第七十一話 超VIP視察団2
「え?何で、ボクのとこ今回関係ないはずじゃ……」
「諦めろ。お前のことを推してやったら陛下が興味を持っちまったんだ。ニールの所でやっているのは博士の言う通りにしているというのはあっても、複数の物を混ぜて別の特性をもたせたりするやつだ。薬も、手足の再生もそのうちの一つだ、アピールしとけ」
「どうしよ、ボク言葉遣いとか……まだ教えてもらってる途中だよ!?っていうか何でボクが話題になっちゃったの!?」
研究室内で我関せずと緩みきっていたところ、コリーが入ってきて衝撃の事実を伝えられた。
全く予定に入ってなかったこの研究室に国王が来る。
小心者のニールにとってはそれだけで一大事だ。
対応間違ったら殺されると思っている。完全にパニックになっていた。
が、何でこうなったのかの答えを聞いて固まる事になる。
「……爵位が必要だろう?」
「えっ……な、何で?」
「白を切っても無駄だぞ?テンペストから全て聞いているぞ。お前テンペストに告白したんだってなぁ?」
「ひぅっ!?」
バレてる。しかも一番知られたくなかったコリーにバレてる。って言うかなんでテンペスト話しちゃってるの!!
どこまで聞いてるのか気になる……告白されて、受けただけだよね?
「結婚して子作りしたいのかと聞かれてハイと答えたんだってな」
「うあぁぁぁ……」
だめだった。死にたい。
「ま、本気だってのは知ってる。それに、お前が見境なく襲わないだろうっていうのはテンペストが信用しているんだ、俺も信用してやるよ。リヴェリから見れば成熟しているように見えても、あいつは中身は大人以上だが身体は子供だ。優しく扱え」
「え、う、うん……怒らないの?」
「本気なら怒ったって仕方ないだろうが。最初の反応が危なすぎたから警戒していただけだしな。きちんと約束できるなら良いんだ。で、そのためにも爵位欲しいんだろ?それには目立った功績が必要だ、お前はこの研究と、俺達と一緒について回ることで色々な功績を残していくんだ。時間は有る、お前なら出来る」
「コリー……ありがと」
ここまで思ってくれているとは思っていなかった。
とても嬉しくて、そしてこんな凄い友人を怖がっていた自分の小ささを自覚して涙が出てきた。
「おまっ……泣くな馬鹿!これから国の重鎮たちが来るんだぞ!!」
「だっ、だって、どうしよ、止まんないぃ……ぐすっ」
「顔洗ってこい!急げほら!あぁ目が赤くなってんじゃねぇかちゃんと治してこいよ!?もし今来たら対応しててやるから!」
「う”ん」
バタバタと洗面所へと駆けていったニールを見送り、コリーはため息をつくしか無かった。
そしてもう少し優しくしてやるかと思ったのだった。
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「ほう、錬金術ではない新しい学問を?」
ニールの研究室に所狭しと地位が上から数えて高い人だけを集めた方々が入り、ニールを囲むようにして見下ろしている。
本人たちはここに来るまでに様々なものを見せられ、興味が湧いてきたので話を聞き漏らさぬようにと見える所に移動しているだけなのだが、背の低いニールが真ん中に居ると、どう見てもカツアゲされそうになっている子供だ。
実際ニールのプレッシャーはものすごいことになっている。
脚が震えるのを隠せないが頑張って立っているくらいだ。
「は、はい。その、今までボク達は目に見えるものしか気にしていなかったんです。錬金術師も、混ぜ合わせることで物が変化することは知っていても、それが何故起こるか、どうなったのか……誰も注目していなかったんです」
「その言い方だと目に見えない物があるようだが?」
「あります。今ボクたちの周りにも沢山のものがあります。ボクはサイラス博士からそれを聞いて、何故それに気づかなかったのかと思ったんです。な、何かお分かりになりますか?」
目に見えない何か、それが何なのかよく分からずにキョロキョロと部屋中を見回している。
「空気ですよ。そして……ここに空気のように無色透明、重さも分からないですがそれぞれの容器には全く別の物が入っています」
「ああ、錬金術の方でも火を近づけると燃える何かが存在すると言っていたな」
「はい、そうです。でもそれが何かまではまだ完全に分かっていなかったんです。でも、何をどうすれば、その「何か」が出るのかと言うのはいくつか知られています」
例えば、と火を灯して試験管の蓋を開けて近づけると、破裂音がして激しく反応する。水素だ。
逆に中に入れると火が消える二酸化炭素。激しく燃え上がる酸素。
