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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第三章 束の間の平穏編
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第六十五話 もう一つの洞窟

「そうか、逃げられたか……」

「申し訳ございません」

「いや、良いのだ。悪天候の中ご苦労だった。持ち帰った物は研究室の方で調べて報告するのだ。……船か……」


 街に戻って自分自身の身体を回収した後に、コリーに抱きかかえられる格好でワイバーンを飛ばし、王城へと出向いて報告していた。

 見つかった証拠品などから見ても、ミレスの関与は間違いないものであり、ルーベル国内での殺戮が明らかとなったことで完全に手配済みのお尋ね者となった。


 これでこちらにはもう戻って来れないだろう。

 恐らく戻ってくることは無いだろうが。


 そして王様はといえば、その報告を受けて難しい顔をしている。

 既にルーベルに対しての無茶振りは終わっており、これ以上やればハイランド側が悪くなる。

 コーブルクは友好関係があるので協力はしてくれるだろうが、恐らく対価としてこちらの情報をいくらか渡さないと納得しないだろう。


「サイラス、船を作れと言って、作れるか?」

「場所と材料と金があれば出来ます」

「あっさりと言ってのけるのだな。面白い……。ハイランドには知っての通り港はない。海に面した場所は何れも断崖絶壁、そして波も荒く港を作るには危険すぎる。ここはやはり船が必要となろう」


 こちらのワイバーンを下手に出せない以上、海を移動するにはやはり船が必要だ。

 それも魔物に負けないような強い船が。


「そこで……船に関する技術をコーブルクに渡す代わりに、新造船を作らせて他大陸への航路を切り拓こうと提案しようと思う。どうかね?」

「コーブルクが一隻の大型船を作る場合、どれくらいの時間が掛りますか?」

「詳しくは知らんが一月で軍艦を作ったと自慢しておったぞ。それくらいで出来るだろう」


 コーブルクの軍艦は大きな帆船で、側面と正面に大砲を取り付けたよくあるタイプのものだ。

 今は大砲の効率化により、更に攻撃力を増している物が作られている。

 およそ60mの全長があるということだからかなり大きめの船だ。それを一月で作り上げるのであれば驚異的な速さと言っていい。


「……そうですね……それでは、最低限必要な推進機関と船体構造の情報のみに絞りましょうか」

「ということは、それ以上をそなたは作れると?」

「圧倒的に上回る性能のものを作れるでしょう。武装に関しては知っての通りです。それにワイバーンが乗っていたら敵にとっては悪夢でしょう」

「気に入った。ではその方向で話を進めてみるか。我らの知らない技術を知っているそなたらの知識はどの国でもどれほどの金を積み上げてでも欲しいものだ。……それにどうせこっちには船をつける港がないのでな、多少向こうに有利な船の情報が流れたところで大した問題にはならん」


 どうせハイランドに攻め込もうと思うのであれば、陸路を通って山道を登るか、空を飛んで直接攻め入るかの二つに一つ。

 海からの侵入はどの道出来ないのだ。よって、海軍力が強い国との戦いになったところで一方的に地上戦へ持ち込める。

 ついでに言えば今はテンペストやサイラスによって航空戦力を整えている最中だ。いくら海であっても空からの攻撃にはひとたまりもない。


 唯一の懸念は物資の少なさなどにあるだろうが、これも開拓していけばそれなりに食いつなげるだけの量は取れる。


「そういうわけで暫くは出発出来ないだろうが、代わりに準備などを怠らないよう進めて欲しい。向こうの大陸に行くに当たって、コーブルクとある程度すり合わせはするが、恐らく兵士と学者を含めた大所帯となる。エイダとサイモンにも同行してもらうつもりだ。……自分が乗る船だ、そうそう沈むような物を作らんほうがいいぞ?」

「肝に銘じます、陛下」


 適当な仕事はするなと言うことだろうが、むしろ適当に仕事しないと無駄にハイスペックなものを作り上げるのがサイラスだ。

 どちらかと言えば少し自重させたくらいが丁度いい。


 サイラスの私兵を戻して自分たちも領地へと戻る。

 これから暫くの間はハイランドから離れるわけにはいかなくなった。その間に精々色々なものを作り、そして魔法を覚えるとしよう。


 □□□□□□


「テンペスト……この穴、何?」

「土魔法の練習がてらここを掘ってみていました。ここにワイバーンなどを格納するためのハンガーを埋め込む形です。サイラスから既にエレベーターの構造は聞いているので作業用の空間などを考慮して置けば問題ないでしょう。深さは大体500m程ありますから気をつけて下さい」

