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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第三章 束の間の平穏編
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第六十六話 サーヴァント強化

「いやぁ、凄かったね。あの縦穴を掘ったテンペストもだけど、洞窟も」

「今回反対側には行っていませんが、恐らく似たようなものでしょう。縦穴を少し浅くしてあの洞窟の部分は地下空洞としてそのまま残すようにしておこうと思います。アクセスが良くなると思うので。それよりもあの巨大な空間であっても上下移動は出来ますか?」

「それに関しては問題ないよ。なにせ強度は全て魔力によって底上げできる上に、重量軽減と言うものがある。あの中に一回り小さな部屋を作って、それ自体を上下するためのリフトをこっちで作っておこう。洞窟の直上辺りで止めちゃって良いんだよね?」

「はい、それで構いません。では動力などは全て博士にお任せします。良いものを期待していますね」


 と、受けたは良いが流石に巨大だ。

 当初から普通にエレベーターと同じように滑車と巻上げ機、そしてウエイトを使った物を作るということは変わらないものの、その巨大さ故に最悪の場合のブレーキと、巻き上げの負荷を減らすための工夫としてギアを使い、そこにも動力を使用して停止時やワイヤが切れた場合などには強制的にブレーキが掛かるようにする。


「ウエイトをどうするか……。いっそあそこで出た物を纏めて固めて圧縮すれば高密度の物ができそうだが。巻き上げ機とワイヤーに関してはすぐにでも作れるし、ギアも問題ないな。さあ初めての巨大建造物だ、大いに頑張ってもらおう」


 必要材料と設計図を書き込み、現場で組み立てていく。

 重量軽減の魔法を込めた魔晶石を十分に用意することで大分重さの方は何とかなりそうだった。

 ウエイトの方にも同じようにするが、引き上げる際には若干ウエイトの方を重くして巻き上げ機の負担を減らす。

 要所要所に魔法金属を使い、その巨大な重量を支えるに足る構造物を作り出す。

 土台となるリフトは一枚板ではなく、立体的な格子状の構造物となる予定だ。出来るだけ不要な部分をくり抜き、力が大きくかかる部分に関しては補強しつつ、軽さと丈夫さを両立させる。


 ギアにも魔導モーターを使った高トルクの物を取り付け、さらに逆転防止ラッチ付きにすることで簡単に下がらないようにする。

 揺れを抑えるためにガイドを付け、ガイドはそのまま非常ブレーキの役割も果たす。

 あまり速度は必要ないからこれでも問題ないだろう。

 上に乗っかるハンガーに関しては、軽さを重視して出来るだけ壁は薄く、それでも強度を保つためにふんだんに竜素材を薄く加工したものを貼り合わせ、一つのユニットを作っていく。

 それらを組み合わせて……前面に2つ折れのシャッターを取り付ければ完成だ。


 ここまで半月。早いものだ。それを取り付けるのは数日で終了してしまった。

 部品ごとに運び込んだが、やはり魔導車が大活躍した。

 大半は現地で組み立てられてどんどん出来上がっていくが、その部品を供給するのに魔導車の後ろをトラックに改造したタイプがいい働きをしてくれたのだった。


 クレーンを使えなかったのが痛かったが、そこは魔鎧兵の出番となった。

 細かい作業の訓練と称して魔鎧兵を操る部隊を借りてきて土木作業をさせたのだ。お陰で戦闘だけでなくいろいろなところで魔鎧兵が活躍できるという事が分かったようで、これからは工事用の物も必要になっていくだろう。


「ラウリ。進捗の報告書だ。テンペスト様へ提出しておいてくれ」

「はっ!かしこまりました!」

「……もう少し肩の力を抜け。ここはもうミレスではないぞ?」

「あ、いえ……。努力します」


 ラウリ。元の名前はハンスだ。ミレスの逃亡者、カストラ領のこの研究所に忍び込もうとして捕まり、サイラスによって拷問を受けるも、最終的に拾われることとなった。

 年は15で成人したてのひよっこだった。体格が良いから最初は20~25程度の青年かと思っていたのだが……。ミレスの思考に染まりきっておらず、まだ若い彼をサイラスは生かして自分のもとで働かせることにしたのだった。使いっ走りとして。


