。

 次に開けた場所は剣と盾を閉まっていた所なのかいくつかの壊れた物が打ち捨ててあった。


「これ、かなり古い形のやつだよ。今この形を作ってるのはコレクター用位かなぁ?これがオリジナルなのかな……刀身に何か書いてるね。『我が言葉は炎となりて刃に宿る』か、う、うわぁ!?」


 半分折れたその剣から、先程の言葉がキーワードだったのか突然刀身が激しい炎に覆われた。

 恐らくエンチャントの類だろう。


「びっくりした……あれが魔術式の変わりみたいなものだったのかな。やっぱり昔と今じゃやり方がぜんぜん違うなぁ」

「師匠も結構長生きだけど、もしかしてそれってもっと先……とか?」

「そうだよニール。これは恐らく何千年も前の物だ。これだけいい状態で残ってるのが不思議だね。それにしてもまだ発動するなんて思ってなかったよ……。むしろあれだけで発動できるんだね、今のほうが無駄が多い気がする」

「博士の説を証明するものにもなりそうです。一本回収していきましょう」


 言語を扱うようになって複雑な思考をしていくうちに、魔法の発動にイメージだけではなくそれにあった詠唱を付けなければ発動できなくなった。

 今のであればもう少し魔術式が複雑なものとなっていて、細かく調節は出来るようになっているものの……こちらの方は使い手がある程度調節できることから使い勝手としては上のようだ。


 その向かい側はまた完全に扉が閉ざされていたが、装飾が多いので何か特別な部屋だろう。

 ギルベルトが前に出て、その剣を気合とともに一閃すると……物凄い剣圧とともに扉が切り飛ばされた。


「……これだから本職はこえぇんだよ」

「ふふ、魔法ではそちらが上でも、剣ならまだまだ負けんぞ」

「今のはどうやって……?そう言えば私たちはあまり剣士の技というものを見たことがありませんね」

「そりゃぁ……そもそも近づかせてもらえないからな、テンペストの近くには」


 大抵は一方的に遠くから吹き飛ばされるだけだ。

 直接近接戦闘をしたことは殆ど無い。

 後で少し手合わせをお願いして、部屋へと入る。


 そこは大きな部屋になっており、その中心には魔晶石とそれを取り囲むように大きく描かれた魔法陣があった。ほんのりと青白く光り輝くそれが暗闇に浮かび上がっている。

 明かりをつけて全体像を把握し、解析に入った。


「中心は……普通の魔晶石です。特に目新しいものではないですが多少魔力を溜め込むことが出来るようです。魔槽みたいなものでしょうここから外側の魔法陣に向かって魔力が供給されています」

「そうね。トーマスの言う通りみたい。サイラス博士はこの魔方陣を見てどう思いますか?」

「んー……中心から外側に向かっての起動順で……内容は、ざっくりいうと重力の鎖を断ち切り宙に存在を固定する……ということのようですね」

「重力?」

「この大地に私達が縛り付けられている力です。物を投げれば必ず地面に落ちてくる。物を持てば重さを感じる。そういうものを作り出している力……そう考えて下さい」

「なるほど。ではこれは物を軽くするということか?重量軽減の魔法ならすでにありますがこのようなものではないはずですが」


 物が軽くなる……つまり質量が減ると言うのは、幾ら重力を無くしてもそれはありえない。

 物の重さである質量自体は残ったままだ。

 重量軽減はその質量をある程度軽減するという様に捉えられているが、実際のところ少し浮かせているというのが本当のところだろう。


 こちらの方は浮かすという点では同じだが、重力を断ち切って操作すると言う感じのようだ。

 重力のベクトルと、重力の強さを任意に調節することでその場にとどまることも移動することも可能となる。


 サイラスも一時的にグラビテーションと言って重力を操作する魔法を扱えるが、それのもっと規模が大きいもののようだ。


「……反重力など現実的ではないと思いこんでいたから、私は成功しなかったのか。彼らは純粋に「上に落ちることが出来れば浮かべる事が出来る」などと考えたのか?巨大な力で引っ張るという発想の転換だ。なるほど、やはり知識が邪魔をすることもあるわけだ」

「何を一人でぶつぶつと……?」

「ああいえ、ちょっと試そうかと。『重力の鎖を断ち切り我が意のままに使役せん。レビテーション』」


 唱えた直後は特に何も変わりはなかった。

 しかし、ゆっくりと足が離れていく。翼を使うわけでもなく、動力を使うわけでもなく……サイラスが浮揚する。


「おお……成功だ!何だ、とても簡単なことだったのか……あぁ、うん。なるほど……移動はやっぱり行きたい方向を指示していく感じか……うおっと!魔力が無い!」


 サイラスが慌てて地面へと降りてくる。

 思った以上に魔力消費が激しかったのだった。サイラスのリジェネレーションの速度を超えていたため流石に常時浮いていることは出来ない。

 しかしこれで物を浮かばせる、という方法自体は分かったことになる。


「あ、あなた……今どうやって……」

「そうですよ!サイラス殿我々にも教えていただきたい!」

「あ、あぁ……。さっき言った通りなんですが……。重力その物を操作するんですよ。投げたものが落ちるように空へと落ちることをイメージします。しかし、それをこの星の重力と釣り合わせるとそこに留まることが可能です。……まあここなら失敗して上に落ちても痛いだけで済みます。外でやれば下手をすればそのまま死にますからやるなら室内で練習したほうが良いかもしれませんね」