「う、む。これも錬金術師のやっていることで知っているが……」
「ええ。でもそこまでです。特性や、どうやって作るかまではボク達も知っていました。でも今までのボク達の知識では到底届かない物を見てきたのがサイラス博士です。全ての物はとても小さく肉眼では絶対に見ることが出来ない、最小の単位が存在すると。そして、それらの組み合わせと構造で、物質が決定されるのだと。空気はとても小さな物がまばらに散って存在しているようなものです。だからボク達には見えない。では鉄のようなものはといえば、その小さなものの集合体がみっちりと詰まっているのです」
「ほう……小さな物か……興味深い。それでは水銀を金に変える、と言うのは本当に出来るのか?」
「出来なくはないということでした。しかし、ボク達がやろうとしている方法では無理だと。でも向こうではボク達と同じ失敗をして、それが化学という学問になったそうです。物質の構造を知り、変化の法則を解き明かし……それを複雑に組み合わせることによって全く新しい素材を開発していたといいます」
陽子、中性子、電子、それを自由に組み合わせることが出来るのであれば、可能だ。
しかしそれをするには科学を持ってしても、莫大なエネルギーと金が必要になるのだ。
普段、見ることが出来ない物を一個ずつ動かす……話だけなら簡単だが、それが難しい。
主に金銭的な意味で。
それを行う施設と技術はあっても、実際に使えるくらいの量の原子を集めるにはどれくらい必要なのだ?と言うことだ。
「なるほど、ではその化学を研究していき、役立てるということか?それならサイラスがやったほうが早いのでは?」
「それはそうなんですが……。彼らの世界には無くて、ボク達の世界にあるものも、あるんですよ」
魔法だ。マナという正体不明の何か、そして魔力という形で人に蓄えられてその物の意志によって形を変える存在。少なくともそういうものは無かった、と言われている。
それと共に、魔物、魔晶石、魔法金属等など。
「魔法と化学を組み合わせて、ここでしか再現できない新しいものを作るんです。その為には色々と必要な道具などがまだ足りていませんが」
これは地球とこの世界の物質がほぼ同じで、それに魔法関連の物質が追加された様なものだから出来ることだ。化学の発展によって様々な素材が生み出され、限界までそれを極めた技術。
それにこの世界独自の物が交わるとどうなるのか。それはまだ誰も試したことのない未知の領域となる。
「さっき、物には最小の単位があるって言いましたが、それは薬にも当てはまります。ボクたちの身体にも当てはまります。医療、産業、工業……全ての分野の基礎となる新しい研究……ボクは魔法化学って呼んでいます。そして、サイラス博士はちょっと別の分野となる魔法科学……自然現象など、物事が起こるその因果関係、原因と結果を探求する事になります」
科学は何がどうしてこうなったと言うものを分析して、その現象を起こすための条件を知り、再現する。それは魔法という力を扱うにあたって重要な知識であり、それを有するサイラスとテンペストは今までに無い魔法を開発している。
「サイラスの研究では、結局どういう事をするのだ?」
「はい、ではそれは私から申し上げます。一番簡単なのは自然現象を模した魔法……火、水、土、風、光などです。そして皆さん色々な方法で、魔法を扱いますね。しかしそこには見たことがない魔法を再現できないというのもあります。これは、単純に知識の差です。燃え盛る火を見たことがない者は、火を起こせません」
「では、我々の知らない魔法を既に持っているというのか?」
「はい。発表していないだけです。少し、外へ移動しましょうか」
話が回ってきたのでついでに見せておく。
「雷という自然現象があります。これは、電気という一つのエネルギーが、気流同士がぶつかることで摩擦によって蓄えられていき、それが溢れ出てきたものと考えて下さい。なのでそのまま再現しようとすればこうなります」
雷雲が湧き出し、風が強まっていく。雷が発生する過程が早回しで再生されるように。
そして、適当な所で地面の一点に向けて放つ。
空気を震わせる音と閃光が走り、落ちた場所に焦げ跡を残してやがて雲は霧散した。
「この様に、出来方を知っていればそれをなぞることによって同じ現象を再現できるでしょう。そして、どういう現象であるかを知っていればそれをコントロールすることが可能となります。……この様に」
今度は空中に光球が浮かび、そこから地面の指定された範囲にのみ青白い電撃がはしる。それは恐ろしい独特の音を建てながら生き物のようにうねり、増えたり纏まったりしながらそこに存在し続け、サイラスが指を鳴らすと消失した。
