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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第三章 束の間の平穏編
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第七十六話 テンペスト社交界デビュー

注意:今日二度目の更新です。

「中の説明をしてくれぬか?初めて見るものがある」

「はい。では僭越ながら説明させていだきます」


 スイッチでベッドが壁に立てかけられるような形で収納される仕組み、照明に関して、サンルーフの開閉、風呂やトイレに関しての説明等など。

 食料さえあれば最悪の場合この中に篭ってずっと籠城することも可能に作ってあること、中の広さを僅かながらに犠牲にしてプレートを入れ、衝撃を吸収する素材を充填していることで大砲が当たっても問題なく、それによって静音性も増していること等など。

 全てが特別製だ。


「あまり狭いとも感じません、父上、これが前に言っていた乗り物ですか?」

「そうだウィル。そして彼らが例の方々だ。異世界からの渡航者、テンペスト・ドレイク・カストラ男爵。そして渡航者であり優秀な研究者でもあるサイラス・ライナー。彼らが居なければ絶対にこの様なものは作られなかっただろう。リヴィもお前の使っている魔道具の幾つかは彼らの作品だ」

「まあ!そうなのですか?」


 周りの目が無くなったので、国王が渡航者であるテンペストとサイラスに敬意を持って接している。

 ただ、自分たちとしては保護してもらっているという感覚が強いため、少しむず痒い。


「ウィル、リヴィ。彼らはハイランドに力と富をもたらした英雄だ。特にテンペストは少女の形ではあるが精霊が顕現した姿なのだ。いずれ話すつもりであったがここで言っておこう、遠からず異変が起きる。それも過去最大級の危機が訪れるだろう……最悪の場合国だけでなく、この世界そのものが滅びるという」

「精霊……。渡航者……なるほど、渡航者が現れた時にはそれの対となる異変が起きるという、あれですね?」

「どうなってしまうのですか!?テンペスト様、サイラス様!」


 ウィリアムは少し冷静なようだ。逆にオリヴィアは少し狼狽えている。

 王子は王様に似たようだ。あまり感情を出さずに常に冷静で居れるのだろう。


「必ず食い止めます。ご安心を」


 テンペストの言葉で少しホッとした表情を浮かべるオリヴィア。


「彼らはそれを食い止める為にも必ず必要なのだ。異変は厄災となり全てを飲み込む。それを止められるのは対となって現れた渡航者のみだ。それは、技術であったり、知識であったり……。今回は特に異常と思える。この様に2人も居たことは文献には無い。ましてや異世界の精霊となればもう、我らには手の出し用が無いほどの事が起きるのだろう」


 事実、暴走すれば惑星ごと消滅しかねない物を作られてしまえばその危険度は何よりも高い。

 それだけの危険な知識を得た狂人が今でもどこかで生き延びている可能性がある。

 エイダのお告げで異変の終了が宣告されない限り、終わっては居ない。


「だからこそ、我々は彼らに敬意を払い、異変を阻止するための手助けを最大限行わなければならない。周りの戯言には耳を貸すな。信用出来る者達以外にはこの話もしておらぬ。取り入っているのではなく、こちらが助力を願っている。翻意があるのではない、あればとっくにハイランドは焦土と化しているだろう。彼らにはそれを成すだけの力がある。彼らはハイランドに何を残した?新しい学問、新しい技術、新しい発想、その全てが有用でこれまでのものを全て変えてしまうものだ。では問おう。戯言を言うものは何を残した?」

「……少なくとも、今挙げられたような功績は全く。幾つかの勲章を得た位でしょうか」

「そうだ。勲章も魔物を退けたかそうでなければ最近の戦争で活躍したくらいだ。それも、飛竜を狩り、ミレスでの戦いでは誰も近づけぬ壁を破壊し、たやすく内部へと侵入していき、国はいくつかの建物を除いて崩れ去った。当然、どちらが上かなど誰でも分かることだ。妬む者は多いが確固たる実績を残していったのは事実。それは揺らがない」


