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鉄の竜騎士 -元AI少女の冒険譚-  作者: 御堂廉
第三章 束の間の平穏編
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第六十二話 楔石採取

「空間魔法をテンペストさんが覚えたら、私のサーヴァントも置いてもらえませんかね?」

「問題ありません。元よりそのつもりで居ます」

「トレーラーにくっつけて動くのも長くなりすぎる上に目立つからね。すぐに乗れるのは良いんだけども。街に入る時には仕舞っておきたい」

「博士は空間魔法覚えないの?」

「私にはあまり必要ありませんかね、便利ではありますが基本的にニールやテンペストさんがやってくれるでしょう?」


 研究所にいる時には倉庫に行けばいいし、単独で行動することはあまり無いサイラスとしてはあまり重要ではなかった。

 部屋を作らなければならないというのも面倒な理由だ。なので出来れば異空間への収納のようなものであれば、喜んでやっていただろう。

 実際やろうとして失敗しているが。他の方法で上手いこと出来ないかと模索中だ。


 その為にもあのコーブルクから持ってきた箱を研究している。


「サイラス博士はニールと仲良くなったようですね」

「そうみえます?」

「呼び捨てで呼び合っています。今日になって突然のような気がしますが」

「ああ、まぁニールとは腹を割って話をしてね。他人行儀だから止めてくれと言われたんだ」

「腹を……割って?」

「例えだ。隠し事無くとかそういう感じの意味の」

「なるほど。私と博士も似たようなものでしょう。私は博士の隅々まで検査を行っておりますし、博士の情報なども色々知っています」

「隅々って……」


 言葉通りだった。

 博士を救出後、幾つかの診断をするために検査をしていた。当然その時に裸にしたのでそう言っている。あの合わない手足を外さなければならなかったし、そこかしこに膿んだ傷口などがあったので洗浄もしなければならなかったのだ。


「テンペスト……博士の裸、見たってこと?」

「そうですが……」

「その情報は知りたくなかったですね……。元AIとは言えこんな小さな子に見せて良いものでもないだろうに。……まあいいか。もう見られるのは慣れてるからね。では次からテンペストと呼ばせてもらおう」

「ええ、お願いします」


「見られるのに慣れてるってどういうことなの」と口に出かけたニールだったが、よく考えてみれば監禁中はずっと全裸だったということを聞いていたのを思い出した。

 相当堪えただろう事は想像に難くない。

 全裸にするということは、無力感を引き出し羞恥心を煽る以外にも、環境の変化をダイレクトに感じることになるため、特に冷え等が厳しくなる。


「そういえば……この高機動魔導車とかトレーラーにはサーヴァントみたいに名前つけないの?」

「いえ、付けます。高機動魔導車はあくまでもこの戦闘用車両シリーズの正式名称で、トレーラーは本来であれば大型武装牽引魔導車となります。それぞれにバリエーションを持たせて区別できるように愛称となる物は必要でしょう」


 高機動魔導車はオルトロス。そして、トレーラーハウスの方はエキドナと呼ぶこととなった。

 今の段階ではまだ両方共に試作品なので、正式にリリースするとともにその名前が発表される。


「流石に今のままだと効率が悪い装備なども多いからね。新しく作らせている物が出来たら効率も良くなるはずだ。装甲も厚さを削りつつ耐久力をあげて重量を減らしているし、積層型の記述が出来てきたから魔法陣と魔術式を書くスペースがかなり節約できるようになる。そう遠くないうちに出来上がるよ」

「へぇ……楽しみですね。あ、でもボクでも運転できるようなものって出来ないの?足、届かなくてさ」

「私やニールでも扱える様なものとなると特別仕様になってしまうのです。そうなると今度は身体の大きなサイラス博士やコリー等が運転できなくなります。ただ、小型の車両としてリヴェリやドワーフ向けのものを考えては居ますよ」


 子供と同じ程度の体型であるリヴェリ、そして背が低いドワーフなどはいくら年をとっても大きくならないため人族やエルフなどのような背の高い種族用に作ってある装備は使えない。

 その為それ専用の物を作ることを検討していた。

 特にドワーフは坑道などでも使えるようにオフロード仕様の頑丈なものがいい、と親方も喋っていたのでそのうち設計に入るつもりだ。しかし高機動魔導車を完全なものとして出せなければ許可は下りないだろうから、まずはこのトレーラーと高機動魔導車を完成させる。


