第七十四話 あっという間の時間と一年ぶりの遭遇
「……終わっちゃったー……」
「何か、ここに居るとダメ人間になってしまいそうですね。逆に働きたくなくなってきてしまいそうだ」
「こっからは頭切り替えていかねぇとなぁ。ダルいけど。よし、とりあえずオルトロス出してくれ」
ある程度離れた所でワイバーンに乗り込み、空へと上がる。
テンペスト達は例の綺麗な魔晶石の風呂へと入り、肌がつるつるになっていた。
それに加えて肌を整えるというクリームを全身に塗ったため、来たときよりも肌が良くなっている。
髪の毛の艶もいつも以上だ。
「テンピーの肌綺麗ねぇ……ぷにぷにしてるし」
隣の席に座っているエイダがテンペストの頬をつついて羨ましがっている。
ニールもそれを見て羨ましそうにしているが、エイダが居るうちはテンペスト担当にはなれないのだ。残念。
「子供だからね。でも、エイダ様の肌もかなり艶が出ていますよ、来る時よりもハリが出ているように思います」
「サイラス様おだてるのが上手いんだから!……ありがとう。幾つかお買い物もしちゃったし、お手入れ頑張らなくちゃね」
売店でテンペストと一緒に色々と買い込んでいた。
とてもいい香りのする石鹸や、美容に良いというオイル、クリーム、その他諸々……テンペストはどちらかと言うと匂いが気に入ったというのが大きいようだが。
「ああそうだ、ロジャー、毒などを持っていなくて細い触手を持つような生物はいますかね?」
「幾つかそれっぽいのは居るけど。スライムの亜種みたいなやつに芋虫みたいな感じで動く奴が居るんだよね。人は襲わないおとなしいやつだから簡単に捕まえられるし、食べられるよ。コリコリしててなかなか美味しいやつなんだ」
「食材に……なるほど、一匹仕入れてもらっていいですかね?」
「良いけど。何かの研究に使うの?」
「ええまぁ。今のところは個人的な理由……ですが。将来的には役に立つものになるものを。医療分野で使いたいんですよ。あぁ……そう言えば医者も数人欲しいな」
「博士?休日は仕事のことを考えないといいましたよね、僕」
「……すまない」
また思考が仕事の方へと向き始めた所で、ロジャーに釘を刺された。
悪い癖だがどうしても色々と考えてしまう。
『右前方、浮遊島を発見しました』
『今逃したら次いつ来るかわからんぞ。前にこの辺で見たのは1年近く前のはずだ……どうする?』
肉眼ではまだ見えないが、テンペストのレーダーと望遠レンズには写っている。
以前見つけた物と同じだ。
前とは別な場所だが、もし周期的に回っているとすれば次にハイランドに来るのはまた1年後ということになる。
「……博士、ごめん。正直アレは僕も気になる。もしかしたら新しいものが手に入るかもしれないし」
「奇遇ですね、私も気になります。話には聞いていましたが本当にあるとは……もし、あれが浮いている秘密が分かれば今やっている研究が無駄になるレベルの収穫になるかもしれませんよ」
休めと言った手前、本来は行くなと言うべきなのだろうが……流石にこの機会を逃すといつ来れるかわからない。そして何よりも自分が行きたい。
大魔導師として、そこにもしかしたら未知の魔術があるのかもしれないし、そもそもどうやって飛んでいるのかなんて気になるに決まっている。
「だんだん近くになってきたね。まだ小さいけど確かにボクにも見えるよ。どうせならあの島ごと持ってこれたらいいのにね。簡単に領地増やせるし、あれに住んでみたいとか思うもん」
「私も興味あります!何回も見たことはあっても手が届かなかった場所ですから。もしかしたら何か聖堂とかあったりするかもしれませんし!」
『……じゃ、全員一致で行くってことで』
『戦闘になる可能性が非常に高いです。今のうちにシートベルトで身体を固定して下さい。アディ、私の頭を椅子に縛り付けておいて下さい。首を保護しなければ危険な可能性があります』
「えぇ!?ちょ、ちょっとまって……えーっとなにかしばれるもの……!」
慌てて適当なもので頭を固定した所で、もう目前まで迫ってきていた。
大きい。
飛んでいる翼竜達がただの鳥のようだ。
高度は5000m付近、それでも青々とした木が茂り崖から水が落ちて霧になっている。
とても美しく、神秘的な光景だ。
