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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第一章 精霊テンペスト編
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第六話 ハンターになろう

「サイモン様、遺体の回収が終わりました」

「ご苦労。……なにか分かったか?」

「鎧の破片からみて、潜入が任務の者達でしょう。しかし身元に繋がる物はありませんでした。しかし、エイダ様が彼らの中の一人の魂と話が出来たそうです」


 精霊を介してその魂と会話をする。それは精霊使いでも神子にのみ許されたもので、魂となった者は嘘を付くことが出来ない。

 死んですら情報を守ることが出来ないのがこの精霊使いの恐ろしいところでもある。

 襲撃した者達の不幸は神子の近くで死んでしまったことだろう。

 生きていればまだ、拷問を受けることはあっても情報は守れたかもしれない。


「賊の所属はウォルター伯爵領の地下組織の者達のようです。テンペスト様を狙って身代金をせしめようとした様です。首謀者は地下組織のリーダー、カミル。どうやら情報ギルドから漏れたようですな」

「またあいつらか……なんでそう情報を漏らしたがるのか……厄介な連中だ。まあ、こっちも利用させてもらってるから強くは言えないが。どの程度漏れてる?」

「はい、ハーヴィン侯爵領に謎の翼竜が現れ、火竜をあっという間に殺したこと、その翼竜が今この屋敷にあること、そして一人の少女が屋敷に運ばれたことと、ここで暮らしている事。現在の容姿に関しては金髪の髪の長い少女とまでのようです」

「なら予想通りって所だ。それくらいなら構わない。ここの大半が知っている程度の情報だからな」

「ただし、襲撃の直前に神子が一緒にいるとバレていました」

「連絡されていたら厄介だったがそれはないだろうな。危ないところだった。神子がテンペストと一緒にいるところまでバレていたら色々言われそうだ……」


 とりあえずアルベルトからの報告では、漏れてはまずい情報は出ていないようだ。

 このまま予定通りにテンペストを養子として発表する。


 テンペスト・ドレイク。

 火竜の襲撃により、両親は命を落としそして、自身も大怪我を負いながらもなんとか命を繋ぎ留めた少女。唯一あの渦中で孤児となり、意識が戻らずにいたが……サイモン自身の境遇と重なり手厚い保護を受けて意識を取り戻したが、強大な火竜の魔力に晒されたからか見た目が変化し、記憶も失った。

 そのまま養子となり、独り身のサイモンの子として迎え入れられた。


「養子ですか?」

「そうです、テンペスト、あなたは精霊でありながら人間として生を受けてここに居ます。しかし……人間の体は脆弱です。だからテンペストが強くなれるまでは確実な保護が必要なんです。そこでハーヴィン侯爵の養子です」

「そう。私の養子としてここで保護する。私は侯爵だからね、それなりに地位も権力も持っている。更に領地には街を守るための軍を持っている。他の街や国からの横槍にはある程度対抗できるというわけだ。それにテンペストは一人で軍を……いや国を相手に出来るだけの力を持っている。その情報が出てしまえばテンペストを狙うものは後を絶たないだろう。そういう者から守るための措置として考えて欲しい」

「私がサイモンの子となるということですか?」

「……嫌かな?」

「いいえ、色々と良くしてくれてましたし、私にこの身体を与えて、様々なことをエイダと共に教えてくれました。あなたの子としてここに居れるのであればそれは嬉しいです」


 その日、ハーヴィン侯爵に養子が出来たことはすぐに街中に広がった。

 こうしてテンペストはサイモンの養子となり、これから調査をしなければならない異変に関しての度に同行しても怪しまれないで済む。


「ということでこれが身分証だ。ハイランド王国では必ず国民一人一人がこれを持っていて、街や王都などに入るには必ず必要になる。それに……テンペストが望むならそのうち魔術師ギルドへ所属するといいでしょう」