 当然といえば当然だろうが、内部の方でもある程度は色々と憶測が飛び交い、警戒しているものも居るという。

 酷いものは王にテンペストが身体を売り込み、愛人となっているからだ……と言うものだ。不敬にも程があるため、既に監視が付けられている。


「しかし、私はどうにもテンペスト様がそういう事をする方には見えないのですが……」

「リヴィ。先程も言ったが見た目は子供でも、中身は精霊。それも大精霊であろう。リヴェリの老獪な者と同じく見た目で判断するな、それに……」

「では、私からお伝えしましょう。見たことが有ると思いますがマギア・ワイバーンに乗っているのはコリーです。しかし、あれは私が居なければまともに飛ぶことは出来ません。私は、元々あの機体の元となった戦闘機と言う空を飛ぶ機械と、搭乗者との意思の疎通を円滑にするために存在していました。その後ここに飛ばされてきてからは、この少女の身体を得て暮らしていますが……本質はマギア・ワイバーンその物です」

「え、っと……つまり……」

「本来ならばマギア・ワイバーンという機体が本体で、こちらの肉の身体は仮の存在と言ってもいいのでしょう。この身体を得てから色々と思考が変化してはいますが。自分でも随分と人らしくなったと思いますよ」

「だからこそ、あの機体は一機のみ。増やしたくとも増やせないのだ。あれを動かせるのが唯一テンペストという精霊だけであり、その制御の一部を担当しているのがコリーだ」

「ですから鉄の竜騎士の称号を2人が持っているわけですのね……」


 本当に、自分でも人間らしく振る舞っていると思う。

 最初こそぎこちなかったものの、基本的な動作を覚え、言葉を操り、少しではあるが感情を表すようになり、またそれを僅かでも理解している。

 この身体で生きている。


 王子と王女は自分があの機体そのものであるという事が衝撃だったらしい。

 元々アレのコンピューター内に居たが、まさか引きずり出されて人間として生まれ変わるなど、むしろこちらのほうが予想出来なかった事だ。


 そして色々とやっかみを受けている事も知った。

 ちょっとした警告なのだろう。しかしその理由を下手に明かすわけにもいかない。難しい所だ。

 後に控えている諸々に少しばかり不安が出てきた。


 内部での説明を終えて外に出る。

 正式に納品し、それを国王が受領する。音楽とともにエキドナの鍵を国王から運転をする2人へ贈り、彼らもまた正式に運転手としての任命を受けた。

 ゆっくりと奥へと誘導されていく王室用のエキドナを見送り、自分たちのエキドナは少し離れた別な場所へと置かれることとなった。

 周りに高級馬車やミレス製の魔導車が止まっている中で一台だけ異様な雰囲気を出している。

 その脇にサイラスのサーヴァントも片膝をついて待機していた。


「……目立ちませんか?」

「そりゃね。だがここを離れる訳にはいかないよ、ラウリ。何をしでかすかわからない者たちが多いからね」

「何かしたくても出来そうにないと思いますが。このエキドナ、防御に関しては王族用のものよりも凄いじゃないですか」

「あっちはデザイン重視だから仕方ない。それでも相当な工夫をしているくらいだね。とりあえず、全てのドアをロック。勝手に開けようとしたら暫く動けなくなる程度には苦しむようになってるから」

「外のサーヴァントは?」

「とっくに。こっちよりも悪辣な物を仕掛けてるよ。二度と近寄ろうとも思わないようにね」

「……どういうものかは聞かないことにします……」


 どうしてもあの時の記憶が蘇ってしまう。

 そもそも自分たちが今いる運転席と助手席にはいくつかのモニタがあり、それら全て外部を監視するためのものだ。

 一つは運転席の上部に取り付けられており、自由に視点を動かせるうえにズームも可能だ。


「……大丈夫ですかね?」

「大丈夫だろ。陛下もアレを気に入ってくれたし、そもそも陛下はこちらの味方だからね。色々とあるだろうがテンペストを脅かす事はそのまま国家への叛逆と捉えられる可能性もあるくらいだ」


