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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第三章 束の間の平穏編
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第六十九話 ニールの決意

 頭がボーっとする。

 ボクの唇にはまだテンペストの感触が残ってる。


 自分の部屋に戻ってきてから、ずっとテンペストのことばかり考えていた。

 あの時、テンペストがとても適当にボクのことを選んだと思ったから、つい勢いで言ってしまった本音。いつも皆には馬鹿にされるけど……ボクの本心は誰が何と言おうとテンペストのことが大好きで、本気で結婚したいと思ってる。


「うあぁぁぁ……夢じゃないよね?現実だよね……?やったぁぁ……!」


 でもやっぱり本当にテンペストがボクの事を受け入れてくれるとは思っていなかった。

 どこかでごめんなさいってされるんじゃないかってずっと怖かった。

 だって、どう考えても自分の裸見て興奮する人に、自分の身体を預けられるって思える人居ないと思うし。でもテンペストは受け入れてくれた。

 やっぱりまだちょっとずれてる気はするけど……。


 でも、テンペストの口からきちんと聞いたからね。結婚してくれるって言ったもんね。

 じゃぁその約束を守れるようにボクも頑張らなきゃならないじゃない?

 いいんだ、周りになんて言われようと、ボクがやらなくちゃいけない時はテンペストがお漏らししても絶対に変なこと考えないで綺麗にしてやるんだから。

 ボクの事信用してくれて、ちょっとエッチなところも受け入れてくれてるんだから、期待に答えなきゃ。

 我慢できなかったら娼館で発散してきてって言ってくれる恋人とか、普通いないよ?めちゃくちゃ理解あるよ?

 それを不潔だとか気持ち悪いとか言わないで「健全な男の人であればそれが普通だと言うことは理解しているつもりです。私の都合で我慢をさせてしまうのでその間は申し訳ないですが別なところで発散してもらうしかありません」って真顔で言うんだよ?


 多分、あんな完璧な人はもう絶対出てこないと思う。

 かっこ悪いところとか全部見られたりしてるけど、幻滅とかしないできちんと見てくれてるし、本当に理想の人だ。


 やばい。ニヤける。


「……あ、そうだ。ボクも何か研究とかやろうかな?博士とかはもう魔法自体を改変しまくってるし……でもあれってテンペストと博士にしかまともに扱えないんだよなぁ。じゃあボクはこっちのやり方で上手くまとめる方法とか?でもそれじゃやってることが被っちゃうか。んー……。やっぱりやるならボクらしく広域殲滅魔法の開発かな!テンペストに教わったように範囲の指定とかもきちんとやれば問題ないし」


 魔力消費がある程度少なくて、それでいて最高の効率が出る物を作る。

 ボクの得意なものは焦熱魔法だ。炎よりも熱く、全てのものを溶かし尽くす。

 一応、皆から色々聞いたりとかして、どういう特性を持っているのかとかもある程度知ってるし……。

 高熱の物があると、空気や水分とかの密度が低くなって体積が大きくなるんだっけか。

 全ての物質はとても小さな一つの単位があって、それの多い少ない、そしてその構造で様々なものに変化する。

 ボクはそれを聞いた時、本当に錬金術っていうのは可能なんだ!っていうのを知った。

 だって構造とかそういうの変化させるだけだもん。今は色々と変わってきて錬金術師はいろいろな実験を繰り返して、物の根源を探る人たちを指すようになっている。博士によればそれは化学者と言って、何と何を混ぜ合わせると、何が出来てどういう反応が起こるとか、そういった事を研究している人たちなんだとか。


 今のところこの研究室には化学部門はない。

 博士が言うにはこれが発達すると、魔法に頼らない薬や、様々な新しい価値を生み出す物を合成することが出来るからその内作りたいって言ってたな。


「むー……そうなると錬金術師として一から学び直して……っていうか化学者?になるっていうのもありかな。博士とかテンペストからその辺の知識を教えてもらって、ボクが実験とか色々やって……で、皆を支えたい。あ、これ良いな。そうしよう」


 テンペストや博士が居たところでは、この化学っていうのが発達していて、魔法もないのにいろんな病気を治す薬を作り出したり、特殊な生地を作り出したり、大地の成り立ちを研究したり……色々な事をやっていたそうだ。

