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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第三章 束の間の平穏編
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第七十二話 慰安旅行

 国王達の訪問から数日。

 色々とゆったりとした時間が流れている。


「はい、ワイバーンの整備報告だよ」

「ありとうございます、ロジャー」

「色々と性能が上がった部品とかもあるから、そっちに交換しているのもあるよ。タイヤとかね。それと……ミサイルのランチャーだけど、ハードポイントから左右2箇所外してレールガンを取り付けておいたよ。テンペストの使っているあれを長砲身、大口径化したやつね。後レーザーが魔導式になった」


 外装など大半の部品は交換しなくても良いものばかりだが、性能的に上回った部品などが出た場合には交換するようにしている。

 それと同時に武器の強化を行い、ついにレールガンが取り付けられ、レーザーも魔道具に代わり電気を必要とする部分はニューロコンピューターのみとなった。


「ジェネレーターが要らなくなりますね」

「そうだね。魔力から電力へ位だから、魔力からの発電装置だけで何とかなるし。あとフェイズドアレイレーザーだっけ、あれの仕組みを取り入れたレーザー照射用の魔道具がついてるから、見た目はスッキリしてるけど前と同じような使い勝手で更に出力上がってるね」


 とりあえず、現時点で最強とも言える攻撃力を持つレールガンが2門追加されたことで、以前の風竜の様な事は減るだろう。


 現在ロジャーはテンペストのマギア・ワイバーンに関する事を引き受けてもらっている。

 元々居るメンバーをまとめるにはやはりロジャーは動かせなかった。

 一応、研究所の副所長の地位についている。所長はサイラス博士が収まった。


「それにしてもサイラス博士は凄いね。僕の理論からあそこまで一気に進めちゃうなんて。大魔導師とか言ってるのが馬鹿らしくなってきたよ」

「それでもやはり私の師として、そして魔法という物にずっと身近に触れてきたロジャーからも沢山学ぶことがあります。私達の技術と知識は、この世界でも通用し、更に魔法という力を得て更に素晴らしいものへと変化します」

「うん。それは確実にそうだね。ニールも自分のやるべきことが出来て凄く喜んでるよ。ただサイラス博士はちょっと頑張りすぎだ。休めって言ってるんだけど聞いてくれなくてね。ちょっとばかり小旅行にでも連れて行かない?」


 サイラス博士の仕事量は他の人の何倍もある。

 様々な分野にアドバイスしながら、自分の研究も行い、更には研究所の運営だ。人が育つまではどうしようもないのだが、正直そろそろまともに休んでもらわないと体が持たないのは確かだ。


「構いませんが……あまり遠くへはいけませんよ」

「ああ、ハイランド国内だよ。そろそろ冬だから吹雪く前の方が飛びやすいでしょ?貴族や金持ち達がよく行く保養地があるんだよ。ちょっと不便なところにあるんだけど、世間の柵から離れて自然に囲まれた場所でゆったりとした時間を過ごせるんだ。温泉もあるよ」

「こんな高山にですか?」


 あまり聞いたことがないのでびっくりしたが、よくよく考えてみればこのハイランドの王都はカルデラの中に作られている。ここの真下も一応昔は活火山だったということだ。

 そしてハイランドを王都からずっと縦断した端の方にその保養地はある。近くに大きな火山がありその標高は6000mを超える。

 ずっと沈黙しているということだが調べておいたほうが良いかもしれない。


「保養地の地下に洞窟があるんだよ。とっても綺麗な洞窟でそこに丁度温泉が湧いたんだ。少し開発してちゃんと入れるようになってるよ。洞窟内部で繋がってて、4箇所……5箇所だっけかな?僕のお気に入りは……一番奥の真っ暗な洞窟の温泉だね。そこはちょっと特殊で、テンペストが取りに行った空の魔晶石あるでしょ?アレのものすごくレベルの低いものだけどとっても大きな物があって、その巨大な晶石の中にところどころ青白く光る輝光石が筋のように入り込んでるんだ。すっごい綺麗だよ。上は夜空のようで、下はなんて言ったら良いんだろ。宙に浮いているような気分になれるんだ。一番小さい温泉になるんだけどね」