 世界を救おうとしている時に、それを妨害するのだから知らないとはいえ事が終わるまでは閉じ込められたりくらいはするだろう。

 そこまで事を大きくしなくても、きつい監視が付くのは間違いない。

 とりあえず、帰ってくるまではここから動くことは出来ないのだからゆっくりと待つことにする。


 □□□□□□


「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありませんでした、王妃様」

「いいえ、あなたのしていることがどれだけ大変なことかは知っています。私達の未来のため、きっと成し遂げてくれると私は信じていますよ」

「はい、必ず」


 予定通り王妃に挨拶を済ませると席へ着き、優雅なお茶会が始まった。


「あなたが噂のカストラ卿ね?色々と活躍成されているようですね?」

「飛竜を一撃で倒したとか。でも活躍されているのはナイトレイ卿ではなくて?」

「授爵してから一度もお顔を見ておりませんでしたが、とても男性ウケしそうな可愛らしい方ですね」


 最初に声をかけてきた隣りに座っている彼女……年は20で近くて遠い土地である、カストラ領の山を隔てた側にあるローチ侯爵夫人以外はどこか棘がある。


「これは失礼致しました。私も出席をと思っていたのですが、国王陛下からの指示を受けて動いていたためお披露目も出来ませんでした。改めて……、カストラ男爵領を拝領し、男爵を授爵しましたテンペスト・ドレイクです、以後お見知りおきを。ローチ様においては近くに居ながら挨拶も出来ず申し訳ありません」

「構いません。夫も城で働いておりますので、色々と聞き及んでおります。とても忙しく話を聞いただけでも私は倒れてしまいそうでした。こんなに可憐な少女になんという重責を課しているのかと思うと、とてもとても」

「お気遣いありがとうございます。しかし……時間もなく、やらなければならないことばかりでしたので。今は少しの間、落ち着いていますが……また暫くすればこうして顔を出せる時間も無くなるでしょう」


 船の完成と、装備の充実が整えば出港することになる。

 その前に幾つかの研究くらいは終えて置かなければならない。言葉も分からない場所でどうしていくのか……まあこれに関しては一つ試したいことがある。

 必須なのは浮遊島の研究と、魔導騎士だろう。


「そんな、忙しいを理由にだなど、カストラ卿はこういう社交の場と言うものを軽視されておられるのでは?」

「そうですわ!忙しい忙しいなど……私達だって忙しいところをこうして来ているのです。皆それでもこうして集まって場を大切にしているのにあなたという方は……」

「あら。エリー様、それではあなたは忙しいのですか?いつもいつも男漁りで困ると聞いておりますが?それに……あなたが担当している染織工房ですらまともに経営出来ていないと聞きますよ?」


 眉間にしわを寄せてテンペストに文句を言う伯爵令嬢。立場としてはテンペストのほうが上なのだが年齢的に上ということもあり強気のようだ。

 しかしそこにローチ夫人がちくりと刺すとかなり渋い顔をしているので指摘は本当なのだろう。


「ぐ、仕方ないじゃないの。お金も稼げない職人が悪いのよ」

「何もせずに職人に投げっぱなしにするからじゃないの。私のところも同じ様なものですけど、きちんと指示をして、販路は私達が作るのよ?職人は作るために居るの、売るためじゃないわ。それはまた別な仕事」

「じ、じゃぁカストラ卿は何をしてそんなに忙しいのかしら?」


 問題をすり替えてきた。

 が、答えられないことはぼかすにしても、やることは実際かなり多い。


「そうですね、領主ですので……領地の開墾、周辺の魔物の排除、税金の管理、各種公的設備の整備、建築、街の警備等などそれらの報告書に目を通して適切な指示を与えています。また、研究者として研究所の設置、それに伴う研究設備の充実、実験用の資材調達の指示、昔の研究などを写本し文献として編纂。魔術師として魔法の研究、魔法の最適化と高効率化で現在最終調整中です。ハンターとして現在のところワイバーンでしかまともに狩ることの出来ない飛竜などの危険な魔物を優先的に狩っていますし、商人としても領地内で採れる宝石類の発掘、加工を領地内で行い、販売しています。また国王陛下やその他国からの以来などにより、特別任務が課せられる時があります」

「あらあら……本当に忙しいのね……。一人の仕事量じゃないわよ」

「嘘よ……!そんなに出来るわけない!」


 しているのだから仕方ない。実際にやるともっと多い。

 エリー様が色々キーキー言っているものの、話題はすっかりテンペストの方へと写っていった。


「私の夫よりも仕事しているんじゃないかしら……」

「写本、あぁ!そう言えばあなたの写本した物を持っているわ!とても美しい字と絵、整えられた文章、全てが完璧でした一字一句間違いはなくて重ねてみても同じ文字は必ずピッタリと合うのです」

