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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第三章 束の間の平穏編
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第六十八話 成功

 まだ新しい滑走路の工事は継続中だが、テンペストのハンガーは一足先に完成した。

 テンペストが楔石を天井に設置して終了だ。


「じゃあ……ボクが今からこのハンガーの中にとある物を置くよ。テンペストはそれを取り出すだけでいい。やり方は前の鞄と同じで、違うのは目印である楔石があることだ」

「ええ、今もきちんとそこにあるのを感じています。不思議なものですね」

「うん。……これだけ大きいと拡張必要ないね。ボクも頑張ろっと。じゃあ、シャッターを閉じて」


 ゆっくりとシャッターが閉まっていく。

 くの字に折りたたまれた物が伸びていって一枚の壁になる。ゴォンと音がしてシャッターが降りきると、微かにガキンというロックが掛かる音が響く。


 そしてこのハンガーを地中へと降ろしていく。モーターの作動する音がかすかに響き、ギアが噛み合う音がだんだんと遠ざかっていった。

 天井が床下に隠れていくと、転落防止用の柵がせり上がり、さらに穴をふさぐように大きな金網の扉が閉まっていく。

 たっぷり3分を掛けて一番下まで到達すると、横にある信号が切り替わって停止したことを知らせてくれた。


「あ、止まったね。……というか本当にこの装置凄いね。今までの常識じゃこんなことできなかったよ……」

「博士のおかげです。それに、この世界にはこういう重量物にも耐えられる素材が沢山あったということも簡単に作れた要因です。……実際、貨物エレベーターに関してはもう既に完成して稼働していますから」

「あの洞窟に繋がってるやつだよね」


 洞窟直通の貨物エレベーターはこの滑走路からは入れない。更に上のテンペストの屋敷のすぐ近くに出入り口が作られており、厳重な警備が成されている。

 中に入れば宝石取り放題になるので当然とも言える。もちろん、入れる職人も限られており、今は一緒に入っていったドムとベリルの2人だけだ。

 それ以外の人が例え本当に代理を頼まれていたとしても、絶対に入ることは許されない。


 既に多数の宝石類を産出しており、未だ入口付近をちまちま掘っているだけだというのだから埋蔵量はどれほどのものなのだろうか。

 反対側の方もやはり同じようになっているため、暫くは資金繰りで苦労することはないだろう。


「さ、テンペスト。ボクが置いてきたものを出してみて」

「はい。では……」


 最初なので確実に成功させるためにも集中する。

 楔石を起点にしてハンガーを認識すると同時に、中のどの位置に何があるかが頭に浮かんでくる。

 最後に出し忘れたのだろう、掃除用具が入っていたので後できちんと整理して置かなければ。

 そして、シャッターのすぐ裏、隅っこに入れた覚えのないものが入っている。

 装飾の施された腕輪だ。


「……これですか?」

「おめでとうテンペスト。これでテンペストは空間魔法で非生物を出し入れできるようになったよ。ボク、要らなくなっちゃうね」


 ちょっと寂しそうな顔でニールが言う。


「何故ですか?ニールには広域をカバーする攻撃魔法などがあります。それに……博士の研究を見ながら練習しているではないですか。魔法を扱える人は多いほうが良いですし、まだ学ぶこともあるでしょう」

「ホントにボクは皆と一緒に居て良いのかな」

「必要です。あなたは魔法に関する知識などはコリーよりも上ですし、私やサイラスと違って元からここにいる現地人なので、こちら側からの視点を教えてくれますから」

「コリーと違って戦えないし、博士と違ってあまり器用ではないよ?」

「私もまだ未熟ですよ。武力では未だ普通のハンターにも劣る場合があります。それはコリーにも指摘されています。魔法による強化なしでは勝ち目がないことなど多々ありますから。それに……ニールには私の身体を守ってもらわなければならないのです」

「あっ、そうか……」


 エイダが居ない場合には、サイラスとニールがテンペストの身体の近くに居ることになる。

 しかしサイラスは最悪の場合、サーヴァントに乗って出撃するのだ。そうなるとオルトロスの中にいるのはニールだけだ。


「私のオルトロスにはその内背の低い私達でも操縦できるように、助手席側に収納式の装置を組み込むつもりです。そうすれば、何かあった時にはオルトロスと私をニールが守ることが出来ますから」