「おお!ってことはボクも運転できるのが作られるんだね!楽しみだなー」

「楽しみにしていて下さい。そういえば魔鎧兵の新規作成はどうなっていますか?」

「あぁそれが……アレの中身は一種の生物みたいなものなんだ。魂のない肉体とでも言うか……。だから骨格なんかを弄っても問題ないんだけど、肉体をそのまま作るようなものでね……骨、筋肉、そして感覚器官……目と耳だけだけど。それらを作らなきゃならないことが判明した。あれに接続して動かす仕組みは大体解析は終わっているから大丈夫だ。目と耳はオクロなどで代用可能だから基本的には材料さえあれば出来るよ。アレの神経回路の接続に関してはテンペストのほうが詳しいと思う」


 じわじわと魔力筋の中を神経が成長していくかのように、徐々につながっていく。

 ゆっくりと末端部まで全てが少しずつ動くようになっていくのだ。そのための魔物の素材も必要だ。

 まあ、今回の呼び出しでその心配は消えたため、これからサーヴァントのような魔鎧兵が作られることだろう。


 □□□□□□


 そうこうしているうちに魔術師ギルドの前までやってきた。

 いつも通りに馬車の駐車スペースへと置いておく。

 中に入り事情を説明すると奥の部屋へと通された。


「審査の結果、お二人とも資格ありということで楔石の入手許可が降りました。ニール様は2回目ということなので既に知っているかと思いますが、テンペスト様は初めてですのでここで注意事項などを説明いたします」


 とある場所にある洞窟の最深部に、楔石となる無属性の魔晶石がある。

 その場所は非公開となっているため、転移して行くしか無く、当然行き方などを関係のないものに話すことも禁じられる。

 転移の魔法陣自体の使用魔力量が大きいため、一日の回数制限があり、一度に運べる人数は4人まで。

 今日はすでに埋まっているため明日の朝もう一度来てもらいたいという。こればかりはどうしようもないため了承した。


 そして現地へ行った後の注意事項だ。


「無属性の魔晶石ですが、普通魔晶石というものは魔物や私達のように魔法を扱う事が出来、その魔力量が多いものから採れます。有名な大魔導師は死後に結晶が出来て魔晶石が体内に生成されたといいます。そのように大抵の場合は魔晶石を抱えた者の属性や得意な魔法等が魔晶石として残されていくわけですが、これから行く洞窟の魔晶石は全てが空です。属性も、内包する魔力も何もありません」


 さらに不思議なのは高濃度のマナがあるわけでもないその場所に、結晶が生えてくるということだ。

 研究をしているものの未だよく分かっていないのが現実だが、分かっているのはこの魔晶石は自分の魔力を溜め込み馴染ませることによって、本人が何処に居ても、そして魔晶石を何処においてもその存在を感じられる物となる事だ。


「魔晶石と自分を繋ぐと言いますか、そういう能力を秘めています。その為目印としての楔石と言われるようになり、空間魔法の重要な始点となります。よって、洞窟内部では必ずこの腕輪を付けて下さい、魔力を封じて漏らさないようにするものです。少しでも漏れると近くにある魔晶石が汚染される可能性があります。我々も付けて行きますので必ず守って下さい」

「問題ありません」

「ありがとうございます。そして入手した楔石は暫くの間肌身離さず持ち歩き、楔石が出来上がったら完成となります」

「出来上がった、と言うのはどうやって知るのですか?」

「やっていれば分かります。感覚的に完成した、魔晶石と繋がった、と感じる時がありますがその時に完成していますね」


 見た目も何も変化はないため、術者本人のみが完成を知る。

 一度その人の魔力が流れ込んだ場合、その楔石は誰の物も通さなくなるため肌身離さず付けている間にも人と会うことは出来る。


「それと……洞窟内部に入れるのは本人以外は認められませんが……」

「ああ、それは構わないよ。私は宿で待たせてもらおう」

「申し訳ありません。さほど時間は掛からないので……。それでは、以上を了承していただけたらこちらの契約書へサインをお願いします。これは魔術契約となっているため違反した場合にはその場で拘束され、後に裁きを受けることとなります。重罪ですのでお気をつけて」