「それは興味深いですね。とても気になります」


 貴族や金持ちのみが行けるとあって、とてもサービスが良い。

 完全に付き人も無しで楽しめるようにと、教育された側付きのサービスも有るのだ。また、泊まれる場所は数部屋のみ。予約制で1グループのみが泊まることが出来る。

 各種サービスは値段は掛かるが一流揃いなのでとてもゆったりとした時間を過ごせると評判だ。


 今回、ロジャーが予約を取っていたのに便乗して皆で行くことになった。テンペスト、ロジャー、サイラス、コリー、ニールにエイダも何とか連れて行くことに成功する。

 メンツがメンツだけに女性がテンペスト一人というのもかわいそうだったわけだが、よく知る女性となるとエイダしか居なかった。

 立場が立場だけに渋られたが、結局国内最高戦力が揃っている時点で危険はないということで許可が降りた。護衛騎士団はせめて自分たちもと言っていたが……。諦めてもらうしか無かった。


「久しぶりね、テンピー。ちょっと見ない間に街が凄いことになったのね」

「不慣れながら頑張ってます。色々と補助等を出してもらったり、融通を聞かせてもらえたりとかなり自由に開発を進めさせてもらっているのです」

「凄いじゃない。王国に認められてるってことだもんね」


 大聖堂ではあまりテンペストの噂などは聞こえてこないらしい。

 場所が場所だけにあまり私語がないというのもあるが、そもそもエイダ自身が人前に姿を晒すこと自体が少ないのだ。


「ええ。お陰でまた人が増えそうです。開発を急がないと土地もすぐに無くなってしまいますから」

「ここ、本来なら誰もが嫌がる立地なのよね……。テンピー以外にはきっとここの領主は無理ね」

「出来なくはないのでしょうが、飛竜を狩る事で大金を手に入れられたのがやはり大きいと思います。後に宝石も埋蔵されているのを発見しましたのでそちらを輸出してかなりの金額を稼いでいますし。まあ、その分王国への税金も上がるのですが……。色々とやることがあって意外と大変です。サイラスも疲れていますが、私も最近疲れが出てきていると感じることがあるので今回のロジャーの提案は非常に嬉しいですね」

「私も話には聞いていたんだけど行ったことなかったの。向こうについたら一緒に入りましょう!」

「ええ、ロジャーおすすめの場所があるそうなので、そこに行きましょう」


 □□□□□□


 完成した地下滑走路へと、テンペストの屋敷の中からエレベーターを使って降りていく。

 下りた先はテンペスト専用の部屋で、滑走路側からこの中へと入れるのは許可された人物のみだ。エレベーターに入れるのは直接テンペストが指定した人たちのみと更に絞られる。

 今回は6人全員を指定しているので問題ない。


「うわっ!?明るい!」

「広いな……こんなのが地下にねぇ……良く作れたな」

「土魔法が得意な者達が頑張ってくれたおかげですよ。私が直接技術指導をしながらやったため、掘り抜くこと自体はそこまで難しくありませんでした。どちらかと言うと排石の方が問題でしたが、これも運び出して街への街道を作る際の起伏を減らすための土台用として使ったためなんとかなりましたね」

「今回は記念すべき飛行場の使用ってことか。今回は普通に加速して離陸してみたらどうかな?」

「ええ、そのつもりです。その前にサイラスのサーヴァントを格納しておきます」


 前日のうちにサイラスはサーヴァントを滑走路まで持ってきていた。

 例の大型エレベーターを使って降りたが、サーヴァント程度では問題なかったようだ。


「あれ?サーヴァントって……こんな形でしたか?」

「あぁ、エイダ様は知りませんでしたね。最近変えたんです。獣人の脚を模した事で走る速度と跳躍力が飛躍的に上がりました。戦闘でもあればお披露目できるのでしょうが……まあ今回は念のためと言うところです」


 他にも頭部のデザインが変わっている。以前は馬上試合などで使われるようになったトーナメントヘルムに似たデザインだったものが、目で直接見る為の穴が消え、代わりにオクロを利用した光学センサーへと変更されてSFチックなヘルムデザインとなった。

 前面に4つ、後部に1つの目を持つことになり、視界が圧倒的に広がっている。

 また、赤外線と可視光線のライトを装備したことで、夜間での戦闘が更に楽になった。


 手で触れただけで収納したテンペストは、今度は滑走路上に待機状態のワイバーンを出した。

 事前に点検を受けているのでそのまま出れる。

 人員輸送ポッドの座席は元に戻し、収納スペースが復活している。手荷物などを置いて固定したら出発だ。


 テンペストがセルフチェックを開始し、機首を出口へと向ける。

 今回からは管制塔が機能していて、出口の状況や気流情報等が逐次伝えられる。今までは適当だったので非常にやりやすい。特に今はまだ風除けの結界が機能していないため、気流が安定した瞬間に出なければならない。


