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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第三章 束の間の平穏編
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第七十五話 社交界と王族専用車輌引き渡し

うー……ポイント伸び悩み……

 その日、多くの街で騒ぎが起きた。

 原因は当然浮遊島だ。

 いつもは山よりもずっと遠くにあったものが今、自分たちの真上を通り過ぎているのだ。

 その巨大さは一時的に街を暗闇にするほどで、通り過ぎて安全が確認されるまでは人々が休まる時はなかった。


 王都にその情報が届いたのもそんな時で、急ぎで国王まで届けられる。


「あの空飛ぶ島がここへ向かっているだと!」

「はっ!各地でその姿が目撃されており、異様なまでの大きさに落ちてこないかと大混乱に陥っている模様です!そしてその上空を通った街を繋げていくとこの王都へと向かっていることが判明しました!」

「相手は空を飛んでいるのだぞ……それに対処できるとしたら彼らしかあるまい。それにまず落ち着くように呼びかけるのだ。あれは浮遊島、飛竜の類ではないし、今までずっと飛んできたものが落ちるわけがないと。騒げばその分治安が乱れる、至急、カストラ男爵へ連絡を取り……」


 指示をしていると、慌てた様子で手紙の検分をしていた者が入ってきた。

 普段なら不敬ということで叱責の一つも出てくるのだが、報告を聞いて納得する。


「……そういえば、謁見の申し入れがありましたな。その時は丁度陛下が公務の忙しい時でしたので断ったのですが……」

「聞いておらんぞ?こうなることを事前に知って居ればここまで混乱しなくて済んだのではないか?早く報告をよこせば良かったものを……」

「文面を見る限り謁見を断られた直後に出されたもののようです」

「では、何故今これが?」

「陛下、毎日かなりの書状が届くのです、それを全て検分し、危険がないと判断したものだけが陛下の元へ来るため多少時間はかかります」

「ふむ……では、カストラ男爵や研究所からの物に関してはリストに入れておけ。最優先でこちらへ来るようにな。今回のようなことがあっては困る」

「大変、申し訳ありません!」

「よい。……それよりも、よく知らせてくれた。下がって良いぞ」


 予定通りテンペストへ連絡を取り、呼び出すことは決定し、宰相と2人だけになるとにやりと笑う。

 それも当然だろう、いつかはやるだろうと思っていたことが今日実現したのだ。


「まさかあの浮遊島を調査するだけでなく持ってくるとはな!全く、あやつらと来たら次々と予想の上を行く」

「全くです。詳しくは来た時に話を聞くとして……確かに手紙に書いてあったように扱いをどうするかで揉めそうですな」

「む……領主達がまた騒ぐだろうな。何故、カストラ男爵だけがそこまで優遇されるのかと。それだけのことをしているのだから当然だ。口だけで満足に結果を出せぬ奴らの戯言は無視しておけ。しかし……影響力が強い者たちに関してはそうも行かぬか」


 口は出すが結果は出さない、そういう者達は結局のところただのノイズだ。

 しかし権力と戦力が一箇所に集まりすぎているのは事実、その状態で空を飛び回る浮遊島まで手に入れたとなれば、王国に対して叛逆の意思があると取られる可能性は大いにある。

 たとえ本人たちが全くそのつもりはなくとも、全員がそれを信用するわけでは無いのだ。


 現時点でも既に敵が多くなりつつあるカストラ男爵の立場を考えても、下手にあれを渡す訳にはいかない。本音で言えばきちんとこちらの利益を考え、仕えるつもりであればそのままくれてやって色々と研究させたほうが良いと思っているのだが。


「……仕方あるまい。行き先はカストラ領だったな?」

「はい。彼らもこういう影響を心配していたようですが……今回ばかりはタイミングが悪すぎたようですな」

「王都にも研究を担当する物を作れるか?」

「陛下の指示であればいつでも。……しかし、何故ですか?」


 緊急の連絡を入れられるように、間に王立の施設を建て、そこからの重要な情報は王城の専門部署へと届くようにする。

 直通の連絡手段があれば一番良いのだが、それをするとやはりその恩恵を受けている貴族たちは面白くない。手紙では時間がかかり、そもそも重要なものを手紙でやり取りすると、必ず検分するものが目にしてしまうのだ。彼らは絶対に秘密を漏らさないだろうが、それでも不安は残る。