 ボク達のところでは不治の病とされているものも、時間はかかっても治していたり、身体自体を病気にかかりにくくすることもしていた。

 何よりも……生物のパーツ……例えば、耳とか皮膚とか指、そういったものを作り出して移植して、失ったものを取り戻すことも出来たって言っていた。

 望むかどうかはわからないけど、博士の手足を元の肉体に戻すことが出来るかもしれない。


「あっ、ダメだ。博士は生身の肉体よりむしろゴーレムみたいな感じになったら便利なのにとか言う人だ。今のままでいいって絶対言うよあの人」


 まぁ、博士は例外としても、何かしらで手足を失った人のそれを復元できるなら、それさえ出来れば後はほとんど怪我の範疇に入るからピクシーワードで元通りに治すことが出来る。

 博士の言う化学と、魔法を融合させたら……向こうではなかなかできなかったことでもこっちでは簡単に出来たりする技術があるんだから、きっとこの分野でも同じようなことがある。


「よし、ボクは……えーっと……魔法化学者?になる!新しいモノを作り出すんだ。そして皆をサポートしていきたい」


 こうしてニールも一人の研究者としての道を歩み始める。

 初めて化学と錬金術を合わせた新しい学問の世界が開かれていく事になる。


 □□□□□□


「領主様!新しい滑走路への道が完成しましたぜ。」

「分かりました。新しい舗装方法はどうでしたか?」

「アスファルト舗装ってやつだな?道を作るのにあまり時間がかからないのに真っ平らで歩きやすい。試しに色々重りを乗っけた馬車を走らせてみたが、丁度いい摩擦もあって滑らねぇ。路面が真っ平らで凹凸がほとんどねぇから乗ってても静かだし、どっちかってーと馬車の車輪の歪みの方が気になるくらいだったぜ……」


 滑走路へ続く道も完成した。

 山の側面を抉り、幅が広く斜面側が柱で支えられた構造の半開放トンネルとでもいうものを構築して、そこの舗装はやっと手に入ったアスファルトを使い、アスファルト舗装とした。

 下に敷く砂利はこれのために掘り出した岩盤の一部を砕いて細かくしたものを使い、転圧して固め、その上にアスファルトと細かい砂利と石灰粉を混ぜ合わせた、都市部でよく見る黒い舗装が敷かれる。


 専用の重機などを使わなくとも、転圧は重さを変化させるプレスで代用できたりするので意外と低コストで敷き詰めることが出来るのは大きな収穫だった。

 石版を埋め込んで作る舗装等が一般的だったがそれよりも遥かに楽に出来るし、魔法で地面を固めて作ったものよりも滑らないし眩しくならないからいい、と言う。

 将来的に研究所横に飛行機の組み立て工場を設置するため、それを運び込む際に幅と高さが必須のため、道路自体はかなり広く作ってある。エキドナが横に何台も並べられる位だ。


 耐久性を上げるために強化を施してあるので、恐らくなかなか磨り減りはしないだろう。若干熱にも強くなっているはずだ。


「あのタイプの舗装は、車輪を持った物の通行に最適です。魔鎧兵はなるべく荷台に乗せて運搬するなどしたほうが良いでしょう。もしくは、魔鎧兵に柔らかい素材で出来た靴を履かせたほうが良いかもしれませんね。今回の舗装で問題無さそうだと判断したら、滑走路の方も同じく舗装して下さい。比率や下地などの作り方はサイラスが纏めた方法を参考に。また、かなりの臭いがありますからきちんと換気をすることを忘れないでください」

「分かった。内装も大分進んできたから滑走路が完成すればとりあえず使えるようになるぜ。明かりに関しては取り付けなくて良いんだよな?」

「ええ。それはこちらで開発したものを出来上がり次第取り付けていきます。通常のものでは光量が足りないのですよ」


 着陸などの目印になる専用の灯火だ。

 周囲が山なので、見通しが悪い為滑走路がそこに有ることを示す灯台を周辺に設置しなければならないし、アプローチの際に使う進入灯等も付けなければならない。

 今までは飛べるのがテンペストのマギア・ワイバーンのみだったため特に必要なかったが、これからは飛行機を作っていくことになるのだから、必要な装備だ。

 空港として必要なものを揃えたほうが良い。


 後は飛竜などが近くに居る時に滑走路を封鎖するためのシャッターと、迎撃用の武装なども設置する。


 ちなみに、アスファルトはコーブルクの商人が来た時に、こういうものがないかと話をしたところ、ルーベルで接着剤として使われている物が似ているということで仕入れてきてもらった。