 短距離離陸が可能なワイバーンは滑走路の中ほどまで進んでブレーキをかける。

 そのままエンジンの出力を上げていき待機する。


『管制塔から許可が降りました』

「こちらワイバーン。離陸開始する」


 2基のエンジンだけで加速しすぐに離陸可能速度へと機体を押し上げる。


『機首上げ、3・2・1・今。テイクオフ』

「ランディングギア格納。さ、方向は反対だ、高度を上げつつ旋回して向かうぞ」


 今日はニールやエイダという空をとぶことに慣れていない人を乗せているのであまり速度を上げるつもりはない。国内であればそこまで時間はかからないし、どの道手前で降りてそこからはオルトロスへと乗り換える。

 大抵の貴族たちは転移装置を使って行くらしいが、テンペスト達にはその日のうちに到着できる足がある為特に必要ない。


「うー……やっぱりこれはちょっと慣れません……」

「ボクも……」

「慣れてしまえば怖いことはないのですけどね。テンペストが墜落なんてさせるわけないじゃないですか」

「確かにそうだね。それに今回も大分気を配って飛んでくれてるみたいだし」

「ロジャー、分かりますか。今回コリーとテンペストは慣れてないみんなに合わせてかなり速度を押さえています。最高速へ一気に到達する時のシートに押し付けられる感覚はとてもじゃないけど普通の人は辛いですからね」

「流石にそれは体験したくないなぁ僕も」


 このメンバーの中では平気なのはサイラスだけだ。

 それでも魔導車を使って行くよりも早いので別にそこまで速度を上げる必要もない。

 音速は超えたが旅客機に乗っているのとあまり変わらない乗り心地になっている。


 しばしゆったりとした時間が流れ、それも機体が減速して降下し始めると終わってしまう。

 目的地の近くまで来たので乗り換えるためだ。

 あまり大きなものを置くスペースは無いということなので、高機動魔導車のオルトロスで行くことになる。


 ワイバーンを収納してオルトロスへと乗り換える。

 既に道が見えているのでそれに沿っていくだけだ。


「……やっぱりあの舗装の方が乗り心地いいなぁ……」

「あれに慣れてしまうと、普通の道も全部あれにしたくなっちゃうね。それでも相当乗り心地いいけどねこれも」

「踏み固めただけの道ですから仕方ないですね。雨で土が流れて酷いことになってる所が多いようだ。きちんと整備していないのか……」

「ここに来るには普通王都の転移装置を介して来るそうですから。通行料はとても高いのですが、直接ここへ来れるためとても楽ですし……。ですから多分、誰もこの道を使わなくなり、この道の強化した部分も削れてなくなってしまったのではないでしょうか」


 実際、最近人が通ったような感じはない。

 それでも道がまだ残っているのは雑草などが生えないような何かしらの処理がされているのが残っているのだろうか。

 しかしやがて石畳へと変わり、ゴツゴツとした岩肌の門が見えてくる。


「……ぱっと見じゃ保養地には全く見えねぇなこれ」

「洞窟温泉らしいですから……でも話を聞いた分には景色もいいということでしたよ?」

「ボクには岩肌しか見えないなぁ」

「全員そうだと思うよ……でもまぁ、門をくぐれば別世界だから、ホント」


 門へ行くと綺羅びやかな鎧を来た門番が出てきた。

 もうこの時点で色々とお金がかかっているようだ。


「この先は予約のない方は通ることが出来ません。本日のお客様であれば、手紙を受け取っておられるかと思いますので提示をお願いします。もし、無くしておられる場合や忘れてきてしまったという場合は確認できないものとしてお引き取り頂いております」

「予約していたロジャーだよ。これ、手紙ね」

「確認いたしました。ようこそ、王国認定岩窟温泉へ!ロジャー様御一行様、ごゆっくりとおくつろぎくださいませ」

「開門!」


 その声と同時に重そうな石の門がゆっくりと左右に開いていく。

 すると、その先には立派な屋敷と庭園が出現する。その奥には滝が少しだけ見えているが、それ以上は屋敷に遮られて見えなくなっていた。

 庭園はその滝の方から流れてきた水が池として溜まっており、周りの石畳は花崗岩で両脇は綺麗に磨き上げられていた。

 植物も外の方ではあまり見ないほどに綺麗な花や木が整えられている。


「へぇ……綺麗な花だね」

「この辺は少し地面が温かい事もあって、意外と色々な植物が咲くみたいなんだ。温泉は硫黄が溶け込んだ物と、石灰が溶け込んだものの二種類。硫黄はちょっと臭いけど慣れると癖になってくるよ!」