「魔術師ギルドとは……?」


 ギルドとは対応する職業に於いて、公平な価格管理や、技術の継承などを管理している組織だ。

 魔術師、ハンター、商人、工業などでギルドを置いて、魔術師ギルドであれば、魔法を扱えるものである程度以上のスキルがあると見なされた場合に加入が許される。

 そこでは、魔法関連の技術書や、魔道具の販売、魔法に使用する素材の販売なども行っており、ハンター、商人、工業ギルドへの人材の派遣なども行っている。

 基本的には魔法に関する研究などを行っており、世の中に役に立つような物であればそれを公開してお金を得ている。

 魔法を開発し、それが有用であることが示された場合、その情報を書き留めた書物を販売する権利をギルドに売ることが出来る。報奨金は高く、これを目標に日々研究を行っている者は多い。


 ハンターは害となる魔物や魔獣を狩る者達の集団だ。

 依頼を受けて、狩りを行う場合もあるし、個人で狩った物を売ったりトレードしたりといったことも行っている。こちらも売値や買値はきちんと管理されており、安定して売買出来るが、珍しい物などに関しては収集家に高く売ったほうがいい場合もある。

 自分の力量に合った依頼を受けるのが基本だが、誰が受けても特に文句は言われない。その代わり代償はその生命で支払うことになるので真剣に選ばないと危険だ。

 一部の魔物などに関しては一定の評価を受けたハンターのみが受けることが出来る様になっているが、大抵は1匹でも災害レベルの危険なものである。代わりに報酬は高く、それに憧れて加入するものが後を絶たない花型の職業だったりする。


 商人と工業は似たようなもので基本的には情報を主に扱っている。

 様々な商品、素材等の情報が一手に集まり、それを元にして価格を設定していく。

 ギルドのメンバーであれば、適正価格を知ることが出来る為、自分の扱うものがどれだけの値段で売れるかの目安になる。

 数打ち物などでは特にこの適正価格が適用される。

 しかしオリジナルの物だったりすると、それは適用されず、自分で価格設定をすることも可能だ。

 比較的自由度は高く、ギルドの一定の認定を受けると信用も上がる。

 流通経路等も抑えているため、商人になりたての者でも商売をやっていけるようにサポートもしてくれる。


 これとは別に銀行に似たシステムも存在し、王国の造幣局が管理している。

 一定以上の金額を保有する人が対象で、基本的には大金を扱う貴族用の物だ。

 一月に預金に応じた一定額を支払うことによって、資金を管理し、預け入れや引き出しを窓口で行うことが出来る。

 身分証とは別に特別なカードが渡され、それを利用して個人確認を行う。カードには個人の魔力データが刻まれており、これは個人で全く別な流れを持っているため複製することや、名を偽ることは出来ない。


 窓口は各種ギルドに必ずあるため、ギルドの建物は特に襲撃などに耐えられるように頑丈にできており、ハンターや魔術師ギルドなどは専用の警備を置いているため、安全性は高い。過去何度も襲撃を受けてはそれらを全て撃退する程の実力の持ち主たちが守りを固めており、彼らの給料もそれ相応に高額。

 この仕組は人が増えて、大量の金、銀等の貴金属が流出していくのに対して、産出が間に合わなくなるという自体が以前あり、その時から対策としてこれが使われるようになっていった。

 大金を持ち歩く必要が無いため概ね好評ではあるが、信用の問題もあり、未だに巨大な金庫を持ち歩く者も居る。


「その魔術師ギルドでは魔道具などの開発も行っている。ヒントになるようなものがあるかもしれない。しかし、作るときには私の元で極秘に行ってもらいたい。そのための人員などはこちらが用意するよ。今は動かせるものがテンペストしか居ないが、こちらの技術を使って動かせるとなれば魔法使いなら奪える可能性も出てくる」

「では元から私が居なければエンジンの起動と、武装のアンロックが出来ないようにしておけばいいですね?そこだけはこちらの技術を流用し、私が鍵となるようにすれば問題ありません」