 なんでも天然アスファルトが湧き出す場所があるらしく、それを使った製品がいくつかあるそうだ。実際に持ってきてもらうと確かに求めていたものだったため、大量購入となった。

 ついでにゴムもルーベルで産出していた。

 今まで苦労していたのは何だったのかと、若干疲れてしまったが……向こうではアスファルトもゴムも水を漏らさないための防水シール剤などとして活用しているようだ。タイヤにする発想はなかったらしい。

 最も、そうするまでにはかなり複雑な工程が必要になるので、まだそこまでたどり着いていなかったのかもしれない。


 これによって様々な製品が作れるようになった……のだが、やれることが増えるとぶち当たる問題が出てきてしまった。

 生産する場所が無いのだ。

 現在テンペスト達が住んでいるカストラ領は、確かに広大な土地を有する。

 しかし、現時点でその土地は殆どが手を加えていない山で平地がない。唯一あった平地は現在使っており、ある程度街が拡大し、様々な研究施設の敷地を割り振ったり、農地として開墾していった結果土地がなくなってしまった。


 それでも入りたがる人は居るもので、限られた土地に大量の人を住まわせるためにハイランド初の5階建てのマンションが建ったくらいだ。

 ちなみに一部屋の値段は普通に家を買えるレベルで高額物件なのだが、既に8割ほど埋まっていたりする。

 一応部屋を見て買っているので文句はないのだろうが、狭くないのだろうか。


 運営する領主としては税収が増えるので良いが。


「意外と早くこの問題が出てきましたね」

「開発と発展の速度が早すぎましたか。しかし、あの兵器に対応するためにはある程度近代化を進めておきたい所だったのですが……」

「こればかりはねえ……。山を切り崩すにしても重機まだ出来てないし、重機は恐らく魔鎧兵を工事用に改造したものになると思う。山しかないこの土地だと、どうしてもタイヤやクローラーでは登れないからね。足つきが苦労なく作れるこの世界なら、アレのほうが色々早い」

「ええ、トラックなどでの運搬は道を作りながらでも良いでしょう。段階的にここの山肌を均しつつ土地を広げていこうと思っていたのですが、予想以上に人が増えすぎました」


 王都が近く、現在トップレベルに治安が安定していて、技術の最先端を行く領地だ。

 更に領主は英雄である鉄の竜騎士、彼女ともう一人の竜騎士コリーが操るマギア・ワイバーンを間近で見ることが出来るのはこのカストラ領だけ。


 更に、ライナー魔道具工房のお膝元。今様々なところで活用され始め、人気上昇中の新しい魔道具メーカー。その製品は今まで魔道具化が難しかった物を纏め、煩雑な作業の負担を減らし、商人、経営者、領主などから喜びの声が次々と上がっている。

 一般用にもいろんなものが出ており、とても便利なものが多く、何よりもデザインがとても洗練されている。

 魔道具と言えば、今までは機能を詰め込みそれにガワを付けて完成、と言うものが多い中、見た目にもこだわり、使う人のことを考えた細かな工夫は斬新で、使う人にも魔道具を作る職人にも衝撃を与えたのだ。


 住人の生活水準が高く、平民であってもかなり豊かな暮らしが出来ているこの街は、今や小さなカス領地ではなく、多くの人たちから注目を浴びる場所となった。


 それまではこの領地は土地がなく、王都の更に奥へといかなければならずその先には山だけで何もない、不便で農地としても不適、あの領地を貰った者はことごとく没落していくという不吉極まりない場所だった。

 領地があっても人が来ない。人が来ないから税金も取れない。畑も作れず、開墾するにも山を切り開かなければならずその為には人が必要で……という酷い負の循環があったわけだ。