以前見た時には気づかなかったが、山と平地があり、川、湖もある。更に下から回ってみると、まるで木を根っこごと引っ張って浮かべたように、土と岩の塊がくっついている。
『外観の記録は完了しました。更に接近してみます』
『よし、見た感じ翼竜が多いが……警戒しているのか近寄ってこないな。まぁ襲ってきたら殺るだけだけどな』
「ワイバーンの肉美味しいから何匹か落としていいと思う」
「あれは美味かった。また煌で料理してもらおう」
「え、なんですかそれ……私も食べたいです!」
「すっごい美味しい肉料理出してくれる元凄腕ハンターの店。テンペストの胃袋がっちりつかんでるね」
もう安全だと思っているので言いたい放題だ。
ゆっくりと平地に降り立ち、周りを探ってみるが特に大きな反応はない。いても人間大の物ばかりなのでまあなんとかなるだろう。
此処から先はオルトロスに乗り換え、サイラスはサーヴァントに乗る。
『まさか念のために持ってきたのが役に立つとは……』
「まあ良いじゃねぇか。こっちは基本機関砲しかねぇ。後はニールとロジャーの魔法だな、新パーツのお披露目でもしてやろうぜ」
『観客が魔物じゃねぇ……』
まずは平地を進み、木が生い茂っている辺りへとやってきた。
魔物が飛び出してきて危ないと言えば危ないが……サーヴァントのメイスの前にあっけなく散っていく。
内臓破裂などで死んでいる魔物に関しては回収して後で解剖だ。
色々とギルドも手伝ってくれるだろう。
『ロジャー、この魔物は?』
「スナッチャーって呼んでいる奴だね。見た目は猿みたいなんだけども、とにかく人のものを盗む。この辺だと他の魔物の子供とか卵とか掻っ払って食べているんだろうね。まぁサーヴァントから盗めるものは無いし、こっちも問題ない」
『既知のものでしたか。それにしても数が多い。ニール、お得意のでサーヴァントごとお願いします。発動と同時に離脱するので』
「わかった」
ニールの焦熱魔法が炸裂し、一瞬にして青々とした草原は広範囲にわたって焦げていた。
当然もろに食らったスナッチャーは全身大火傷で苦しんでいるか、一瞬で肺まで焼かれて即死している。
『前より威力上がりましたか』
「化学のお陰だね!具体的な物が燃焼するプロセスを再現する感じにすると、本当に魔力消費少ないのに発動も早いし高威力だよ。博士のお陰だね」
『殲滅範囲が広くて助かりますよ』
最後の一匹の頭を潰して終了だ。とりあえず黒焦げになっているスナッチャーは全て回収だ。
匂いにつられて他の奴らも出てきたが、サーヴァントを見て怯えている。
森の中は特に収穫はなかった。
大体下と同じような植生で見るものはない。一匹、通常のエントがあったので薪に変えておく。
「滝だね。あ、あそこみたいに裏に温泉あるかも?」
『流石にあれは火山だったからで……ここにはまず確実に温泉は湧きませんよ』
「残念。ボク達だけの秘密の温泉とか出来たら良かったのに」
滝の上のほうが少し気になる所だが、とりあえず下から見て回る。
全て博士に丸投げだ。今のところサーヴァントしかこういう作業に向いているものが無い。
『あっ』
「サイラス、どうしましたか?」
『いや、温泉はないけど、本当に洞窟がありましたね。機体ごと入れるところまで行ってみます』
「ホントにあったんだ……正直あったらいいな程度のつもりだったのに……」
魔導車はそこに行くには少々道が悪すぎる。
サーヴァントに任せるしか無いだろう。
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「……深いな……。ライトON」
頭部にと肩の部分に取り付けられた投光器が先を明るく照らし出す。
特に敵は居らず、少しずつ下って居るだけのようだが、天井は高いままだ。
「あー、少し戻るのは遅くなるかもしれません。かなり奥が深くて天井も高い。少しずつ下っていて奥を照らしてもまだ奥が見えないようだね」
『了解。逐一報告をお願いします』
そのまま暗く足場の悪い道をゆっくりと下っていく。
途中、やはり住み着いていた魔物は居たが特に数で攻められることもなく、大半はただの大きな虫だ。
「……ん……?明るい?」
ライトを消して確かめる。奥のほうが薄っすらと明るくなっている。
貫通して反対側に来たのだろうか?