「で、でもほら、ボクでいいの?汚しちゃったときとかボクがやることになるけど、その、気持ち悪くない?」

「む……失禁対策は必要ですが……一応サイラスが対策として尿道カテーテルを作っています。それまでは申し訳ありませんが、何かあった時には清潔に保ってもらえるとうれしいです」

「え、だって、あれだよね、パンツ取り替えないと……」

「そうですが……。替えのものは用意しておきましょう。清潔なタオルなども用意して置きますので汚れたら洗って置いてくれるとうれしいですね」


 ニールがだんだん赤くなっていく。

 今この場に2人しか居ないことも余計に気まずく感じている。


「ああ、ニールは私の性器を見ることが恥ずかしいのですね?」

「うわぁぁぁぁ!だめ!女の子がそんなこと平気な顔して言っちゃ駄目!!」

「何故ですか、必要がある以上どうしようもないことです」

「エイダ様にも言われてますよね!?男の人の前で女の人が裸体を晒すというのは、その、せ、性欲を刺激したりですね!?」

「ええ。しかしニールは既に見たことがあるじゃないですか。それに、私に対して好意を持っているということも知っていますし、私の身体を預けるに当たって適任であると思うのですが」


 やはりまだズレている。

 そしてサイラスに言われたことを、思いっきり思い知った。

 知らない人に見せては駄目といわれているから、知っている人なら良い、サイラスは不完全ながら医者としても問題ないためOK。コリーはいつも何かあった時には世話をしてくれているからOK。

 そしてニールも身内で自分を傷つける意思はないからやはりOKと言った具合だ。

 身内であるという理由だけで特に気にしなくなってしまっている。


「すっ……好きだよ!大好きだよ!好意持ってるよ!でも、それは……友達とかそういうのじゃなくて、男と女として好きなの!結婚して、子供が欲しいなっていう、そういう意味での好きなの!意味がちょっと違うんだよ……。あぁ……言っちゃった……」


 勢いに任せて自分がものすごい告白をしたことに気がついて、耳まで真っ赤になったニールがぷるぷる震えていた。もう手遅れだ。


「なんとなく、理解しました。ニールは私のことを夫婦や番と言った形で婚姻を結び家族となることを望んでいるのですね」

「……はい……」

「そして性交して子を成したいと」

「…………は、い…………」


 既にニールは限界だ。死ぬほど恥ずかしい。

 結婚したいということか、そしてヤりたいのかというド直球な質問。正直に答えればこうなるのだが、もうただの変態でしかない。ロリコンがバレて追い詰められている様にしか見えない。

 ニールは今、本当にこのまま消えてしまいたいと思っていた。

 これ、絶対嫌われる、と。


「だからこそ、自分の性欲を刺激しないためにも避けているわけですね。理解しました。……なんとも理解が難しい事なので、なかなか気づけず申し訳ありません」

「いや……もう、なんというか……良いよ。まぁそういうわけだし、こういう考えを持ってるやつがテンペストの身体を触るっていうのはやっぱり嫌だと思うんだよ」

「それは違います。では、ニールは私がワイバーンに行っている間、誰の監視の目も無ければ私の身体を汚しますか?」

「それは絶対無い!」

「何故ですか?性欲があり、私と行為をしたいと思っているのですよ?」

「それは……それは、何か違うでしょ?ボクは、ボクを愛してくれる人と幸せになりたいんだ。そういう人とするのは、娼館に行ったりするのとは違って特別なんだよ!だから、意識がない、ボクのことを好きとは思っていないテンペストとするのは絶対に違うんだ。だから絶対に無い」

「やはりニールはとても優しくていい人です。だからこそ任せたいと思いました。それ自体は間違っていませんでしたね。ニールは信頼しているのですよ、アディからはニールはいつか絶対襲ってくるから気をつけなさいと言っていましたが、今の言葉を聞いて確信しました。戦闘状態に入った時、車内に私の身体を安心できない人と一緒に置く訳がないではないですか」