 契約書をにサインをすると、一瞬サインが光った。契約終了ということだろう。

 これ以降、書かれている内容に背くとその場で動けなくなり、地面に這いつくばることになる。

 発動は職員に感知されるためそのまま捕まって裁判となってしまう。

 出来心で……という言い訳も一切聞かれること無く幽閉に近い扱いになる。


 翌日、ギルドが開くと同時にテンペストとニールは魔晶石の洞窟へと飛んだ。

 転移独特の軽い目眩から立ち直り、あたりを見回すとかなり暗い。

 フリアーを……と思ったが腕輪のため発動できなかった。


「目が慣れるまで転移の部屋の中で待っていて下さい。そのまま進むと怪我をしますので」


 しばらく目を閉じて、ゆっくりと目を開いていくと、岩肌をくり抜いただけという感じの場所だということが分かった。

 部屋の中央にはさっき自分達が乗っていた魔法陣が光を失った状態で沈黙していた。

 更に目が慣れていけば、部屋全体を見渡せるようになる。

 足元も見える。もう問題ないだろう。


「では、奥へと進みます。足元は滑りやすく、転べばゴツゴツした岩肌で怪我をしますが、先程の部屋に戻るまでは治療すら出来ません」

「魔法が使えないもんね……」

「その通りです。行きましょう」


 扉を開けて部屋の外に出ると、狭く暗い一本道が見える。

 しかし両脇に光苔が置かれているため、暗闇に目が慣れている状態だととても明るく感じた。

 身体強化とパワードアーマーの効果が無いため、自前の体力のみで進まなければならなかったが、流石に今まで訓練などで鍛えていただけあって息が切れる事なくついていけるようになっていた。

 思わぬところで自分の身体の成長に気が付き、少し嬉しくなるテンペストであった。


「到着しました。この扉の向こうが魔晶石の場所です」


 扉を開くと……。巨大な水晶柱とも言えるような無色透明の綺麗な結晶が一つ、ど真ん中に生えていた。その周りにはびっちりと似たような形だけども小さな手のひらサイズのそれがある。

 案内をしてくれた職員が、ちょうどいい大きさの物をもぎ取り、テンペストとニールに手渡す。

 自分で採るわけではないらしい。


「これがあなた方の楔石です。魔力を込めるのはさっきの魔法陣の部屋の近くにある、専用の部屋で行ってもらいます。そこで腕環を取り外し、自分の魔力を登録するのです。結晶に手を触れてその中に魔力が流れ込むようにすればいいです。登録が終わってしまえばたとえ石同士を触れさせたところで混じり合うことはありません」


 部屋に入ると別の職員が腕環を外してくれた。

 一見するとローブにフードとあまり肌を出さないようにしている為、かなり威圧感があるがこれもなるべく自分の魔力を外に出さないためのものらしい。

 特に腕環を外して最初の登録をする場所なので余計に気を使っているそうだ。


 言われた通りに結晶に手を触れて魔力を流し込んでいくと……もぎ取ったところが綺麗になり上下対象の綺麗な六角柱の結晶へと変化した。

 構造が変化するというか、なんだか良く分からないがこれで登録完了となるらしい。


「登録は完了したようですね。では戻りますが、予め目をつぶっていて下さい。かなり明るく感じますのでゆっくりと目を開いて慣らすことをおすすめします。また、暫くの間は肌身離さず持ち歩くことになりますが、その際自分の収納用のケースがなければギルドの売店で購入できます」


 丁度テンペストが首から下げているお守りの魔晶石と同じようなものだ。ケースの中に魔晶石を入れて首などに下げておける。

 ちゃっかりしているが、実際ないと結構不便だったりするのだ。以前使ったことがある人なら持っていることもあるが初めての場合は事前に用意していない限りは普通持っていない。


 転移が終わり、ギルドへと戻って来た。

 扉が開けられるととても眩しいが、何とかなる程度だったので特に気にしない。ニールは流石にかなり眩しそうにしていたが。


「……思っていた以上にあっさりと終わりましたね」

「まあ、そうだね。でもこれでテンペストも自分のガレージを作ってこれを天井や床の中心に埋め込めば繋げられるようになるよ。部屋としては必ず密閉されていることと、人やその他の生物が居ないことが条件。だから繋げる時には必ず警告が出て扉が閉まるようになっていないとテンペストの場合は繋がらなくなるかもしれない」

「なるほど……そこは気をつけねばなりませんね」


 宿に戻るとサイラスが昼食を食べていた。

 意外と時間は経っていたようだ。色々説明を受けたりしていたためあまり気づかなかったが。


「おや、もう終わったんですか?意外と早いですね」

「この通り、楔石を入手できました。後はガレージの作成だけですね」

「ガレージと言うか、テンペストの場合はハンガーかな。整備なども出来るようにするわけだよね。その辺の物をある程度使い勝手がよくなるように……。作ろうとしている滑走路の奥に部屋ごと持ち上がるようにしようか。巨大エレベーターみたいな感じで。ああいうの作るの夢だったんだ……ここなら実現も無理じゃない」


 普段はガレージ改めハンガーを深い竪穴の底に置いておき、テンペスト以外の誰にも取り出せない状況にする。何かで整備が必要になった時にはせり上がってきて、機体や魔導車を出して整備するという感じだ。