光の元へと向かって見ると、突然人の手が入ったようになっており、朽ちた石像などが転がっている。
中は広く、石柱はまだ健在。パルテノン神殿を彷彿とさせる作りだ。あそこまでは大きくないもののそれっぽさはある。
中央には祭壇のようなものがあり、その中央が光り輝いているようだ。
「これは魔法陣……か。周囲に敵はなし。降りるか……。テンペスト、最奥で神殿らしきものを発見。中央部に魔法陣があり起動している。もしかしたらこれが飛行の魔法陣なのかもしれない。書き写していくから少し待っていてくれないか?」
『分かりました。収穫はとりあえずそれだけでいいかもしれませんが、周囲の確認もして下さい。何かしらの制御などが出来る物があるのかもしれません』
聖堂は見たことがないが、ここは確かに神殿などの類のものに見える。
周りに石像が崩れていることからも、ここが何かしら特別な場所であることは明らかだ。
義肢の装備を確認して腹部のハッチを開けて外に出る。
「……息は出来るか。勢いで出たけど次から気をつけないと……」
よく考えてみればサーヴァントに乗っている時には問題ないが、ここに有毒ガスなどが溜まっていた場合、外に出た瞬間に昏倒するなんてこともある。
全く警戒せずに出てしまったことに冷や汗が出た。
そして、魔法陣だ。
びっちりと魔術式が描かれているが、斜め読みした感じではこの浮いている物への魔力供給のためのものと言った感じのような気がする。やはりテンペストが言っていた通りに周りを探してみたほうが良いのかもしれない。
「テンペスト、魔法陣は見たところ魔力の供給を行っているだけのようだ。魔力を吸収する為の魔道具を作った時にクラーラが似たようなものを書いていた気がする。最初から完成版があったとは……」
『ではやはり何かしらの動力室みたいなところでは?それであれば操作用の何かがあってもいいと思うのですが……』
「気長に待っててくれ……奥に続いているからそっちを見てみよう」
まだ奥はある。使える感知系魔法を展開しつつ向かう。
時折何かが動いている感覚があるが、コウモリなどの小動物だ。
外には沢山の魔物が居るのに、ここにはいないことが少し気になる。何か結界などがあっただろうか?
考えながら壁を見ていくと、扉を発見する。
全く開かないため一度戻ってサーヴァントで蹴りを入れてやったら穴が空いた。……これで入れる。
「テンペスト、それらしい部屋があった。大陸の地図があるぞ。綺麗な石版にかなり細かく書き込まれている。それが台座に乗っているんだが、何やら駒のようなものがあるんだ。チェスのポーンみたいなやつが……その下にラインが光っていて、大まかに言えば大陸全体を8の字を描いて飛んでいる。……航行システムというかその航路を決定する物とかかな?そして……他にも幾つか石版があるが、これらは見たことがない形をしているから恐らく別の大陸や島だろう」
『……操作ができる、ということですか?』
「まだなんとも。多分このポーンの駒を外すと…………おお、光っているラインが移動した。というかこの動きはあれだ、えーっと……ベジェ曲線とその制御点みたいな感じだ。ってことは外していくと……おお。やっぱり。駒が一個だけだとそこ一箇所だけとなるから……」
と、試しに動かして試したところ、とてもゆっくりとした揺れを感じた。
何が起こったんだと思ったが、航路を書き換えたから指示された場所へと行こうとしているだけだ。
そして駒を置いた場所は……カストラ領付近だ。
「高度はまだ分からないが、カストラ領の近くに移動させる。そこから動かなければ研究し放題だよ」
『……一緒に翼竜達も連れて行くことになりますが……まあ良いでしょう。対空装備は他領より整っています、一度戻って来てください。このまま私達の領地まで運ぶのであれば国王側と口裏を合わせておいたほうが良いかもしれません』
「もうちょっと見ていきたいけども……そうだな、そうしよう。どうせ今のところ私達くらいしかここに来れないからね。後でテンペストには記録を頼みたいし」
デジカメのようなものでもさっさと作っておけばよかった。
そうしたらこの場所を撮影でもなんでもしておいてある程度記録できたのに。
しかしテンペストの言うことも最もだ。今までずっと空を飛び続け、数々の目撃情報があったにも関わらず全く手出しできなかった浮遊島だ。それが突然カストラ領へと来たとすれば混乱が起きるだろう。