「え……?信用してくれるの?嫌いになったりとかじゃなくて?」


 そもそも、ニールが本当に危険な人物だとおもっているのであれば、無防備な身体をその側に置くことなんて絶対にしないのだ。

 人として信頼している。これが他のハンターである場合にはなるべくワイバーンに移ったまま、屋敷に身体を置いて行動しようとしているだろう。

 好意を持っていることを知っているし、それが不純でなく、純粋なものであることも今確定した。

 であれば、自分の身体を預けるに相応しいパートナーとなる。

 自制が出来て、大事に扱ってくれるのであれば問題ないのだ。コリーやサイラスはこの身体に興味はないが、確実に大事に扱ってくれるし守ってくれる。

 エイダは同性で面倒見がいいし、既に訓練をする時に散々見ている仲だ。


「私はまだ愛するという事がよく分かりません。しかし、ニールからこうして好きだと言ってもらった時とても嬉しく思いました。そして、多分私もニールが好きですよ。パートナーとしてかは理解できていませんが。避けたいとは思っていません。こうして一緒に居ることが出来るのが何よりの証拠です」

「え、じゃあ……」

「ニールが本気で私と結婚し、子を成したいと思っていて、私が成長して今の姿からは変わっていくことを理解し、それでもこれからもそれが変わらないのであれば、私は拒否する事はありません。……しかし、サイラスによればこの身体はまだ未熟で、性行為を行うには幼すぎるということです。また、ハイランドでは結婚可能な年齢が男女ともに成人とみなされる15歳となっています。なので、全ては4年後まで待ってもらうことになりますが」

「結婚、しても良い、ってこと……?」

「はい。今はまだ無理なので4年待ってもらいますが」


 絶望から一転して希望が……と言うか、お墨付きをもらってしまった。

 嫌われたと思ったら、嫌われていなくてむしろ好きと言われて結婚まで許可してもらった。

 夢みたいだ、と思ったが夢じゃない。


「本当、なんだ……。あ、あれ、でもボク爵位とか無い!」


 立場に差がある場合、一応結婚は出来ることは出来るが……まずほぼ確実に不幸が訪れる。

 良いことは殆ど無く、生まれてきた子は貴族からは煙たがられ、平民には交じれない。名が汚れることを避けて取引などを引き上げられたりということもあるのだ。


「ああ、確かに。現時点では平民ですがそうなると生まれてくる子には社会的に不利な条件になってしまいますし、ニールにとっても非常に居心地の悪い状況になるでしょう。しかしまだ4年あります。何かで大きな結果を残せばそれなりに地位が上がっていくのですから、頑張って下さい」

「そうだ、そうだった……うん、頑張るよ。ボクはきっとテンペストの隣に立てるように頑張る。誰にも文句を言われないように」


 同等かそれに近いところまで上り詰めれば、権利を手にできる。誰にも文句を言われない。


「はい。ではエイダや付き人が居ない戦場などで、私の身体を守るのはニールに任せます。しっかり守って下さい。私はニールを全面的に信用し、身体を委ねます。何かあった場合には処理を頼むことになります」

「分かった。絶対、傷つけないから。そして2人だけになった時は、ボクは絶対に逃げ出さずにテンペストの身体を守り続けるよ。誰が相手でも絶対に守り通すと誓うよ!」


 それに絶対手は出さない事も。見つかったらコリーやサイラスに殺される。

 でも思い出すだけなら許して欲しい。


「……えっ?」

「違いましたか?愛し合う人たちはこうすると聞いたのですが」

「いや、間違ってないけど、え。今の……」

「全てを我慢させてしまうので、せめてこれだけでもと。嫌でしたか?」


 約束を破ってコリー達に本気で殴られまくる光景が頭をよぎった瞬間、唇にとっても柔らかくて暖かい何かが当たった。

 そして目を開けると真正面にテンペストの顔がある。

 いつものように、凄く真面目な顔をして。……でも今の感触は、あれだ。

 今日は唇洗わないようにしよう。


「いや!まさか!嫌なわけないじゃないか!……むしろ、ずっと夢見てたくらいなのに」

「そうですか。そんなに喜んでくれるなら嬉しいです。これはニールのためだけに取っておきましょう。……こういう、誰かの為だけにと想うことが愛なのでしょうか。言葉などでは表現しにくい何とも言えない感情があるのを感じますが……表現できないのがもどかしいです」