「言われなくてもこれ以上近づけないよ……なんかもうここでも足が震えてもうダメ」


 テンペストを探してニールがやってきたのは、新しく山中に大穴を開けて作る滑走路の工事現場だ。

 そこらじゅうでドワーフ達がせっせと働いている。

 既に形自体はほぼ完成しており、後は細かい部屋などを横に広げる形で作っていき、その上に床材と壁、天井を取り付けていくという形だ。


 滑走路のアスファルトはなんとかして作りたいところだったが、現時点では諦める他無かった。アスファルトは大分前から探しているが、コーブルクの商人が心あたりがあると言ってなかなか帰ってこない為そのままだ。もしダメそうだったら自分たちで代替品を作って敷き詰めることになるだろう。


「そうですか。しかし……意外と土魔法も使えるのですね。掻き出した分の岩盤は適当に舗装用の資材として使っていますが、探せばいくらかは鉱石があるかもしれません。……ん、あれは……」

「なに?なんかあったの?」

「大きめの空洞です。中心部に近いところですが、丁度洞窟になっている所を掘り抜いたようです」

「ホントだ。じゃぁ、調べたほうがいい……よね?」

「はい。埋めるにしろ何にしろ、丁度両脇に大きな穴があいているのは少々不安です。外につながっていたり、古い溶岩窟のような所であれば塞いで影響がないようにして置かなければならないでしょう。しかしここは高山ですし、もしかしたら有用な鉱石などが発掘できる可能性はあります」


 以前、コリーに聞いていたことだ。まだ誰も発見していない洞窟は発見者の所有物となり、そこの資源も全て自分たちのものとなる。

 通常、坑道を掘っているドワーフくらいにしか見つけられず、大体そこを掘っているドワーフ達のグループの持ち物となる。会社所有の土地みたいな扱いになるので個人でそれを所有している人は少ない。


 もし、この洞窟が有用であれば、このまま横にもう1本縦穴を通して小さなエレベーターを設置、掘り進めることを既に頭のなかで計算に入れていた。


「流石に深すぎます。皆を連れて……後はドワーフの職人も何人か。目利きができる人が良いですね。人員輸送ポッドはまだ取り付けたままですからそれに乗って降下しましょう」


 流石に500mもの深さの底へと入る勇気はない。洞窟があるのは大体300m付近だろう。むしろワイバーンでなければまともに行けないところだ。

 目測でワイバーンが入れるだけの大きな口があいているのが確認できるので、テンペストのアシストで中に着陸できるはずだ。入った後、一度皆を降ろしてテンペストだけは空中で待機し、土魔法によって着陸場所を整備してもらってから改めて着陸する。


 縦穴自体が巨大なのでワイバーンが降下したところで大して狭さは感じないだろう。


 □□□□□□


「マジか!洞窟見つけたのか!さっすがテンペストだ!もしかしたら大金持ちになったかもしれんぞ?」

「お金は……まあ必要ですが、まだ調査もしていないのでどういう洞窟かは分かりません。今から降りて確かめてみます。博士、コリー、ニール、そしてドワーフの鉱夫を2人ほどで良いでしょう。……私は鉱石などには特に詳しくはありませんので」