 金髪を短く切った髪型に、筋肉質な身体。ガッチリとしたその見た目は兵士と言っても過言ではなく、彫りの深い顔は実年齢よりも大分大人びて見える。

 まだ少しミレスでの癖が抜けきっていないが、新しい立場と名前を与え、身分証を自分が身元保証人になり取らせている。


 そんな彼の首には隷属の首輪がチョーカーに偽装されて嵌められていた。当然主はサイラスだ。

 これに関してはサイラスは付けなくていいと言ったのだが、自分の忠誠心を示し、決して裏切らないという覚悟を示すためにどうか……!と言われて仕方なく許可したものだ。

 裏切りに関しては死を望むと勝手に隷属の時に盛り込んだせいで、サイラスやこの国、領地などを裏切ろうとしたその時、壮絶な死を迎えることになってしまっていた。もちろんサイラスにはそんなつもりはなく、後で変更できるだろうと思っていたら変更不可能な項目でどうしようもなくなっていたのだった。


 そんな条件で働いている事もあるだろうが、実際良く働いている。

 放って置くと眠らずに仕事をしようとするので強制的に休ませなければならないのが面倒だが。


「サイラス様、サーヴァントの準備が出来た、と言われております。いつでもいいからロジャー様のところへ顔を出して欲しいとも」

「出来たか。どうせ暇だったし見に行くか……。ラウリ、どうだ?かつて忍び込もうとした施設は?」

「止めて下さい……あれは本当に愚かな行為でした。本来ならば切り捨てられるならまだしも、拷問の末に死ぬことだってありえました。助けていただいた上にこうして居場所を作ってくれた恩人に対して絶対に約束を違えることは無いです。……施設の方ですが、正直驚きました。当時のミレスの技術の数段上を行っているのは見ただけでわかります。魔鎧兵のサーヴァントも、改めて見せていた抱いた時には鳥肌が立ちましたよ。あの不格好な物がここまで人らしくなるのかと。あれこそが本来の魔鎧の姿なのではないのかと」


 困ったことに少々サイラスを信奉しているフシがあるので、今後が不安になるが……殉教などしなければそれでいいと思うことにしている。

 なにせこの研究室とサイラスのことを語る時には少しばかり目の焦点が合っていない。

 そして熱心に語りだす。

 困ったものだ。


 しかも、年頃の男子ということでコリーたちと少し遊んでこい、と頭がスッキリするだろうと思って言ったところ……サイラスに脅されたあの時から勃たないと言われて少なからずショックを受けている。若くしてEDとなってしまった彼に涙を禁じ得ない。

 これに関しては本当に申し訳ないと思っていて、少しでもトラウマが薄くなるようにと考えているのだが……むしろその体験を忘れるなどとんでもないと言い始めたりと……。本当に将来が危うい。


 まあそれでもきちんと従ってくれるから問題はないのだが。


「当然だろう。ミレスが急速に発展した知識の源は私だからな。オリジナルに劣化コピーが勝てるわけがない。あの外道の考えている事は全て潰してやるさ。……そのためにも私のサーヴァントを改造したんだ。見るか?」

「是非。今すぐに書類を提出して魔鎧研究所へ行きます!」


 魔鎧研究所はサイラスの管轄である研究所だ。

 元々はテンペストにサーヴァントで遊ぶ金位は自分で稼いでくれと言われてからここを作り、片手間に魔道具を開発しながらサーヴァント用の武装や装甲を開発している。


 今回開発したのはそういった細かいパーツではなく、腕、足などの主要パーツその物だ。

 元々が人族に似た構造を持つ魔鎧兵だが、これの主要パーツを交換することによって「魔鎧兵の種族」自体も変更できるのではないか?と考えた。

 そこで長年の夢だった物を作り出す。

 獣人の足を参考にして作ったいわゆる逆関節タイプだ。逆関節とは言え、実際のところ関節の数は特に変わっていないが、膝と踵が極めて近い位置にあるため、関節が逆になっているようにみえるあれだ。