「うん、多分そういう感じなんだと思う。こういう感情は言葉に出来ないんだよ。愛してるっていう言葉でしか表現できない。それ以外になんて表現すれば良いのか分かんないんだ。テンペストもいつかそういうことが分かってくるかもしれないよ」

「ええ、そう願います。人を好きになる、人を愛するということは今の段階では完全に理解は出来ません。でも、恐らく今の私の選択は間違っていないのだと思います」


 今でも何とも言えない感覚があり、それを説明できないでいる。ただ、今のところはいろいろなところから仕入れた情報によって、それが人を好きになるという感情であると結論づけているに過ぎない。

 でも、事実ニールを大切に思い、好きだと言われて嬉しくなり、それを受け入れているということは……恐らく自分はニールのことが好きなのだろうと思う。

 同じ男性であっても、サイラスやコリーにはそういったもどかしい感情は出てこないし、同じ種族のロジャーでもそれはなかったのだからその可能性のほうが高いのだ。


 だからニールの告白を受けた。まだ早いとは思うが、ここでニールの気持ちを放ったらかしにするというのもまた何か違うと思った。


 何よりも、ニールは真剣だったし、実際に自分に接する時は何処か遠慮がちな所がある。

 少しばかり色欲は強いのは確かだが、健康な男性であればそれは普通であり、別段忌避するものではない。それに見境なくそうなっているわけでもない。

 今のテンペストは確かにリヴェリにとってはとても魅力的な存在なのだろうが、ニールの気持ちが向いている同年代の女性となるとテンペスト一人だけだ。他の子には特に目を向けては居ない。

 好意が本当に自分ひとりにのみ向けられている以上、テンペストとしては断る理由など無かった。


「そういえば……これを返します。練習に付き合ってくれて本当にありがとう。お陰でいつでもワイバーンを呼び出せますし、エキドナもオルトロスも呼び出せます。ニールだけに苦労をさせることもないでしょう」

「あっ、これは……。えーっと、元々テンペストにあげるつもりだったんだ。プロポーズじゃなくて、空間収納魔法の習得祝いに。……まあ、もし恋人としては見れないって思ってても、ボクが作ったものを付けててくれないかなぁなんて考えが無かったわけじゃないけど。まさかここで受けてもらえるなんて思ってなかったし……」

「これはニールが作ったのですか。なるほど、確かに魔術師らしい作品です。宝石に何か魔力を感じます」

「お守りになるんだ。敵意を持った者が近くに居ると、その中心にはめ込まれた赤い宝石が光るっていうやつ。テンペストも同じことはもっと高い精度で出来るんだろうけど、常時やってるわけじゃないよね?それは付けてるだけで発動するから」

「ありがとうございます。ではこれは婚約の証として受け取りましょう。大切にしますね」


 銀色に輝くミスリル製の腕輪に、緻密な彫刻が施されて小さな4つの赤い宝石の中心に大きな1つの赤い宝石が一直線に並んだシンプルながらも美しい物だ。

 折角ニールから贈られたのであれば、将来の約束の証としてずっと身につけて置こうと思った。


 と、休憩が終わったのかドワーフ達がどやどやとやってくる音がする。

 直にここは工事が始まり賑やかになってしまう。そうなる前に2人は滑走路を後にした。


 □□□□□□


「ああ、テンペストお帰り。サーヴァントの改良で得られた資料だ。見ておいてくれないか?」


 屋敷に戻ってきたテンペストとニールを待っていたのはサイラスだった。

 例の獣人タイプの脚の実験データなどが載っている。


「良いですが……いつもはラウリにやらせる事では?」

「まあね。ちょっと事情を知らない人には聞かせたくない話だ。ニールも聞いておいてくれ」


 執務室の中に入り、サイラスの話を聞く。

 テンペストの入っているニューロコンピューターには敵わないまでも、高性能な魔導式コンピューターが完成し、魔鎧兵に関しても大体のことがわかった。


「報告で大体は把握していますが、まだ上に上げていない情報があったのですね。そしてその情報の出どころはラウリですか。信憑性は有りますね……」

「感覚を共有して、一体化する……その間本体には意識はない……。何か、ワイバーンに行っている時のテンペストみたいだね」

「それだ。テンペストの場合は精霊としてエイダ様があの機体とテンペストを結びつけた事が原因だろうと思うんだが……魔鎧兵の方はその対象を選ばないと言うところで少し違う。でも動作の方法としては凄く似ている」

