第六十三話 空の歴史
「ハイランドの鉱石の約7割がここから産出しています。そういえば、入用なのはどんな鉱石ですか?」
「いえ、私達が必要なのは魔力筋に使う為のクレイゴーレム素材です。まあ、ゴーレムなら大体中には同じものが入ってるということなのでどれでも良いのですが」
下手に頑丈な鎧などを着込んだものなどを倒すよりは、中身の素材だけ欲しいのであればむき出しのクレイゴーレムのほうが楽だ。
「なるほど。それであればこちらとしても助かります。ゴーレムは作業している彼らの邪魔をしますので。あれが有用な素材となるのであれば、喜んで狩り取ってくるでしょう。国からも制限を受けているので倒したくても倒せない事もあって難儀していましたから」
「……国に仕えてるとそういうところで苦労するな……。まあそういうことです。クレイゴーレムの筋肉に当たる部分、それが欲しい。聞いていれば特に荒らすわけでもなくいらないものを持っていってくれって感じになるみたいだからあまり迷惑にはならないかな?」
「迷惑ではないですね。むしろ有り難いくらいです」
その後、職人のドワーフにも少し話を聞いてみたが……「ゴーレム引き取ってくれるのか!そりゃありがてぇ!倉庫に山盛りになってるから持ってけ!」などと言われる始末。
買うと高額なのにここで腐らせるとは勿体無い。
どうせ後から後から湧いてくるから無駄に面倒くさいのだそうだ。ちなみに案内してくれた兵士も倉庫に乱雑に積まれた鎧を剥がされ機能停止したゴーレムを見て二度見していた。
ここに破棄しているとは思っていなかったらしい。
「いや、ほっとけば吸収されるって言うから、ならどんどん取っちまえばその内でなくなるかもしれねぇ!ってことでやってみたんだがどうにも止まらんから諦めた。素材としては使えるんだからそのままになってるだけだ」
「そうでしょうけど、ここは精錬前の鉱石を保管するところです。勝手に別の物を入れないで頂きたい!」
「どうせ今は制限かかってて空いてんだ、問題ねぇだろ?それに今このにぃちゃんが欲しいっつってんだ、持ってってもらえば良いだろうが。にしても何に使うんだ?ゴーレムとか義肢くらいしか使い道ないだろ。最近はゴーレム術士も少なくなっちまって需要も減ってるから助かるが……」
出荷制限が掛けられているそうだ。
少し前は逆に出せるだけ出す、という感じだったのだが……それはミレス戦の為だ。今は平時に戻っているためそこまでの量は出せない。
こういう制限を掛けて出荷量を調節して値崩れを起こさないようにするのも王家の役目だ。バランスを崩すものは制限を受ける。
後に緩和されることもあるが、基本的には話し合いが上手くまとまらない内は無理だろう。
これはテンペストの使う自動化工場にも言える事で、だからこそ領地内でのみという限定的なものとなった。
作るものも魔導車や魔鎧兵、火薬式や魔導式のライフルなど、今までにはなかったものであることも許可が出た理由だ。
これが既存のものを大量生産できるように……などとやったら確実に制限を受けただけでは済まなかったかもしれない。
「魔鎧兵などを作るためです。他にも、あなた方職人が働きやすくなるための作業用の物も作るつもりですよ」
「ほう、あのでっかいやつか。中も結構広いからあれくらいなら入っていけるぜ。個人的にやその魔導車、だっけか?それを使って地上まで鉱石を持ってきてぇんだが出来るか?」
「なるほど運搬用ですか。足回りを強化して重量物運搬用の物を作れますか?サイラス」
「狭い場所で使うものだから速度はいらないし、ギアの調節とサスペンション、そしてタイヤの交換くらいで何とでもなるでしょう。後で中がどれくらいの広さになっているかを見ますか」
「出来るのか!坑道がどんどん深くなっちまってるからな、頼むぜ!」
「ちょっ!勝手に契約しないで下さい!依頼と購入はこっちがしなければならないんですから!」
「何でぇ……ケチくせぇ。ここまで持ってくるのめんどくせぇんだよ。俺らは掘りてぇんだ!お前らがやるか?ああ?」
あの手押し車に積まれているものだけでも数百キロ程度はありそうだ。
ドワーフの鉱夫は涼しい顔をして運んでいるが、相当きついはずだろうに。平坦な場所を動かすだけでも相当なものだろう。
当然、この兵士は無理だ。筋力が足りなすぎる。
サイラスはどうかと思えば、「手足の継ぎ目のところで壊れますよそんなことをしたら」ということだった。
出来なくはないものの、義肢と生身の肉体では耐久力も違うし筋力も違う。下手をすれば繋ぎ目の部分から外れてしまうということだった。身体強化をしてあっても負荷が限界を超えればそうなってしまっても無理はない。