「もちろん、全てを通り越してこれを再現できるものが居ますが、恐らくそれは適正の問題があるのでしょう。直感で出来る人というものは必ずいるものです。そして……テンペストが提出した光の魔法に関してですが実はまだ先があります。光というのはその物がエネルギーを持っているものです、詳しいことは省きますが、重ね、同じ場所へ当たるように束ねていくと……」
今度は雷とは違い、まばゆいばかりの光が的へと一直線に伸び、あっという間に木でできたそれを燃やし尽くす。
「この様に局所的に超高温を生み出す事が出来ます。火球などと違ってこれは光その物で、着弾までの時間は一瞬です。そしてこれを応用して色々弄るとこういうことも出来ます」
セイクリッドレイ、サイラスが遊びで作ったゲームの再現魔法。
空から幾筋もの光の柱が乱立しては消え、地面がどんどん抉れていくが、その真っ白な光と消える瞬間の光の粒子が羽根のように舞いとても神聖なもののように見えた。
「と、この様に正確な知識を持っていればその現象の再現は容易です。更に範囲の指定は方向の指定、出力の調節など様々な事を設定できる事はご存知だと思うので省きますが、それらを応用することで先程のような演出じみたものも作れます……あれ?どう、なされましたか皆様方……」
先程から全く反応がなかったことに今更ながら気がついたが、全員口を開けてぼーっとしているようだ。
先程からほぼ無詠唱で即時発動する新しい魔法とその効果を見て、どう理解すれば良いのかが分からなくなったため、思考が止まっている。
「どう、と……言うか……サイラス、今どうやって発動したのだ?」
「皆さんが詠唱するのと同じことですよ。そうですね……少し質問いたしますが、魔法の詠唱と言うのはなぜ必要なのでしょう。そして、同じ効果のものでもそれぞれがそれぞれの詠唱を持っているのは何故でしょう?」
「それは……」
しかしその後の言葉が続かない。考えても見れば詠唱というものが違っても、結果が同じものであれば同じ魔法として扱われる。
本当であれば全く同じ詠唱でなければ同じ効果は出ないはずなのだ。しかし、幾つかの共通点がある以外は微妙に差があっても問題ない。
「詠唱は、魔法を発動する上で、きちんとその結果を出すためにある……のではないか?同じ炎を見てもその表現方法が違うように」
「ええ、そういう感じだと思っていいです。より正確にその現象を顕現させるためのキーワードです。方向性を決め、放ちたい魔法のイメージを補助するためものが詠唱なんです。大魔導師であるロジャーはそこに気がついていて、ニールやコリーにはそのように教えているようです。大切なのは最終的にどういったものをどのように放つかのイメージですから」
「私はマナに語りかけて魔法を発動してもらうためのものと教わったことが……」
「ええ、そういう話もありました。が……色々と実験をしてみたのですが、自分が内容に関係ないワードであっても、それを言ったらこの魔法を発動すると決めて置けば、喋った内容とは全く異なるものを放てますよ。『氷の刃よ今ここに顕現し敵を引き裂け』」
氷で出来た剣が地面から突き上げて串刺し、もしくはそのまま引き裂くと言った物の詠唱だが、そこに現れたのは炎の槍が地面に向かって突き刺さっていくものだった。
「なんと……詠唱は元々必要ない……というのか?」
「魔法の歴史が変わるぞ!今まで行われてきたことは意味のないことだったのか?」
「不思議に思ったのですよ。魔物が何も言わずとも魔法を行使しているのに何故我々だけは詠唱を必要とするのか……。自然に生きるものたちがそこまで複雑な思考をしているとは限らないのに、何故長い詠唱を必要とする魔法を放つのか。恐らく……知識と言うものが邪魔をしてしまったのではないでしょうか?」
自然に居る魔物たちが出来るのに、人は出来ない。違いは知能の差かもしれないと考えた。
魔物でも人と同じくらいの知能を持つものは居るが、それでもやはり詠唱は無い。
人は文化を築き上げて言葉を発達させ、それによってコミュニケーションが円滑に出来るようになった。
しかしその時はまだ普通に扱えていたかもしれないが、それを記録に残したり、口伝で伝えていくようになり本来はイメージのみで出来ることが出来なくなったのではないか。
詠唱は必要なものだと思いこんでしまったために、それが今の今までずっと改善されなかったのではないか。
これに気づいたのは多分、サイラスとテンペストが魔法の無いところから来たせいもあるだろう。