「確かに、現在のマギア・ワイバーンを操作しているときなどは、機体の中に張り巡らされた神経回路網等によって得られた情報を直感的に感知できます。あれを操作している時の感覚としては……こう、手足を細かく動かして大気を上手く掴み、機体を安定させるイメージですね。恐らくサーヴァントに乗っている時の博士と似たような状態だろうと思います」


 遠隔が出来るかというところでも差はあるにはあるが、生き物ではない人工的な別なものにいわば憑依して操作していると言う点では似ている。

 それを成している魔法というのが精霊術、そして死霊術と呼ばれる物に似ているということも。


「そこで思ったんだが……。今、テンペストは人の体を得て私達と同じように生活している。しかし意識をワイバーンに移し、それを操ることも出来る。であれば、テンペストはあの魔鎧兵を自由に動かせるんじゃないかと思ってね」

「なるほど……。今は繋がりが薄いので行こうと思ってもいけませんが……、そうですね、一度搭乗してみて、感覚を覚えれば大丈夫かもしれません」


 考え方としては楔石だ。元々自分が居たニューロコンピューターは最初から自分の居場所だった所だから、繋がりとしては一番大きい。だから別に何かを用意しなくともいつでもそこへ行ける。

 しかし、魔鎧兵はサーヴァント含めて一度も乗ったことはなく、繋がりは全く無いと言っていい。


「でも……テンペストにはワイバーンがあるよ?別に魔鎧兵は必要ないんじゃない?」

「まあ、そうなんだけどね。考え方によってはテンペストに使い捨てられる身体を作ってやれるんじゃないかって事なんだ。よく考えてみてくれ。私が魔鎧兵に乗る時、何処に居る?」

「そりゃ、魔鎧兵に乗ってるよね?」

「テンペストはどうだ?」

「魔導車とか……あ。テンペストの場合はわざわざ魔鎧兵の中に居なくても良いかもってこと?」

「そういう事だよ。つまり、無茶をしようが何をしようが、魔鎧兵という入れ物の中に自分の肉体を入れなくていい以上、例え魔鎧兵が破壊されたとしても無事に帰ってこれる。私達とは違った魔鎧兵の使い方が出来るんだ。しかもテンペストは意識を両方に分けて遠隔操作も出来るだろう?」


 魔鎧兵を操作し、遠隔操作をすることで自分たちは安全に、敵を倒すことが出来る。

 向こうに意識が行っている時に完全に破壊された時にどうなるかはわからないので、基本的にやばくなったら逃げる、と言うのは普通と変わらないが、テンペスト本人と魔鎧兵が完璧な連携を取れると言うのは色んな意味で脅威だろう。


 肉体という致命的な弱点を、他の場所に置いておくことで生存率は上がるのだ。


「そういうことで、とりあえずサーヴァントを使ってテストをしてみたい。目論見通り上手く行ったら……今度はテンペスト専用の魔鎧兵を作ろうと思っている。人が入る所がいらないからその分筋力を増すことも出来るし、武装を追加することも出来る。それに、大きさも自由だ。人が入らなくて良いのだから普通の人と同じ大きさにすることも可能なんだ」

「え、それ凄くないですか?普通の人と同じってことは肌が出ない鎧着せたら見た目じゃ全く分からないけど、やたら強い人が出来ちゃうんじゃ……」

「そうだよ。筋力は魔力筋と強化で好きなようにできるし、骨格も小さい人間サイズであれば高価なものでもなんとかなる。人と同じサイズだから武器や防具も当然人のものを使える。多分、獣人の見た目にすることも出来るよ。リヴェリや、ドワーフのような見た目にも」