どの道、重機を作る時点でこういった運搬車両を作ることは決定しているので、作ることに関しては問題ない。
ただ、今は他のものもあるのでしばらく掛かるだろうが。
とりあえず険悪になりかけている2人をなだめ、どの道作ることは決定している事なので安心させておく。
「とりあず、大体わかりました。ゴーレム素材の引き渡しなどに関してはまた後日……」
「あ、その前にちょっと聞いてみたいかも。このダンジョンケイブって、鉱石類が沢山出るところってことなの?」
「ええ、まぁ。魔物が出る方は閉鎖してあります。出来るだけ出ない方を掘り進んでいるんですよ。魔物が居るほうが精錬の必要がなかったりと楽なのは確かですが、安全と確実性を考えればこれが一番です。しかし……そうですね、皆さんとてもお強いということは聞きかじっています。あまりハンターなどを入れたくはないのですが、ここに入る権利がある皆さんが良ければそちらの調査を頼みたいと思いますが」
「コリーさんなら行くって言うでしょうね。そっちはこの魔導車は入れそうかな?」
「今まで確認されている所であれば、はい、入れますよ。かなり道幅は広いですから。中に入るととてもびっくりすると思いますよ」
道幅が広い、というよりも空間その物が広い。
洞窟内部に広がる密林など、通常ではありえないその空間は迷いやすく、また木などは切り倒したところでまた元通りになるため調査が進まない。
「資源取り放題じゃないか!え、なんでそっちのほう封鎖しちゃってるんですか?護衛とか付けながらだったらなんとかなるんじゃ……」
「そう思いますよね?魔物を倒して行くと普通であればそこにはもう魔物は居なくなるわけです。例えば一方通行の狭い道を考えて下さい。行く手を塞ぐ魔物を倒していけば後ろからは味方しか来ることはないでしょう。しかし、そこは安全を確保したつもりでも何故かどこからか沸いて出て来るという表現がぴったりですよ。その場にとどまる限りは常に戦い続けなければならないとなれば……護衛が消耗していくのはわかりますね?」
「うわぁ……思った以上に面倒くさい!」
「だから調査できてないんですよ。幸い、その魔導車はとても頑丈そうだから相当な魔物でも出てこなければ壊れないでしょう?もしかしたらと思ったんですが」
魔物の素材を持ち帰ってもいいというのであれば最高だが、どうだろうか。国によって管理されているくらいだから没収される可能性も無くはない。
「ああ、魔物の素材ですか。いくらかは回してもらうことになるかもしれませんが、基本的にはそちらに所有権が有ると思います。その辺は交渉しておきましょう」
「ええ、では今日は一度帰ります。案内を」
帰りに同じように馬に乗って先導してくれる。
所々で偽装がなされており、その技術は非常に高かった。詰め所までが巨木に偽装されていたりして本当に見分けがつけられない。
「まいったね……フリアーすらも欺かれている。これじゃ簡単には分からないな」
「魔力を感知していると壁のようなものがあるのがかすかにわかります。相当近づかないと分からないですが……これを作った人は相当な技術を持った魔術師でしょう」
「え、2人が分からないって凄くない?」
「これほど高度なものがあるとは知りませんでした。しかし対策が分かった以上、問題ないでしょう。フリアーに魔力感知も加えて可視化出来るようにします」
「またとんでも無い物を作ろうとしてる……」
敵に使われてしまえば厄介なことこの上ないのだ。どうせ自分達のものにしか取り付けないものなので自重はしない。
実際、軍用として王国に卸すものにも特にフリアーを付けるつもりはない。
「では、私はここまでです。此処から先は特に目くらましは掛けていませんので」
「ありがとうございます。ではまた後程、改めて来ます」
道が分からなくなった辺りだった。
本来ならここで事情を説明するはずだったのだろうが、その少し手前であっという間に道なき道へと突入して上って行かれたのでどうしようもなかったのだろう。
相手が悪すぎた。
街へ帰る頃には既に空が赤くなっていた。
とりあえずやることは大体やった上に、色々と収穫があったのだから問題ない。
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「テンペスト様、研究所から見せたいものがあるとのことです」
「分かりました。すぐに行きます」
テンペスト達が街に戻ってきて一週間ほど。
また以前のように研究が加速しているようで、今は簡単な飛行機の研究をしている部署からの連絡だ。試験機が完成したのだろう、チェックをして貰いたいそうだ。