「私の夫の書棚にそういえば……」


 写本というキーワードで思い当たる物があったようで、一人が暫く考えていたがやはり持っていたようだ。今の今まで名前を聞いたことがあると思っていたようだが、これでスッキリしたみたいだ。

 そこから今度は写本の話になり、研究の話になり、飛竜狩りの話へと変わっていく。


 最終的に同じテーブル内では一人を除いてこちら側に集まったようだ。

 別なテーブルへと移っても色々と話を聞かれたりなどしたが、やはり一定数はかなり敵対心が強いようでチクチクと口撃しているのだが……特に問題なかった。

 実力行使に出ないのであれば問題ない。


 元の場所へと戻ってきて、また少しローチ夫人と話をする。


「年齢通りとは思えないほどに堂々としていますね」

「そうでしょうか。いつも通りであると思っているのですが……」

「あれだけの人数に囲まれていて、それぞれにきちんと答えていたのも凄いですわ。あの山さえなければお隣ですもの、少しは遊びに行けるのでしょうけど……」


 山は長く険しい。直線距離ではとても近いのだが、ぐるりと迂回して来なければならないため王都に行くにも無駄に時間がかかっている。


「トンネルを掘れば行けるでしょう。あそこの立地は王国の方でも問題視していたものの解決策がなかなか出なかったため放置されていたようですが。少しすれば開発するための装備が出来ます。もしよければ共同で開発というのはどうですか?」

「カストラ領へ繋げることが出来るの?素晴らしい提案だわ。主人に言ってみましょう、街のつくりもとても革新的であると聞いています。もちろん、私達の方へも遊びにいらして下さいな。私達の街は織物の街です。これからの時期とても暖かい物を作っていますよ。酪農も盛んなのでチーズなども多いですね」


 どうやらお隣とはいい関係が築けそうだ。

 ローチ領からカストラ領へと入ることが容易になれば、それはつまり王都へも楽に行けるということ。鮮度が命のミルク等は特に苦労していたということなのでかなりの時間短縮になる。

 そして、こちらとしても自分の街を経由させることで宿泊や購入と言った面で収入を得ることが可能だ。

 隣とはいえ距離的には結構離れているので馬車だと時間がかかる。

 途中での休憩は必要だろう。……となると宿を整備しなければならなくなる。また、開発をしなければならないようだ。


 そして他国と王都以外では初めての領地間でのやり取りとなる。

 特産品がかち合っていないのでかなり友好的に出来るだろう。こちらとしても肉やチーズなどはずっと王都から購入していたこともあるので買える場所が増えるのは嬉しい。


 □□□□□□


「……疲れたぜおい……」

「お疲れ様ですコリー。どうしたのですか?」

「コリーは頑張ったみたいなんだよ。テンペストと訓練してたせいもあるのか、本職とも結構いい線まで行ったりしてね。で、皆から模擬戦を申し込まれたってわけ」


 俺も俺もと問題児と呼ばれたコリーが男爵となり、その技を近くで見ていなかったものにとってはコリーの技術は変則的なものにまで対応する技術へと変わっていた。

 以前は力任せに振り回していたのに、駆け引きまで出来るようになっていたのだから面白くて仕方ない。結局その場に居た者達ほぼ全員と戦う羽目になったという。


「兄貴の野郎、本気でやりやがったぞ!?こっちは本職じゃねぇっつのに」

「話で聞いてただけだけど、かなり避けてたみたいじゃない?終わった後彼のほうも若干疲れてたみたいだし」

「師匠も相当いいとこまで行ったらしいな?」

「今回は地形にも恵まれていたからイケルと思ったんだけどね……」

「正直、そちらのほうが楽しそうでなりませんね」

「まあ確かにな。テンペストなら絶対こっちのほうが合ってる」


 そして舞踏会の時間がやってきた。

 午前中から昼過ぎまでテンペストが居た大きな広場は壁際にテーブルが移動して、真ん中の部分が大きなダンスホールへと変化する。

 様々なお酒やお菓子が並び、一段照明が落とされて楽団が端っこの方で音楽を奏でる。


 衣装も変えて会場へ向かうとサイモンを発見した。


「あぁ、テンペスト。大変だっただろう?嫌な思いはしていないか?」

「大丈夫ですサイモン。それよりも隣のローチ侯爵夫人といろいろと有意義なお話ができました」

「へえ……夫人も若くして結婚し、領内の清潔さを大事にしている方だ。そのあたりでもアドバイスが有るなら言ってあげると良い。お陰であの領地の病人は他の場所と比べてかなり少ない」