 そこで直通ではなく取次という形を取ろうと言うのだ。

 一度王都に建てた施設へと繋がり、内容次第では直接こちらへと知らせられるように。

 自分が居ない時に受けるのは宰相だ。

 概要を聞いて必要に応じて呼び出しをすればいい。どうせ魔導車を使うからここまで半日かからず到着できる。


「そういう事ですか。私も手が空いていないと言う時であれば対応できる時間を指定しておきましょう。そうすればすれ違いもなくなりましょう」

「調整は任せる。研究施設に関しては向こうが手が足りなくて回せない仕事を受けさせるようにすれば良いだろう。適度に関われるようになればある程度満足するだろう。すり合わせを含めて後は任せる。向こうと打ち合わせて無難に纏めよ」


 本当に重要な物には触れさせず、それでもなお満足させるに足る程度の目新しさと斬新さのある仕事を振るのだ。ついでに自分たちでも色々と研究をさせる事である程度は向こうへの不満が軽減されるだろう。


 その内学園等が出来上がれば、好きに知識を求めることが出来るのだ。それまではそこで我慢していてもらう。

 それに生産拠点をここに持ってくることで売りやすくなるものもある。

 魔導車だ。あれは今は限られた台数のミレス製しか出回っておらず、コピー品が幾つかできたがオルトロスの性能を知っていれば玩具だ。

 騒音もあまり無いので王都に近くても誰も文句はないだろう。


 すでに民生品としての安価な物を設計しているということなので組み立ての工場をここに建て、人を雇うことで雇用も生み出せる。

 最近あぶれ気味だった労働者を教育して使えばいいだろう。

 そして道を整備して行けばハイランド中を魔導車が駆け巡り、経済活動が活発になるかもしれない。


「そして、あの浮遊島の所有は我が所有物とする。何処に渡しても面倒事を引き起こしそうだからな。とりあえずこちらで私物として受け持つ。しかし、アレを整備せねば住むことも出来ぬ……未知の力で浮いているあれを調査するに当たって、最も結果を残す事ができそうな者達は誰だ?」

「……研究所所長のサイラス・ライナーとその部下達でしょうな。未知の技術を持ち、今までに無い物を作り出してきた彼らだからこそ、その謎を解き明かすことが出来ましょう」

「そこに宮廷魔術師の代表1名、錬金術師1名を加えて調査を行わせる。やり方を見て色々と学ばせたい。誰を選ぶかはそちらで決めるが良い」

「では、腕利きの中から中立の立場のものを選びましょう。偏ると面倒です」


 彼らには解決してもらわなければならない問題がある。その前に潰されてしまっては困るのだ。


 □□□□□□


 王城からの報告を受けて帰ってきたのがついさっき。

 とりあえず、いい方向でまとまったようだ。


「王城からの宮廷魔術師と錬金術師ですか……知識の交換ができればいいのですがね」

「調査をするという名目でこのままここに置いておく許可が出たのは幸いです。所有も国王となったので誰も文句が言えません」

「研究が進めばいいよ。あれの調査は私とテンペスト、護衛としてコリー。王都からの2人だね。襲われた時のためにサーヴァントは外せないな。テンペストも基本の武装をしておくといい。それと……サーヴァントに持たせるカゴを用意しよう。現地まで私がサーヴァントを使って運ぶつもりだ。距離も長いし足場が悪い」


 サーヴァントでもないと、下へと降りていくあの洞窟は高低差が激しく、普通に2m近い段差があったりするので生身で行こうとすると少々辛い。

 元々あそこまではどうやって行っていたのか気になる所だが、もしかしたら本来はきちんと整備されていたのかもしれない。


「助かります、サイラス。コリーはどうですか?」

「ん?問題ないぞ。向こうについてからだったら俺とサイラスがいれば大体なんとかなるだろ。遠距離ならテンペストに任せるし、サイラスも武器は仕込んでいるしな。本来なら本職の剣士とか連れてきたい所だが」


 洞窟内にはなぜかあまり魔物が居ない、そして入ってこないということはサイラスから聞いているものの、それでも入ってきたらと思えばサーヴァントから出ている間だけでもサイラスを含めて守りきれるだけの人員がほしい所だ。


「しかし一度に連れていける人数は多くありません。それに出来れば少人数で向かいたいと思います」

「これまでの常識を打ち破るものですから、王国に少しでも叛意ありと思われないとも限りませんね。私もテンペストに同意です。なるべくならば国王の関係者以外はあまり入れたくないです」

「……確かにな。ハンターも口が軽いやつを抜いたとしても、殺されてでも口を割らないと言う奴はあまり居ないだろう。仕方ない、何事もないことを祈るぞ。それにしても、もう1機サーヴァントが欲しい所だな」