 だから、テンペストが男爵となり、カストラ領を拝領した際誰も反対しなかった。

 子供が遊ぶには丁度いいだろうと、大半の貴族たちは思っていた。

 元々が平民で、英雄に拾われて養女となり、誰も彼女が戦っている所を見たことがないのにも関わらず英雄と讃えて祭り上げている……そう理解していた貴族たちは、自分たちと同じ土俵に上がってきた小娘が気に入らなかったし、領地まで与えるという王の言葉に憤慨した。が、その領地が曰く付きの場所と知ると手のひらを返したように祝福した。


 どうせ、一年経たずに音を上げて化けの皮が剥がれると思い込んで……。


 そして観察していた。まるで虫を入れてその虫が籠の中でどうするかを見るかのように。


 すると、テンペストのパーティーメンバーであるコリー、ニール、ロジャーは当然その場所へ行く。

 そこに何故かエイダ様が顔を見せたり、王都から研究者が派遣され、研究施設が出来上がった。

 そこからはあっという間に飛竜を狩りお金を手に入れては研究につぎ込み、見たことのない魔導車を開発し、ライフルという強力な武器を次々と作り出した。


 それらは全て王都へと納められることになっていて、自分たち他の貴族はそこに介入することが出来なくなっていた。

 王都が……いや王国が主導となりカストラ領をバックアップし、かつての敵国であるミレスの技術を使った兵器などを作らせていると思い至った彼らは、直接手出しができない代わりに、自分たちの領地の商品などを卸さない事にして、物資を渡さないという嫌がらせを行うことにしたのだが……。

 一番の問題だった作物はなぜか建物の中から出荷され、酪農などを行うようになり、王都と他国、そして自分の領地内の生産のみで何の不自由もなく運営していた。


 しかもその頃には段々と人がそちらに流れていき、テンペスト・ドレイクという名前が優秀な写本師でもあることも明らかになっていく。


 そこから街は発展の一途を辿り、ついには平地を食いつぶすほどに成長している。

 それも宝石の産地としても有名になりつつあり、飛行機というマギア・ワイバーンのように空を飛ぶ機械を作り上空を飛んで見せ、ミレス製の物をそのまま使っていた魔導車はカストラ領で開発されたものと比べるとひどく劣るものであることが分かると、もう認めざるを得なくなってくる。


 たったの一年足らずでここまで色々なことを飛び越されていくと、特別な存在であるということなんて嫌でもわかる。

 友好的に手を結ぶ貴族も増えていくし、嫌がらせは全く通用しないどころか、下手をすれば王族を怒らせる可能性があるとなると怖い。

 しかも本当に戦うことが出来る力を特例的に保有している。


 今、テンペストは最も聡明で最も幼く最も人を惹き付ける人物となった。

 ただあまり人前に出ないため顔を知っているものはかなり少ない。


「有名になりましたからね、随分と。そろそろきちんと社交界デビューするべきですよ?」

「やることがまだまだたくさんあるのでそんな暇はありませんが」

「確かにそうなんですけどね、そろそろ他の貴族の不満とかが溜まってきているんですよ。貴族じゃない私にも聞こえてきてるんですよ?」

「……そうなのですか?ヴォルク」


 ヴォルクはテンペストの館を取り仕切る家令だ。屋敷の管理や財産の管理など様々な事を一手に引き受けている大ベテランだ。エルフで長身、腰まである長髪を頭の後ろで縛った美青年だが、年齢はとっくに人間の寿命を超えている。その分知識も色々な物を知っているためとてもありがたい存在だ。

 サイモンから紹介されて最近こちらに来て以来、とても良く働いてくれている。


「はい。手紙を出しても会うことが出来ず、特定の者達としか取引をしてくれない。特に上級貴族からは王族に保護されているからと挨拶もしないつもりなのかという者も居りますので」

「出来ればまた少し留守にして異変を探りたいところなのですが」

「それなのですが、わざわざテンペスト様が歩かなくとも、交友関係を広げておくことによって広範囲の情報を仕入れることが出来るようになります。これは養父様であるハーヴィン侯爵も同じことをしていらっしゃいます。お一人では手が届かないことも、味方に付けた者の手を借りることで容易に届くようになります。それと……ここで社交を蔑ろにすると、無駄に敵を増やしてしまう事にもなります。貴族はこの国を支える領主であったり、国の重要な部門の役職についている者であったりと、領地の経営などに関しても密接に関わってくる訳ですから、敵にしないということはとても重要です」