 また、足の指に頑丈なアンカーを兼ねた爪を装備しており、走る時にはその爪を食い込ませつつ滑らないように出来る……と見ている。

 人族の身体で獣人の身体を動かす感じになるため、操作感がどう変わるかが気になる所だがこればかりはやってみなければわかるまい。

 上手く行けば獣人が操ることも可能だろう。


「博士、用意はできています」

「……素晴らしいね。これだよこれ。最高だ!」

「サイラス様?これは……獣人の姿を模しているのですか?」

「そう。人族よりも優れた瞬発力、跳躍力、そういったものが再現できないかと思ってね。後は個人的な趣味だ」

「はぁ……趣味、ですか」


 こう言うのを動かすのが夢だったんだ。思いっきり楽しんだって文句はないだろう。いつかは実験してみなければならないものなんだから。


 いそいそと乗り込んでハッチを閉じる。

 魔力を通じていくとサーヴァントの視点へと自分が移ったのが分かる。

 手、手の指、手首、肘、肩……特に問題なし。

 足…………若干の違和感はあるものの……意外と違和感は無いか?まるで最初からその形だったかのように馴染んでいる。足の指を握り込むように力を入れるとガキン、と音がして爪が地面に食い込もうとしている。研究室のこの床の部分は頑丈に出来ているから本気で食い込ませようとしない限りは大丈夫だ。


『意外と違和感がないようだ。このまま外に出る。シャッターを開けてくれ』

「了解しました!」


 ゆっくりと上っていくシャッターがもどかしい。

 流石にその場で飛んだり跳ねたりは出来ないので我慢だ。

 交換したのは腰から下のみだが、いつもよりもクッションがいい感じがする。

 足をおろした時にやんわりとした衝撃が返ってくるのだ。これが獣人達の感覚なんだろう。確かに足音などはかなり小さい。


 シャッターが開き切り、サーヴァントを前進させる。

 普通に歩いて行く感覚で問題ない。なんとなく常につま先立ちになっている感じはするのだが、違和感と言えばそれくらいのものだ。

 研究所の裏手に作った広い魔鎧兵の行動試験のために作ったコースへと向かい、簡単な障害物競走みたいなことをやってみる。


 まずは全力で走り、その先にある障害物を超えてすぐさまカーブ。平均台代わりの場所を渡って障害物を上手く切り抜ける。

 その中にはぬかるみもあり、敵に使われた時の感覚を覚えさせる様になっている。


 そんなわけで走ってみたわけだが、やはり足がバネのようだ。一気に加速して走れる。

 後ろを振り返ってみれば地面が抉れていた。……爪のせいだろう。多分。


 そのまま楽にジャンプして着地もスムーズだ。……というか軽々と飛び越えすぎて浮遊感が出た。

 バランスに関しても特に問題なく、杭の上だけを歩くのもクリア。

 ぬかるみは通常のものと似たような感じだが、爪があるお陰で早めに脱出できるようだ。

 そして、もう一度全力疾走からの全力飛びをやってみる。


『うおっ!?』


 通常よりも足のバネが強いのか、サーヴァントの巨体が軽々と飛び上がる。そのまま少しの間滞空し着地したが……。


『幅跳びだったら相当だな……なんて跳躍力だ。これは使えるな』


 ちょっとした川なら飛び越えることすら可能だ。

 思いつきでやってみたが、意外といい感じのものが作れて満足だ。関節もモーターなどを使っているわけではなく擬似的にとは言え生物の筋肉と筋を模しているものだから、強化さえきちんとやればこういう無茶も出来る。

 下り坂等は少し苦手のようだから、そこだけ気をつければいいだろう。


 一通り動きを見て見たが、運動性能としてはかなり大幅に上がっている気がする。

 何よりダッシュが今までとは違ってものすごくやりやすい。

 少し妙な感じだが、常にふわふわとしたクッションがあるような感じで上半身のブレも少ないように思う。

 跳躍力が飛躍的に上がったことで、自分の背と同じくらいの壁なら簡単に飛び越えることが出来る。今までは良くてその半分以下だ。


 逆に後退する時は少し勝手が違う。前に向かって蹴り出すのが得意な反面、後ろ向きには弱く、後退しながら何かをするよりは反転して普通に走ったほうが早いだろう。

 そして急な下り坂等はやっぱり苦手だ。

 やれないことはないが、元の形のほうが楽なように感じる。これも身体を斜めにしてやることで同じように降りられるので工夫次第だろう。

 多分、階段は苦手だ。コリー達はどうやっているのだろうか。後で聞いてみたほうがいいかもしれない。


 研究所へ戻って機体を降りる。


「お疲れ様です、博士。調子はどうでしたか?」

「予想以上に違和感がない。まるで最初からあの形だったかのように自然に動けるんだ。これはちょっとした発見かもしれない。動かし方が全く違うのだから操作に混乱が出るのではないかと考えていたのだが……どうやらいい方向に外れてくれたようだ」