 終わり次第ハンガーに戻しておけばまた修理が終わった状態で取り出せる。


「え、なにそれボクも欲しい……」

「あれ?あまり大きくないものをやり取りするだけではないのか?」

「いやまぁ……確かに基本的にやり取りはボクも大きいものじゃないけど……テンペストがリヴェリとかの様に小さい種族向けの物も作るって言ってくれてるし、ボクもそういうの作ってみたいなぁって」

「まあ、別にやれなくはないですけどね。密閉されればいいってことですから、その辺は特に難しくはありません。なんなら自宅の倉庫と空間魔法用の部屋を兼ねますか?必要な時には地面から出すようにして」

「あ、それいいですね!家を買ったらそれ作って欲しいです!」


 ニールの頭のなかでボクだけの秘密基地が出来上がっていく。

 まあ、上にあるのは普通に家なのだが。


 昼食を食べた後、竜素材の残りをまた少し売り払いお金を確保していく。

 武器や防具は特に傷んでいないし、新しい服を買っておいたほうがいいのではないかというサイラスの指摘に従って、貴族向けの高級品店へと向った。


「う、わ……高そうなものばかり……」

「これはなかなか……刺繍もとても良く出来ている、縫製は完璧だなぁ。これなら簡単に破けたりしないだろうね」

「当然でございます。一流の物をお売りするのが私達の役目、粗悪品は御座いませんわ」

「あ、失礼。悪く言うつもりは無かったのですが」


 言うだけあって、いつの間にか近くに来ていた店員の顔には自信があった。

 サイラスから見ても自分によく合う服を選んで、なおかつ客よりも目立たない程度に抑えている……と思う。


「いいえ、良いのですよ。最近は量を作るために質を落とす所がよくありますわ。嘆かわしい……。お陰で他の店ではクレームが来ることが増えたと言っておりますわね。私の見立てたものはそういった物はございませんわ。心ゆくまで選んで下さいませ」

「ふむ、テンペスト向けだな。……では、この子に合うものを見繕っていただけないだろうか。見ての通り地味なものばかり選びたがるので、少し女の子らしくドレスなどを幾つか。そして普段着も幾つか。出来れば下着も」


 少し離れたところでいつも通りに着やすいものばかりを集めようとしているテンペストを捕まえて、店員の前に差し出す。

 ちょっと抗議の目を向けているもののそれほど嫌がっているようにも見えなかった。


「まあ、そうでしたの。えー……と、とても整ったお顔ですわね……。どれを合わせても似合ってしまいますわ。なるほど地味とは言え濃い色は綺麗な白い肌の色を引き立てますから、これはこれでいいのですが……赤を合わせるのも……どうでしょう?」

「あ、凄く似合うよ、テンペスト」

「これでは鎧を付けられないではないですか」

「いや、それは呼ばれた時用のものだよテンペスト。流石に戦う時に着るものじゃない。貴族なのだから身だしなみなどもある程度きちんとしていないと足元を見られてしまうよ?」