カストラ領の街よりも大きなこの物体は、とても優秀な領地になる。魔物を排除する必要はあるものの、恐らくそのまま寄越すということは王国としてもしてくれないだろう。
他国をまたいで移動していたこの浮遊島は、何処の国にも属さない物だ。その所有権を主張できなかったのもそこにたどり着くことができなかった為で、それが出来るようになった今この瞬間にこの浮遊島はハイランド王国の所有物、ハイランド王国の領地となる。
恐らく治めるのはかなり上の人達になるはずだ。
なにせ浮遊島だ。飛べる領地で更にその面積はある程度大きく、資源も豊富だ。
正直サイラスとしても欲しいが、多分ムリだろう。
「……見つけたもん勝ちにしてもらえたら私達の物になるのですがね……研究もしたいし、やはり陛下に謁見してどういう扱いになるのかを聞いてみなければならないか……」
最悪研究のために立ち入ることくらいは認めてもらわないと困る。
それこそ夢にまで見た、自分たちの技術では再現できない飛空艇と言う存在を作れるかもしれないのだから。
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謁見は少しの間おあずけになった。理由は単純で他の公務が忙しくて時間が取れないということだった。色々と便宜を図ってくれる国王ではあっても流石に仕事を疎かにするわけにも行かない。
しかもその大半が道の整備に関してやら、開発に関わるものが多いとなれば自分たちのせいでもあるのだから申し訳ないとしか言いようがない。
しかし、いずれこの王都のすぐ上をあの浮遊島が飛んで行くわけだから、早めに言い訳をしておきたいところではあった為、とりあえず手紙を書いて出しておくことにした。
オルトロスに乗って夕暮れの王都を走る。
途中で夕飯にするために店に入る。個室で食べれるところのようで落ち着いて食事ができるのは有り難い。この後はエイダは大聖堂へと送っていくことになる。
「早めにお話しておきたかったんですがねぇ……」
「忙しいのですから、仕方ないですね。はぁ、もう皆とお別れですか……もうちょっと一緒に居たかったです」
「いつも一人だけ離れてるからね、エイダ様。立場が立場だから本来こうして出歩くことすらまずいんだけども」
「ま、まあ……護衛の人たちにはお土産とか買ってきましたし……許して貰いたいですけど」
大聖堂の神子ということで役目が終わるまでは普通はあまり外に出ないのだが、今回は異変と言う一大事……しかも最悪の場合国どころか世界が滅ぶかもしれないという事もあり、特別に一緒に来てくれているのだ。
今回は完全にわがままなので帰ってから恐らくお小言が待っているだろう。
基本的に戦闘には参加しない、させない事も条件の一つなので突発的な戦闘以外の……例えば戦争や確実に戦闘になるのが分かっている状態で一緒に連れて行くことは禁止されている。
「でもあの浮遊島……明日か明後日くらいにはこっちに来るんじゃないかな?」
「ええ、出来れば説明だけでもしておきたいのですが。浮遊島の所有は王国にあることは決定ですが、私達が所持しても良いのかどうかは国の判断を仰がなければ問題になる可能性があります」
「タイミング悪かったね、ホント」
「まぁ……考えてたって仕方ねぇ。忙しいのは確かなんだろうしな」
あの中には研究に値する資料が残っている。完璧に扱えるのは自分たちだけだ、とサイラスは言う。
しかし、他の貴族をパトロンに持つ研究者や錬金術師達も気になるものだろう。
今の時点ですら色々と問題視されている状態なのだ。
更にあの浮遊島となれば領地と知識を一度に保有することになる。
「領地は多くとも使える土地が少ない私達としては、あれはとても魅力的な土地ですが」
「一応、誰の領地にもなっていないところを開墾すると宣言すれば、そこの周囲の土地をもらえるっていうのはあるんだよね。もちろん問題がない限りだけど。ボク達なら一日である程度のものを建造しておくことは出来るから、やろうと思えば出来るとは思うけど……」
最悪、エキドナの荷台部分を切り離して置くだけで家として宣言できるだろう。
それだけの機能はあの中にはたっぷりと詰まっている。
ちなみにテンペストのエキドナも国王用のものに合わせて若干長さが伸びた。ベッドも配置と収納などを工夫した結果最高で10人までは寝れるくらいにはなったが、基本的にそこまでは使わないだろう。