 魔術師ギルド。魔法使いと魔道具技術者のためのギルド。

 そこに行けば、欲している技術があるかもしれない。もしくはそれに繋がる知識など。

 ただしまだ入れるだけの力を得ていない為、まだまだ訓練は必要なようだ。


「んー……ああ、忘れていた。身分証と共にこれは大事な物だから身につけて絶対に盗られないように気をつけるんだ。もうすでにテンペストが倒した火竜の料金が幾らか入れてある。これは当然テンペストのお金だから好きな様に使える物だし、増やしても構わない」

「増やす?」

「商売をしようが、ハンターになって魔物を狩り収入を得ようが構わないということだよ。……私とエイダは暫くしたら調査の旅に出る事になる。それにテンペストも同行して欲しいんだ。君に関係のある事だからね」


 そこで初めて自分がこの地へ来ることが予言されていたことを知る。

 だからといって何が出来るというわけではないが……。


「そして、世界の理から外れた者の出現は、早ければ一年後にそれに呼応するような異変が起きるそうだ。それが何なのかは分からない。だからそれを調査する為に行く。当然ながら危険は伴うから自分の身を守るだけの力は付けて欲しいと思っている……まあ、テンペストは精霊だし、魔法の習得も相当早い……どころか最初から相当なものを使ったようですしね」

「これまで同じような予言があったのは4回。……記録に残っている、という意味ではありますけれど……。最初の1回は記録が殆どありません。あった、という事実と異変が起きたという記述があるだけでした。2回目は150年程前。現れたと言われるその世界の理から外れた者と言うのは、隣国に出現し……聖堂関係者が助ける間もなく、幽閉されその者が持つあらゆる知識を無理矢理引き出した後廃人となり死亡したそうです」


 その後、数年してから突然魔物の群れが出現し、壊滅寸前までの被害を受けた。ハイランド王国の方でも見たこともない魔物が増え、撃退はしたものの未だにその魔物は生き残っており、様々な被害をもたらしている。

 そして3回目は100年前。同じく現れたという者を探したものの最後まで見つけられず……4年後に天変地異が起きた。幸い、急速に名を上げた学者がその徴候を捉え、被害は最小限に留まり、その学者は宮廷魔導師として名を馳せる。地学に詳しく、操る魔法も大地を操るもので、一度その力を震えば大地は割れ、全てを飲み込み……また逆にその大地を肥沃な土地に変え、広大な穀倉地帯へと変えた。


「4回目が今回。……あなたです、テンペスト。少ない情報しかないのですが、もしかしたらここへ飛ばされてきた誰かは、その後起きる異変……それを食い止めるものではないかと言われています」

「その学者というのは?」

「コーブルク王国の王都で宮廷魔導師……つまり、魔法使いを育成する先生などがそういった立場にありました。名前はただグランドとだけ名乗っていたそうで、公式の記録にもその名で載っています。残念ながら32年前に亡くなっています。こちらに来た時にはすでに40手前だったそうで、そこから70年近く生きられたのでかなりの長寿でした。最後まで世界を駆け回って調査をしていたそうです。恐らくこの方が世界の理から外れた者だったのでしょうね」


 ちなみに、2回目の人はミレス共和国という所で発見されたらしく、軍事政権を取るミレスではその知識は喉から手が出るほど欲しかったことだろう。

 あらゆる拷問を受け、更には精霊を使役すると言われている装置で記憶を覗かれ、その結果生ける屍と化した。

 今でも隙あらば攻め込んでこようとする好戦的な国家で、壊滅的な被害を乗り越えて軍事技術のみを磨き上げて来た危険な所だ。

 当然ながらどこの国も嫌がってまともに国交を結んでいる所は少ない。しかし少ないとはいえその武器などは独特で、それに目がくらんだ国が契約を結んでは搾取されていた。


「……私の敵であった国と似ています。どこの国の警告も聞き入れず、何かと他国を挑発し、紛争の種を撒き散らす害悪の塊。そして、最後は自棄になって自爆までしてみせた」

「……すごい国ですねそれ。国民も巻き込んでですか」

「爆破による予測範囲はその国の周辺国にまで広がっていました。通常の爆弾などではなく、小さなブラックホールが生まれる可能性があると言われていた危険なものです。一度現れれば国だけでなく大地、その星自体が消え去るほどの。もし成功してしまっていたら……私の帰る場所はそれこそ何もないでしょう」