「ここで見ていてもサーヴァントの動きが異常でした。あれはやはり獣人の足を模したからでしょうか?」

「変えているのがそこしか無いからね。間違いなくあれの恩恵だろう。前に進むだけなら恐らく他の魔鎧兵には絶対に負けない。後退や坂道で難があるが、そこは飛び跳ねるなどのほうが移動が早いからやり方次第だろう。跳躍力と瞬発力は段違いだ、それを計算に入れた運用が必要になるね」


 サラサラとメモを書いていく整備士。

 彼らは新しい装備のデータをとり、改善していく為に些細な事もメモを取って記録していく。

 先程の動きに関しては、サーヴァント以外でも同じような結果になるかをテストして、新型機が作れるようになった時に試験導入してみることになるだろう。


「もしかしたら多脚等も出来るかもしれない。安定性に優れているし、魔力筋ならかなりの力を出せるから重いものでも問題ないだろう。遠距離砲撃用の魔鎧兵何かを作れそうだ……けど、二足以上だと不具合が出るかも分からないし、まだ作るには早いかな」

「多脚と言うと、虫や蜘蛛の様なアレですか?確かに……アラクネが存在するくらいですから同じ発想で作っても出来そうな気はしますね。いつかやってみましょう」


 使用感の報告をしていると、ラウリとクラーラが来た。

 いつものようにクラーラはやかましい。


「なんですか!今の博士のサーヴァントですよね!?何かすっごい跳ねたり飛んだりしてものすごい速さで走ってましたけど!!って何ですかこの脚は!獣人っぽい!」

「クラーラ、説明するから落ち着いてくれないか……大声で言わなくても聞こえるから」

「耳元で大声出さないで下さい……。でも、俺も知りたいです。あれはなんですか……少なくとも俺の知っている魔鎧の動きじゃない。元々のサーヴァントの動きも洗練されていると思っていたけど……さっきのあの動きはそれを遥かに超えています。素晴らしい……近くで見てもこの鎧と言うよりは岩蜥蜴を彷彿とさせる独特な装甲といい、人の形から離れていながらも洗練された美しさは今までにない物です。腹部から胸部に掛けての絶妙な造形、我々には想像できなかった頭部の造形、自由度が高い関節周りの装甲の造形……全てがこのサーヴァントの為にあるのですね。さすが……」

「ラウリはそのへんでやめとけ。長い」

「はい。仰せのままに」


 性格は全く違うが暴走するとめんどくさいという点で共通した2人。

 特にラウリは魔鎧フェチかなんなのかと思いたくなるような目で魔鎧兵を見ている時がある。

 クラーラは純粋に興味が勝っているだけだから扱いは楽だ。


「今話をしていた者が詳しいからクラーラは彼から色々と聞いて勉強するといい」

「ホントですか!全く博士もあんな面白いの作っているなら私にも教えてくれればいいのに!ああ、ねえねえ、さっきのサーヴァントだけど……」

「……彼女の扱いに慣れてるのですね?」

「興味があるとなるとそれを全部吸収するまでうるさいんだ。だから知ってるやつに押し付ける。これが一番手っ取り早い……」

「俺もあのサーヴァントは気になりますよ。あんなに大胆に形状を変えてしまうなんて、全く考えたこともなかった。ただでさえまるで人の体のように複雑な組織を下手に弄ったらどうなるか……。実験をして結局下手に弄らないほうがいいとミレスの技師は匙を投げたくらいなのに」


 鎧を剥がしたその先には、人の肉体のように筋肉の塊があり、それを強化してやろうと思って2機の魔鎧を1機にまとめる勢いで筋肉を移植し、試作品を完成させたところ……。

 起動した瞬間苦しみ始め、大きく腕を振りかぶって地面を殴りつけた瞬間、全身の筋肉部分がはじけ飛び、その圧力で装着していた鎧も吹き飛び周りに居た研究者などを巻き込んで壮絶な状況となったらしい。


「ただ付ければいいってものじゃない。筋肉にはそれぞれに役割があり、何処に取り付けてどのように作用させるかをきちんと計算しなければならない。適当にやった結果、瞬間的にすごい力は出せたようだけども自身の筋力が変に干渉して壊れたように感じるね」