「俺もわからん。と言うか加工したものしか見たこと無いからさっぱりだな。鉱夫なら見れば分かるだろうし……博士はどうだ?」

「残念ながら。私も詳しくないですね。物質としての特性などは分かりますが純粋なそれを扱ったことしか無いので同じくどのように生成されているのかは知りません」

「ボクもわからないなぁ……行商人に聞いたことあるけど、知らない人が見ると鉱石ってただの岩にしか見えないらしいよ?」


 結局目利きができそうな人が誰もいないということは分かった。

 ということで鉱夫の中からドワーフのドムとベリルという2人を連れて行くことする。

 正直、髭を編んでいるか編んでいないかくらいでしか見分けがつかない。編んでいる方がドムで年上だ。


「ドムだ。よろしく頼む。鉱石なら任せてくれ」

「ベリルっす!天然洞窟なんてなかなか見ないから楽しみっす!」

「ベリルてめぇこの野郎!領主様に向かってなんて口きいてやがんだ!」

「いでぇ!?す、すまねぇっす!!」

「いえ……特に気にしてないので……。それよりも早く行きましょう」


 どっちも似たり寄ったりという感じではあるが、ドワーフは大体こんなものなので気にしない。

 ハイランドにもドワーフの領主は居るが、やっぱり誰に対してもこんな感じらしい。

 もう種族としてそういうものだとみんな諦めているようだ。


 コリーは操縦席に、他は全員人員輸送ポッドへと入ってもらって浮上する。

 ドムとベリルの道具はツルハシとノミとトンカチのみだ。

 これで一日に10m近くは一人で黙々と掘りつづけるというから恐ろしい。


 滑走路から上がってぐるりと山の裏へと向かうと、大きく口を開けた新しい滑走路が見えてくる。

 一部が山肌から突き出ており、ワイバーンのような垂直離着陸機であればそこだけで離陸と着陸が可能だ。

 完成すれば照明を取り付けて夜間の離発着も可能なようにする。更に周りには乱気流防止のために風よけの結界を張ることが決定しているが、まだ取り付けていないため今は強風が吹き荒れる中侵入を強行する。


「うお……暗いな……」

『ライトを点灯します。目的地は入り口から3500m奥です』

「そんな奥まであるのか!」

『将来的に拡張しなくても良いように、ある程度余裕を持たせてありますが……魔導エンジンと魔力の相性が良いので簡単に大出力を得られます。大きな輸送機であってもここまでの滑走路は必要なかったかもしれません』


 止まる時の逆噴射やブレーキ等もかなり無理矢理と言えるくらいの勢いで減速させることが出来たりする。

 それでも重量が重い場合にはこれくらいあったほうが安心だが。


 その他、管制室やテンペストの私物以外のハンガー。宿泊施設等など、必要な装備などをある程度揃えるために掘り進んでいる。

 柱を建てずに済んでいるのはやはり魔法のお陰だろう。

 これであればたとえ地震が起きたとしても特に崩壊や亀裂が入ることがない位の強度を保有しているのだ。山ごと崩壊しても、魔法によって固められた部分はそうそう壊れることがない……と、担当のドワーフは言っていた。信じるしか無いだろう。


 ちなみに、その時に圧縮することも出来ずに放棄した岩等は細かく砕いて、砕石用に取っておいている。切実にアスファルトがほしい所だ。

 サイラスによれば、ハイランドの海岸近くかどこかに油田はあるんじゃないかとは言っているがそれを確かめるのはまだ無理だ。


「あれか?またデカイ穴を掘ったな!」

『このマギア・ワイバーンだけでも10機以上格納することが出来ます。飛竜を一緒に格納しても大丈夫なように広めにとっていますね』

「だからって……これは広すぎだろう?まあ良いけどな。じゃぁ行くか」

『降下開始します』


 天井が遠ざかり、ワイバーンがゆっくりと巨大な縦穴の中へと降りていく。

 テンペストが掘る際にびっちりと周りの壁は圧縮され、黒光りした頑丈な岩盤となり、魔法によって補強されている。その途中にそれはあった。


 大きく口を開けた洞窟。反対側の壁にも同じようにあるので、完全に洞窟を分断した形になっている。


 中へと侵入してワイバーンを置く場所をドムとベリルに作ってもらい、テンペストもワイバーンから降りてくる。


「お待たせしました」

「いや、待っては居ないが……流石に暗いな。そして広い……敵は居ないようだが警戒はしておくか」

「なんちゅう力技で押し固めてやがる……これじゃ飛竜……いや古龍でも壊すのに難儀しそうだな!大したもんだ」

「古龍?」

「もう絶滅したって言われてる巨大な竜だ。まあ、何百年も見たやつはおらん。人族では知らないものが居ても不思議じゃない。なんでも巨大でとても強い全ての種の頂点と言われていたようだがな。もう死んでるんだろうよ」