 とりあえず、よくわからないのでエイダとサイモンはなにかものすごい破壊力の魔法を暴走させたようなものだろうと考えた。

 間違っては居ないが規模が違う。

 サイモン達の頭の中では国が消滅すること自体が想像つかなかった。


「とりあえず、事情は理解しました。私がその異変を食い止めることが出来る可能性があるということであれば、最大限協力したいと思います」


 パイロットであり、友人であり、相棒であったコンラッドを亡くした哀しみというのを、この身体になってから知った。サラの身体が、近しい人が亡くなる悲しさを教えてくれた。

 今の自分にとってそれに相当するのはエイダとサイモン達だ。

 それであれば……次こそは必ず守りきりたい。この身が滅びようとも全力で守りぬく。

 まずはそれだけの力をつけなければならない。

 時間は少ない。今からでも魔法をある程度習得し、出来ればこの世界の武器なども扱えるようにしておきたい。

 まずは……。


「エイダ、タイタンワードを教えて下さい。この身体は非力すぎます。自己強化ができるのであれば、それにともなって肉体のリミッターを解除していくことが可能です。そうなれば並の男性よりは強くなれるでしょう」

「分かりました。一緒に頑張りましょう」

「それもいいが、とりあえず服なんかでも買っておいたらどうだろう?魔法を使うのであれば魔法具もあったほうがいいだろうしね」


 魔法具は魔法を使う際にその威力を増幅したり、使える魔力を貯めるタンクの役割を果たしたりするものだ。当然高額ではあるが今のテンペストに買えない額ではない。

 また、この街の中であればそこら中に警備兵が居るため、何かがあってもすぐに助けられる。

 エイダ様も神子ではあるからそれなりに強いし……。


「では、私は顔を変えていきましょう」


『我は無貌にて、我が形貌を知るもの無し。我が身に纏て血肉となれ』


 エイダの身体が光り輝き、その光が収まると一人の女性がそこに立っていた。

 まだ幼さが抜け切らないエイダは、その姿を大人の女性に変え、髪の毛は黒く、目鼻立ちも整った美人ではあるが少しキツメの目つきをしていた。


「……この姿になるのも久し振り。どうかしら?」

「……エイダ?」

「ええ、さっき使ったのはオリジナルワード。私が外を自由に出歩くために考えた魔法よ。身体の作り自体をマナを利用して作り変えて居るから、これは本当の肉体。だから変装だと見破られることもないの。わからないでしょ?」


 なんと姿だけではなく、声も変わっている。


「あー……服だけ変えてくるわね。ちょっと待ってて頂戴。あ、そうそうこっちの姿の時はヴァネッサと。職業は魔法剣士のハンターよ」


 ヴァネッサの姿でもきちんと身分証を持っている。

 仮の姿ではあるけど、神子と知れたら危険なため編み出したこの身体は、見た目通りの身体能力を持っており、維持にもさほど魔力がかからない。

 身体を作り変えるというのは実はテンペストも初日にやっているため、テンペストもやろうと思えば出来る事ではあるものの、しっかりとしたイメージが無ければ出来ない上に失敗すると本当に戻れなくなる可能性もある。