「ご足労頂き申し訳ありません。飛行機担当部署長のグレッグです」
グレッグはエルフだ。
いつか空をとぶことを夢見ていたという彼は、ついにその夢を実現できるかもしれない場所へとたどり着いた。
テンペストのマギア・ワイバーンは自由に空を飛び、とてつもない速度を出す。
それを見せつけられた時に完全に惹かれていた。
事実、様々な実験などを独力で行ってきており、浮力に関しても大体分かっているようだった。
その為親方につれてこられて今、ここに居る。
「試験機が出来たということですが」
「はい、これです。マギア・ワイバーンの様に速度は出ませんが、教わったようにプロペラを回転させてその反発力で飛ばす方式の物です。どうでしょうか?」
「設計図を。詳しく見ていきます」
魔法の力を殆ど使っていないタイプのものを作らせた。
エンジンだけはどうしても魔力を使ったほうが早かったためにそうしているが、飛ぶ原理やその他諸々は全て元の世界のプロペラ機と同じような物だ。
必要最低限の構成で作られたこの機体は、スロットルと昇降舵、方向舵、補助翼を付けたものでウルトラライトプレーンに分類される。
機速はそこまでではないが、地上を走る馬などよりはずっと早い。
設計通りに出来ているとすれば、強度も十分足りているし特に問題はないはずだ。
「プロペラの推力も足りていますね。問題ないでしょう」
「ありがとうございます。エンジンを動かさずに滑空させるテスト等はしてありますが、これで許可を頂ければ初めての推進力付きでのテスト飛行となります。これを作るにあたってとても多くのことを学べました、ありがとうございます」
「許可を出します。ただしこの滑走路を基準に半径1キロ以上離れないこと。なるべくならば山の方には行かないように。気流が乱れていることが多いため落ちます。落ちても探しやすい王都側の方を推奨しますが、下に人が住む場所などは避けるように」
落ちたところで大した被害は出ないだろうが、危険なものだと判断されると後々の開発に響きかねないのだ。安全に飛んでもらわないと困る。
とはいえ、空を飛ぶこと自体が危険に満ちている事ではある。
「このタイプの物は基礎の基礎です。速度はある程度は出ますが音速を超えることは出来ません。機体は軽く風の影響も受けやすいため、本来であればこのハイランドの空を飛ばすのには向いていません。元々の高度が高すぎるためそもそもこの機体の限界高度のような状態です。失速には十分注意するように」
「分かりました。気をつけさせます」
「これを通じて空を飛ぶために必要なことや、舵の制御方法が船とは全く異なることがよく分かったと思います」
マギア・ワイバーンをコピーしようとして失敗している彼らには良く分かっただろう。
あれがどれだけ複雑で、一個人の手に余る様な処理をしていなければ飛ぶ事が出来ないメチャクチャな機体であることは。
なぜ、そのような不安定な機体になっているのかも、あの機動性能を見れば答えは見えてくるはずだ。
このライトプレーンはあのような機動を行うことが出来ないのだから。
安定しているがゆえに素早い動きは難しい。
ではそのバランスをわざと崩して不安定にさせれば……確かにすぐに姿勢が崩れてものすごい速さで方向を変えられるだろうが、その制御は難しい。
それを可能にしているのがテンペストがあるコンピューターの計算力だ。
その他にも、基本的なことを体験すらしていない彼らにはまだまだ分からないことも多い。
それを学習して欲しい。なぜ出来ないのかを口で説明したところで、前のようにマギア・ワイバーンと同じことを繰り返すだろう。
今ではその残骸を片隅に飾って、彼らの戒めとしているようだ。
無駄に頑丈なため大して壊れては居ないが、主翼と尾翼の一部が破損し、フレームが若干歪んでいるようにみえる。この辺はオリジナルよりも安くあげようとして普通の素材を使った結果だがそこは正解のため特に言うことはない。
マギア・ワイバーンのフレームと外装が異常なだけだ。
「テストパイロットは用意できていますか?問題なければ飛ばしてみましょう」
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街に作られた国唯一の滑走路に研究所の職員がほぼ全員集まった。
それだけ空を飛ぶという事を心待ちにしていたのだろう。既に周りには飛竜の存在は確認できない事を調べてあるため、万が一遭遇して攻撃を受けるということもない。
後ろにはマギア・ワイバーンを控えさせているのでその時には即座に出撃して撃墜するのみだ。
魔導エンジンが始動してプロペラが回り出す。