「本来、言葉として表記が必要だったのは魔術式や魔法陣という、自分たちが行う魔法という力を別なものに「設置もしくは付与」するときにのみだったのではと私は考えています。まだ仮説の段階ですが、これを決定づけるためには色々と歴史を遡ってみたりもしなければならないでしょう。とまぁこんな感じで色々と魔法が発動する原因と結果を考えてみました。そう言う研究だと思ってくださればいいです。あぁ、もう一つ。化学の知識によって生み出される魔法もあります。わかりますか?」
「化学……物の構成を知り、生み出す……創造魔法か」
「その通りです。例えば、鉄。限りなく純粋な鉄を生み出すと、こうなります」
サイラスの手のひらの上に薄い鉄の板が出現する。
「ふむ、小さいが確かに創造魔法だな。私も少し扱えるが」
「丁度いいですね、これと同じくらいの鉄を出してもらえますか?」
「良いだろう」
同じ様に鉄の板が出現する。ここまでは同じだ。
「あ、やはり違いますね。とりあえず見た目だけでも少し違いがあるのですが、わかりますか?」
「ん?鉄だろう?同じものを出したはずだが……言われてみれば僅かにサイラス殿の方が輝きがあるな……」
「そうです。同じ鉄。というものでも色々あるのです。私が出したのは純度が高い鉄……純鉄と言うものです。自然界には存在し得ないもので本来ならば人工的に生み出さなければなりません。そして……えーっと……財務大臣殿でよろしかったでしょうか?」
「ああ、そうだ」
「今財務大臣殿が作られたものは同じ鉄ではありますが不純物が含まれる、よくある精錬後の鉄そのものです」
何が違うのか……といえば単純に純度だ。
今回サイラスが出したのは純度99.9999%以上という限りなく純粋に近いものだ。これの特徴は純度の低い鉄と違って酸に侵されにくく、塩酸などにつけても溶けない。
柔らかく叩けば伸びるが、その為割れにくく切れにくい。
大臣の方は純度99.8%程度だろうか僅かに炭素などが入った硬く丈夫な鋼鉄と呼ばれるものだ。
「……柔らかい……な」
「はい。これくらい違います。同じ鉄ですが」
「つまり、分かってさえいればどんなものでも作れるのが創造魔法……なるほど、知らなければ作れないと言うのはまさしくその通りだな。知っているものが多ければ多いほど、作れる物の幅が広がるわけか」
「そうです。私が知っているものであれば、毒物も作れることになります。ニールに任せている魔法化学と言うのはこういう使い方があるのですよ」
化学と科学、どちらが抜けても発展しない。
それぞれがぞれぞれの技術を使って更に研究が進む。
「素晴らしい。そして分かりやすい。我の凝り固まった頭でもこの素晴らしさはよく分かる。今聞いたことは今までの常識を覆す新しい考え方、そして学問だ。今までこれ程までに斬新でありながらも結果までも付いてきた者が居るか?」
「ハイランドの歴史を振り返っても、様々な理論は出てきてもここまで説得力のある物はありません、陛下」
「そうだろう。そして、このカストラ領にハイランド中の研究者、そしてそれに向けて知識を欲する者達を集め、ハイランドの未来の為の人材を育成してもらいたいと思うのだが、皆、どう思う?」
認めてもらえたようだ。後ろにいる大臣達も頷いている。
「これほどのものを見せつけられて、それがペテンの類ではない、と確認出来ているのです。私は賛成です」
「そうですな。私も賛成です……が、ここに来るまでの間、見ても思ったのですが聞いていた通り土地がほとんど残っておらぬ様子、ここに新しくとなると少々厳しいのでは」
「私も知識を広げ、国力を上げるために研究と学問を行う場は必要と思います。しかしやはりここは不便ではないかと……」
ただ、立地としては不満なようだ。
事実としてこの場所は住める場所としては王都の裏側にあり、どん詰まりの位置だ。
つまり王都以外へはすぐに行くことが出来ない。そして王都を迂回して回る道もない。
更に土地がなく既にある場所は埋まっている。
山に囲まれ、僅かにあるその平地を使い切ってしまえば、後ろは崖で山の斜面となり、その奥はまた険しい山が続いている。
直線距離では一番近い場所にある街は切り立った山の反対側だ。
「ふむ。確かに……テンペスト、どうかね?」
「この領地を研究学園都市として発展させていくことは吝かではありませんが、確かに今現在この領地で使える土地はほとんどありません。不便な場所にある、というのも確かです。しかし人員と時間があればある程度は解決できます」
「宙に浮かばせるとでも言うのか?あの島のように」
「いえ、地上が無理なら、地下を使えば良いのです。地下を大きく掘り抜き、もう一つの街を形成するのです。幸い、この下はとても頑丈な岩盤によって支えられた場所で、大きくくり抜いた所で潰れたり崩れたりする心配はありません」