ただ、風呂は小さな物ではなくある程度足を伸ばすことが出来るくらいのものへと換装され、運転席とトレーラーへの接続を見直し、新しいパーツを取り付けることで常に運転席との行き来が出来るようになっている。当然動くので危ないが。
「だがそれを勝手にやって良いものかどうかって話だからな。どの道許可は取らなきゃならんのだから……会わないとだめだろうな」
「一応、装備が整えば山を切り拓いていく事も出来るのですが……」
「重機は実験中だよ。普通に博士の言うショベルカーとか作ってもあまり意味ないから、どうせなら広範囲を一気に出来るように土魔法の魔石を使った土木用魔導機械を作ってるところ」
「こっちの考え方を取り入れたんですよ。私もテンペストも従来の方法しか頭になかったんですが、魔石と周りのマナを吸収させて貯める機構を作っておけば、指定された魔法を放つことが出来るということを教えてもらったんです。よく考えてみれば再チャージ可能な杖等もありましたね」
「……そう言えば私も持っていましたね。最近使わなかったので忘れていましたが」
ちなみにこの装備自体は魔鎧兵にも取り付けられる。
この地形のこともあるため、魔鎧兵に取り付けるアタッチメントとして使う方法も考えているのだ。
その場合土木用魔鎧兵が出来上がることになる。
戦場でも陣地の構築などで役割を果たすだろう。
「でもサイラス博士の言う土木、建設用機械と言うものを聞いたけど……凄いね。魔法を使わずにそんなことできちゃうんだって、僕も驚いたよ。しかも天を衝くような建物も建てられたって言うし」
「ビルやタワーですね。やろうと思えば、この山という地形を利用して出来なくはないでしょう。……なるほど、その手がありましたね」
山の斜面を削り、そこにビルを埋め込むような形だ。高層建築と違って何処にでも足場を作れるので作ることは難しくない。
現時点で恐らく一番収納人数を多く取れるものになるだろう。
「問題はガラスですね。出来れば光を取り込むためにも大きめのものが欲しいですが」
「私もガラスの製法にはあまり詳しくないからなぁ。大きくて均一な厚さのものを作るために、鉛の上を浮かばせて冷却するとか聞いたことがある位だ」
しかし、ハイランドでも板ガラスはある。しかも強化されてるのでなかなか割れない。
意外と歪みなども少ないので高品質なのだが、あまり大きなものを見たことがない。
「そんな作り方聞いたこと無いよ。ガラス工がやってるのは型に流し込んで綺麗に均して作る方法だね。仕上げは歪みとか細かい傷とかを土魔術を使える職人が綺麗に整えるんだ」
「鋳造か。なるほど魔法を使えば別に研磨しなくてもあそこまで綺麗になるのか、参考になる」
「だから一応、型が決まってるから……大きくても大体人の大きさくらいのやつかな」
「十分じゃないか。どこでそんな大きなものを使っているんだ?」
「王城だよ、もちろん。謁見室の奥にある窓、あれ遠くにあるから分かりにくいけど枠が凄く大きいんだよ」
「そうだったのか……。であれば、ビルを作るのも問題無さそうだ。職人たちと相談しながら設計をしてもらおう」
「山肌に家を作るとか……面白いことを考えるもんだな。ハイランドならそこに関しては土地に困らねぇから良いんじゃないか?移動はどうするんだ?」
「縦の移動ならエレベーターで問題ありません。横の移動は……橋はどうでしょう」
しかし山同士で、山頂付近になればその距離はかなりの物だ。
伸ばしていくにも難しい。
谷底には川が流れていたりとなかなか面倒だ。
「折角飛行機があるのですから、それを使ったら良いのではないのですか?」
「それも考えては居るんだけど……安全が確実に保証はできないし」
「博士、あの浮遊島の浮いているのが分かれば良いんじゃない?」
「……そう言えば。自分たちのものになるかどうかで少しばかり頭から離れていたみたいですね。あれがわかれば水平移動するだけの乗り物も出来る……。やっぱりあれの研究だけは渡せないな。最悪、技術だけ手に入れて大きな物を浮かばせることが出来れば満足なんですけどね」
「本音ダダ漏れですよ博士……」
楽しい夕食も終わり、エイダは大聖堂へと帰った。
疲労も回復した皆はまた、明日からの忙しい日々へと戻る。
浮遊島を手に入れた!
しかし途中で調査は切り上げ。
あまりやると周りからの反感がヤバそうなのでとりあえずお伺いを立てることに……。