「今回は諦めて下さい」


 今は王国軍用の物を作るので手一杯だ。

 これも20機を納品し、ミレス製の玩具は回収する。ミレス製のものは組み替えてドワーフ達の使う土木用へ変換するため車高などを変更し、スピードを犠牲にして力を目一杯上げ、採掘用の装備を付けてダンジョンケイブで働く者達に使わせてみて使用感を聞く。


 テンペストやニールの魔鎧兵はその後で新規に調節していく事になる。。



「そう言えば魔鎧とか魔鎧兵って言葉自体がミレスなんだよな。もう別もんだしオリジナル作れるんだから別名称にしたらいいんじゃねぇか?」

「ん……それもそうですね。向こうのネーミングそのまま使っているのも何か気に入りません。……魔導騎士とかどうですかね?魔導騎兵が魔鎧兵その物に、騎士の方はパイロットで」

「考えるまでもなく良いなそれ……」

「ではそれで。サーヴァントは魔導騎兵試作一号機ということになりますね」


 ついでに兵器としての魔導騎兵はコットス。土木作業用はブリアレオスとした。

 後に作る多脚魔導騎兵はギュゲスだ。


 ギュゲスに関してはまだ試作に至っていないが、山地の防衛という意味では脚があり、斜面でも社格を取りやすく固定できる多脚型がいいと判断した。強度は魔導筋が予想以上に強靭なので問題ない。

 アクチュエーターだったら出来なかった。


 とりあえず、人員が揃ったら浮遊島を調査しに行くことになる。

 が、その前に少し忙しい行事があるのだった。


 □□□□□□


 冬が訪れる前に社交がやってきた。

 テンペストの社交界デビューだ。いつもその時期に居なかったので出席出来ないというのもあったが、先延ばしになりすぎているのはあまり良くない。


 なんだかんだで仕上がったテンペストは、もう問題ないだろう。

 一緒に付き合わされたニールはいっぱいいっぱいだ。興味がある物以外にはとことん弱いタイプのようだ。


 開催場所は王城敷地内の大きなホールだ。

 遠方から来る人達は家族やら使用人やらも一緒にこの王都へと集まってくる。基本的にそういった人達は王都に屋敷を別に持っているためそこで暫くの間泊まるのだ。

 朝から夜にかけて、この1日のために準備を整える。


 テンペストは直接乗り付ける予定だ。そもそも王都に屋敷を持っていない。

 エキドナでコリーとロジャーも一緒だ。それぞれ執事など付き人を連れて行く。

 現地でサイモンも合流するのだ。


 そしてある意味メインイベントでもある王室専用エキドナを持っていく。

 オルトロス2台で前後をはさみ、2台目にテンペスト達のエキドナ、そしてその後ろに王室専用が来る。既に知らせは届いており返事も貰っている。

 ざっくり言えば「楽しみにしている。盛大に迎え入れる準備をしておくので楽しみにしておけ」だそうだ。


 サイラスは特別にサーヴァントによる護衛を担当する。

 前後のオルトロスも戦闘仕様、テンペストのエキドナも塗装こそ貴族らしい物にしてあるが、屋根には一番物騒なレールカノンが載っている。王室用の方は運転手は訓練を受けた王室の運転手だ。


「うお……テンペスト見違えるな……」

「そうでしょうか……?いつもと特に変わらないのですが。少々窮屈ですし何かあった時に動きづらいです」

「まあ……守られるだけではないテンペストはそうだろうけど、そういうこともあるから何かあったら僕達を頼ると良いよ。なるべく近くに居るようにするしね」

「ああ。ハーヴィン候も居る。あまり動こうとしないで任せてくれ」

「分かりました」

「テンペスト様、出発の準備が整いました。皆様もエキドナまでお越し下さい」


 ヴォルクが入ってきて伝える。

 テンペストの執事としてヴォルクが行くことになっている。食事の時の給仕等も務めるため、必ず一人は連れてこなければならない。


 屋敷から出ると大型のトレーラー、エキドナが2台並んでいる。

 その横にサイラスのサーヴァントが控え、更にオルトロス2台もタレットを出して警戒中だ。


「うおっと、すまんいつもの癖だ」

「いえ、気になさらず……。今日は私が運転しますので。よろしくお願いしますコリー様」


 いつものつもりで運転席まで行ってしまう。

 しかしそこには既に先客が居た。サイラスの付き人として救われたラウリだ。

 以前とは違って穏やかな顔つきになり、ニッコリと笑ってみせた。


「サイラスにこき使われて大分いい顔になってきたじゃねぇか。お前、そんな顔できたんだな」

「はい。皆様には本来ならば殺されても仕方ないところを救っていただきましたし……。こうして職と寝床と食事をくれました。あそこでの暮らしとは大違いです。俺は……例えこの身に代えてでも皆様をお守りします」