後ろの方でサイラスが宙に浮いた都市も面白いな……と呟いているので本気で実現してしまうかもしれない。確かにあの島が浮いている時点でやれないことはないのだ。
浮いている仕組みが分かれば、大きな質量を浮かせることが出来る。
「バカな。研究施設と学校を含め、更に住人などが入る場所を作るというのか?」
「幾ら貴公といえど、出来ぬことは言わぬほうが良いぞ。大人しく別な場所に建てるなどで良いだろう」
自分に関係のあるところへと持っていきたいだけだとは思うが、講師はここにしか居ない。
それに既にそれくらい大きな物は作られている。出来ることは証明されているのだ。
見た目だけならほぼ完成しているそれは……当然、地下滑走路だ。滑走路長3000m、その他にタキシング用の場所等も含めればそれこそ一つの街がそこに有るようなものだ。
「これも現物を見たほうが早いでしょう。既に私たちは地上に有る研究所を、いくつかは地下へと持ってくる事を検討しています」
現在の滑走路とハンガーがある場所へと来た。
将来的にここは滑走路を潰し、ハンガーと関連施設が残るだけになる。
そこに柵で囲まれた四角い区画があった。
「それでは皆様、この柵の中へと入って下さい。そして危険ですので出来るだけ中央へ。柵の近くは怪我をする可能性があります」
「転移装置……では無いようだが……」
「結構、広いな。なんだこのスペースは」
「これが私達が公開するという物の一つ、エレベーターです。人や物を上下に垂直に移動させるための装置で、これは人だけでなく、大きな荷物や魔導車などを動かすためこの様に大きなものになっています。では、下がります」
ガクン、と床が揺れてゆっくりと地面へと沈んでいく。最初はゆっくりと、しかし徐々に速度があがり、また速度が落ちてそこに広がっていたのは巨大な空間だった。
滑走路の後部、荷物の搬入口となっているこの場所は、そこ自体が広く、滑走路にも繋がっているためものすごい開放感が有る。
「なっ……何という広さなのだ!」
「何だこの空間は!それに……地下だと言うのに昼間のように明るいではないか」
「地上に滑走路がありますが、騒音対策と用地の不足ということで新しく地下へと移動したものです。今はまだ飛ばせる機体がワイバーンと練習機のライトプレーンのみなので寂しいですが……。明かりは太陽の光を再現した物が天井に取り付けられています。見上げるとわかりますが、等間隔に多くの物が付けられており、非常に明るく、そして地上と変わらない物の見え方になっています。一部は夜になると徐々に赤くなり暗くなります。地下に居ても時間の経過が分かるようにという工夫です」
滑走路自体も天井までの高さは約20m、幅は約100mもある。
後から広げるとなると難しいため、最初からかなりの広さを取ってあるし、テンペストとコリーなら良いが他のパイロット候補生を養成する時にある程度大きくないと激突する事故が多くなりそうだからだ。
明かりは当然新しく作った専用のものだ。太陽光と同じ波長を出し、色の再現度も限りなく近くしてあるため、内部は晴れた昼間と同じ明るさになっている。
紫外線や赤外線等も入っているため、日光浴も出来る。
換気は常に地上の空気が流れ込むようになっており、地熱を利用して部屋の温度は一定に保たれる。
唯一外を見られるのがこの滑走路の出口のみだが、それにさえ目をつぶれば快適な空間その物だ。
滑走路上に皆が立つとその空間の異常さが分かる。
「……これは……確かに……」
「今聞いたこの場所の大きさは確かに街を形成できるほどのものだぞ」
「いかがでしょうか?後の計画としては向こうにあるなだらかな稜線を持った山が一番近いためそこまで橋をかけて行き来出来るようになども考えています」
地下滑走路の存在は王様は一応知っている。ただ、今まで見たことがないから実際に見て驚いてはいるようだ。あまり顔に出していないが。
「さて、もう一度問おう。解決策が示された。どう思う?」
「……異議なし」
「もう少し他の領地などと繋がっているなどすればなお良いが……賛成です」
「道を作るのは我々の管轄だ。この様な有用な場所を不便なままにはして置けぬだろう。国王陛下の許しと、カストラ男爵の協力を得られるのであれば全力で道を整備しよう。賛成だ」
国土計画大臣の言葉でもう誰も不満を言う所が無くなってしまった為、賛成の声が上がる。
こうしてカストラ領は王国主導で開発の手が入り、王立研究学園地下都市が誕生することになる。
サイラス無双