「……なるほど……。上に睨まれることがあれば必要な時に必要なものが入らなくなることもありますからね」

「それだけじゃない。何かを申請する時に無駄に時間が掛かるようになったりもするんだ。昔いた研究所で役に立たない上司を怒らせた時、申請したものとか報告を横取りされたり、握りつぶされたりと嫌がらせをされたものだよ。ま、あれは個人と個人の問題だからあっさり解決したが、貴族となれば下手をすれば本当の意味での争いに発展する。負けることは無いと思うけど、そんなことでいちいち必要なことが中断されては面倒だろう?」

「はあ、……あまり気は進みませんが、頑張ってみましょう。ヴォルク、社交界での立ち振舞などを教えてください。落ち着くまでは調査は延期です」


 まあ、領地の拡大などの問題もあるのであまり動けないというのは確かなので、ここは面倒くさくても社交界へと顔を出して置かなければ面倒なことになるというのなら、行くしか無い。

 幸い取引材料は沢山有るので、出しても問題無さそうなものなどをちらつかせて何とかしよう、と考えるテンペストだった。


「……それと、当面は王都とこの街をつなぐ街道沿いを大きく広げて土地の問題を解決します。深い谷を切り崩して広げていくことになるため危険が伴います、細心の注意を払って作業に当たるようにして下さい。また、王都とカストラ領の境界線付近はそのまま残していいです。天然の城壁となりますので」

「何かあった時はそこを封鎖するだけでこっちになかなか来れなくなるからね。伝えておこう」

「後、サイラス博士、工事用のドワーフ専用の魔鎧兵は出来そうですか?」

「あ、2機は作ってテスト済みだよ。後は装備品もある程度用意しているから、土地の拡大の方に優先的に使ってもらうことにしようか。洞窟内だとデモにもならないし」

「そうして下さい。それと社交界に合わせて王室用のエキドナと、私とコリーが使うオルトロスの非武装タイプ、出来れば装飾の施された式典や社交に使うための物を用意してもらいます。……私だけが苦労するのは割に合いません」

「え、あれはまだ内装も出来てない……」


 王室用のエキドナは外装の塗装が終わった所だ。装飾はこれからだし内装は全く手を付けていない。

 更にそれに追加して高級オルトロスを作れという。

 反射的に無理だといいたくなったが、社交界に出ろと言ったのは自分だし、それにエキドナの納車とともに高級オルトロスに乗ってテンペストとコリーが出てくればかなりの宣伝になるのは確かだ。


 将来の取引にも影響するのだからと言っているのに、こんな宣伝するのにふさわしい状況を逃すわけにはいかなかった。


「……いや、必ず間に合わせる。私達平民は出席できないから、貴族たちの反応がどうだったかは教えてもらいたいけどね」


 それに異論はない。聞いてみれば社交は定期的に行われているというし、次の社交までまだ少しある。

 その間に何とかものにして、王室への納品と社交界へのデビューを同時に行って印象を強くするのだ。

 色々と忙しくなる。


 □□□□□□


「あー……すっかり忘れてた。まあほら、俺ってこういう性格だからな、実際親父の子として社交界へ入っていった事はあるが……言葉遣いとかくっそめんどくさい。言いたいことは直球で言ってもらったほうが俺としては分かりやすくていいんだが、なんでこう回りくどくて無駄な装飾の多い言葉遣いをしたがるかね?」


 一応、コリーにも社交界に関しての質問をしてみたのだがその答えがこれだ。とてもコリーらしい答えだった。

 ただ、正直なところテンペストも同意見だ。貴族特有の言い回しというものはとても面倒で長ったらしい。必ず何かに例えなければならないのだろうかと思ってしまうほどだ。


「一応、理由としては平民が聞いてすぐに理解出来ないようにと、婉曲表現を使っていたのがどんどんエスカレートしていったものだと聞いています。ただ、そのせいで理解に齟齬が発生している感もあるのですが……」

「いやそれは揚げ足取りを防ぐ目的もある。ぼかしておいて相手がいい方に取ったらよし、悪い方にとって後で文句を言ってきたら、そういう意味で行ったのではないと言って逃げられるからな」