内燃機関と違ってとてもシンプルな構造をしたこのエンジンは、小型でもかなりの力を出すことが出来る為、機体の重量をかなり減らすことが可能となった。
うるさいエンジン音ではなく、高速で回転するプロペラの風を切る音があたりに響く。
最初から高速回転が出来るのもこのエンジンの特徴だ。暖まらなくとも関係ない。ギアのオイルは回転し始めればあっという間に加熱されるため、安定するまでに時間がかかるということはないのだ。
高山の上という厳しい条件ながらも力強くプロペラは機体を引っ張ろうと唸りを上げている。
テストパイロットである獣人が乗り込み、機体のチェックが終了するといよいよ離陸だ。
一段と回転速度が上がってブレーキが外れ、加速し……軽い機体ならではの短距離離陸を披露した。
「飛んだ!飛んだぞ!!」
「俺達が作った飛行機が飛んだ!!成功だ!!」
周りで歓声が上がる中、作り上げた部署の人達が抱き合って喜んでいる。
ゆっくりと、悠々と空を飛び、街をぐるりと一周回って滑走路へと侵入しようとする。
その時横風に煽られたものの、すぐに体勢を立て直して着陸した。
完璧だ。
エンジンを切って降りてきたテストパイロットに駆け寄る皆は喜び抱き合いながら、この世界で初めて自分達で作り上げた機体が空を舞ったという事実を噛みしめる。
「さて、ジェットエンジンまで付いてこれるようになるまでどれくらいかかりますかね」
「現時点で魔導エンジンの性能はターボプロップエンジンと同等でしょう。次、となればもうそちらの構造を理解したほうが良いかもしれません」
もちろん、魔法を利用した物を作り出す上での話だ。
プロペラ機に関しては構造自体が単純ながらも工夫次第ではかなり応用が効くものなのでそのまま使わせたが、ジェットエンジンとなれば元の世界のものを作らせようとしても部品点数から何から膨大になってしまうので面倒だ。最低限、なぜ圧縮と加熱をするのかなどの理由を教えるだけでも良いだろう。
そこからどのように発展させていくかは彼ら次第となる。
後は音速を超える機体に関しての設計が難しいのでそこを重点的にやるくらいで案外早くに実用化出来るかもしれない。
「ま、プロペラ機であれば自由に動かせる機銃を載せられますから。襲われても何とかなる程度の力は持てるでしょう」
「その通りです。遅くとも飛竜に対抗できる兵器がある時点で、空での敵は減ります。マギア・ワイバーンの様に高速でなくとも問題ないでしょう。……それに……彼らにはまだ音速は早いです」
こればかりは慣れていくしか無いだろう。
今のマギア・ワイバーンのほぼテンペストによって制御されている状態ですら、コリーは相当苦労して動かしている。
獣人という人族などには無い身体能力、そして対G耐性があったからこそなんとかなっているのだ。
ここからテンペストが抜けていることを考えれば恐ろしい。
だからこそ、まずはこの世界でコンピューターの代わりになる物を作らなければならない。
電子制御で姿勢を制御してやらないとまともに飛ばせなくなっていくのが音速の世界だ。
でも今はとりあえず、あの喜びを壊す必要もないだろう。
ハイランド王国の空の歴史は今、始まったばかりだ。
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「ごめんなさい、色々と立て込んでいてなかなかこっちに来れなかったの」
「いえ、構いませんアディ。あまり気分が良くないことをやらせてしまうと思いますが、よろしくお願いします」
「良いわよ。さ、始めましょ」
予定よりも若干遅れてエイダが到着した。
もちろん目的はハンスだ。
地下牢へ降りて、大分マシな扱いを受けるようになったハンスの元へと向かう。
護衛としてコリーとサイラスがついてきているが、それ以外にも王都の大聖堂から来た護衛隊がぞろぞろと後に続いていた。
「……ちょっと多くねぇか?」
「ごめんなさい……行くと言って聞かなかったので……部屋に入るのに一人だけは許可してくれませんか?ただでさえ単独行動されているということで、彼らの立場がないと押し切られちゃって……」
「ん……まあ、たしかにその通りか……次からエイダ様を連れて行く時には一台追加しなきゃならんか?」
「仕方ないですね。戦力としてもあれば心強いですし、王室用を急いで仕上げてから作りましょう。聖堂だと……やはり白い方がいいのかもしれませんが、あまり悪目立ちするのも何ですからこちらに合わせてもらうしかありません」
「なんか、本当にごめんね?テンピー……」
ハンスが居る牢へ付くと、大勢でやってきたことでかなり動揺していた。
ムリもないだろう。