「そう言えば……温泉は全部つながってると聞いたが、男女の区別はどうなっているんだ?」

「その日によって入れる所が変わるんだ。男性のみ、女性のみになってて、仕切りが付けられるしそれぞれそこに見張りが立つよ。エイダ様とテンペストは安心してゆっくり入れるからね」

「残念だったなニール」

「覗かないから!!」


 屋敷の前に魔導車を付けるとすぐにドアマンが来てくれたのは良いが、初めて見る魔導車の開け方が分からなかったようだ。

 とりあえず普通にドアを開けて外に出るととても恐縮されてしまう。


「気になさらないで下さい。初めて見るものの使い方がわからないのは当然のことですから」

「話には聞いていたものの、実物を見たことがなく……。後学の為に教えていただけませんか?」

「俺が説明しておくから先に入って手続きしててくれ」


 説明をコリーに引き継ぐと、皆で屋敷の中へと入っていく。

 既に部屋の用意はできており、それぞれの部屋へと案内された。


 6人で3部屋の割当だったので、テンペストとエイダ、コリーとロジャー、サイラスとニールに割り振り一旦休憩する。


「こちらがエイダ様、テンペスト様のお部屋となります。窓からの景色が一番いいところですよ。荷物を運び込む間に少々ここの使い方などを説明させていただきます」


 部屋に備え付けられているものは自由に使用可能、ただし破損もしくは怪我した場合には弁償となる。

 部屋での飲食は可能で、呼び出しをすれば好きなものを持ってきてもらえる。メニューは机の上に置かれているのでご自由にどうぞ。

 今回の宿泊で使ったお金は帰りに纏めて支払いとなる。


 温泉については足元が滑りやすくなっているため転倒に気をつけてもらいたい。

 今回は男女混じっての宿泊のため、5個の温泉は日替わりとなるが、希望によっては混浴も出来る。

 食事は夕食のみ、食堂で全員で食べることになるが、朝と昼食はそれぞれ好きな時間に利用していい。

 酒の提供はいつでも。


「と、このようになっております。また温泉の方はあの滝の裏側の洞窟内で、いつでも入ることが出来ます。とてもぬるい水を溜めた山の切り立った場所にある温泉は、泳いだりして楽しむ人も多いですが、柵などは無いため滑落に注意して下さい。ここも混浴利用でなければ真ん中に仕切りを作って遮りますが、いかが致しますか?」

「別にどち……」

「分けて下さい。……ちなみにこれは男性の方にも聞いているのですか?」

「いいえ、女性のみに聞いています。あまり聞いても意味が無いので……。それでは分けるということで準備をさせていただきます。温泉の利用は今日のお昼からです、お疲れであれば先にマッサージを受けるのもいいかと思います。ちゃんと女性が担当しますのでご安心下さい」