「……意気込んでいるところ悪いが、お前の主人が外でスタンバってる。近づくことすら出来ねぇよ、じゃ、頼んだ!」


 先導車が動き出し、続けてテンペスト達の車も動き出す。

 ゆっくりと静かに、アスファルト舗装の上を進む。


「オルトロスも楽だったけど、こっちはもっと良いね。ソファに座って飲み物を飲みながらなんて、最高だ」

「ああ。初めて乗った時には驚いたからな。テンペスト、起こしてやるから少し寝ておけ。今日は長いぞ」


 昼少し前から始まり、男性はチェスのような「グローリア」というボードゲームなどの知的遊戯。もしくはそれぞれの技の披露と強さを競う模擬戦を楽しむ。ちなみに国王はこのグローリアが得意で世辞抜きで本当に強いらしい。

 グローリアは少し高度な戦略ゲームと言った感じで、覚えるまでがなかなか大変だ。


 まず、戦いの場が複数種類存在し、高山、平地、森、砂漠、沼地……など。地形によっては戦略値に加算もしくは減算がなされて、高い所に居るほうが有利であったりなど。

 そこにダイスによって天候が決定されて、それぞれの天候によってペナルティ等が決定される。

 兵は両軍共に同じで装備も同じ。その為、自分の側の地形をどう生かし、そしてペナルティを回避しつつ敵を減らすかなどを考えなければならない。

 つまり、ゲームではあるものの本格的な戦争のシミュレーションだ。


 模擬戦の方は魔法禁止の木で出来た武器を使ったもので、大抵何人かは当たりどころが悪くてそのまま欠席になる。

 死ぬことはまず無いが、それでも身の程知らずが弁えずに仕掛けた場合はどうなるかわからない。


 逆に女性陣はといえば、音楽を楽しみながらのお茶会だ。こちらはこちらで腹の探り合いやらで面倒らしい。今回テンペストはこちらに出席することになり、このときだけはヴォルクと2人だけだ。

 王妃や王女も来るため最初は挨拶の列が長いという。


 昼食は男女別に取り、夕方からは舞踏会と晩餐会へと移行する。

 舞踏会は男女混じっての踊りということもあり、気になる人と踊ることが多い。……もちろん完全に無視されるいわゆる壁の花という悲しいこともある。


 あえてそれを狙って置いてあるフルーツなどをずっと食べているものも居るが。


「……私もどちらかと言えばグローリアの方が面白そうなのですが」

「ワイバーンのユニットが出たらそれだけでメッチャクチャになりそうだね」

「上空からの爆撃、ガトリング砲の掃射……受ける側としては堪ったもんじゃねぇな。遮蔽も意味をなさず地形のペナルティーも無い。正に最強だな」

「そんなバランスを崩すようなものは誰も入れないでしょう。しかしそれぞれにペナルティや逆にボーナスがあるのは面白いです。かなり本格的な戦略を立てなければすぐに負けてしまいそうですから」

「自分がどっちの陣地に入るかでまた難易度変わるしね。地の利と天気の利を得られないと強い人でも意外とあっさりと負けちゃったりするからあれ」


 特に高山ではそれが顕著だ。

 高山の上を取れた場合、ほぼ一方的になる。それが出来ずに負けるパターンもあるが、相手が相当強いか自分が地の利も活かせないと後ろ指を指されるかだろう。

 しかし、砂漠の快晴や、高山での吹雪はどちらにとっても致命的だ。魔法隊ユニットの動かし方で大半が決定する。


「俺はどうせ模擬戦の方に行くだろうが……あぁ、面倒くせぇ」

「コリーはかなり強いと思いますが?」

「上には上がいるんだよ、テンペスト。一瞬で間合い詰めてきたり、力任せに防御ごと吹き飛ばしたり……嫌になるぞ」

「何人か心当たりはあるけどね。一人はコリーのお兄さんだ。魔法の腕はそこまでではないけど、タイタンワードを使っての戦闘がとてもうまい。素早く、そしてその速度であっても剣の振りは重い。見つかったらまぁ確実に捕まるね。頑張ってね?」