「……それは……とても興味深いですね。生物ではないので空間魔法で呼び出せます。人のような見た目の戦力を追加することが出来るということですから。サーヴァントと同じサイズの物と、通常の人間サイズの物は実験が成功したら試験的に作ってみましょう」


 人は入れるけど、サーヴァントのように大きなものは入れず、かと言って人が入るには危険すぎる場所……例えば毒ガスが溢れた場所に行くという事にも使える。

 移動中であれば、エキドナの外に呼び出して、それに乗り移ることで誰も外に出なくとも、大抵の戦力を相手に出来たりもするだろう。

 他にも色々と使いみちがありそうだ。

 特殊作業用としてそういう物があってもいいと思う。それに、自分の乗り移るという物が容易に出来るようになれば、他の普通の兵士も強大な力を手にすることが可能になるかもしれない。


「まあその話が一つだ。もう一つは……テンペストの得意技だよ。コンピューター上で動作するプログラムを作って欲しいんだ。使い道は当然、今作ってる魔導コンピューターシステムにインストールする事。テンペストなら何処をどうすればある入力に対してこれ、という出力をするみたいな物は作れると思うんだ。私はそういったプログラムっていうのはちょっと苦手でね……。で、考えてみたらそもそものプロフェッショナルが居ることに気づいたんだ」

「2人は分かってるみたいだけど、つまりそれをやると、どうなるの?」

「まず最初にやりたいことは、プログラム……つまり何かを実行させる時の手順を書いて、それを魔術式と魔法陣へ変換する……要するにコンパイラを作りたい」


 コンパイラとは、プログラムの一種で方式に従い、コンピューター等が実行できる言語に翻訳するための物だ。

 これを、プログラムを書いて翻訳すると魔術式と魔法陣の形で出力し、マナや魔力を使った魔法の言語に翻訳する。するとプログラムを作った通りに、それに魔力を流すことで実行されるというわけだ。


 次に、レーザー刻印を行うための動作設定を作ってもらうことで、この魔法言語である魔術式と魔法陣を刻む面積を縮小する。精密な動きでレーザーによって掘られた刻印はそうそう消えるものではなく、更に本来なら机の大きさほどの広さが必要である物が、手のひら……いやそれよりも小さな面積に書き込めるとすれば、処理を実行するための面積が大幅に削減でき、つまりはコンピューターシステム自体をコンパクトに纏めることが出来る。


「……要するにやりたい物を書いて、それをそのコンパイラとか言うのを通すと魔法陣とかに勝手に書き換えられて、その魔法陣とかをものすごく小さな場所に書き込むってこと?」

「ニールは理解が早いですね。そういう事です」

「それものすごいことだよ!?」

「ええ。実現すればこの世にある魔道具全てが手のひらサイズに纏められるでしょうし、複数の機能を一つの小さな物だけで行うことが出来る様になるかもしれません。で、それが出来るのはいま現時点では私とテンペストだけなんですよ」

「そうだけど……確実に魔道具作ってる人達から恨まれるよね……。小さくて高性能な魔道具なんて出されたらみんなそっち行っちゃうし……」


 利権がらみの問題だ。しかし、これの回避方法は単純だ。それを作るための装置を売ればいい。

 自分で書いた魔法陣と魔術式の組み合わせを、極小サイズに変換して刻印する装置を作って売れば、それで作られた商品自体はその人のオリジナルだ。

 むしろ大きくて今まで売れなかったものが売れたりする可能性がある分、受け入れられるだろう。


「うわぁ……ボク、確実に歴史が変わる瞬間に居るよね、これ」

「そうですね、とりあえずこの大陸においては確実に新しい技術となります。大きなブレイクスルーであり歴史が変わると言っても過言ではないでしょう。博士には変数の定義などをどうするか決めてもらいたいです」

「やるってことでいいんだね?じゃぁその辺をきちんと考えて置くよ。と言っても、既存の言語を利用した物になるだろうけど」


 実現すれば、百年、いやもしかしたらもっと長い期間が必要だった筈の技術進化が一瞬で訪れることになる。魔法のあり方が変わってくるのも近いのかもしれない。

ついにニールの思いが通じました。

おめでとう。

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