「そうだったのですか。身体の仕組みにまで精通しているとは、流石博士です」

「いや、そこまで詳しくはないんだけどね。人工筋肉を使ったマニピュレータを作っていた時に得た知識だからな……まさかここで役に立つとは」


 ともかく、この実験は大成功だ。

 サーヴァントの下半身はこのままにして新しい装備などを考えることにした。


「よし、ラウリ。魔鎧兵の基本的な研究はこれでほぼ終わりだ。骨格を変化させてサーヴァントの様に理想的な形へと仕上げることも、筋力を上げることも、四肢の形を変化させることも出来ることが証明された」

「身体構造に関する物だけですね?」

「ミレスから鹵獲した物をそのまま使っても使いものにならないからね。可動域は狭いし鎧は貧弱だ。あんなものはただの失敗作だ。でもそれを改良して……見ての通り新しい形でも問題なく動けるどころか、やりようによっては全く別の動かし方が出来ることが分かったんだ。一歩前進だよ」

「これで……たった一歩の前進ですか……」

「まだまだやることは多いからね」


 コクピットが収まる部分とそれを介して意識を搭乗者のものへと変える技術に関しては元のやつをほとんどそのまま流用できる。

 解析の結果、内部に居る搭乗者とこの魔鎧兵は起動と同時に一つの生命体となる。

 魔鎧の中身は生物を模した作りになった一種のゴーレムであり、魂の入れ物と見ることが出来て、そこに腹に収まった搭乗者が入り起動することで瞬時に中身が入れ替わる。

 乗っている間は搭乗者の身体は固定され、最小限の生命活動を残して仮死状態になっている。


 正直なところコクピットのハッチを閉じたと勘違いさせて起動させた時、いつもこんな状態になっていたのかと少し恐ろしくなったものだ。

 起動している間、本体である肉体に何をされても何も感じない。

 痛みも熱さも。それはつまり魔鎧兵の擬似的な肉体の感覚のつもりで居ると、本体がいつの間にか限界を迎えて死んでもおかしくないと言うことだ。

 同期している間は魔鎧兵の感じている感覚で物を判断する。きちんと見えているし音も聞こえるし、鎧を着ている感覚がある。熱さや寒さ、そして痛みも感じる。

 しかしそれはとても鈍い感覚で、例え火の中に手を突っ込んでも我慢できないほどに熱いとは思わない。

 だから平気で燃え盛る炎の中に突っ込んでも行けるだろう。


 でも中に伝わる熱は変わらないのだ。

 その熱には生身の肉体は耐えられない。いつの間にか全身大やけどを負って生命活動を停止する。

 それと同時に魔鎧兵も活動を停止することになる。


 だからこそ、サーヴァントのコクピットは外部から隔離され、密閉してある。

 生命維持に必要な空気は魔道具で補い、熱や大気の振動による衝撃などは構造と魔法によってある程度無効化する。


 それでもきちんと接続さえされていれば魔鎧兵は動くのだ。

 だからコクピットはまるごと取り外してしまうことが可能となり、接続部分は切り離しが出来るようにプラグ式になっている。ここはサイラスがかなりこだわった部分だ。

 その為胸部の装甲が若干膨らみ、胸が大きめで腰回りがスッキリした形となった。

 寸胴だった見た目と違いやたらカッコよくなっている。


 視覚や聴覚は魔鎧兵の目と耳に当たる部分で感知しているため、その機能を別なもので代用することにも成功している。サーヴァントの眼は今はワイバーンと同じものに換装され、任意でズームが出来るように調整されているし、耳は集音装置を作って取り付けている。魔術的に音を取り出しているので特定の音を聞き分けることも恐らく可能だ。

 今のところまだ使いこなせては居ない。


「とまぁこんな感じで感覚なんかにおける部分も相当研究している。この辺は数が限られているミレス製を元にして作らずに、完全に新規で製造することを考えての研究だね。人の意識を別なものへ移す、というその機能が意外と簡単な魔法で成されているのにはびっくりしたね。テンペストに似たようなものを検索させたら死霊術や精霊術に近いものだった。精神……というか魂というか、そういう物に干渉する技術……。本来ならこのハイランドでは禁止されているが、確実に本人に戻ってこれるという保証付きで何とか研究を認めてもらったくらいだ。でなければ魔鎧兵を使うことは出来ないからね」