「くそ……他人事だと思って……。だが今年はこっちだって色々鍛えてんだ、前のようには行かんぞ……!」


 コリーの兄、ナイトレイ家の長男でラッシュと言う。

 剣術などは騎士のそれではなく、本当に敵を確実に殺すための技。一撃貰えば例え木剣であっても重傷を負う事は免れない。


 行く度に実力を見せろと言われて、無理やり戦わされてはボコボコにされているので正直苦手なのだった。その兄とは正反対の正統派の者の中にもやたらと強いものたちは居る。

 ハンターの中でさえそうなのだから、当然といえば当然だった。


 ロジャーは当然グローリアの方だ。


「僕はこっちのほうが性にあってるんだ。じっくりと考えて相手の次の手を読む……そしてそれを見越して自分の駒を動かす。決着がすぐつかないからその間は話しかけられないしね」


 どっちも上級プレイヤーとなると、たまに膠着状態へともつれ込み、そのまま両軍全滅でドローになる時があったりする。

 流石にこれは一番最悪なゲームとなるので避けなければならない。


 そうこうしているうちに王都へ到着し、テンペストも軽く仮眠を取れた。

 髪の毛の乱れを直してもらい、衣装を着直す。

 縫製技術や染色技術がかなり発達していることもあって、地球でのドレスに更に装飾が付けられたような物が多い。

 ちなみにスカートはあまり広がっておらず、肩が広いということもない。至って普通だ。


 門で少しやり取りが行われ。直ちに王城へと連絡が飛ぶ。

 そして王城へ近づくと……。儀礼隊が音楽鳴らして大歓迎だった。何のことかと集まってきている貴族たちも遠巻きに見ている。


 降りると宰相が出てきて軽く手招きをしていた。

 テンペストを先頭に、コリー、ロジャー、そしてサイラスの4人で向かう。


「報告の通り、エキドナが完成致しました。ご確認の程よろしくお願いします」

「この度の国王陛下直々の注文、引き受けてくれてありがたく思う。また、こうして素晴らしいものを作り上げたそなた等の功績は大きい。確認は陛下本人が直接したいと仰せだ。……完成の報告を聞いた時から、陛下は楽しみでならなかったようだ。まだかまだかと門へ連絡を入れていたぞ」


 かなり楽しみにしていたらしい。

 宰相が後半をこちらにしか聞こえないほどの声で表情を変えずに呟いていた。到着した時に若干ホッとした表情の門番達が多かったのはそういうことだったのだろう。

 最終調整などをしている段階で完成の報告を入れ、丁度今日納品になるということを話はしていたのだが、昨日は良く眠れず何度もあの設計図を見ていたようだ。


 そこへ国王が登場すると見物していた貴族たちも跪く。

 ざわざわと煩かった周りも、唐突に静まり返り、しかしそれでも気になるのかヒソヒソと話す声が聞こえてくる。


「おお!これがそうか。素晴らしい出来栄えだ。あの魔導車から発展させてこのようなものを作り上げるとは、やはりそなた等に依頼した甲斐があると言うものだ」

「勿体無いお言葉にございます」

「謙遜するでない。事実、ミレスから鹵獲した魔導車はあれど、ほぼそのままで使って満足しているものが多い中、この様に新しいものを作り上げ、性能を引き上げたということは、以前納品されたオルトロスでよく分かっておるぞ。確かにあれは素晴らしい。同じくそなたのエキドナを元にして居るのだから性能は間違いなかろう」

「はい。それは自信を持ってお答えできます。私たちは試作機であるエキドナに乗ってコーブルクとこのハイランドを往復することに成功しました。嵐竜の暴風の中にあっても被害は無いことも確認できております」

「よし、であれば中を見せてくれ。楽しみにしておったのだ」


 興奮気味に喋る陛下に宰相も苦笑いしている。

 後ろで待機していた王子と王女……共に14歳の美形兄妹も一緒に入っていく。

 王子はウィリアム、王女はオリヴィアという。その2人の歓声が聞こえてきたことで、恐らく満足してもらっただろうことが伺えた。


 彼らに喜んでもらえたなら成功だ。

 こちらとしてもメーカーとして、そして研究と工業の街として箔がつくというものだ。


 内部はもちろん彼らの部屋に比べたら小さいものではあるものの、全てを一つの空間で行えるという構造は面白かったようだ。トイレや風呂、水道等は共同という認識が多いこの世界では、全てが一つにまとまるパッケージという発想はあまり無い。

 しかも移動できるのだから面白くないわけがない。王様が若干はしゃいでしまっているのも無理はないだろう。


 中も相当豪華になっているので金額的には物凄いことになっているが、こちらもデザインの勉強などをさせてもらえたので大分割引してある。


 しばらくすると王様から中に入ってくるようにと言われた。説明がほしいらしい。

 テンペストとサイラスは許可を得てエキドナの内部へと入っていった。

長くなったので途中でぶった切って分けます。


王様大満足!

そして次回からはいよいよ社交が始まります。

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