 普段エイダはこの姿で街を歩き、様々な情報を手に入れたり、生活費を稼いだりなどをしていた。

 神子である事はそれはそれでいいのだが、やはり実際に戦わなければ魔法も精霊使いとしての能力も育たないため仕方ないのだ。

 歴代の神子も周りをガチガチに護衛に固められながら頑張っていたそうである。

 本来ならエイダも護衛が必要だったりするのだが……それではすぐにバレてしまうので一人の王国民として普段通りに過ごすというやり方をしているのだ。


 この方法だと、魔力を纏って姿を変えたように見せるだけのと違い、見破られることはない。

 姿を偽るのと、姿を変化させるのとでは全然別物の技術なのだ。

 勿論公開はしていないので知っているのは一握りの者達だけである。


 □□□□□□


「とても賑わっているのですね」

「ハーヴィン侯爵領は裕福な街の一つよ。ドラゴンスレイヤーであるサイモン様の名声もあるけど、それだけじゃなくて代々領民に対してかなり手厚い保護をしてくれる街なの。医療などもある程度裕福な人達はいいけど、普通はそんなに使うことが出来ないのだけど、一定以下の収入の人に限っては半額を負担してくれるわ。そんなこと出来るのはここくらいね。それ目当てで収入ごまかしたりする人は逆に全財産を失うハメになるわ。まー……願ったり叶ったりでしょうけど」

「……本当にエイダ?」


 見た目が違うのはさっき変身の様子を見ていたので分かるけど、性格とか口調まで変わっている。

 胸は膨らみ、腰にはくびれが出来、少し露出の高い服を着て鍛えられた、しかし女性らしさを持った腹筋を見せつけている。

 テンペストの知っているエイダはもっと、大人しめの、恥ずかしがり屋でお子様体型のとても年上とは思えない人物だ。


「ヴァネッサよ。……この姿にあった口調とかにしておかないとバレちゃうの、気にしないで下さい」

「流石です、ヴァネッサ」

「さあ、まずはお金を引き落としてこないとね」


 お金は全て硬貨のみ。貨幣単位はラピス。

 鉄で出来た1・5・10・50・100ラピス硬貨。

 銀で出来た500・1000・5000ラピス硬貨。

 金で出来た1万・10万・100万ラピス硬貨。

 白銀というミスリルと銀の2つの金属を使った1千万ラピス硬貨だ。


 1~100までの硬化は○○鉄貨と呼ばれ、銀は順に小銀貨、銀貨、大銀貨。金も小金貨、金貨、大金貨と呼ばれている。

 白銀貨はミスリルという魔法金属で、銀貨を覆ったようなデザインになっている。ミスリルの部分が金属なのに少し透き通っていて綺麗なのだとか。しかし基本的に白銀貨は高額な硬貨で、大口の取引の時に使われるなどする時以外はまず出てこない。

 逆に鉄貨は鉄貨で、100でやっと普通に使えるくらいの金額になる上に、その下の硬貨はかなり小さかったりするので財布に入れていてもよく無くすという困った硬貨だったりする。


「私の口座に入っている金額はどれくらいあるのですか?」

「……2500万ラピスだそうよ。1匹まるまる売り払っただけでもこの数倍は楽に行くだろうから殆どサイモンに持って行かれてるけど……慎ましく暮らしているなら十分すぎる金額ね。大体、普通の商店なんかだと月に20万く稼ぐから、単純に考えても一般家庭の120倍以上って所ね」

「なるほど」

「もうちょっと驚きなさいよ……」

「私の世界での価値と大体同じだとすれば、私の身体……ワイバーンは本体だけで300億ラピス程します。武装などを合わせれば更に……」

「ごめん、それじゃ驚かないのも無理は無いと思う」


 こっちでは国が傾きそうな気がしてくる額だった。

 一応、完全にイコールではないとはいえ、戦闘機やそれに付随する装備品の金額というのば馬鹿にならないほど高いのは常識だ。それだけの物を積み込んでいる。


 ハンターは狩った魔物によって額が決まっており、稼ぐ人は一月に何百万と稼ぐし、逆に手ひどくやられてしまい、成功したとしてもその治療代と新しい装備品の新調や修理代で吹き飛んでいく者も居る。

 当然、安定しない収入のため、実力がないものは副業もしているのが殆どだ。


 そして二人はハンターギルドの前へと到着した。

 ハンター登録をしておけば、この建物内で魔物や魔獣、その他植物に関しての情報を調べられる。

 見ただけで全てを記憶するテンペストであれば、その全てを吸収するのに大して時間はかからないだろう。

 それに、ハンターギルドは加入に関しての年齢制限は10歳以上。流石に子供は魔物討伐などに関しては受付でストップをかけられるが。子供でも出来る採集などがあり、これのおかげで飢える子供はかなり少ない。