「……ミレスでは人の命は軽いですから。幼馴染も躾を受け続けて最後は……。そう言うところだから禁忌なんて何もないんですよ。それに魔鎧は元々ミレスに存在した洞窟の奥で見つかった新種の魔物から奪ったものと聞いています」

「どんな魔物か分かるか?」

「ええまぁ、実際見たこと無いので間違っているのかもしれませんが。魔鎧兵の鎧は元々付いておらず、むき出しのままだったそうです。ゴーレムにしては生き物のような造形で、素早く、意思を持っていた事で最初に出会った兵士たちはことごとくそれに敗れて壊滅しました」


 その後、逃げ帰った兵からの報告を受けて討伐隊を編成し、多数の死傷者を出しながらも何とか勝利する。

 どういう魔物なのかと解体しようと腹を割いたら、中から人の形をした……でも頭の大きな猿のような変な生き物が入っていた。最初は食われたやつだろうと思っていたが、何かの拍子に腹部のハッチが開いたのだった。

 それでこれはこの変な生き物が動かしている兵器ではないかという仮説が立ち……。

 これを研究して自分たちが動かせるようになれば無敵だ、と思い至る。

 すぐに研究が始まり、数々の攻撃によってぼろぼろになっているその不思議なゴーレムの中に、とりあえず身長が同じくらい、という適当な理由で子供を入れて蓋を締めた。

 裸でわけの分からない生き物の中に入れられたと思ったその子供は、当然のごとく泣きわめき出してくれと懇願した。

 それが突然ピタッと止まり、次の瞬間ものすごい咆哮と共にゴーレムが暴れだしたのだった。


『痛い』『苦しい』『助けて』『お前らなんて死んでしまえ』と大声を出しながら暴れまわるそれを止めるため、仕方なく片腕と片足が魔法によって切り飛ばされ、残った物も土魔法による杭を打ち込まれてようやく止まった。


 無理やり腹をこじ開けて、入っていた子供を取り出すと……死んでは居なかったものの、痙攣して危険な状態になっていたようだ。


「その子は生き残り、魔鎧の傷はそのまま搭乗者も感じること、これは入るだけで機能することがわかったんです。後は魔物を腹を重点的に攻撃して殺し、ほぼ無傷でこの魔鎧を運び出していったわけです」

「それに鎧を着せておしまい……となったわけだ。本当に人の心もない奴らのやることだな。子供を利用するなんて許しがたい」

「それが普通でした。それに、外の世界はもっと危険で、この壁の向こうは常に我々を殺そうとする者達で溢れていると教育を受けていました。だから正直、ここに忍び込む前に色々と調査をしたりする時に違和感を感じました。野蛮な者達が住む世界だと散々脅されていたのに、そこに住んでいる人たちは俺達が居たところなんかよりもよっぽど平和に暮らしているんです。でも、その時は『いつかこいつらの世界を奪って、俺達の本当の国を作るんだ』と本気で思ってましたが」


 しかし捕らえられて、心を折られトラウマを植え付けられた後に、檻の中とは言え人道的に扱ってもらっていたことで更に混乱し、やっぱり自分たちの国のほうがおかしかったのでは無いかと思い始めたところで、導いてくれると思っていた人たちに裏切られた。


 後はもう、自分の全てを知った上で、こっちで暮らせと言ってくれたサイラスに忠誠を誓い、自分のことに関しては全て、何もかも包み隠さずに答えて信用を得ようと頑張っている。

 お陰でこっそりサイラスが傷ついていることには気づいていない。


「でも俺は新しい指導者、主としてふさわしい方を得ました。なんでも協力します。なんでもお申し付け下さい!」


 ミレスよりも、この身近にいる狂信者を何とかしなければと溜息が出た。


ハンスはラウリと名を変えてハイランド国民として登録されました。

雑用などで色々と動いています。


そして若くして可愛そうなことにEDに……。

体つきがよくて、ある程度筋肉もあるのはミレスで投与された薬の影響もあります。

いつでも兵士としても動けるようにと訓練を受けており、ある程度の潜入に関する知識もあるため、テンペスト達の場所以外であれば恐らく成功していたでしょう。


次回はラウリの普段の様子です。

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