「面倒な……」

「全くだ。で、テンペストは出席することにしたんだな?ならまぁ……俺も出ないわけにもいかんか……。あの雰囲気、優雅な様でとてつもなく鋭い刃物で狙われているかのような妙な空気が本気で苦手だ」


 とは言え、コリーが来てくれるのならば心強い味方だ。

 元々貴族の息子としてその世界を知っているのだから、何の予備知識もないテンペストが一人で出るよりは全然いい。


「ヴォルクに頼んで色々教わろうと思っています。ニールも参加させるつもりですが、コリーはどうしますか?」

「俺もおさらいしておくか……でもニールは必要ないんじゃないか?まだあいつ社交界出れないぞ」

「いえ、ニールも将来爵位を取った後に必要になりますから」

「まあ、爵位取って貴族の仲間入りしたらそうなるが……。なるのは決定なんだな?」

「というか、なってもらわないと困るのです。ニールは将来私と結婚予定なので爵位を貰って立場を同等にしなければいずれ問題が起きますから」

「待て。今なんかすげぇ言葉が聞こえたぞ!?」


 テンペストの口からニールと結婚するという言葉が出た事に驚く。

 いつの間にそんなことになっているのかと。というか、今まで別にそんな素振り無かったじゃないかと。


「え、いつからだ?お前ら別にそういう関係じゃなかっただろ……ニールは確かにテンペストが好きだと喚いていたが……というかニールでいいのか本当に?テンペストはちょっとこう、達観しすぎてる所があるからある程度心が許せるやつなら大丈夫とか考えてないよな?」

「つい最近です。私が空間魔法をニールから教えてもらっていましたが、それが完成しました。新しい滑走路に設置された私のハンガーへと繋げられる様になったので、空間魔法でも収納に該当する技術の習得が完了したのです。その時、戦闘をする時の話で私はいつでもワイバーンを呼び出して出撃できるようになります。その場合、予め分かっている場合には屋敷に身体を寝かせておきますが、そうでない場合にはオルトロスかエキドナの中に置いておくことになりますから、そこでニールに世話を頼んだのです」

「まあ……皆が出撃すれば留守番はニールになるからな……。博士はサーヴァントに乗るし……」

「ええ。その際、私が長時間ワイバーンに移っている場合、どうしても回避できない生理現象があるので、その場合の処理を含めて私の身体を守って欲しいと。そしたら、自分じゃないほうがいいのではないかと食い下がるため、理由を聞いてみたところ、私に対しての好意は夫婦となり共に生活し、子を成したいと言う意味合いのものであると言われたのです」

「で、受けたわけだ……。確かにあいつはテンペストのことを好きで、結婚したいと思っているが、あいつは少々危なっかしいぞ?本当に大丈夫なのか?」


 テンペストの裸を見てしまった後、ものすごく不純な欲望を持っていたのを知っているコリーは心配している。そういった事も男性であればそうなるのも仕方ないと言う感じで受け流してしまう事も知っているからだ。


「問題ありません。それに関する回答は既に得ました。それに、確かに私はまだ恋や愛と言った物が完全には理解出来ません。しかし、私はニールに想いを伝えられた時に嬉しいと感じました。拒否ではなくて好ましいと。それにニールは娼館で発散するのと、意識のない私を襲うことは全く別で、私とするのであれば互いに愛し合って求めあっていなければそれは違うとはっきり言いました。私はニールを信用していますよ。そして、恐らくとても好きです」

「……そか。まぁ、2人が本気であるなら問題ない。だが何かあったら言えよ?後で捕まえてボコボコにしておくから」

「大丈夫ですよ、サイラス博士とコリーが怖すぎてとてもじゃないけど正式に結婚するまで絶対手を出せないって言っていましたから」

「まあ、何だ。間違いを犯さないなら、俺も応援してやるよ。テンペストを狙ってる貴族は多いからな。ハーヴィン候と蹴散らしておいてやる」


 ……考えていなかったが、貴族が婚姻を無理やり結ぶこともある。それであればきっと頼りになる保護者となってくれるだろう。


なんやらいろいろとやることが増えてきたようです

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