 丁度10歳のサラの身体なので、加入条件はクリアしているのだ。


 □□□□□□


 加入受付等を担当する男の前にテンペストが進む。


「……要件は?」

「ハンター登録をしに」

「身分証を」


 やたらと威圧感のある担当者だが、全く意に介すこと無くテンペストは淡々と事を進めていく。

 そんな子供の登場に回りにいた大人のハンターたちが面白そうにそれを見ていた。


「なるほど、嬢ちゃんが養子になったという……。ああ、ここじゃ身分は明かさないから安心するといい。では……文字は書けるか?」

「問題ありません」

「では、この書類に必要事項を書き込んでここに持ってきてくれ」


 必要事項は名前、身分証の登録地域、職業など。

 身分証に魔力によってそれらの情報が加えられ、実績なども記録されていく。

 それを使って内部評価のポイントが上下し、一定以下になると要注意人物としてリスト入りしてしまう。


 出来上がった書類を持って行き、次に簡単な体力テストと魔法を扱うことを明記したのでそちらのテストも行われた。


「ぜー……、ぜー……、ぜー……」

「だ、大丈夫?テンペスト?」

「は、走るというのがこれ程までに体力を消耗するとは……思いませんでした……」


 そうは言っても意識的に壊れない程度に身体能力を上げる事のできるテンペストは、10歳としては上々の体力測定結果となり、魔法に関しては教えてもらった礫弾をマシンガンのごとく放つことでクリアしていた。

 あの襲撃の時、兵士を貫いた兵器はどういうものかと聞かれた時、似たようなものならあるということで教えてもらったものだが、本来そこまで連射できる物ではない。

 秒間4000発というサイクルと音速超えのその恐ろしい速さで掃射された礫弾は、的になった木人形を粉砕した。機銃の変わりであれば当然機銃の様な動作をしなければならない、そういう考えで行った思考を魔力は違わず再現した。違うのは飛んで来るのが石塊であるということ位で。


 名前を呼ばれて受付へとフラフラの足取りで行ったテンペストは、あの仏頂面の笑顔を拝むこととなった。


「将来有望だな。だが魔物を相手にするには体力が無さ過ぎる。魔法と弓を使うそうだがしっかり体力をつけて接近戦になっても大丈夫なようにして置くといい。それと……あの魔法は他に人が居る時には余り使うな。怪我人が出る」

「わ、分かりました……はぁ……はぁ……」

「まずは継続依頼になっている採集なんかで体力と知識を付けるんだな」


 汗だくになっているテンペストだが、達成感というものを実感していた。

 しかし体力の方は完全に底をついた状態となっており、立っているのがやっとの状態である。

 加えて無茶な連射をしたせいで魔力の残量も半分以下まで落ちていた。

 恐らく2秒ほど撃ち続けると魔力切れでぶっ倒れるだろう。


 そして、新しいハンターとなった少女を、その場に居たハンターたちは歓迎した。

 可愛らしくも、受付に立っていた男を笑顔にしたということは、実力があるということ。


「あいつを笑わせるとはなかなかやるようだ、頑張れよ嬢ちゃん!」

「俺なんて昔向かないから帰れって言われたんだぜ……」

「まずは体力だな!あの体力テストでそこまでヘバッてちゃ魔物は倒せねーぜ?」

「新しい実力者の登場だ、奢ってやる!」


 強面のむさ苦しい男たちに囲まれて、祝福を受けているテンペストを、頬を引くつかせながらエイダ……ヴァネッサは見ていた。

 あの子の物怖じしない性格はものすごく得かもしれない、と。


 そんなことを思っている事など知らず、テンペストは遠慮なしに結構高めの食事をリクエストして更にハンターたちを沸かせていた。

 この子は大物になる、間違いない!と騒いでいる中、食事をがっついている。

 ……もうすでに大物かもしれない。


エイダ「テンペスト……あなたよくあの人達と話できるわね……」

テンペスト「……?ハンターであれば仲間みたいなものなのでは?」

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