 畜産と酪農が盛んな為、街には肥料である糞の匂い等が充満し、窓を開けられなかったらしい。道に汚物が落ちていることも当たり前で衛生状態が悪かった。

 当然領内は酷い状況で病人も多く、食品を扱う街としてこれはどうなのかとブチ切れた。


『領内に病人が多いですって?当然でしょう!これだけ悪臭にまみれているなら気も滅入ります!まずは平民街貴族街合わせて道をきれいに保ちなさい!ひとかけらでも糞が落ちていたらそれを拾って所定の場所に捨てさせるのです!』


 こうして糞尿は一箇所に集められ、道も整備されて全ての家庭に下水を繋げた。もはや意地だ。

 家畜の居る場所も必ず洗浄して清潔に保ち、家畜自体も体についた糞等を綺麗にすることを義務付けた。

 更に乾いていれば別に臭かった糞も臭わない事に気がついた彼女は、畜舎の中も換気して常に乾燥した状態にさせ、一箇所に集めた糞も肥料となるまでほったらかしにせず、屋根と壁を設けて雨水などが入らないようにし、更に表面が乾いたら中の湿っている部分を出して乾かしてということを繰り返し徹底させた結果……。

 作物もよく育つようになり、悪臭の問題もかなり減り、街は綺麗に保たれるようになったのだった。


「サイラスがそれに関係するものを作っていたはずです。伝えておきましょう。きっと喜びます」

「あそこで成功した事で、他のところでも余裕が有る所は真似し始めていて、色々と改善されている所だ。次は舞踏会だがダンスは覚えてきたか?」

「ここ暫くずっと教えてもらっていましたので」

「俺とやってたがかなり上達した。飲み込みが早い……一曲目は俺とやって少し緊張をほぐそう」

「それが良いね。ずっとペアでやってたからやりやすいだろうし」


 大体誰とやるかは決っている。テンペストは一応婚約者が居るということで誰とは公表しないが、他の男性とはあまり踊らなくて済むようにと、コリー、サイモン、ロジャーが入ってくれることになっている。

 もちろん身内だけと踊るわけにもいかないのでそこは仕方ないが。


 壁の方で果物やチーズなどを楽しんでいると、一曲目が始まる。

 最初に出てきたのは王族や公爵家などの上の身分の人達だ。王子と王女も居た。

 男女ともにこの場がもしかしたら自分の伴侶となる人が出来るかもしれないということもあり、ビシっと決めている。


 ダンスホールを上から見ればまるで花が咲く様にくるくると、色とりどりのスカートが広がったり、すぼまったりしながら会場内を移動しているのが見えるはずだ。

 その席は国王達王族や公爵など、一部の者達が居るのだが。


 壁の方でも子供を連れた夫人が挨拶に回っている。

 自分のところの子供を他の貴族たちに紹介して将来のコネ作りをしているのだ。

 酷い時には「女の子が生まれました」みたいな事を言ったら「ではうちの息子と結婚させましょう」と話が決まっていくときもある。生まれた直後、下手すれば生まれる前から婚約者がいる場合もあるのだ。

 それが好みじゃなかった場合どうするのだろう?とは疑問に思う。


 待っている間にも、挨拶に回ってくる人達は多かった。

 やはり結婚目当ての男たちが多い。

 歯が浮くようなセリフを真顔で言ってのける彼らはある意味すごいと思う。


 何人かがダンスの申し入れをしてきたので、ヴォルクが一覧にしてくれていた。


「……それで、私は誰と踊ればいいでしょうか?そもそもほとんど皆知らない名ですが」

「有名な方も多いですよ。そうですね、コリー様達と踊られるわけですから大分少なくて済むでしょう……ローチ侯爵夫人とは面識があるようですから、丁度いいですね、ローチ侯爵も先程来ていました」