「空へ……落ちる?」

「いや、空へ飛ぶなら分かるけど落ちるというのは……」


 やっぱり想像しにくいようだ。

 しかしそれが想像できないとイメージとしてこの魔法を発動出来ないだろう。まあ、ヒントは伝えたので後はなんとかして欲しい。


「その「常識」が魔法の行使には邪魔のようですよ。まずは今言った通りに考えるようにしてみて下さい」

「『レビテーション』……出来ますね。なるほど……しかし……この魔力消費は私には少々辛いようです。あのマナを集める機構をもう少し詳しく調べればリジェネレーションをより強力なものに出来るでしょう。それと、これを利用して垂直離着陸が出来るようにワイバーンに魔道具を装備して欲しいです」

「なっ……なんで出来るのよ!?」

「何故だ……重力って何だ!?あぁぁ!飛べる技術が目の前にあるのに理解できないとは……」


 トーマスとクレアが、あっさりと成功させたテンペストを見てへこんでいる。

 ただしこの二人は特別だということはまだ彼らはあまり知らされていない。

 残念だがこれ以上の情報は開示されないため、自力で頑張るしか無いのだ。


「ボクも後で練習してみよう……」

「そうだね。でもテンペストかサイラス博士がいる時にした方がいいと思うよ。特にテンペストはキャンセル出来るし」


 最悪の場合、ジャミングかけて効果を消してしまえばいい。

 室内での練習であればそれでなんとかなるだろう。


 他にも研究日誌のようなものがあったので回収しておく。

 流石にここで開けるとぼろぼろなのでどうなるかわからないのだ。

 王都にこういったものを修復する専門の部署があるそうなので、そこに依頼することになるだろう。

 サイラスもこういった物の修復に関しては素人なのだ。


「この部屋の壁自体にも所々に魔術式が書かれています。クレア、見てくれないか?」

「ええ。これは……移動に関する物みたい。恐ろしく面倒な物が多くて見づらいけど」

「どれどれ?確かに移動だね。色々とくっついているのは加速度調節用の部分のようだ。これだけの質量を動かすのだから確かにここは必要だね」

「……博士……あなたは何者なんですか?これを見ただけですぐに理解できるなんて……」

「多分禁則事項に触れると思うよ?でも、ざっと見てそう思っただけだからね。数式らしきものが私が知っている形に近いんだ」


 巨大な質量を持つ物を、いとも簡単に動かすことの出来るこの魔法だが、動くときならともかく止まる時にいきなり制動を掛けるとどうなるかは慣性の法則を知っていれば分かることだ。

 島の上にあるものは全て、突然さっきまで飛んでいた速度で飛ばされるようなものなのだから、空を飛べないものたちはあっという間に吹き飛ばされ、この部屋に居たものも壁に叩きつけられて死ぬだろう。


「……やっぱり、サイラス博士と普通の魔術師では理解度が違うね。ボクも会って初めて分かったけどあの学問がどれだけ重要なのか分かった気がするよ」

「ロジャー様、流石にそれは私達に対する侮辱です!」

「事実だよ。宮廷魔術師といえど、知らないものは分からない。今の魔術式を見て理解できるかどうかでそれが分かるんじゃない?それにボクは君たちを侮辱したんじゃない。ボクを含めサイラス博士にこの知識で勝てる者はここに存在しないんだ」

「大魔導師と言われるあなたでも、ですか?私は錬金術師ということで少々畑違いなのですが、ここに書かれているのはそれほど高度なものなのですか?」

「ボク達が理解できない時点でそうだろうね。きっと。知りたければカストラ領に新しく出来る学園に入ればいいよ。ボクも一応ある程度は教わっているからこの式の意味は分かる」

「学園……」


 知識が欲しければ学園に来ればいい。

 気になる事もそこに行けば物理、化学、科学、数学に関しては教えられるだろう。

 医学はもう少し先になるか……。


「さて……まだ部屋はあるみたいだし、とりあえず全部開けてみようか」


 サイラスの言う通りでまだ部屋は3箇所ほど残っている。

 まだ魔術式等は残っているが、先に部屋を潰してしまいたい。

 この部屋から直接行ける隣の部屋は資料室のようだ。やはり幾つかまだ残っているものがあるが触るだけで崩れ落ちそうな状態だ。

 ニールに保管してもらって回収する。


「ここにある鉱石や魔晶石はちょっと珍しいですね……この辺では見たことがないものばかりです」

「何処に有るものなのですか?」

「これと、これと……この辺は海ですね。地上ではありません。こっちは砂漠で取れるものですからコーブルク付近でしょうか」

「でもトーマス、これは本当に見たことがないわよ……」

「これは分からないなぁ……皆さんはどうですか?」


 黒いクリスタルのような魔晶石のようだ。以前テンペストがペンダントに加工したものよりももっと濃いもののように見える。


「宵闇の森で似たようなものは見ましたが。アンデッドの魔晶石です」

「でもこれはかなり大きめで色も漆黒に近い……もしアンデッドのものであれば相当強力な……。あぁ駄目ですね、拒否されました」

「拒否?」

「たまにあるんだ。強力な魔晶石の中には意思が存在するものも有る……と言われているんだよ。ボクも見たのは初めてなんだけど、そういうのは自分が認めた者にしか従わないと言われてる」


 とりあえずそれらも回収して、さっきの部屋に戻りもう一度念入りに調べた後に浮遊島を後にした。

 この後は一旦研究所へ行き、成果物を精査する予定だ。



やっとで調査の許可が降りたので行ってみたらわりかしあっさりと浮遊の魔法を手に入れました。

魔術式として残っているものをなぞったのである程度は簡単に出来ますが、それもサイラスたちだからこそだったりして。

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