出てもらって別室へと移動する。
サイラス、護衛隊長、そしてエイダの3人が狭い部屋に入り記憶を覗く。
大体サイラスが導いた物と大差なかったが、司祭とやらがもう一度ミレスを復活させると言っていた事が分かった。
その為にも、障害となる物を消してしまいたいと。
そして、ここを出てひっそりと研究を始め、誰にも止めることの出来ない強大な力を持って全てを支配すると。
そのための知識は既にあり、それを行うだけの人材も揃っている。
後は博士達の手の及ばぬ遠くへと行くのだと。
「遠く……って何処の事なんだ?」
「分かりませんね。もしかしたら海を渡る気では……」
「誰にも止めることの出来ない強大な力、ですか。核か、あの最終兵器か……」
「アレは……この世界だと意外と簡単に生み出せてしまいそうなので怖いんですよね。きっかけは既に持っていると思って行動したほうが良いでしょう。核程度なら何とかなります」
サイラスの知識がどれだけ定着しているかにもよるし、その知識をどれだけ正確に理解しているかにも寄るが、断片からもあの武器を生み出したやつ等なのだから、あまり低く見積もることは出来ない。
海を渡ってしまえば彼らを知るものは誰も居なくなり、隠れることも容易だろう。
それに、嵐に遭って全てを失った風で行けば怪しまれることもない。
途中で全滅してくれれば楽なのだが、そういうわけにも行かないだろう。
「あの……さ。実はこの人置いてもうどっかに行っちゃったって事は無いかな?」
「む……ニールの言う通り、その可能性もあるか。こっちが企んでいるうちに向こうはさっさと逃げるという可能性はかなり高そうだ」
「で、でも、そうするとあの人を捨てていくことになっちゃうよね?」
「はっきり言って、彼らにとって彼は必要な人材ではなかった可能性があります。今まで取り調べをしていて彼は完全に向こうの思考に染まっていなかったということからも、邪魔と判断される可能性は大いにある。幾ら取り繕っていても、分かる人には分かるんですよ、嫌々従っているというのは。しかし、もしそうだとすればまずいですね。早く向こうに行かなければもう間に合わない……いや、彼、ハンスがこっちに来た時点で既に行動していたら?とっくに洋上に出ていてもおかしくない」
となればもう、悠長なことをしている場合ではないかもしれない。
彼らを戻して様子を探るなどというような時間はもう無い。今すぐに行動するべきだろう。
「テンペスト、ハーヴィン候に連絡を。エイダ様はお告げに気をつけていて下さい。もしかしたら彼らを逃したことで進展してしまうかもしれない」
「分かりました。少しでも気になる言葉があったら耳を傾けましょう」
「アディ、私の身体もお願いします」
「今から行くの?!」
「ニール、お前は留守番だ。テンペスト、何人か見繕って人員輸送用のポッドで運ぶのでいいな?」
「それが最善でしょう。出来れば獣人やドワーフで揃えて下さい。恐らく急激なGの変化にも耐えられます」
俄に慌ただしくなっていく屋敷内とハンガー。
大急ぎで武装とポッドが取り付けられていく。
出撃するのはコリーの他王都とサイモンの精鋭数名ずつ。ただし獣人とドワーフのみと制限をかける。
それぞれの場所に直接向かって回収していく方針だ。
「武装のロックを解除!いつでも使えるようにしろ!」
「ポッドの中は8人乗れるようにしろ!収納スペースは要らん!急げ!」
慌ただしく用意が進められていくのを横目に、コリーはコクピットへと入る。
エイダにあてがわれている部屋へと到着し、ベッドに横になるとテンペストはそのまま意識をマギア・ワイバーンへと移す。
「おらぁ!嬢ちゃんがもう来ちまったぞ早くしろ!ミスるなよ!」
セルフチェックが始まったのを見て整備長が怒鳴り立てる。
既にサイモンと国王側には連絡が行っており、先にサイモンのところへと寄って兵を回収する。
国王側は少し時間がかかるため後回しだ。今頃慌てて連れていけそうな人材を見繕っていることだろう。
「対地、対空武装。人員輸送ポッド全て取り付け完了しました!」
「よーし出すぞ!」
「……気合入ってんなぁ」
『彼らも大分慣れてきたということでしょう。セルフチェック完了、異常なし』
「よし、じゃぁ行くか。目標ハーヴィン領侯爵家。表示確認。離陸する」
現地に行ったら高価な素材が捨てられていたという現実。
お金は払っているけどかなり激安で買えたので、安価に魔鎧兵を作ることが出来るように!
そしてハイランドの空の歴史がここから刻まれていくことになります。
技術的に成熟してくれば、今度は広めていくことになるのでそれまではまだ研究所だけで我慢です。