「あの背の高い方ですね。分かりました」

「他には……ガウス子爵。この方は数学者として有名な方です。きっとテンペスト様の研究が気になっているはずですので。年も若く優秀な方ですが、少々自領のことを他人任せにしがちなところがある方です。リグビー男爵もおいででした。彼はそうですね……芸術の才があります。特に彫刻などに関しては素晴らしいものを趣味で作ってらっしゃるほどで、街もやはり芸術の街として栄えております。芸術と言うものは人々の心を癒やす物にございますから……」

「了解しました。ありがとう、ヴォルク」


 優先度が高そうな人でさっき誘いに来たのはこれくらいだろう。

 ローチ侯爵はともかく、後の2人は恐らく研究絡みで気になっているに違いない。

 うちに嫁に来てくれとか言われなければそれで構わないのだ。


 というか、ヴォルクは見事に結婚のお誘いを遠回しにしてきた貴族をはねている。

 その内ニールが頑張って這い上がってきてくれるだろう。


「コリーは誰かお相手は居ないのですか?」

「ん?んー……今はまだ身軽な方がいい」


 男性陣が動かずに居ることで、誰かと踊る意思はないのかと聞いてみる。

 なんとなくでも気に入っている人が居るのなら踊って縁を繋いでもいいと思ったのだが……。

 コリーはまだ面倒くさい、と思っているようだ。


「サイモンはどうなのですか?」

「……いや……別に私は……」


 実際のところ結構お誘いはあるのだ、サイモンは。

 しかし未だに結婚する気がない。


「いやぁ、僕もハーヴィン候には早く跡継ぎを作ってもらいたいところだね。人族はただでさえ寿命が少ないのだからもう少し頑張ってもらわないと」

「私は養子ですので継承権がないのですから何とかして欲しいです」

「いやしかしなぁ……ううむ」

「俺みたいに遊び足りないとかそういうのじゃないのに、何を迷っているんです?」

「迷っているわけじゃない。……あまり気が乗らないんだ。どうにも信用しきれない感じでね」

「まさかあっちのケがあるとかじゃ……」

「それは断じてない!」


 周りから色々と言われすぎた結果、破滅させようと近づいているのではないかという疑心暗鬼になってしまっている。

 ロジャー達に関しては元々面識があったので特に問題ないが、それ以外の人に関してはあまり近づけようとはしないようだ。


 テンペストとサイラスはそもそも別なところから来ているせいか、変な勘ぐりなどは発生しなかった。

 むしろテンペストのことはかなり可愛がっているといえる。


「でもテンペストももう相手見つけてるんだからさ?」

「何?それ本当か?!」

「ええ、本当です。ニールですが」

「ニール……?また以外な奴が出てきたな……。しかし出自はどうあれ彼は裏表のない良いやつだと思っているし、何より魔法という点においては特に合いそうな気がするね」

「あれ?怒らないのか?」


 思っていた反応と違ったので少しびっくりするコリー。しかし等のサイモンは何故?と言う顔でコリーを見返す。


「よくわからんが……何故怒らなければならないんだ?訳の分からんやつとというわけではないし……ニールに何か問題でもあるのか?」

「いや……どっちかというとテンペストのことが好きすぎる位かな?」

「何の問題もないじゃないか」


 表裏がないからこそ、その言葉も本当だろう。

 であればテンペストがそれを受け入れるというのであれば、それに口を出すつもりもない。

 それにこのメンバーで行動する以上、全員が何かしらの地位を持てる可能性が高い訳だからそのへんも問題ないだろう……とサイモンは考えている。

 いざとなれば自分の領地に呼んで爵位を与えてしまえばいい。そう言う裁量権を侯爵であるサイモンは持っている。


「認めてくれるのですね?」

「ああ。もちろん結婚出来るのは先の話だが。まだ11だからな。それまでに領主としての力をつけるといい。何、テンペストなら何の問題もない。何かあったらアドバイスはしてやるから」

「ありがとうございます」


 一曲目が終わり、会場が大きな拍手に包まれる。

 ここからは皆が自由に参加できるパーティーの始まりだ。



なんか色々切りが悪かったので投下。


というのも実は気づかずに2話分を1話分として書いちゃっていたせいでものすごく長いものになってました。

前のと一緒になって一つになってたので微妙にぶった切った感じになってました。

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