「居ないことを祈りますよ、そんなもの……ワイバーンでも倒せる気がしない」

「とりあえず明かりつけようか。全然見えない……」


 テンペストが全方位を照らす従来の明かりを生み出し、天井付近で明るさを上げていった。

 もう一つを生み出しそれは前方を明るく照らすサーチライトとなる。


「うわ、昼間みたいに明るい。これなら周りが見やすくて良いね」

「すげぇっす!!俺こんな明るいの初めてだ!」

「やかましい!どれ……ふむ……このあたりは特に無い……か?いや、これか?」

「……ただのでかい石にしか見えないよ?」

「なんだ?知らんのか?ちょっと待ってろ」


 そう言うとドムとベリルがその石の周りを丁寧に掘っていく。魔法も併用しながらなのであっという間だ。

 テンペストでは持ち上げるのにちょっと苦労しそうな大きさの石がゴロンと取り出される。

 すべすべした感じではあるがやっぱりどう見ても石だ。


「石じゃないか、やっぱり……」

「これをな……あー……ちょっとスパッと2つに割ってくれんか?」

「じゃぁ、ボクが……」


 高出力の空気の刃が通り抜けると、一筋の線が出来る。

 そこに軽くハンマーを当ててずらすと……中には綺麗なアメジストが入っていた。


「うわぁ!すごい!これ水晶だよね!?うっすら紫になってて綺麗だなぁ」

「ハズレだ」

「え?」

「色が薄い。大した金にならんな」

「えー……」

「まあ、水晶には違いないです。貰っておけばいいですよニール」

「うん。まあきれいだし。後で洗って部屋に飾っておこう」


 ぐるりと見回してみても、いまいち鉱石と石の区別がつかないので、とりあえず先に進むことにした。

 足場が悪いので魔導車を持ってきても使え無さそうだが、無駄に広い。洞窟と言ってもどちらかと言うと大空洞と言っても良いのではないかと思うくらいだ。


「うーん……向こうのゲームでこういうところに住んでるやつらを倒すゲームがありましたねぇ」

「何そのゲーム怖い」

「いや現実にとかじゃなくて、えーっと……仮想的に……って言っても分かりにくいか。困ったな。まあ、自分が操作して遊ぶものだけど現実のようにリアルで、でもそれは現実ではなくて偽りの世界での出来事……って言ったら良いのかな?」

「うーん……良く分からない……ちなみにその時はどんな感じになるの?」

「わらわらと湧いてくる地底人を倒しまくる。で、色んな横穴から出てくるワームみたいな奴が居るんだけども、そいつらの親玉みたいな巨大なワームが出てきて、実はその巨大で入り組んだ空洞はそのワームが通った後で……」

「博士、止めてくれ。この世界にはマジでそういうワーム居るから。ケイブメイカーっつって無駄に硬くて魔法が効きにくい厄介なのが居るからそのへんで止めてくれ。本当に出てきそうで怖い」

「ん……現実に居るとは……知りませんでしたね。止めときましょう、ホントに出てきたら面倒だ……」

「お、すまんが向こうをちょっと照らしてくれんか?」

「これで良いですか?」

「おう、ありゃぁ……ちょっと届かねぇか。だがあれも鉱石だ」

「というか、この広い空間色んな所に鉱石あるっすよ!あ!あれ何かすげぇでかい水晶柱っす!!」


 ベリルが指差す方を照らすと白く岩に突き刺さる勢いの物が確かに見えている。

 ただここからでは水晶なのかどうかも良く分からない。


「にしても、なんか奥に行くに連れてだんだん暑くなってない?」

「そう、ですね。気のせいじゃなかったですか……やっぱり地中だからですかね?」

「まあ、掘ってりゃこんなもんだ。人族には少々きついかもしれんが……なに、じき慣れる」


 最初の時点でも若干外よりも暖かく、とても過ごしやすそうな感じだったのだが、奥に行くに連れてじわじわと温度が上がっていく。

 今30度近いだろうか。


「おお、奥の方にも色々あるな。それにしても広い……」

「さっきからちょいちょい試し掘りしながらだけど、上とか手も届かないもんね」

「私としては洞窟っていうから狭い所を頑張って抜けていくもんだと思ってたんで、楽でいいですけどね」

「ふーむ……この広さは別として、ここは色んなのが採掘できそうだぞ。鉄鉱石やらの一番使いそうなのはねぇが宝石類とかちょっとばかり高価なもんが多い。綺麗に加工してやって売れば相当なもんだ」