「分かりました」

「では、説明の方はこれで終わりです、部屋付きのものが参りますのでご入用のことがあればこのベルを鳴らして下さい」


 案内してくれた人が出ていくと、ようやく落ち着けるようになる。

 入ってすぐに説明が始まったので見れなかったが、ぐるりと部屋を見回してみて思う。

 広い。


 とても2人だけで過ごすような部屋とは思えない程の広さだ。

 高級ホテルのロイヤルスイートを2人だけで使っているようなものだ。大きく広いダイニングには中央にこれまた大きな机と10脚の椅子が並ぶ。


 日当たりの良い所にゆったりと寛げるソファがあり、昼寝したらとても気持ちよさそうだ。

 トイレは水洗式、壁の魔晶石に手を触れて魔力を込めると水が流れる。

 シャワールームはあるが浴槽はない。これは温泉があるからだろう。


 ベッドルームは大きなベッドが2部屋。1人用のが2台入っているのが3部屋。どう考えても使わないくらいなのだが、どれだけ大人数で来ても対応できるようになのだろうか。


 棚にはいくつか酒のボトルが置いてあり、サービスとなっているようだ。

 ただ、一つ一つがかなり高価なものになっている。


「想像以上に広いですね!」

「アディの部屋も広いかと思いましたが違うのですか?」

「私の部屋は……まぁ、広いと言えば広いけど、半分近くはお祈りや神託の為の部屋になってるの。大抵はそこで一日の大半過ごしているわね」


 かなり本格的な祈りの場で、大聖堂のものと比べればかなり簡素なものではあるが、それでも精霊の像が飾られそれぞれの魔晶石が安置されている。

 精霊と交信するための魔法陣の役割を果たすように作られているそうだ。


「神託と言えば……何か気になる言葉はありましたか?」

「んー……。『氷の使いが来るよ』『深い深い海から怖いのが来るの』『山が動く、キラキラ出来る』位……かな?重要な物はもっと上位の精霊からだからすぐ分かるわね」

「氷の使いとは?」

「ああ、冬が来るってこと。近いうちに雪が降り始めるから気をつけないとね。大分温度は下がってきてるから……」


 ハイランドの冬は厳しい。雪が降りとてつもなく強い風が吹くときもある。視界が全て白になる様な日も珍しくない。

 しかし、主要な街は基本的に結界が張られて居るためあまり影響はない。

 それ以外の移動が相当大変なのだ。毎年行方不明になって後で発見されるということが何回か有るくらいだ。


「怖いものは分からないけど……魔物でしょうね。海には陸上では考えられないくらいに大きな魔物が居るって聞いているから。船を丸呑みするのが居るって……ほら、テンピーからもらった本に書いてたじゃない?」

「……確かにそのような描写が有りました。『嵐に見舞われ、船よりも上に海面が見える。仲間の船がそれに翻弄されて沈むのを見た。その直後、何も出来ないままただ見守ることしか出来ない我々の前で、もっと恐ろしい物を見てしまった。あれは大きな口だった。海面が突如として盛り上がり穴があいたかと思うと転覆した船が飲み込まれ、口が閉じられたのだ……』」

「本当に全部覚えているのね……ええ、それよ。船が丸呑みされるくらいだもの、絶対に会いたくないわね」

「あの物語はそういえば、海を渡った国へと行き、帰ってきた人の物語でしたか」


 ワイバーンの記憶領域に突っ込んだままにしていたその書物の記憶。もっと早く気づくべきだった。

 あの本の内容はそもそも向こうの国の描写があったではないかと。

 かなりの長い期間滞在し、船を直してまたこの大陸へと戻ってきた時にはもう一隻しか残らなかったほどの過酷な旅。

 その情報を整理していけば、大体の距離等が分かるかもしれない。

 更にその国の風土をきちんと書き出していった方がいいだろう。


「どうしたの?考え込んで」

「ミレスの向かった先の事を考えていました。この大陸であれば国交があるので問題ないのですが、海を隔てた向こうの大陸は別です。いきなりワイバーンで飛んでいった場合、どういう扱いを受けるかわからないということを警告されたので、コーブルクと共同で新型船をつくる事になっているのですが……行った先の情報が無いことが気になっていました。本の事はアディに言われるまで忘れていました……」

「忘れるなんて、珍しいね。でも……そうね、その本を見れば色々書いてあるから必要そうなものを書き出せばいいんじゃないかな?でも、それは今じゃなくて帰ってから!ロジャーが言ってたでしょ?今日から3日、休むために来ているの。皆ずっと働き尽くめだったって言うじゃないの。上位精霊のお告げがない限りはまだ安全だと思っていいんだから、今はきちんと休みましょう、ね?」


 お告げの時点でほぼ手遅れ、ということは無いだろうが……それでも少しは不安が残る。

 何をしでかすかわからないのに無駄に頭がいい状態の人物が、言葉も通じない様な他の大陸の他の国へ行ってどうするつもりなのか。


 しかし今は確かに休むためにここに来ている。エイダが警告しない限りはとりあえずこの休暇を楽しもう。


「アディがそう言うなら。……マッサージというものに行ってみますか?」

「マッサージ……やったこと無いの?」

「はい。体の疲れが取れてとても気持ちいいと言うことは聞いていますが……」

「じゃあ、一緒に行きましょう。お肌も綺麗にしてくれるんだから。テンピーも今のうちからお手入れしておくと肌が綺麗な状態を保てます。お手入れしてないでしょう?ちょっと勿体無いよ、こんなに可愛くて綺麗な肌なのに」


 ベルを鳴らして部屋付きの使用人を呼び、早速マッサージを受けに行くことにした。

 テンペストの人生初の本格マッサージだ。


サイラスが働きすぎてるので強制休暇となりました。

諦めて休むがいい!

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