 テンペストはぽっと出の貴族のような感じになっている。

 侯爵の養子で国王陛下直々に話をする立場ではあるものの、それを知らない者も居る。

 身につけているものの価値だけで人を見下すやつも居る。

 そういう手合などから、これからパーティーなどに出席する機会も増えてくるはずなので、今の内にそれなりの物を用意したい。


「お嬢様、こういった下着などもございますわ。とても柔らかく身体に合わせて伸びるので、よく動く方には好評です。最近出来た新しい編み方の生地を使って……」

「サイラス、どうですか?」

「私に聞くのか……」


 ドロワーズのようなものが一般的ではあるが、テンペストのようにハンターなどをしている女性も多いためこのように動きやすい今のパンティタイプのものが出来てきている。

 それはいいのだが、女性用の下着をなぜ男のサイラスに聞くのか……。


「あまり興味がなさすぎるのも問題だな……。選んでもらったものは良いものばかりだから買っておいていいと思うよ。それと……香水などを売っているところはあるかな?」

「それでしたらこちらに幾つかあります……お嬢様ならこちらが合うのではないかと思いますわ」


 いい香りだ。特別尖ったところもなく柔らかで甘い香りがする。

 ベビーパウダーに近い感じだけどもっとこう、上品な感じのものだ。……香水はわからないな。


「あ、……テンペストのイメージに合う……」

「なるほどニールの中ではテンペストはこの匂いですか」

「き、聞こえてたの!?」

「そうですか、ではこれにしましょう」

「え?」

「ニールが私に合うと思ったのですよね?ではそれで良いのでは?」

「あ、う……うん」


 ニールの顔が赤くなっていく。

 これじゃニールがテンペストの香水を選んだ様な感じになってしまう。

 なんとなく、恥ずかしくなっていくニールだったが、店員の「あらあら」といった顔を見て余計に赤くなっていった。


 □□□□□□


 サイラスが帰り道にどうせならダンジョンケイブの場所を確認しよう、と言い出した。テンペストもニールもそれ自体には特に反対もなかった。

 いざ行く段階になって場所がわからない、ではちょっと困る。

 それに、恐らく見つけにくいようにはなっているはずだ。


 契約書と許可証と一緒に地図を入れてくれていたのだが大雑把だったため少し迷いかけたが……まあそれ自体はこの上空を飛んでいるテンペストがいれば問題なかった。

 歪んだ地図と本来の地形図を重ね合わせて修正、大体の場所に見当をつける。


「……まさか道すら出来ていないとは……どうやって荷物を運んでいたんだろうね」

「しかしこの魔導車のサスペンションがあれば、これくらいの悪路は問題になりません。方向はあっているのでこのまま進みましょう」

「ねぇ!これ落ちないよね!?すっごい斜めってるんだけど!」

「傾斜角は40度程度です。足場も安定しているので問題ありません」


 結構な急斜面だ。が、これくらいならば足場が崩れやすいならともかく、しっかりしていれば問題ない。もっともそういう急斜面もすぐに終わる。

 しばらく道なき道を行きながら、ガコンガコンと揺れる魔導車にシェイクされつつようやくそれらしい所にたどり着いた。


 周りには何かあるようには見えないが、正規の兵士が出てきたので恐らくそうだろう。


「止まれ!身分証と許可証を見せるのだ!」


 あれカストラ男爵じゃないのか?という声がかすかに聞こえた。

 流石に車と紋章を見れば分かるか。


「カストラ男爵、テンペスト・ドレイクです。国王陛下からのダンジョンケイブ入洞許可を得ています」

「……確かに、本物です。今日はどのようなご用件で?」

「特には……位置の確認のつもりでしたが、道がわからず強行突破してきました。正規の道はあるのですか?」

「はい、上から見てもわからないくらいに偽装されていますが、あります。次からはそこを通ると良いでしょう。帰りに案内を付けます」

「助かります。……少し中を見ていっても?」

「許可証をお持ちなので問題ありません。魔物が出てこないところまで案内いたしましょう」


 馬に乗って奥へと進む兵士の後ろを魔導車で付いて行く。

 人の気配は感じるものの、偽装された道は本当にただの木が生えた場所にしか見えず、兵士が合図をすると突然そこに道が現れた。

 なるほどこれが偽装の魔法なのかと感心しつつも奥へと進む。


 山をぐるりと回り込むように作られた道も上空からすらわからないように上を見ると木で隠れていた。

 かなり徹底して隠している事がよく分かる。

 ダンジョンケイブの入り口はとても広く、魔導車などは当然でトレーラーや魔鎧兵等もそのまま入れるくらいのものだった。


「ここはかなり前に山が崩れた際に現れたダンジョンケイブの入り口です。山肌の方は補強し直してありますから崩れてくることは心配しなくてもいいですし、……見ての通り、ダンジョンケイブは最初からこの状態です。手を加える必要がありませんでした」

「これが……最初から?どう見てもこれは人が整備した後にしか見えない……」

「それが不思議なところなのです。中もある程度整備されており、分かりやすい道があります。更に光苔がいい具合にあり、暗い洞窟内部の風景であってもきちんと明かりは確保されているのですよ」

「へぇ……ここはどんな所なの……なんですか?」


 入り口と言われて魔導車ごと入っていった先は、綺麗に四角くくり抜かれた様になっていて、どう見ても人が整備しておきましたと言わんばかりだ。今は底に簡易の宿泊施設や、荷物の運び出しなどを行う人達の道具や馬車などが置かれている。

 今も上半身裸でツルハシを担いだドワーフ達が奥から何やら運び出してきていた。


 その横でも屈強な人族や獣人がウロウロしている。

 丁度精錬前の鉱石が運び出されてきたところのようで、近くにあった大きな扉を開けるとそこは真っ赤に溶けた金属を扱う場所だったようだ。離れていたのに熱気が来る程で、とてもあの中でまともに仕事をしたいとは思えない。



楔石を入手。これで更に空間収納まで一歩前進です。

そしてダンジョンケイブへ。

触りだけしか見ませんが。

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