「当たり洞窟っすね!運がいいっす。まだまだ奥有りそうっすけどどうするっすか?」


 まあ、ここまで来て戻るのもなんだし、最悪テンペストにワイバーンでここまで来てもらってもいいくらいだ。引っかかる要素がないくらいに広い。


「もうちょっとだけ奥に行ってみよう。なんとなく少しずつ下に降りてる感じだな……」

「まあ最悪テンペストに迎えをよこしてもらえば後が楽です」

「そうですね。この広さなら問題ありません。行きましょう」

「便利っすねぇあれ……」

「うるせぇドワーフたる者楽をしようとするな!」


 うひぃとか何とか言いながらトンカチで頭を叩かれている。大丈夫なのだろうか。やることが豪快すぎて心配になってしまう。

 本人は至って平気な顔をしているので問題ないのだろうが……。

 アレを人族にやったら下手したら致命傷だ。


「あん?ああ、流石に人族にゃやらんよ。かち割っちまう」

「……分かってるなら良いですけどね。頼みますよ」


 そして更に奥へと進むと……大分暑さが増してきている。

 汗が流れる程度には暑い。一年通して気温がさほど上がらないハイランドではここまで暑いということはまず無い。

 コーブルク以来だろうか。


「蒸し暑いな!」

「ああ……具合悪くなりそ……ちょっと周りの温度下げるね?」


 ニールによって自分たちの周囲の温度が下がっていく。

 息苦しさが大分軽減された。

 テンペストもじっとりと汗をかいてしまっているので、少し肌に張り付く服が煩わしい。


「いい仕事ですニール。大分楽になりました」

「ほう、やるなちっこいの」

「君らに言われたくないよ?大して変わんないじゃんか!」

「なよなよしいリヴェリと一緒にするな!」

「け、喧嘩はやめるっすよ!?いっでぇっ!?」

「ふん」

「イテェ!で済んでるのが不思議だよ……なんか今のでどうでも良くなっちゃった……」


 仲裁に入っただけなのに叩かれるベリルだった。

 それを見て毒気が抜かれるというか、もう衝撃のほうが強すぎてどうでも良くなった。

 先に進むと更に暑さが増しているらしく、足元の岩が暖かいを通り越して若干熱いくらいだった。

 しかしその先の光景は……とても素晴らしいものだったのだ。


「水晶の……森……みたいですね」

「これは美しい。水晶がこんなに大きく成長しているのは見たことがない。地球にもあるにはあったがその軽く3倍から5倍位はあるぞ……あっちはセレナイトだったが」

「こりゃぁ……当たりどころじゃ無いぞ。ううむ……これを壊すのは忍びない程だ……」


 ニールとベリルに至っては声すら出なかった。

 それほどの光景が広がっている。見渡す限り白や若干黄色っぽい水晶の巨大な柱が乱立しているのだ。

 一つとして真っすぐ立っているものはなく、斜めに洞窟の端から端までを貫くように倒れているようだが、その下に生えている物も人の背丈ほどもあり、その太さは人一人以上だ。

 持ち運びすら容易には出来ない様な物がそこかしこにひしめき合っている。


「ここは正直あまり手を付けたくねぇ……な。ま、領主様の屋敷を新調する時にでもふんだんにこれを使ってやるか。……くく、全く、どれだけの時間をかければここまででかくなるやら……。そしてコリー……だったか。安心するが良い、ケイブメイカーはここには居ない。信じられんがここは本当に天然洞窟の様だ。……規格外のな」


 水晶が成長するには非常に長い年月が必要だ。

 それはこの世界であっても同じで、つまりこれがここにあるということはケイブメイカーが作った穴ではないということだ。

 いたとしてもとうの昔に死んでいるということになる。


「宝石にするには不純物が多いようですが……それでもこの大きさとなれば価値はどれくらいになるのでしょうね」

「価値はない。……正確には付けられない……だろう。こんなもん、値段なんて付けられんよ、天井知らずだ」

「最後の最後にびっくりするような物がありましたね。意外とこの辺の山にはこういう物が埋まっているのかもしれません。少々、標高が高すぎるような気はするのですが……空を飛ぶ島があって緑が生い茂っているような世界で何があってもおかしくないですからね。鉱石の分布なんてのはもう考えないようにしましょう」

「鉱石なんざそのへん掘ってりゃいつかは出るもんだ。出やすい出にくいはあるがな」

「変なところで私の知識とは違うんですよねぇ……難しい……」


 帰りは当然テンペストの迎えによってこの場所を後にする。

 とりあえずは一度あそこは閉じて置いて後で直通の搬出口を設けようと思う。

 今はまだそこまで資金に困っているわけではないし、搬出自体はまだ先で良い。

 全員に時が来るまでは硬く口を閉ざしておくことを約束させておく。それまでは宝石類が豊富な大きめの洞窟である、としておく。奥の巨大水晶柱の洞窟に関しては公表はしない。


 どうせこの場所自体も領地内に入っているのでどの道自分の物だ。慌てる必要なんて全く無い。

 予想外の収穫となった洞窟を出て、入口を閉じてから外へと向かう。

 資金としては恐らくこの国でもトップに入るだろう事は想像に難くなかった。

地球上にも本当に巨大なクリスタルケイブが存在します。

ナイカ鉱山にある物ですが、あれは水晶ではなくてセレナイトと言う石膏の透明な結晶です。しかしものすごく巨大で人の背丈を遥かに超える物が乱立しているというのはもう、映画のセットかと思うくらいです。


所で鉱石の出来方、産出場所など色々調べたりしようとはしたのですが、あまりにもパワーストーン関連のページがヒットしまくるのでめんどくさくなりました。

ある程度はこっちの出方に合わせようかと思っていたけど、もう不思議な鉱脈生成パターンを持っているってことでお願いしますw

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